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第三章 王都への旅
60.再び山登り
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依頼を無事ひとつ終わらせた4人は依頼ボードの前で次の依頼について相談する。
「さて、次はどうしようか」
「お昼のあとに行くとして、午後に終わらせられるやつがあればいいんだけど……」
エイシェルが声を上げ、フラムが答える。前の依頼が予想以上にスムーズに終わった為、本日2件目の依頼を探していた。
「これなんてどう?ウサギモドキ討伐!金貨1枚!」
「なになに……どこからか紛れ込んだウサギモドキを討伐してほしい。ウサギモドキは肉食で普通のウサギを介して繁殖する。繁殖力が強い為近隣の動物が根こそぎ食べられる危険性がある。確認できたのは一匹なので繁殖する前に討伐されたし。特徴は……一見普通のうさぎに見えるが獲物に襲う瞬間に胸に緑色の目玉が現れる。確認場所……南の山……。これは見つけるところから大変そうね……獲物を襲う時しか特徴が現れないみたいだし……。別の依頼の方がよさそうね」
フルームが依頼を見つけるとアリスが依頼内容を読み上げる。場所はイノシシ討伐をした山だった。その為、アリスはイノシシ討伐の時を思い出して移動だけでも大変なのに広い山の中でたった一匹の魔物を見つけるなどすぐに出来るとは思えなかったのだ。
……というのは建前で、正直疲れるから山を登りたくないという理由が大きかった。
「今日達成させるなら他の依頼にした方がいいかな」
エイシェルも賛同する。
「そうかー……じゃあ別の依頼がいいね……あ、これなんかどう?山菜収集、銀貨3枚」
「それなら簡単だし、今日中に終わるな」
「でも山菜の種類なんて知らないわよ?」
「大丈夫。それならおれが教えられる」
「そう?それならこの依頼受けましょう」
フルームが他にできる依頼はないかと探すとすぐ目の前に山菜の収集依頼を見つける。
フラムが山菜の見分けがつかないと不安の声を上げたが、そこは元猟師のエイシェルがサポートすることになった。
「……結局山に入るのね……」
アリスはひとり息を切らしている自分が容易に想像できてしまい悲しそうだった。
依頼を受注し、昼食を軽く済ませた4人は、エイシェルが宿に山菜を入れる籠を取りに行くのを待った後に山へ向かっていた。
「あそこのパンちょっと硬かったわね……」
「中もパサパサだったもんね……でもシチューは美味しかったと思う!」
「そうね。……でも、あの宿……帽子亭だったかしら?あそこのシチューと比べちゃうとちょっと物足りないのよね。……あそこにはもう行けないけど……」
アリスとフルームがお昼の感想を言い合いながら歩いている。
女性3人で吟味した店に入ったのだが、アリスにとってはイマイチだったようだ。
シチューといえば初めてこの町に来た時に食べたコック帽の看板の宿、帽子亭のシチューが一番美味しかった。
しかし、変に有名になってしまったため恥ずかしくてアリスはもう行けなくなっていた。
余談だが今日の朝は3人とも寝坊して厨房に余ってたパンとサラダとスープを特別に出してもらっていたので手の込んだ料理は食べ損ねていた。
そんなこともあり朝フラムとフルームをジト目で見ていたのだ。
ちなみに、焼肉店の件もあり、エイシェルに昼の選択権はなかった。
そんなエイシェルがボソッと言ったアリスの言葉を拾った。拾ってしまった。
「なんで行けないんだ?アリスがそこまで美味しいって言うのに行けないって何か問題が……?」
「あの宿ではアリスは有名人だから」
「そうそう、涙食姫だもんね」
「るいしょくき……?」
「2人とも!!」
エイシェルが疑問を持つのも当然である。美味しい食べ物に目がないアリスが美味しいのに行けないと言うのだ。
何かトラブルがあったのではないかと心配になり聞いたのだが、アリスではなくフラムとフルームから反応があった。
そしてアリスはポロッと言葉をこぼした事を後悔した。大変後悔していた。
「えーここまで来たら白状しなよー」
「いやよ!これは墓まで持っていくんだから!!」
「もう遅いと思うけどね……」
フルームがエイシェルに説明することを促すがアリスはなにがなんでも話す気は無かった。
しかし、フラムの予想通り時すでに遅しだったのだ……
「そういえば……おれ、朝ギルドに向かう途中の道で……その涙食姫?のファンクラブを作るとか言ってる人がいたけど……アリスのファンってことか?」
「ーーーーー」
アリスは驚愕の顔を浮かべたまま硬直した。
事態はより深刻になっていたのだ。
「……このままだと本当に町中に広がりそうね……」
「有名人カッコイイけどなー?」
「……はやく……早くこの町から出ないと!!」
アリスはこのままではまずいと思い、残りの依頼達成に向けて俄然やる気になるのであった。
ちなみに、アリスの二つ名についてはフルームがエイシェルにこっそりと説明した。
依頼人に依頼を受けたことを報告して4人は早速山に入った。
「この山に入るのも4日ぶりか」
「逆にまだ4日しか経ってないのね……」
エイシェルとアリスはここ数日が濃厚すぎてイノシシを狩ったのがだいぶ前の事と錯覚しそうになっていた。
気づいたらあの時と比べて仲間も増えている。
「私達と会ったのも3日前ね。3日前はあなた達に付いて行くなんて夢にも思わなかったもの……」
「2人に声をかけて良かったよ。」
フラムとフルームもまた濃厚な時間を過ごしており4人で過ごした時間がまだ3日とは思えない程になっていた。
「まだまだこれからだから、改めてよろしく頼む」
「わたしからもよろしくね」
「こちらこそ、何があってもついて行くわよ」
「右に同じ!」
4人で談笑しながら山を登り山菜採りながら1時間半ほど進むと、木々が避けるように一面の花畑が広がる場所に出た。
「わぁ!綺麗な場所!」
「こんなに綺麗なところがあったのね」
フルームとフラムが駆け出す。青空の下に広がる幻想的な風景にテンションが上がっていた。
少し遅れてアリスとエイシェルが到着する
「ぜぇ……ぜぇ……ひゅー……」
「……相変わらずだが大丈夫か?」
前回の反省も込めてゆっくり登ったはずだが、相変わらずアリスは体力が無かった。
「ごめんごめん、ここで少し休みましょう?」
フラムが提案して4人は花畑で休むことにした。
「ひゅー……ひゅー……」
「……アリス大丈夫?」
「……虫の息なんだけど……」
「……ゆっくり来たはずなんだがな……」
アリスの状態を見てフラム、フルーム、エイシェルがそれぞれ声を漏らす。
アリスは寝不足だったこと、午前に無理なヒールを使ったことでいつもより体力が落ちていた。
ただ、いつも迷惑をかけてしまっているため、せめてみんなが休憩するまでは頑張ろうと決めていたのだ。
……頑張った結果が虫の息である。
「はい、水飲む?」
「ひゅー……あり……ひゅー…….がと……」
アリスはフラムから水をもらうと一気に飲み干した。
「ふー……。たすかった……わ……」
まだ本調子では無いが水を飲んだことで呼吸が少し整い話せる程度には回復できた。
「山菜も集まったことだし、休んだら下山しよう。これだけあれば大丈夫だろう」
「これで今日2つ依頼完了だね」
「あとは……15個ね。このペースなら本当にすぐ終わりそうね」
「みんな……ありがとうね……。出来るだけ……ふぅ、早く港町に行けるように依頼をこなしましょう!」
エイシェルが依頼達成を3人に伝えると3人とも喜んで残りの依頼のことを考えた。異例のペースだが本当に着々と進められそうな感触があった。
……アリスはファンクラブのことがありそれどころでは無かった。出来るだけ早くこの町を離れたかったのだ。
そのために早く依頼を片付けようと必死なのだ。
「あまり無理するとまた熱を出すよ?」
「これくらいなら大丈夫よ!明日に備えてゆっくり寝れば問題ないわ」
「……フルーム、帰りはゆっくり進むわよ」
「うん……これは気をつけなきゃいけないやつ……」
心配するエイシェルにアリスは楽観的に答える。
それを聞いたアリス以外の3人は、下山は無理せずゆっくりとすすむことを心に決めたのであった。
そんなことを話しているとアリスが花畑で動くものを見つける。
「あれ?あそこで何か動かなかった?」
「うん?どこ?」
「あそこのちょっと土が盛り上がったところ……」
アリスが声を上げるとフラムが反応する。アリスが見つけた場所を指さすと白いものが顔を出す。
「あれは……うさぎだね」
「かわいい!!」
フルームが現れた生き物の正体を言うとアリスが飛び跳ねる。大きな街で生活していたアリスにとっては珍しい生き物だった。
「ついでだし仕留めて帰るか、うさぎ鍋にでもしよう」
「な?!」
「いいんじゃないかしら?」
「エイシェルの料理食べれるってこと?」
「ち、ちょっと!?」
アリスはカルチャーショックを受けていた。あんなにかわいい動物を食べるだなんて信じられなかった。
一方エイシェルは元猟師なのでうさぎ狩りは日常の一環であり、フラムもフルームも冒険者を1ヶ月もやっていればうさぎを狩ることも抵抗は無くなっていた。
まだ街から出てきたばかりのアリスにはうさぎを狩ることは許容出来なかった。
「あなたたち!あんなにかわいい生き物を食べられるの!?可哀想と思わないの!?」
「あー……そうかー……。それならしょうがないか」
「アリスはまだその心を持っているのね……」
「私達はいつから抵抗がなくなったんだろう……」
エイシェル、フラム、フルームがアリスの意見を汲む。3人とも昔は思ったのだ。なぜこんなにかわいい生き物を仕留めなければならないのか。その時は生きる為に必要だったから仕留めた。しかし、今はついでに狩ろうとしている。
3人は基本を忘れていたのだ。この世に生きる者として無駄な殺生は避けるべきだと。
生きる上で必要最低限に留めるべきだと。
3人共それぞれ誰かしらに教わっていたことだった。
「ごめん、アリス。あのうさぎは放っておこう」
「そうしましょう……私としたことが基本を忘れるなんて……」
「……私急にすごい罪悪感に襲われてるんだけど……」
「……?わかってくれたんならよかったわ」
3人が急に態度を変えたことを不思議に思ったが、あのうさぎが守られるのであればと思い深くは突っ込まなかった。
すると危険はないと察したのかうさぎがアリスに近づいてくる。
「あら?こっちにきてくれるの?んー……やっぱりかわいい!!」
アリスのテンションが上がる。そんなところでエイシェルが水を差す。
「ちょっと、アリス?ウサギモドキかもしれないから危ないよ?」
「そんなに簡単に見つかるものでもないでしょう?あんなにかわいいのに魔物のはずがないじゃない!」
エイシェルが可能性を述べるとアリスが反論する。アリスがいう通りそんなに簡単に見つかる者ではないはずなのだが……
「……お姉ちゃん?なんか嫌な予感がするんだけど……」
「……奇遇ね。私も嫌な予感がしていたわ……」
フラムとフルームは剣の柄に手をかける。エイシェルは念のためアリスのそばに寄って行った。
そんなことは知らないアリスの目の前までうさぎが近づいた。
「きゅっ?」
「きゃーー!かわいいーー!!」
うさぎが愛想を振り撒き、アリスが悶絶する。そんな時うさぎの様子が変わった。
お腹にぎょろっとした緑色の目が浮き出たのだ。
「さて、次はどうしようか」
「お昼のあとに行くとして、午後に終わらせられるやつがあればいいんだけど……」
エイシェルが声を上げ、フラムが答える。前の依頼が予想以上にスムーズに終わった為、本日2件目の依頼を探していた。
「これなんてどう?ウサギモドキ討伐!金貨1枚!」
「なになに……どこからか紛れ込んだウサギモドキを討伐してほしい。ウサギモドキは肉食で普通のウサギを介して繁殖する。繁殖力が強い為近隣の動物が根こそぎ食べられる危険性がある。確認できたのは一匹なので繁殖する前に討伐されたし。特徴は……一見普通のうさぎに見えるが獲物に襲う瞬間に胸に緑色の目玉が現れる。確認場所……南の山……。これは見つけるところから大変そうね……獲物を襲う時しか特徴が現れないみたいだし……。別の依頼の方がよさそうね」
フルームが依頼を見つけるとアリスが依頼内容を読み上げる。場所はイノシシ討伐をした山だった。その為、アリスはイノシシ討伐の時を思い出して移動だけでも大変なのに広い山の中でたった一匹の魔物を見つけるなどすぐに出来るとは思えなかったのだ。
……というのは建前で、正直疲れるから山を登りたくないという理由が大きかった。
「今日達成させるなら他の依頼にした方がいいかな」
エイシェルも賛同する。
「そうかー……じゃあ別の依頼がいいね……あ、これなんかどう?山菜収集、銀貨3枚」
「それなら簡単だし、今日中に終わるな」
「でも山菜の種類なんて知らないわよ?」
「大丈夫。それならおれが教えられる」
「そう?それならこの依頼受けましょう」
フルームが他にできる依頼はないかと探すとすぐ目の前に山菜の収集依頼を見つける。
フラムが山菜の見分けがつかないと不安の声を上げたが、そこは元猟師のエイシェルがサポートすることになった。
「……結局山に入るのね……」
アリスはひとり息を切らしている自分が容易に想像できてしまい悲しそうだった。
依頼を受注し、昼食を軽く済ませた4人は、エイシェルが宿に山菜を入れる籠を取りに行くのを待った後に山へ向かっていた。
「あそこのパンちょっと硬かったわね……」
「中もパサパサだったもんね……でもシチューは美味しかったと思う!」
「そうね。……でも、あの宿……帽子亭だったかしら?あそこのシチューと比べちゃうとちょっと物足りないのよね。……あそこにはもう行けないけど……」
アリスとフルームがお昼の感想を言い合いながら歩いている。
女性3人で吟味した店に入ったのだが、アリスにとってはイマイチだったようだ。
シチューといえば初めてこの町に来た時に食べたコック帽の看板の宿、帽子亭のシチューが一番美味しかった。
しかし、変に有名になってしまったため恥ずかしくてアリスはもう行けなくなっていた。
余談だが今日の朝は3人とも寝坊して厨房に余ってたパンとサラダとスープを特別に出してもらっていたので手の込んだ料理は食べ損ねていた。
そんなこともあり朝フラムとフルームをジト目で見ていたのだ。
ちなみに、焼肉店の件もあり、エイシェルに昼の選択権はなかった。
そんなエイシェルがボソッと言ったアリスの言葉を拾った。拾ってしまった。
「なんで行けないんだ?アリスがそこまで美味しいって言うのに行けないって何か問題が……?」
「あの宿ではアリスは有名人だから」
「そうそう、涙食姫だもんね」
「るいしょくき……?」
「2人とも!!」
エイシェルが疑問を持つのも当然である。美味しい食べ物に目がないアリスが美味しいのに行けないと言うのだ。
何かトラブルがあったのではないかと心配になり聞いたのだが、アリスではなくフラムとフルームから反応があった。
そしてアリスはポロッと言葉をこぼした事を後悔した。大変後悔していた。
「えーここまで来たら白状しなよー」
「いやよ!これは墓まで持っていくんだから!!」
「もう遅いと思うけどね……」
フルームがエイシェルに説明することを促すがアリスはなにがなんでも話す気は無かった。
しかし、フラムの予想通り時すでに遅しだったのだ……
「そういえば……おれ、朝ギルドに向かう途中の道で……その涙食姫?のファンクラブを作るとか言ってる人がいたけど……アリスのファンってことか?」
「ーーーーー」
アリスは驚愕の顔を浮かべたまま硬直した。
事態はより深刻になっていたのだ。
「……このままだと本当に町中に広がりそうね……」
「有名人カッコイイけどなー?」
「……はやく……早くこの町から出ないと!!」
アリスはこのままではまずいと思い、残りの依頼達成に向けて俄然やる気になるのであった。
ちなみに、アリスの二つ名についてはフルームがエイシェルにこっそりと説明した。
依頼人に依頼を受けたことを報告して4人は早速山に入った。
「この山に入るのも4日ぶりか」
「逆にまだ4日しか経ってないのね……」
エイシェルとアリスはここ数日が濃厚すぎてイノシシを狩ったのがだいぶ前の事と錯覚しそうになっていた。
気づいたらあの時と比べて仲間も増えている。
「私達と会ったのも3日前ね。3日前はあなた達に付いて行くなんて夢にも思わなかったもの……」
「2人に声をかけて良かったよ。」
フラムとフルームもまた濃厚な時間を過ごしており4人で過ごした時間がまだ3日とは思えない程になっていた。
「まだまだこれからだから、改めてよろしく頼む」
「わたしからもよろしくね」
「こちらこそ、何があってもついて行くわよ」
「右に同じ!」
4人で談笑しながら山を登り山菜採りながら1時間半ほど進むと、木々が避けるように一面の花畑が広がる場所に出た。
「わぁ!綺麗な場所!」
「こんなに綺麗なところがあったのね」
フルームとフラムが駆け出す。青空の下に広がる幻想的な風景にテンションが上がっていた。
少し遅れてアリスとエイシェルが到着する
「ぜぇ……ぜぇ……ひゅー……」
「……相変わらずだが大丈夫か?」
前回の反省も込めてゆっくり登ったはずだが、相変わらずアリスは体力が無かった。
「ごめんごめん、ここで少し休みましょう?」
フラムが提案して4人は花畑で休むことにした。
「ひゅー……ひゅー……」
「……アリス大丈夫?」
「……虫の息なんだけど……」
「……ゆっくり来たはずなんだがな……」
アリスの状態を見てフラム、フルーム、エイシェルがそれぞれ声を漏らす。
アリスは寝不足だったこと、午前に無理なヒールを使ったことでいつもより体力が落ちていた。
ただ、いつも迷惑をかけてしまっているため、せめてみんなが休憩するまでは頑張ろうと決めていたのだ。
……頑張った結果が虫の息である。
「はい、水飲む?」
「ひゅー……あり……ひゅー…….がと……」
アリスはフラムから水をもらうと一気に飲み干した。
「ふー……。たすかった……わ……」
まだ本調子では無いが水を飲んだことで呼吸が少し整い話せる程度には回復できた。
「山菜も集まったことだし、休んだら下山しよう。これだけあれば大丈夫だろう」
「これで今日2つ依頼完了だね」
「あとは……15個ね。このペースなら本当にすぐ終わりそうね」
「みんな……ありがとうね……。出来るだけ……ふぅ、早く港町に行けるように依頼をこなしましょう!」
エイシェルが依頼達成を3人に伝えると3人とも喜んで残りの依頼のことを考えた。異例のペースだが本当に着々と進められそうな感触があった。
……アリスはファンクラブのことがありそれどころでは無かった。出来るだけ早くこの町を離れたかったのだ。
そのために早く依頼を片付けようと必死なのだ。
「あまり無理するとまた熱を出すよ?」
「これくらいなら大丈夫よ!明日に備えてゆっくり寝れば問題ないわ」
「……フルーム、帰りはゆっくり進むわよ」
「うん……これは気をつけなきゃいけないやつ……」
心配するエイシェルにアリスは楽観的に答える。
それを聞いたアリス以外の3人は、下山は無理せずゆっくりとすすむことを心に決めたのであった。
そんなことを話しているとアリスが花畑で動くものを見つける。
「あれ?あそこで何か動かなかった?」
「うん?どこ?」
「あそこのちょっと土が盛り上がったところ……」
アリスが声を上げるとフラムが反応する。アリスが見つけた場所を指さすと白いものが顔を出す。
「あれは……うさぎだね」
「かわいい!!」
フルームが現れた生き物の正体を言うとアリスが飛び跳ねる。大きな街で生活していたアリスにとっては珍しい生き物だった。
「ついでだし仕留めて帰るか、うさぎ鍋にでもしよう」
「な?!」
「いいんじゃないかしら?」
「エイシェルの料理食べれるってこと?」
「ち、ちょっと!?」
アリスはカルチャーショックを受けていた。あんなにかわいい動物を食べるだなんて信じられなかった。
一方エイシェルは元猟師なのでうさぎ狩りは日常の一環であり、フラムもフルームも冒険者を1ヶ月もやっていればうさぎを狩ることも抵抗は無くなっていた。
まだ街から出てきたばかりのアリスにはうさぎを狩ることは許容出来なかった。
「あなたたち!あんなにかわいい生き物を食べられるの!?可哀想と思わないの!?」
「あー……そうかー……。それならしょうがないか」
「アリスはまだその心を持っているのね……」
「私達はいつから抵抗がなくなったんだろう……」
エイシェル、フラム、フルームがアリスの意見を汲む。3人とも昔は思ったのだ。なぜこんなにかわいい生き物を仕留めなければならないのか。その時は生きる為に必要だったから仕留めた。しかし、今はついでに狩ろうとしている。
3人は基本を忘れていたのだ。この世に生きる者として無駄な殺生は避けるべきだと。
生きる上で必要最低限に留めるべきだと。
3人共それぞれ誰かしらに教わっていたことだった。
「ごめん、アリス。あのうさぎは放っておこう」
「そうしましょう……私としたことが基本を忘れるなんて……」
「……私急にすごい罪悪感に襲われてるんだけど……」
「……?わかってくれたんならよかったわ」
3人が急に態度を変えたことを不思議に思ったが、あのうさぎが守られるのであればと思い深くは突っ込まなかった。
すると危険はないと察したのかうさぎがアリスに近づいてくる。
「あら?こっちにきてくれるの?んー……やっぱりかわいい!!」
アリスのテンションが上がる。そんなところでエイシェルが水を差す。
「ちょっと、アリス?ウサギモドキかもしれないから危ないよ?」
「そんなに簡単に見つかるものでもないでしょう?あんなにかわいいのに魔物のはずがないじゃない!」
エイシェルが可能性を述べるとアリスが反論する。アリスがいう通りそんなに簡単に見つかる者ではないはずなのだが……
「……お姉ちゃん?なんか嫌な予感がするんだけど……」
「……奇遇ね。私も嫌な予感がしていたわ……」
フラムとフルームは剣の柄に手をかける。エイシェルは念のためアリスのそばに寄って行った。
そんなことは知らないアリスの目の前までうさぎが近づいた。
「きゅっ?」
「きゃーー!かわいいーー!!」
うさぎが愛想を振り撒き、アリスが悶絶する。そんな時うさぎの様子が変わった。
お腹にぎょろっとした緑色の目が浮き出たのだ。
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