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第一章 始まり

2.始まりの街

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『誓おう、勇者の名に賭けて』

 誰かが話している。そして……わたしも何か話している…?一体誰……?わたしは……だれ?
 何を話しているのか分からないが誰かが話しているイメージが流れ込んでくる。これは大きな広間だ。目の前には冒険者のような男の人が立っている。
 ここはどこだろう。状況を把握しようと考え始めた時、急に意識が引き戻された。



 ……痛みとともに。

「ぶっ!?……っいったあぁ……」

 痛みのあまり顔を抑える少女。辺りを見回すと見慣れた自分の部屋であった。

(うとうとしてたら顔面強打とか……誰も見てないよね……?)

 今日が18歳の誕生日であり、両親に買ってもらった魔法に関する書物を読んでいたところまでは覚えている。お風呂に入った後に居間に残っていつもより遅くまで本を読んでいたせいか、眠くなりうとうとしていたようだ。

(こんなところ誰かにみられたら恥ずかしいったらありゃしない……)

 少女の名前はアリス。父は王都で国軍に魔法の指南をしており、母は街の病院で怪我専門の医者もどきをしている。
 ……もどきというのは、厳密には母親は医者ではなく魔法使いに分類されるからだ。この街で仕事をする時に何故か医者の枠で採用されたらしい。結果、どんな症状でも回復魔法を使い怪我を直している。
 この両親だからなのかアリスは人並み外れた魔力変換能力を持っていた。他の人と同じ生命力から変換される魔力量が多く、より効率良く魔力を変換できる体質である。
 優れているのはその体質だけではない。頭の回転も早く、難解な事態に遭遇しても最適解を瞬時に導き出せるほどである。
 ただ、大きな欠点として身体が弱く少し走るとすぐに息が切れてしまう程に運動が大の苦手である。

(それにしても……さっきのは夢……?夢にしてはすごくリアルだったけど……。それに、ゆうしゃって……あの英雄譚に出てくる勇者?)

 あまりにもリアルなイメージであった為とても気になったが、今襲いかかってきている眠気には敵わない。このままではまた机に顔面ダイブをきめるのがオチだ。

(明日から旅の準備すすめなきゃだし、今日はもう寝ようかしら)

 アリスは両親と約束をしており、18歳になったら各地へ魔法の知見を広げる旅に出ることになっている。アリスの希望であった為、両親からは反対されるかと思ったが、その両親は両親は意外にも乗り気であった。たしか両親は旅で知り合って結婚したのだとか。自分もいつかは……。そんなことを密かに思いつつ旅に早く出れるように明日から準備を進める予定でいる。朝から準備をしたいのでさっさと寝る支度をする事にした。







 ベッドに入り数刻。熟睡していたアリスだったが、いきなり腹部に激痛が走る。

「っかはっ……!?」

 あまりの激痛に目を見開き腹部を抑えるアリス。身体を起こすどころか呼吸もままならない。

(息ができない……!?なに、この痛み……?)

 涙を浮かべ痛みに耐えるアリス。何か出来ることはないかとベッドから落ちるが、痛みに耐えられずしばらくごろごろとのたうち回る。そのまま少し待つと呼吸ができるほどには回復した。

「はぁ……はぁ……なんなのよ……これ?なにか病気かしら……?お母さん起こしてでも診てもらわないと……せっかくお風呂入ったのに汗だくじゃない……あれ、さっきのイメージ……?え……?なに…………?なっ!!?」

 その瞬間、先程のイメージが再度再生された。今度は内容が理解できるほどに鮮明に。
 そして、強い脱力感とともに生命力が急激に減りだした。

「はぅっ!?」

(い、いやぁ……だめ!このままじゃしんじゃう!!なんでとか言ってる場合じゃない!!)

 アリスは必死に考える。このままでは数分ももたない。生命力が尽きてあの世行きである。

(えーとえーと……せ、生命力が残ればいいんでしょ!!さっき読んだ本に生命力を回復する魔法が載ってたはず!!)

 枕元に置いておいた本を引き摺り落として該当の項目を見つける。そして急いでその魔法を唱えた。

「ルミナドレイン!!」

 わざわざ生命力を魔力に変換して生命力を回復するネタ魔法。普通の人であればこの魔法を使っても消費する生命力の方が多くなり本末転倒であるが、こんな無意味な魔法であってもアリスにとってはその類稀なる魔力変換効率のおかげで生命力を最大値まで無制限に少しずつ回復できる便利魔法になるのだ。

「ルミナドレイン!ルミナドレイン!ルミナドレイン!!…………」

 一回の回復量などたかが知れている。それでもやるしかない。そう考えて何度もなんども諦めずに魔法を唱える。だが、状況は芳しくはなかった。

(なんなのよこれ!!ぶっつけ本番でなんとか減りは抑えられたけど、これだけやっても減る一方じゃない!!)

 必死に魔法を唱え続けるアリスだったが生命力の減りが急激すぎて生命力を回復するところまで持っていけなかった。そして、そのまま生命力はじわじわ減っていく。

(やばいやばいっ!!意識が朦朧としてきた!!このままだと本当に死んじゃうぅぅ!!!)

「ルミナドレイン!ルミナ…ドレイン…!ルミ…ナ……」

(………ぁ………ぅ……)

 目に涙を浮かべながら必死に魔法を唱えるアリスだったが、遂には意識をなくし気を失ってしまった。
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