碧い月

いっき

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それからもずっと……

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「死ぬのなんて……もう、怖くも悲しくもないと思ってた。なのに……死が近づいてきたら苦しくって。こんなに苦しくて悲しいなんて思ってなくて……どうしてだろうね。あなたに会いたくって、堪らなくなったの」

 涙でぐしゃぐしゃになってそんなことを話すエレナを、僕はぎゅっと抱きしめた。不思議だ……人と関わることなんて、億劫だったはずなのに。僕はこの、美しくも儚い彼女が愛しくて堪らなかったんだ。

 死が近い彼女が、僕なんかに会いたくなる理由は分からなかった。でも、僕の絵を見るたびに、彼女はまるで内にエネルギーが湧き出るかのように生き生きとしていて。だから……こんな僕でも、絵を描くことで彼女の生きる支えになれるような気がした。

「なぁ……エレナ」
 僕はそっと体を彼女から離して、その吸い込まれそうなくらいに青く澄んだ瞳を見た。
「一緒に暮らそう。ここで……絵に囲まれた、このアトリエで」
 それは、自らの口から出るのも信じられないくらいに大胆な言葉だった。でも、僕はどうしても……残り僅かなその時間を、エレナと一緒に過ごしたかったんだ。
「本当に……いいの? ここで一緒に住んで……」
 エレナはその睫毛の長い目を丸くした。
 それは、彼女も残り少ないその時間を僕と過ごすことを望んでいるということを意味していて。そのことは嬉しかったのだけれど、同時に切なくて堪らない想いがこの胸に溢れ出して。
「あぁ……もちろん。エレナが、それでいいのなら」
 そう答える僕の目からも、一筋の涙が伝って落ちた。

 その時にはもう、すっかり日は暮れていて、窓からは紺色の四角い空が覗いていた。それはあの日、僕が見たみたいに碧い月の輝く空で……青白い光が僕達を照らした。

 その光の下で、僕達は一晩中語り合った。
 絵を描いている時……眺めている時、お互いに考えていること。感じていること。彼女が僕の絵をどれだけ気に入ってくれているかということ。そして、それからのこと……その日から、お互いにどう過ごしていくかということ。
 僕はその時……それからもずっと、時間の許してくれる限り、彼女を描き続けるって約束したんだ。
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