10 / 11
第九章 作戦
しおりを挟む
*
私の中に愛しい者が入ってゆく。それは、毒されて私に敵意を持っているけれど、愛しい。愛しくて、堪らない。
彼は私を攻撃する。だけれども、私は彼を包み込む。優しく、温かく……。
「オリオン。今度は私が、あなたを守るから……」
すると彼は徐々に温かさを取り戻してゆき、縋るように、私の名前を呼ぶ。
「ナ……セナ!」
*
「セナ! セナ!」
その大きな声で……体が強く、大きく揺さぶられて、私は目を覚ました。
目の前には、必死で私の名前を呼ぶ無骨な彼がいた。それは、愛しくて……会いたくて堪らなかったオリオンの、元気な顔。
「オリオン……」
「セナ! 良かった。セナ……」
安堵したオリオンの顔……初めて見た。
だって、彼はいつも不機嫌でぶっきら棒で。誰かに感情を寄せるなんて、想像もつかなかった。
でも、今……目の前の彼はまるで幼い子供のように思えて。そんな彼がより愛しくて堪らなくて。
思わずオリオンを抱き寄せて、その唇に私の唇を重ねた。
「セナ……」
唇を離して。改めて彼の顔を見つめると、頬は桃色に染まっていた。
それはまるで、純情な少年のようで……そんなオリオンを見て、私も、自分が『初めて』だったんだと思い出した。
だから、私の顔もカァッと熱くなって。何だかいたたまれなくなって、ガバッと寝床に潜り込んだ。
「セナ。おい、お前……何をやっているんだ? 折角、助かったのに」
「えっ……」
まるでいつもの調子を取り戻した様子のオリオンの声に、私は寝床から這い出して……思い出した。
そうだ。オリオンはサソリに刺されて、瀕死の状態で。だから、私と血を交換して。
もう、こんなに元気になって……私達、二人とも助かったんだ!
「やった……」
私の口からは、思わず喜びの言葉が出た。
「やったよ、オリオン。私達、助かったんだ。これからも……ずっと一緒にいれるのよね!」
私はまた、ギュッと強くオリオンを抱き締めた。
「おい、こら……やめんか。ったく……」
オリオンは照れ隠しにぶっきら棒に言うけれど、私には分かる。彼も本当は、とっても嬉しいんだ。
だから、私は彼の温かい体温を感じて。その優しさにずっと、この身を委ねていたのだった。
*
「アルテミス。今日も、ありがとう! 美味しいシチュー。ね、オリオンも! お礼、いいなよ」
「あ……ああ」
息を吹き返しても、オリオンは相変わらずだ。
「ああ、じゃなくて。お礼!」
「ああ……すまんな」
「いや、謝ってどうする? お礼を言えって言ってるの!」
「いいわよ、オリオン、セナさん。たくさん、召し上がれ」
アルテミスはやっぱり美しくて、輝くような笑顔を私達に見せてくる。
彼女は優しくて、綺麗で、温かくて……どこからどう見ても、素敵な女性で。だから、私は不安になる。
この前、オリオンとアルテミスの過去のことを聞いて……アルテミスはまだ、オリオンに想いを抱いているんだって思った。
そして、オリオンも……きっとまだ、アルテミスのことを想ってる。
だから、オリオンの恋人は……ずっと一緒にいる人は、アルテミスの方が幸せなんじゃないかな。
オリオンにとっても、アルテミスにとっても……そんな考えが、心の片隅に渦巻いて。まるで痼りのように、私の心を不安にさせるんだ。
「しばらくは、絶対安静」っていうアルテミスの言葉に忠実に、オリオンは朝食後、すぐにいびきをかきながら眠り始めた。
全く、こいつは生存本能に忠実だな……彼の幸せそうな寝顔に、私もつい、顔が綻ぶ。
だけれども、私の方は中々、寝付けなくって。ベッドから起き出して、アルテミスのもとへ戻った。
「あら、セナさん……」
アルテミスはお昼の準備をしながら、長い睫毛の目を細めて私ににっこりと微笑んでくれた。
「アルテミス……」
彼女はやっぱり、素敵な女性で。そのオーラにただただ、圧倒される。
アルテミスは、たじたじになっている私にテーブルにつくように促して、ハーブティーを運んでくれた。
「ありがとう……」
「どういたしまして」
アルテミスの碧い瞳に私は吸い込まれそうになる。そんな彼女の瞳をじっと見つめて。私は恐る恐る、ゆっくりと口を開いた。
「アルテミスって、まだ……」
「えっ?」
「まだ、オリオンのことが好きなの?」
言ってしまった後で後悔した。
私……何を聞いているんだろう?
彼女はあの時、教えてくれたのに。どれだけ好きでも、その恋は許されない。そんな、悲しい恋なんだって。
すると、アルテミスは少し寂しそうに笑った。
「それは……まだ好きじゃない、と言えば嘘になるわ」
「やっぱり……」
「でもね。あなたには負ける」
「えっ?」
私が顔を上げると、彼女は切なげな……だけれども、満面の笑みを浮かべた。
「あなたが、自分の命を投げ出してでもオリオンを救いたい、と言った時ね。私、思ったの。ああ……この娘には敵わない。オリオンを想う気持ちでは……って」
「いえ、そんなこと……アルテミスだって。私と同じ立場になったらきっと、同じようにするわ」
私の言葉にアルテミスは寂しげに微笑んだ。
「ええ、そうね。でもね……きっと、そうするではダメなの。あなたは実際に、自らの危険を顧みずにオリオンを救った。だから……オリオンに対する想いでは、私は絶対にあなたを超えることはできない」
「そう……なのかな」
「ええ、そうよ」
アルテミスは私の手を両手でギュッと握った。
「それに、オリオンの想いも。きっと、もう……あなただけを見ているわ。オリオンを見てて、私には分かるの」
「うん……」
オリオンの私への態度……それは、いつでも、同じような感じで。少し変わったことと言えば、私と話す時、頬が薄っすらと桃色に染まるようになった。
そんな小さなことからも、このアルテミスはオリオンの気持ちが分かるんだな。
私は嬉しくて……だけれど同時に切なくもある、不思議な気持ちになった。
「だから! あなたはもっと、自信を持って。あなたとオリオンはもう……この世界で一番の、恋人同士なんだから!」
「この世界で一番の……」
アルテミスの言ってくれたその言葉は嬉しくて。それも、私の憧れの、飛び切り素敵な女性に言われて、すごく幸せだった。
だから、私の目にはじんわりと熱いものが込み上げてきた。
「アルテミス、ありがとう。私……ずっと、オリオンと一緒にいる。彼の恋人として」
「ええ……」
私の言葉に頷いた彼女はしかし、まっすぐと目を合わせて真剣な顔をした。
「私も。あなたとオリオンにはずっと、幸せに暮らしていてもらいたい。だから……だからこそ。あなたには、話しておかなければならないことがあるの」
「話しておかなければならないこと?」
アルテミスは真剣な表情を崩さずに頷いた。
「私の兄……アポロン神のことよ」
「アポロン神……」
その名を聞いて、私の体は一気に強張った。
アルテミスとオリオンの仲を引き裂いて、オリオンの命を狙っている神。
サソリ使いのガイアは彼が差し向けて、オリオンは死の縁を彷徨った。
「ええ。アポロンはオリオンがサソリに刺されて死んだと思っていたから、しばらくは大人しくしていた。でもね、もうそろそろ、気付く頃だと思うの。オリオンがまだ生きてるって」
「そんな! どうしたら……」
「落ち着いて。私に、考えがある。オリオンにも言おうと思っていたことなんだけど……」
アルテミスはそう言って、作戦を静かに私に話してくれた。
*
その日の空は青々として、どこまでも広がっていた。そして、海も……空と同じように青く澄んで、まるで吸い込まれそうだった。
「すごい! この世界の海も、こんなに綺麗なんだ」
オリオンと手を繋いで、足元から少しずつ水に入る私ははしゃいだ。
「お前……今日はただ、楽しみに来てるわけじゃないんだぞ」
緊張した面持ちのオリオンは、呆れ顔で私を見る。
「分かってるわよ。でも、そんなに緊張することないって。アルテミスの作戦だもの……絶対にうまくいく」
そう。海に来たのはアルテミスの作戦だ。
それは、満月のあくる日。海の中には異世界に通じる穴ができるというのだ。
異世界って、どこなのか分からない。私が元いた世界なのかも知れないし、全く想像もつかない世界があるのかも知れない。
でも、オリオンはこの世界では、必ず神から命を狙われる。だから……私と一緒に異世界へ逃げるんだ。
頑固なオリオンはその作戦に中々、うんとは言わなかったけれど、私とアルテミスで説得して。今日、この作戦を決行することにした。
海にずぶずぶと入ってゆき、オリオンの背丈くらいの深さになった。私の体はオリオンに支えられて、辛うじて頭を海面から出していた。
浜辺にいたアルテミスはすっかりと小さく見えたけれど……その横に、一人の男性が出現した。
逞しい体をした、金髪のその男は……きっと、アポロン神だ。
彼はアルテミスに何か話している。
声は聞こえないけれど分かる。
「アルテミス。弓の達人であるお前でも、あれを射ることはできまい」……そう、神話通りのことを話しているんだ。
そして、アルテミスはその挑発に乗って、こちらを狙って弓を引いて……
「オリオン! 今よ!」
私は彼と一緒に、思い切って透き通るような海に潜った。
オリオンと手を繋いで、深く、深く……どこまでも海を潜っていく。
陸上ではきっと、「アルテミスがオリオンを射殺して、彼は海の藻屑になった」……そう、神話通りに話が進んで、アポロンもそれに納得するだろう。だって、私達はこれからこの世界ではない、異世界へ行くんだから。
海をひたすらに潜って潜って……私達は見つけた。まるで渦巻きのような、黒い大きな穴。
これが異世界へと通じる穴……そのことは、一目見て、感覚的に理解した。
恐ろしさはあった。だって、その穴は強大で、どこへ繋がっているのか、全く想像もつかなくて。
でも……彼、オリオンと一緒なら、何処ででも。私は幸せに暮らしていける。そう、いつまでも……
そんな想いと共に、私達は思い切って、吸い込まれるようにその穴の中へ入って行った。
私の中に愛しい者が入ってゆく。それは、毒されて私に敵意を持っているけれど、愛しい。愛しくて、堪らない。
彼は私を攻撃する。だけれども、私は彼を包み込む。優しく、温かく……。
「オリオン。今度は私が、あなたを守るから……」
すると彼は徐々に温かさを取り戻してゆき、縋るように、私の名前を呼ぶ。
「ナ……セナ!」
*
「セナ! セナ!」
その大きな声で……体が強く、大きく揺さぶられて、私は目を覚ました。
目の前には、必死で私の名前を呼ぶ無骨な彼がいた。それは、愛しくて……会いたくて堪らなかったオリオンの、元気な顔。
「オリオン……」
「セナ! 良かった。セナ……」
安堵したオリオンの顔……初めて見た。
だって、彼はいつも不機嫌でぶっきら棒で。誰かに感情を寄せるなんて、想像もつかなかった。
でも、今……目の前の彼はまるで幼い子供のように思えて。そんな彼がより愛しくて堪らなくて。
思わずオリオンを抱き寄せて、その唇に私の唇を重ねた。
「セナ……」
唇を離して。改めて彼の顔を見つめると、頬は桃色に染まっていた。
それはまるで、純情な少年のようで……そんなオリオンを見て、私も、自分が『初めて』だったんだと思い出した。
だから、私の顔もカァッと熱くなって。何だかいたたまれなくなって、ガバッと寝床に潜り込んだ。
「セナ。おい、お前……何をやっているんだ? 折角、助かったのに」
「えっ……」
まるでいつもの調子を取り戻した様子のオリオンの声に、私は寝床から這い出して……思い出した。
そうだ。オリオンはサソリに刺されて、瀕死の状態で。だから、私と血を交換して。
もう、こんなに元気になって……私達、二人とも助かったんだ!
「やった……」
私の口からは、思わず喜びの言葉が出た。
「やったよ、オリオン。私達、助かったんだ。これからも……ずっと一緒にいれるのよね!」
私はまた、ギュッと強くオリオンを抱き締めた。
「おい、こら……やめんか。ったく……」
オリオンは照れ隠しにぶっきら棒に言うけれど、私には分かる。彼も本当は、とっても嬉しいんだ。
だから、私は彼の温かい体温を感じて。その優しさにずっと、この身を委ねていたのだった。
*
「アルテミス。今日も、ありがとう! 美味しいシチュー。ね、オリオンも! お礼、いいなよ」
「あ……ああ」
息を吹き返しても、オリオンは相変わらずだ。
「ああ、じゃなくて。お礼!」
「ああ……すまんな」
「いや、謝ってどうする? お礼を言えって言ってるの!」
「いいわよ、オリオン、セナさん。たくさん、召し上がれ」
アルテミスはやっぱり美しくて、輝くような笑顔を私達に見せてくる。
彼女は優しくて、綺麗で、温かくて……どこからどう見ても、素敵な女性で。だから、私は不安になる。
この前、オリオンとアルテミスの過去のことを聞いて……アルテミスはまだ、オリオンに想いを抱いているんだって思った。
そして、オリオンも……きっとまだ、アルテミスのことを想ってる。
だから、オリオンの恋人は……ずっと一緒にいる人は、アルテミスの方が幸せなんじゃないかな。
オリオンにとっても、アルテミスにとっても……そんな考えが、心の片隅に渦巻いて。まるで痼りのように、私の心を不安にさせるんだ。
「しばらくは、絶対安静」っていうアルテミスの言葉に忠実に、オリオンは朝食後、すぐにいびきをかきながら眠り始めた。
全く、こいつは生存本能に忠実だな……彼の幸せそうな寝顔に、私もつい、顔が綻ぶ。
だけれども、私の方は中々、寝付けなくって。ベッドから起き出して、アルテミスのもとへ戻った。
「あら、セナさん……」
アルテミスはお昼の準備をしながら、長い睫毛の目を細めて私ににっこりと微笑んでくれた。
「アルテミス……」
彼女はやっぱり、素敵な女性で。そのオーラにただただ、圧倒される。
アルテミスは、たじたじになっている私にテーブルにつくように促して、ハーブティーを運んでくれた。
「ありがとう……」
「どういたしまして」
アルテミスの碧い瞳に私は吸い込まれそうになる。そんな彼女の瞳をじっと見つめて。私は恐る恐る、ゆっくりと口を開いた。
「アルテミスって、まだ……」
「えっ?」
「まだ、オリオンのことが好きなの?」
言ってしまった後で後悔した。
私……何を聞いているんだろう?
彼女はあの時、教えてくれたのに。どれだけ好きでも、その恋は許されない。そんな、悲しい恋なんだって。
すると、アルテミスは少し寂しそうに笑った。
「それは……まだ好きじゃない、と言えば嘘になるわ」
「やっぱり……」
「でもね。あなたには負ける」
「えっ?」
私が顔を上げると、彼女は切なげな……だけれども、満面の笑みを浮かべた。
「あなたが、自分の命を投げ出してでもオリオンを救いたい、と言った時ね。私、思ったの。ああ……この娘には敵わない。オリオンを想う気持ちでは……って」
「いえ、そんなこと……アルテミスだって。私と同じ立場になったらきっと、同じようにするわ」
私の言葉にアルテミスは寂しげに微笑んだ。
「ええ、そうね。でもね……きっと、そうするではダメなの。あなたは実際に、自らの危険を顧みずにオリオンを救った。だから……オリオンに対する想いでは、私は絶対にあなたを超えることはできない」
「そう……なのかな」
「ええ、そうよ」
アルテミスは私の手を両手でギュッと握った。
「それに、オリオンの想いも。きっと、もう……あなただけを見ているわ。オリオンを見てて、私には分かるの」
「うん……」
オリオンの私への態度……それは、いつでも、同じような感じで。少し変わったことと言えば、私と話す時、頬が薄っすらと桃色に染まるようになった。
そんな小さなことからも、このアルテミスはオリオンの気持ちが分かるんだな。
私は嬉しくて……だけれど同時に切なくもある、不思議な気持ちになった。
「だから! あなたはもっと、自信を持って。あなたとオリオンはもう……この世界で一番の、恋人同士なんだから!」
「この世界で一番の……」
アルテミスの言ってくれたその言葉は嬉しくて。それも、私の憧れの、飛び切り素敵な女性に言われて、すごく幸せだった。
だから、私の目にはじんわりと熱いものが込み上げてきた。
「アルテミス、ありがとう。私……ずっと、オリオンと一緒にいる。彼の恋人として」
「ええ……」
私の言葉に頷いた彼女はしかし、まっすぐと目を合わせて真剣な顔をした。
「私も。あなたとオリオンにはずっと、幸せに暮らしていてもらいたい。だから……だからこそ。あなたには、話しておかなければならないことがあるの」
「話しておかなければならないこと?」
アルテミスは真剣な表情を崩さずに頷いた。
「私の兄……アポロン神のことよ」
「アポロン神……」
その名を聞いて、私の体は一気に強張った。
アルテミスとオリオンの仲を引き裂いて、オリオンの命を狙っている神。
サソリ使いのガイアは彼が差し向けて、オリオンは死の縁を彷徨った。
「ええ。アポロンはオリオンがサソリに刺されて死んだと思っていたから、しばらくは大人しくしていた。でもね、もうそろそろ、気付く頃だと思うの。オリオンがまだ生きてるって」
「そんな! どうしたら……」
「落ち着いて。私に、考えがある。オリオンにも言おうと思っていたことなんだけど……」
アルテミスはそう言って、作戦を静かに私に話してくれた。
*
その日の空は青々として、どこまでも広がっていた。そして、海も……空と同じように青く澄んで、まるで吸い込まれそうだった。
「すごい! この世界の海も、こんなに綺麗なんだ」
オリオンと手を繋いで、足元から少しずつ水に入る私ははしゃいだ。
「お前……今日はただ、楽しみに来てるわけじゃないんだぞ」
緊張した面持ちのオリオンは、呆れ顔で私を見る。
「分かってるわよ。でも、そんなに緊張することないって。アルテミスの作戦だもの……絶対にうまくいく」
そう。海に来たのはアルテミスの作戦だ。
それは、満月のあくる日。海の中には異世界に通じる穴ができるというのだ。
異世界って、どこなのか分からない。私が元いた世界なのかも知れないし、全く想像もつかない世界があるのかも知れない。
でも、オリオンはこの世界では、必ず神から命を狙われる。だから……私と一緒に異世界へ逃げるんだ。
頑固なオリオンはその作戦に中々、うんとは言わなかったけれど、私とアルテミスで説得して。今日、この作戦を決行することにした。
海にずぶずぶと入ってゆき、オリオンの背丈くらいの深さになった。私の体はオリオンに支えられて、辛うじて頭を海面から出していた。
浜辺にいたアルテミスはすっかりと小さく見えたけれど……その横に、一人の男性が出現した。
逞しい体をした、金髪のその男は……きっと、アポロン神だ。
彼はアルテミスに何か話している。
声は聞こえないけれど分かる。
「アルテミス。弓の達人であるお前でも、あれを射ることはできまい」……そう、神話通りのことを話しているんだ。
そして、アルテミスはその挑発に乗って、こちらを狙って弓を引いて……
「オリオン! 今よ!」
私は彼と一緒に、思い切って透き通るような海に潜った。
オリオンと手を繋いで、深く、深く……どこまでも海を潜っていく。
陸上ではきっと、「アルテミスがオリオンを射殺して、彼は海の藻屑になった」……そう、神話通りに話が進んで、アポロンもそれに納得するだろう。だって、私達はこれからこの世界ではない、異世界へ行くんだから。
海をひたすらに潜って潜って……私達は見つけた。まるで渦巻きのような、黒い大きな穴。
これが異世界へと通じる穴……そのことは、一目見て、感覚的に理解した。
恐ろしさはあった。だって、その穴は強大で、どこへ繋がっているのか、全く想像もつかなくて。
でも……彼、オリオンと一緒なら、何処ででも。私は幸せに暮らしていける。そう、いつまでも……
そんな想いと共に、私達は思い切って、吸い込まれるようにその穴の中へ入って行った。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
シチュボ(女性向け)
身喰らう白蛇
恋愛
自発さえしなければ好きに使用してください。
アドリブ、改変、なんでもOKです。
他人を害することだけはお止め下さい。
使用報告は無しで商用でも練習でもなんでもOKです。
Twitterやコメント欄等にリアクションあるとむせながら喜びます✌︎︎(´ °∀︎°`)✌︎︎ゲホゴホ
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本
しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。
関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください
ご自由にお使いください。
イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる