タツマキにのまれて……

いっき

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 ついさっきまで青々としていた空は、夕焼けのオレンジ色に染まっている。ぼくと真緒は、来た道をぼんやりともどっていた。

「何だか、つかれたな」

「ええ。今日は何だかよく分からないけど、色んなことがあったし……」

 そんなことを話しながら空き地にさしかかると、聞きなれた三人の声と、か細い「クゥ~ン」という鳴き声が聞こえた。

「あれ?」

「あなたたち、どうして、またここに?」

 ぼくたちが空き地に入ると、さっきの三人……飯田さんと羽村と川野がいた。

 しかし、羽村ははだしで少しズボンをぬらしていて、川野は茶色くて小さな子犬をかかえていて、飯田さんはにっこりと笑いながらその子犬をなでていた。

「おぉ、ウソつき金谷と今野じゃないか!」

 羽村はぼくたちを見てそんなことを言ったけれど、さっきとはうって変わってきげんが良さそうだった。

「ちがうよ。ウソつきじゃない!」

「そうよ。あれは……」

 しかし、そこでぼくと真緒は顔を見合わせてよく考えた。

 ぼくたちはウソはついていないのだけど、タツマキにのまれて過去に飛ばされただなんて、みんな、信じてくれるだろうか? 当のぼくたちでさえ信じられなかったことだし、きっとさらにウソをついたと思われるだけだろう……そんな気がしてしまった。

 すると、そんなぼくたちを見て、羽村は大きな口を開けてカカカッと笑った。

「まぁ、でも。お前たちのウソのおかげでこの子犬を助けることができたんだし。ウソをついてくれて、良かったよ」

「え、ウソのおかげで子犬を?」

「どういうこと?」

 首をかしげるぼくと真緒に、飯田さんはその子犬をわたしながら教えてくれた。

「三人でとちゅうまで帰ってたらね。私、ダンボールに入れられたこの子が川に流されてるのを見つけたの。そしたら、羽村くんがこの子を助けてくれて……川野さんが、家で飼ってくれるって言ってくれたの」

「まぁ……家で犬を飼えるのって、私くらいだからね」

 川野も照れくさそうに笑っている。

「でも、この子も。まるで、ウソをついてありがとうって言ってるみたいに、金谷と今野さんになついてるわね」

 言われてみれば、確かに……真緒にだかれたその小さな子犬は、ぼくの手をペロペロとなめてくれた。だから、『ウソつき』って言わるのはいやだったけれど、ぼくたちもちょっとだけ、幸せな気持ちになったんだ。


川野と子犬を家まで送って行った時にはもう、お空の真っ赤な夕焼けは、ほんのりとこん色に染まっていた。

「それじゃあ、川野さん。また、ワンちゃん、見に来るからね!」

「じゃあな、川野!」

 羽村と飯田さんも帰って行って……近所どうしのぼくと真緒も、家に向かった。お空のこん色は広がっていくけれど、まだオレンジ色の陽が道にさしこんでいて、ぼくたちも真っ暗になる前には帰れそうだ。

「今日は色んなことがあったけど……そんなに悪い日じゃなかったのかもな。羽村たちもきげん直ってたし、ぼくたちがタツマキにのまれたおかげで子犬も助かったみたいだし」

 ぼんやりとつぶやくと、真緒は「うん!」と返事して、ぼくのとなりを歩いた。

「本当に、どうなることかと思ったけど……やっぱり、いい日だったよ。だって、いつもはやる気のない要の、いつもとはちがう、ちょっとカッコいいところも見れたし!」

「えっ、カッコいい?」

 首をかしげるぼくに、真緒は白い歯を見せてニッと笑った。

「私がタツマキにのまれた時! 要が手をにぎって助けようとしてくれて、うれしかったよ!」

 そう言って、真緒は少しほっぺたを桃色に染めて……そんな、いつもは見せない表情を見せる真緒に、ぼくはドキッとしてしまった。

知らなかった。こいつのはにかんだ笑顔って、こんなにかわいかったんだ。

 そんな笑顔を見ることができたその日は、やっぱりいい日だったのかも……ぼくもひそかに、そう思ったのだった。
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