タツマキにのまれて……

いっき

文字の大きさ
上 下
5 / 6

しおりを挟む
 川野が走り去ってしばらくは、何だかとってもつかれて、ぼくと真緒はボーッとしていた。だって、思い返してみると、今日の放課後は色々とありすぎた。ぼくたち二人のドッペルゲンガーを見て、空き地で何だかよく分からないままにクラスメイトの三人とケンカした。そして、クラスメイトたちが帰った後、タツマキにのまれて……どういうわけか無事だったぼくたちは、心配になって、大急ぎで三人に会いに行った。

 ……って、あれ? 何だか、グルグル、グルグル……頭の中がまるでタツマキにのまれているかのように、ぼくたちは混乱していたのだけれど。

「……ねぇ、何だか、おかしくない?」

 ぼそっとつぶやいた真緒の言葉に、ぼくはうなずいた。

「うん……ぼくも今そう、思ってた」

「だって、あの三人とケンカした時、私たちがタツマキにのまれたって聞いたとか、みんな言ってたわよね」

「そうだよな。本当にぼくたち、タツマキにのまれたんだから、ウソつきなんかじゃないよな?」

「でも、タツマキにのまれたのって、三人が帰ってからじゃん?」

「じゃあ、三人が空き地にいる時には、ぼくと真緒、まだタツマキにのまれてなかったし……やっぱりウソつきじゃん」

「いや、でも。学校が終わってからは、空き地で初めてあの三人に会ったんだし……ウソもつきようがないじゃない」

 ぼくと真緒の言い合いは、まるでタツマキのようにグルグル、グルグルと回るばかりで、頭の中もグルグル、グルグル……ただ、ひたすらに混乱していた。

「あー、もう!」

「頭、おかしくなりそうだわ……」

 二人して、頭をかかえこもうとした時……聞きなれた大声がひびいた。

「こら、お前たち! まだ、帰ってなかったのか!」

 ぼくたちの背後で、塚田先生がうでを組んで立っていたのだ。

「先生~!」

「何か、おかしいんです。教えて下さい!」

 ぼくたちが泣きつくと、先生は目を丸くした。

「何だ、何だ? 何がおかしいんだ?」

 ぼくと真緒が今日の放課後の出来事を説明すると、先生はこくこくとうなずきながら聞いてくれた。



 全てを聞き終わった塚田先生は、ぼくたちもびっくりするようなことを言い出した。

「それは、もしかして……お前たち、タツマキにのまれて過去に飛ばされたんじゃないのか?」

その言葉に、今度はぼくたちの目が丸くなった。

「先生、何を言ってんの? そんな非科学的なことを……」

「そうですよ。仮にも先生でしょ?」

 代わる代わる言うぼくたちに、先生はまるで子供のようにムキになった。

「だって、しょうがないだろ。そうでないと、説明がつかないんだから。それに、もしタツマキにのまれて過去に飛ばされたとしたら……今日のふしぎな出来事、全部が納得できるだろ?」

「あっ……」

「言われてみたら、確かに……」

 ぼくと真緒は、顔を見合わせてよく考えた。もし、タツマキにのまれて過去に飛ばされたなら。ぼくと真緒が見た、空き地から出て来たぼくたちは、過去にもどったぼくたちということだ。それなら、ぼくたちはクラスメイト三人に会ってタツマキにのまれた話もしたし、三人が空き地に集まった時、過去にもどる前のぼくたちもそこへ行って……三人からその話を聞いたことも納得できる。

「でも……」

「そんなこと、信じられない」

 首をかしげるぼくと真緒に、先生はふふんと得意そうに笑った。

「この世界ではな。たま~に、信じられない……科学では説明できないことが起きるものだ。今日、起こったことも、本当にありえないことだけどな……もし、そのタツマキが光より速く回っていたとしたら、お前らを過去にとばすなんてこともできるかも知れない」

「えっ!」

「光より速いと、過去にとばせるんですか?」

 目を丸くするぼくたちに、先生はニッと白い歯を見せた。

「あぁ、それは科学の世界でも言われている。だから、もし光より速い乗り物ができたとしたら、それはタイムマシンということになるんだ」

「すごい……」

 学校の授業をたいくつに感じていたぼくは、塚田先生の子供っぽい笑顔が苦手だったけれど……その時は、キラキラとかがやく先生の笑顔が、何だかとても好きになった。

 そんなぼくを見て、先生はにっこりとほほえんだ。

「金谷。お前、いつも授業中、つまんなさそうにしてるけどな……勉強ってのも、知れば知るほどに楽しいぞ。今日はまぁ、より道したのはよくないが、これをきっかけにして、明日からはちゃんと授業も聞くんだぞ」

 科学的なのか、そうじゃないのか分からない塚田先生は、そんな風にうまくまとめて。「今度こそ、まっすぐに帰るんだぞ」とだけ言って去って行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おっちょこちょいのサンタさん

いっき
児童書・童話
十二月二十六日。 サンタ村の平サンタ、クロスはサンタ長から大目玉を喰らっていた。

ティラノサウルスの兄だいジンゴとツノ

モモンとパパン
児童書・童話
ティラノサウルスのお兄ちゃんのジンゴと弟のツノは、食事を済ませると 近くの広場へ遊びに行きました。 兄だいで、どちらが勝つのか競争をしました。勝ったのはどちらでしょうか? そこへ、トリケラトプスの群れがやって来ました。

マサオの三輪車

よん
児童書・童話
Angel meets Boy. ゾゾとマサオと……もう一人の物語。

へっぽこ勇者は伝説をつくる

あさの紅茶
児童書・童話
マリエット(13)職業:勇者。 へっぽこすぎて行き倒れていたところ、ママに助けられた。 美味しいナポリタンをごちそうになり、お金の代わりにお店のお手伝いをすることに。 ここでまさか私の人生を変える出来事があるなんて……。 ***** このお話は他のサイトにも掲載しています

ぼくらのトン太郎

いっき
児童書・童話
「ペット、何を飼ってる?」 友達からそう聞かれたら、ぼくは『太郎』って答える。 本当は『トン太郎』って名前なんだけど……そう答えた方が、みんなはぼくの家に来てからびっくりするんだ。

【完結】豆狸の宿

砂月ちゃん
児童書・童話
皆さんは【豆狸】という狸の妖怪を知っていますか? これはある地方に伝わる、ちょっと変わった【豆狸】の昔話を元にしたものです。 一応、完結しました。 偶に【おまけの話】を入れる予定です。 本当は【豆狸】と書いて、【まめだ】と読みます。 姉妹作【ウチで雇ってるバイトがタヌキって、誰か信じる?】の連載始めました。 宜しくお願いします❗️

ひきこもり妖精と旅人アリ

みず
児童書・童話
家に閉じこもってしまった妖精エトが、世界中を旅してきたアリさんのお話を聞いて勇気をもらう物語です。

おなら、おもっきり出したいよね

魚口ホワホワ
児童書・童話
 ぼくの名前は、出男(でるお)、おじいちゃんが、世界に出て行く男になるようにと、つけられたみたい。  でも、ぼくの場合は、違うもの出ちゃうのさ、それは『おなら』すぐしたくなっちゃんだ。  そんなある日、『おならの妖精ププ』に出会い、おならの意味や大切さを教えてもらったのさ。  やっぱり、おならは、おもっきり出したいよね。

処理中です...