タツマキにのまれて……

いっき

文字の大きさ
上 下
2 / 6

しおりを挟む
 学校からの帰り道。まだしずむ気配のない太陽は、半そでのぼくのうでをジリジリと焼いてくる。前では羽村たちがまた、バカみたいにふざけ合ってゲラゲラと笑っているけれど、それにはまざらずにただ、ぼんやりとアスファルトを歩いていた。

「おーい、要。あんた、またやる気なく、まどの外なんてながめてたの?」

 急にかたをポンとたたかれ、顔をしかめながらふりかえる。すると、真緒の白い歯を見せたキラキラとした笑顔が目に入った。

「別に……関係ないじゃん」

 ぼくはそう言って、ツイツイと歩く。

「あー! 何、その態度? 保育園のころからの友達に向かって」

 真緒はそんなことを言って、早歩きでぼくの後を追いかけてきた。

 そう。こいつ、真緒とは保育園のころからの付き合いだ。だから、昔のぼく……五さいまでおねしょをしていたこととか、運動会で転んで泣いたこととかも知っている、めんどうなやつなんだ。

「あー、もう! めんどうくさい!」

 そう言おうとしたけれど、思わずその言葉を飲みこんだ。だって、ぼくたちの前にはまるで信じられない光景があったから。

「うそ……あれって、ぼくと真緒?」

「えっ?」

 ぼくの指さす方を見て……真緒も大きく、目を見開いた。

 それはいつも、みんなで集まったり遊んでいる空き地。そこから、ぼくと真緒が出てきて、ぼくたちとは反対の方向に走って行ったんだ。

「うそ……どうして? そんなはず……」

「追いかけてみよう」

「うん!」

 自分の目が信じられなかったけれど、いっしょにいた真緒が見たのも、ここにいるはずのぼくと真緒。だから、ぼくたちはその二人がだれなのか、追いかけて行って確かめようと思った。

「くっ……あいつら、何て速いんだ」

「ま、まるで、私たちが全力で走っているみたい」

「そ、そりゃそうだよ。あれはぼくたちなんだから」

「な、何をバカなこと言ってるの。そんなワケ、ないじゃない……」

 息を切らしながらそんなことを話して走っていた時だった。ぼくたちの後ろから、大きなその声がひびいた。

「こぉら、お前たち! 何をより道してるんだ!」

 びくりとして立ち止まる。その声の主は、塚田先生だったのだ。

「先生……!」

「下校ではより道はしない。遊びに行くのはまっすぐに帰ってからにしろ、とあれほどいつも言っているだろ!」

「それどころじゃないよ。だって、ぼくと真緒が向こうへ走って行ったんだ」

「何……金谷と今野が? 何を言っているんだ? お前たちは今、ここにいるだろう」

「いや、それがちがうんです……」

 ぼくと真緒は、さっき見たこと、あったことをそのまま説明した。すると、先生はむずかしい顔をした。

「それじゃあ、お前たち……ドッペルゲンガーに会ったのか?」

「ド……ドッペル?」

「何ですか、それ?」

 ぼくと真緒の声が重なった。すると先生は、まじめな顔でこくりとうなずく。

「ドッペルゲンガーとはな、自分自身の姿を自分で見ることだ。そう……自分のたましい。まぁ、分身のようなものだな」

「た……たましい?」

「うそでしょ? そんな……」

 たましいって、ゆうれいってこと?

 そんな……ぼくと真緒がゆうれいになってぼくたちの前に出てくるだなんて、考えられなかった。こわばった顔を見合わせるぼくと真緒を見て、先生は思わずふき出した。

「まぁ、そんなことは迷信だ、迷信。きっと、二人によくにた子供と見まちがえたんだろう」

「いや、そんなことはないよ。あれは確かに、ぼくと真緒で……」

「そうよ、先生。まちがいなかったわ」

 二人して抗議したけれど、先生はやはり信じない様子で首を横にふった。

「そんなこと、ありえないよ。ぼくは先生だけど、科学的に考えて絶対に。まぁ、お前たち……遊びすぎでつかれてるんだ、二人とも。だから、より道はせずにまっすぐ、帰るんだぞ!」

 ぼくたちをこわがらせるだけこわがらせた無責任な塚田先生は、笑いながら手をふり去って行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おっちょこちょいのサンタさん

いっき
児童書・童話
十二月二十六日。 サンタ村の平サンタ、クロスはサンタ長から大目玉を喰らっていた。

ティラノサウルスの兄だいジンゴとツノ

モモンとパパン
児童書・童話
ティラノサウルスのお兄ちゃんのジンゴと弟のツノは、食事を済ませると 近くの広場へ遊びに行きました。 兄だいで、どちらが勝つのか競争をしました。勝ったのはどちらでしょうか? そこへ、トリケラトプスの群れがやって来ました。

マサオの三輪車

よん
児童書・童話
Angel meets Boy. ゾゾとマサオと……もう一人の物語。

へっぽこ勇者は伝説をつくる

あさの紅茶
児童書・童話
マリエット(13)職業:勇者。 へっぽこすぎて行き倒れていたところ、ママに助けられた。 美味しいナポリタンをごちそうになり、お金の代わりにお店のお手伝いをすることに。 ここでまさか私の人生を変える出来事があるなんて……。 ***** このお話は他のサイトにも掲載しています

ぼくらのトン太郎

いっき
児童書・童話
「ペット、何を飼ってる?」 友達からそう聞かれたら、ぼくは『太郎』って答える。 本当は『トン太郎』って名前なんだけど……そう答えた方が、みんなはぼくの家に来てからびっくりするんだ。

【完結】豆狸の宿

砂月ちゃん
児童書・童話
皆さんは【豆狸】という狸の妖怪を知っていますか? これはある地方に伝わる、ちょっと変わった【豆狸】の昔話を元にしたものです。 一応、完結しました。 偶に【おまけの話】を入れる予定です。 本当は【豆狸】と書いて、【まめだ】と読みます。 姉妹作【ウチで雇ってるバイトがタヌキって、誰か信じる?】の連載始めました。 宜しくお願いします❗️

ひきこもり妖精と旅人アリ

みず
児童書・童話
家に閉じこもってしまった妖精エトが、世界中を旅してきたアリさんのお話を聞いて勇気をもらう物語です。

おなら、おもっきり出したいよね

魚口ホワホワ
児童書・童話
 ぼくの名前は、出男(でるお)、おじいちゃんが、世界に出て行く男になるようにと、つけられたみたい。  でも、ぼくの場合は、違うもの出ちゃうのさ、それは『おなら』すぐしたくなっちゃんだ。  そんなある日、『おならの妖精ププ』に出会い、おならの意味や大切さを教えてもらったのさ。  やっぱり、おならは、おもっきり出したいよね。

処理中です...