タツマキにのまれて……

いっき

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 学校からの帰り道。まだしずむ気配のない太陽は、半そでのぼくのうでをジリジリと焼いてくる。前では羽村たちがまた、バカみたいにふざけ合ってゲラゲラと笑っているけれど、それにはまざらずにただ、ぼんやりとアスファルトを歩いていた。

「おーい、要。あんた、またやる気なく、まどの外なんてながめてたの?」

 急にかたをポンとたたかれ、顔をしかめながらふりかえる。すると、真緒の白い歯を見せたキラキラとした笑顔が目に入った。

「別に……関係ないじゃん」

 ぼくはそう言って、ツイツイと歩く。

「あー! 何、その態度? 保育園のころからの友達に向かって」

 真緒はそんなことを言って、早歩きでぼくの後を追いかけてきた。

 そう。こいつ、真緒とは保育園のころからの付き合いだ。だから、昔のぼく……五さいまでおねしょをしていたこととか、運動会で転んで泣いたこととかも知っている、めんどうなやつなんだ。

「あー、もう! めんどうくさい!」

 そう言おうとしたけれど、思わずその言葉を飲みこんだ。だって、ぼくたちの前にはまるで信じられない光景があったから。

「うそ……あれって、ぼくと真緒?」

「えっ?」

 ぼくの指さす方を見て……真緒も大きく、目を見開いた。

 それはいつも、みんなで集まったり遊んでいる空き地。そこから、ぼくと真緒が出てきて、ぼくたちとは反対の方向に走って行ったんだ。

「うそ……どうして? そんなはず……」

「追いかけてみよう」

「うん!」

 自分の目が信じられなかったけれど、いっしょにいた真緒が見たのも、ここにいるはずのぼくと真緒。だから、ぼくたちはその二人がだれなのか、追いかけて行って確かめようと思った。

「くっ……あいつら、何て速いんだ」

「ま、まるで、私たちが全力で走っているみたい」

「そ、そりゃそうだよ。あれはぼくたちなんだから」

「な、何をバカなこと言ってるの。そんなワケ、ないじゃない……」

 息を切らしながらそんなことを話して走っていた時だった。ぼくたちの後ろから、大きなその声がひびいた。

「こぉら、お前たち! 何をより道してるんだ!」

 びくりとして立ち止まる。その声の主は、塚田先生だったのだ。

「先生……!」

「下校ではより道はしない。遊びに行くのはまっすぐに帰ってからにしろ、とあれほどいつも言っているだろ!」

「それどころじゃないよ。だって、ぼくと真緒が向こうへ走って行ったんだ」

「何……金谷と今野が? 何を言っているんだ? お前たちは今、ここにいるだろう」

「いや、それがちがうんです……」

 ぼくと真緒は、さっき見たこと、あったことをそのまま説明した。すると、先生はむずかしい顔をした。

「それじゃあ、お前たち……ドッペルゲンガーに会ったのか?」

「ド……ドッペル?」

「何ですか、それ?」

 ぼくと真緒の声が重なった。すると先生は、まじめな顔でこくりとうなずく。

「ドッペルゲンガーとはな、自分自身の姿を自分で見ることだ。そう……自分のたましい。まぁ、分身のようなものだな」

「た……たましい?」

「うそでしょ? そんな……」

 たましいって、ゆうれいってこと?

 そんな……ぼくと真緒がゆうれいになってぼくたちの前に出てくるだなんて、考えられなかった。こわばった顔を見合わせるぼくと真緒を見て、先生は思わずふき出した。

「まぁ、そんなことは迷信だ、迷信。きっと、二人によくにた子供と見まちがえたんだろう」

「いや、そんなことはないよ。あれは確かに、ぼくと真緒で……」

「そうよ、先生。まちがいなかったわ」

 二人して抗議したけれど、先生はやはり信じない様子で首を横にふった。

「そんなこと、ありえないよ。ぼくは先生だけど、科学的に考えて絶対に。まぁ、お前たち……遊びすぎでつかれてるんだ、二人とも。だから、より道はせずにまっすぐ、帰るんだぞ!」

 ぼくたちをこわがらせるだけこわがらせた無責任な塚田先生は、笑いながら手をふり去って行った。
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