つくりもののお花

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 はちうえに、ただの一りんだけさいているピンク色のお花。そのお花を見て、王さまはまた大きなため息をつきました。

 世界で一番大事な王女さまがお花になってから、どのくらいの日がたったでしょう。王さまのお顔はとっても悲しく苦しそうで、見ているのもつらくなるほどでした。

「王さま!」

 家来が来ても、王さまはまだぼんやりとしていました。

「小さな娘をとらえました。何やら、王女さまのお花を見せろと言っています」

「なに?」

 その言葉に、王さまははっとわれに返りました。

 王女さまがお花になっていること。それは、王さましか知らないはずでした。それを、どこかの娘が知っているなんて……。

「その娘、こちらへ通せ」

 王さまはむずかしい顔をして言いました。

「そなた、名前は何と言う?」

 王さまはけわしい顔でたずねました。ルイはそんな王さまをまっすぐに見つめます。

「わたしはルイと言います」

「そうか、ルイ。そなたはどうして、王女がお花になったことを知っておるのだ?」

「はい。それは、キャロルが教えてくれたからです」

「なに!」

 王さまはおどろきました。なぜって、キャロル……それはまさに、王女さまの名前だったからです。

「うそを言うな。キャロルはもう、いないのだ。キャロルは、キャロルは……」

 王さまは悲しみのあまり、顔をゆがめました。しかし……

「うそではありません!」

 ルイはしっかり、はっきりと言いました。そして、王さまに話しはじめました。

 本に書いてあるお花にあこがれて、つくりもののお花を作ったこと。そのお花にようせいのマリーが来てくれたこと。でも、それは本物のお花ではないのでマリーは日に日に弱っていること。だから本物のお花を探していたらキャロルに会って、王さまのことを聞いたこと。

 王さまはルイのお話を聞いて、びっくりすると同時にキャロルのことを思い出していました。

 キャロルもルイのように、しっかり、はっきりと話す女の子でした。そして、やさしくて、勇気もあって、何よりお花が大好きで。

 お城をぬけ出してお花畑にいた時も、お花のようせい達に囲まれて幸せそうに笑っていたのでした。

「……だから、マリーが王女さまのお友達になるの。王さま、お願いします。マリーと王女さまのお花を会わせてあげてください」

 ルイはいっしょうけんめいにお願いしました。そんなルイを見て、王さまは考えました。

 王さまはそれまで、キャロルのことで頭がいっぱいでした。あぶない目にあわないか心配で心配で、外に出さずにお城にとじこめました。お花になってしまってからは、キャロルを守るために国からお花をなくしてしまいましたし、人びとがお花についてお話をすることさえも禁止しました。

 しかし、それが国のためになったのでしょうか。

 色とりどりのきれいなお花があったら、それだけで国も人びとの顔も明るくなる。それに、王さまとしてはキャロルのことだけでなく、国のみんなのことを考えなければならない。

 王さまもそのことは分かっているはずでした。しかし、キャロルのことを大切に思うあまり、一番大事なことを忘れてしまっていたのでした。

 そのことを今、キャロルと同じくお花が大好きな普通の女の子……ルイに教えてもらったのでした。

「すまない。私がまちがっていたよ」

王さまは目をとじて、今までで一番大きなため息をつきました。

「キャロルのことを大切に思うあまり、一人きりにしてさびしい想いをさせた。それだけでない。キャロルが花になってしまってからは、国から花をうばってみなにさびしい想いをさせた。私こそ、一番に国のみなのことを考えなければならないのに……」

 そして目をあけて、まっすぐにルイを見つめました。

「ルイ、ありがとう。そなたのおかげで大切なことを思い出したよ。だから……どうか、キャロルにマリーを会わせてやってくれ」

「えっ、本当に……」

「ああ」

ひとみをかがやかせるルイに王さまはうなずき、そっと席をはずしました。

 そして、王さまがキャロルの……『本当の』お花をルイの前に出すと、まわりの空気はまるでキラキラと星をちりばめたかのようにかがやきました。

「わぁ……すごい。きれい……」

 キャロルのピンクのお花……そのあまりのきれいさに、ルイの目にはジーンとなみだがこみ上げました。そして、ポーチの中から出てきたマリーも、その小さな目をキラキラとかがやかせて、ゆっくりとお花に近づいていきました。

 マリーはそっとお花にふれました。そして……

「キャロル……」

 小さな口は、思わずそっとその名前をささやきました。その時です。

とつぜんにお花が光に包まれて……その光はどんどんと大きくなりました。そして、部屋中がまぶしい光でみちあふれて、みんなは思わず目をつぶりました。

 どれくらいの時間がたったでしょう。王さまとルイがおそるおそる目をあけると……

「キャロル!」

 なんと、そこにはキャロルが立っていたのです。

「キャロル、どうして?」

「あの、いまわしい魔法がとけたのか?」

王さまがたずねると、キャロルはとってもうれしそうにほほえみました。

「ええ、お父さま。あの魔女と魔法はきっと、私の悪い心が生み出したのよ」

「悪い心?」

「ええ」

キャロルはうなずきました。

「自由にしてもらえなくって……お部屋にとじこめられて。お父さまが私のことを大事に思って下さっているって分かっていたけれど、私、とっても悲しくてつらかった。お父さまのことをにくんでしまっていたの。だから、きっと、私のそんな心があの魔女を生み出して……私をお花に変えて、お父さまを苦しませていたのよ。でも、ルイのやさしさと勇気にふれて。お父さまが一番大事なことを思い出したからきっと……私、元にもどれたのよ」

「そうか、キャロル……。本当に、すまなかった。私の愛情はまちがっていたのだな。お前のことを苦しませて、悲しませてしまっていた。これからは、国のみんなを大事にするし、もちろん、お前のことも……」

そう言ってなみだをにじませる王さまは、キャロルのお父さまであり、ヤルトの人々のことを一番に考えている……そう。一番、大事なことを思い出した国王だったのでした。

「そして、ルイ」

 キャロルはルイの方をふり向いて、にっこりと笑いました。

「ありがとう。私とお父さまをすくってくれて」

「キャロル……本当に、あのキャロルなのね。どうして……?」

 とてもふしぎに思ったルイがたずねると、キャロルは目を閉じて首をふりました。

「どうしてさっき、あなたに会ってお話ができたのか……私も分からないわ。でもね、あなたの持っている愛とやさしさ、勇気。きっとそれが、私をあなたの元によんでくれたのよ」

「キャロル……うれしい。あのね、キャロル。キャロルは王女さまで、とってもすごい人だってことは分かっている。だけど、私……」

 口ごもるルイに、キャロルはクスッと笑いました。

「ええ、もちろん! ルイ、お友達になりましょう!」

 キャロルの言葉に、ルイはまるで星がまたたいているかのようにひとみをかがやかせました。そして、ずっとお城にいたキャロルにとってもお友達ができるのははじめてで、とてもうれしことでした。

 そんな二人を、王さまとマリーは幸せそうに見つめていたのでした。
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