つくりもののお花

いっき

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 ヤルトは赤いレンガのお家がたちならぶ、小さな国です。ヤルトでは、お花を育ててはいけないことになっていました。王さまが、お花を植えることを禁止していたのです。ヤルトでは王さまの言うことは絶対で、逆らったらろうやに閉じこめられてしまいます。だから、みんなは王さまの言うとおりにして、国にはお花が一つもありませんでした。

 ヤルトの町なかに住んでいる、一人の女の子がいました。名前はルイといいます。

 ルイは本が大好きで、毎日、色んな本を読んでいました。冒険のお話、昔々のお話、そして、ちがう国のお話……。

 そんなある日のことです。本に書いてあった、一つの言葉がルイの目にとまりました。

「お花……」

 それは、ルイは知らないものでした。なぜなら、ヤルトでは植えることを禁止されていたからです。ヤルト以外の国に行ったことのないルイが、見たことも聞いたこともないのは当たり前のことでした。

「ねぇ、お母さん。お花って、なぁに?」

 ルイがたずねたとたん、お母さんの顔は青ざめました。

「ルイ、その言葉はぜったいに言ってはいけません!」

「えっ、どうして?」

「ろうやに入れられてしまうし……お母さんにもお父さんにも会えなくなるのよ」

 そう話すお母さんはとても悲しそうで、目にはなみだがあふれていました。そんなお母さんを見たルイは、もう何も言えなくなったのでした。

 しかし、ルイは日に日にお花というものが気になって、たまらなくなりました。

 ひらひらとした『花びら』というものがあって、いいにおいがして、赤、白、青……たくさんの色のものがあって、すごくきれいだというお花。一体、どんなだろう。

 見てみたくて、さわってみたくてたまらなくって。ルイは本に書いてあるとおりに、お花をつくってみることにしました。

 ピンク色の紙を切ってヒラヒラと重ねて、緑色のくきと葉っぱを作って……小さなかわいらしい、つくりもののお花ができあがりました。

「お花って、こんななのかな。すごくかわいいなぁ」

 ルイはつくったお花をうっとりとながめました。

「こんなにかわいいお花にかこまれたら、とっても楽しいだろうなぁ」

 ルイがそんなことを考えて、楽しい気分になっていた時でした。

 ヒラヒラとしたきれいな羽をもつ何かが、ふわりとそのお花にとまりました。

「あれ、何だろう?」

 にじ色をしているけれどもとうめいで、チョウチョみたいでとってもきれいな羽でした。だけれども、それはチョウチョではありませんでした。

「ようせいさん?」

それはまた、本の中でしか会ったことがありませんでした。とっても小さくて、かわいいかわいい女の子。それがまさに、今、ルイの目の前にいたのです。

 そのようせいさんはルイと目が合うと、びっくりして花びらのかげにかくれました。

 だからルイは、あわてて言いました。

「こわがらないで。出ておいで」

 すると、ようせいさんはおそるおそる、花びらのかげから顔を出しました。

「私はルイ。あなたは?」

 ルイがにっこりとほほえむと、ようせいさんも安心して笑顔になりました。

「私はお花のようせい、マリーよ」

 マリーはチョウチョのような羽をつけて小さかったですが、よく見るとまつげが長くて目が青く、黄色いドレスを着ていてとてもかわいい女の子でした。ルイはうれしくなりました。

「お花にはようせいさんが来てくれるんだぁ。うれしい」

 ルイはマリーと、いろいろなお話をしました。本で読んだ物語のお話、お父さんとお母さんのお話、ヤルトの町のお話。

 マリーははじめて聞くことばかりみたいで、目をかがやかせて聞いていました。

 ルイもそんなマリーの様子がうれしくて、毎日、ワクワクしながらマリーにお話しました。そんなルイとマリーは、すぐにとても仲のよいお友達になったのでした。
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