人混みの中の『僕』

いっき

文字の大きさ
上 下
3 / 3

しおりを挟む
僕は大急ぎであの場所へ戻った。

「一体、何が……」

未だ、血まみれの自分を見たショックから抜け出せずに、僕の胸では心臓がドックン、ドックンと暴れていた。
だけれども、それよりも……彼が、何を伝えようとしていたのか。それが気になって仕方がなかった。



「えっ……」

僕は思わず、凍りついた。

救急車のサイレンが鳴り響くそこには、さらに多くの人混みができていて。電柱に激突した車が生々しくへしゃげていた。

救急隊員は、幾人もの血まみれの怪我人を担架に乗せて運び込んでいた。


「うわぁ……悲惨」

「運転手はおじいさんだって。アクセルとブレーキ、踏み間違えたんかな」

「それにしても、危なかった。あと数秒早ければ、俺も……」

人混みからそんな言葉が飛び交い、大きな騒つきとなっていた。

僕はその中を呆然と立ち尽くしていた。


その時だった。

「あのまま、あっちに行っていたら……」

その言葉に振り返るとそこには、血まみれの『僕』が立っていた。

「どうして……君は……」

声にならない声を出す僕に、にっこりと微笑んで……その『僕』は、そのまますぅっと消えていった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

【一話完結】3分で読める背筋の凍る怖い話

冬一こもる
ホラー
本当に怖いのはありそうな恐怖。日常に潜むあり得る恐怖。 読者の日常に不安の種を植え付けます。 きっといつか不安の花は開く。

意味が分からないと怖い百物語

悪夢
ホラー
1話20秒で読めるような話を投稿していきます、解説、ヒント付きです

Dark Night Princess

べるんご
ホラー
古より、闇の隣人は常に在る かつての神話、現代の都市伝説、彼らは時に人々へ牙をむき、時には人々によって滅ぶ 突如現れた怪異、鬼によって瀕死の重傷を負わされた少女は、ふらりと現れた美しい吸血鬼によって救われた末に、治癒不能な傷の苦しみから解放され、同じ吸血鬼として蘇生する ヒトであったころの繋がりを全て失い、怪異の世界で生きることとなった少女は、その未知の世界に何を見るのか 現代を舞台に繰り広げられる、吸血鬼や人狼を始めとする、古今東西様々な怪異と人間の恐ろしく、血生臭くも美しい物語 ホラー大賞エントリー作品です

本当にあった怖い話

邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。 完結としますが、体験談が追加され次第更新します。 LINEオプチャにて、体験談募集中✨ あなたの体験談、投稿してみませんか? 投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。 【邪神白猫】で検索してみてね🐱 ↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください) https://youtube.com/@yuachanRio ※登場する施設名や人物名などは全て架空です。

村井 彰
ホラー
夢を、見るんです。 夢の中で、私は、誰もいないショッピングモールを歩いていました。

怪異語り 〜世にも奇妙で怖い話〜

ズマ@怪異語り
ホラー
五分で読める、1話完結のホラー短編・怪談集! 信じようと信じまいと、誰かがどこかで体験した怪異。

怪奇蒐集帳(短編集)

naomikoryo
ホラー
【★◆毎朝6時30分更新◆★】この世には、知ってはいけない話がある。  怪談、都市伝説、語り継がれる呪い——  どれもがただの作り話かもしれない。  だが、それでも時々、**「本物」**が紛れ込むことがある。  本書は、そんな“見つけてしまった”怪異を集めた一冊である。  最後のページを閉じるとき、あなたは“何か”に気づくことになるだろう——。

アヤカシバナシ『小説版』

如月 睦月
ホラー
恐怖・不条理・理不尽…もしかするとそれは、アヤカシの仕業かもしれません。漫画『アヤカシバナシ』の小説版:怪談奇談短編集

処理中です...