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四. 千沙ちゃんの将来の夢
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二学期最初の学校からの帰り道。千沙ちゃんは、ほっぺを桃色にそめながら言った。
「とうとう、二人とも、椋 鳩十の物語を全部読んだね」
「うん」
何だか、もじもじしている千沙ちゃん。僕は、そんな千沙ちゃんをじっと見つめてうなずいた。
「約束の……私の夢を言うね。笑ったりしないでね」
「もちろん。笑ったりなんかしないよ」
何だろう?
すごくワクワクした。
「私……将来、椋鳩十のように小さい子供をわくわくさせたり、感動させたりできる物語が書きたい。すごくむずかしいことだと思うんだけど……お話を全部読んで、やっぱり、こんなお話が書きたいって思ったの」
僕は、その夢を聞いてはっとした。そして思わず、ランリュックからノートを取り出した。
そう。僕だけの物語が十作書いてある、ヒミツのノート。
いつも持って歩いていたんだ。
「亮太くん?」
長いまつげをパチクリしてふしぎそうな顔になった千沙ちゃんに言った。
「実は、僕も物語が書きたくて、このノートに書いていたんだ。椋鳩十にくらべたら全然面白くないかも知れないけど、もしよかったら……読んでみてくれる?」
千沙ちゃんは目をまるくした。でも、すきとおった瞳にお星さまがまたたいた。
「ありがとう、読んでみるわ。すっごく楽しみ」
キラキラした笑顔でノートを受けとってくれた。
僕は、家に帰ってからずっとドキドキしていた。
あのノートに書いている物語は、今まで誰も読んでいない、僕だけの物語だった。それを読んでもらっている。そう思っただけで、体の中がかゆくなって、じっとしていられなかった。
それに、何だか心配になってきた。僕の物語、おもしろいんだろうか。最初のお話は、ちいさなオコジョのぼうけんのお話。
明日、おもしろくないと言われたら……いや、それよりも何も言われなかったらどうしよう……。
次の日、学校へ行くまでずっとドキドキハラハラしていた。
授業が始まる前の朝。千沙ちゃんは、寝ぶそくの僕にまぶしい笑顔で言ってくれた。
「亮太くんの物語、おもしろい!オコジョのポン太が最後にお母さんと会えたところ、すごく感動した」
僕は目にじわっと涙がこみあげるほどにうれしかった。
千沙ちゃんは、僕の物語の主人公……ポン太になりきって読んでくれた。そしておもしろいと言ってくれた言葉がすっと心にしみこんだ。
その日から、千沙ちゃんは一つずつ僕の書いた物語の感想を言ってくれた。
イソギンチャクとヤドカリがウツボに飲みこまれてハラハラしたこと。
男の子のために歌い続けたカッコウのやさしさに涙が出たこと。
ナマズ大王との約束を忘れることなく、自然を大切にすることが何より大切だと思ったこと。
そんな言葉を聞いて、僕は物語を書いて本当によかったと思った。
もうすぐ十作を読み終わりそうになった時。千沙ちゃんは、ほっぺを桃色にそめて僕に聞いた。
「ねぇ、亮太くんは……どうやって、あんなにおもしろいお話を書いているの?」
どうやって……。千沙ちゃんに言えるほどの、かっこいい言葉は思いつかない。だから、僕はそのままのこと……僕が物語を書く時のそのままのことを言った。
「どうやって、とかはあまり考えたことがないんだけど。書きたくなって書いていたら、お話の中の動物たちとか、子供たちがそれぞれ、笑ったり、泣いたり、怒ったり。そうして、書いているうちに、僕もその物語の中でぼうけんしたり、走り回ったりしているんだ」
そこまで言って、千沙ちゃんの方を見る。
「……と言っても、分かりにくいよね」
でも、千沙ちゃんはかがやく瞳を僕の目とあわせた。
「いいえ、分かる。分かるわ」
そして僕と目があうと、真っ赤になってうつむいた。
「分かる……ような気がする」
僕はそんな千沙ちゃんを見て、すっごくかわいいと思った。
「とうとう、二人とも、椋 鳩十の物語を全部読んだね」
「うん」
何だか、もじもじしている千沙ちゃん。僕は、そんな千沙ちゃんをじっと見つめてうなずいた。
「約束の……私の夢を言うね。笑ったりしないでね」
「もちろん。笑ったりなんかしないよ」
何だろう?
すごくワクワクした。
「私……将来、椋鳩十のように小さい子供をわくわくさせたり、感動させたりできる物語が書きたい。すごくむずかしいことだと思うんだけど……お話を全部読んで、やっぱり、こんなお話が書きたいって思ったの」
僕は、その夢を聞いてはっとした。そして思わず、ランリュックからノートを取り出した。
そう。僕だけの物語が十作書いてある、ヒミツのノート。
いつも持って歩いていたんだ。
「亮太くん?」
長いまつげをパチクリしてふしぎそうな顔になった千沙ちゃんに言った。
「実は、僕も物語が書きたくて、このノートに書いていたんだ。椋鳩十にくらべたら全然面白くないかも知れないけど、もしよかったら……読んでみてくれる?」
千沙ちゃんは目をまるくした。でも、すきとおった瞳にお星さまがまたたいた。
「ありがとう、読んでみるわ。すっごく楽しみ」
キラキラした笑顔でノートを受けとってくれた。
僕は、家に帰ってからずっとドキドキしていた。
あのノートに書いている物語は、今まで誰も読んでいない、僕だけの物語だった。それを読んでもらっている。そう思っただけで、体の中がかゆくなって、じっとしていられなかった。
それに、何だか心配になってきた。僕の物語、おもしろいんだろうか。最初のお話は、ちいさなオコジョのぼうけんのお話。
明日、おもしろくないと言われたら……いや、それよりも何も言われなかったらどうしよう……。
次の日、学校へ行くまでずっとドキドキハラハラしていた。
授業が始まる前の朝。千沙ちゃんは、寝ぶそくの僕にまぶしい笑顔で言ってくれた。
「亮太くんの物語、おもしろい!オコジョのポン太が最後にお母さんと会えたところ、すごく感動した」
僕は目にじわっと涙がこみあげるほどにうれしかった。
千沙ちゃんは、僕の物語の主人公……ポン太になりきって読んでくれた。そしておもしろいと言ってくれた言葉がすっと心にしみこんだ。
その日から、千沙ちゃんは一つずつ僕の書いた物語の感想を言ってくれた。
イソギンチャクとヤドカリがウツボに飲みこまれてハラハラしたこと。
男の子のために歌い続けたカッコウのやさしさに涙が出たこと。
ナマズ大王との約束を忘れることなく、自然を大切にすることが何より大切だと思ったこと。
そんな言葉を聞いて、僕は物語を書いて本当によかったと思った。
もうすぐ十作を読み終わりそうになった時。千沙ちゃんは、ほっぺを桃色にそめて僕に聞いた。
「ねぇ、亮太くんは……どうやって、あんなにおもしろいお話を書いているの?」
どうやって……。千沙ちゃんに言えるほどの、かっこいい言葉は思いつかない。だから、僕はそのままのこと……僕が物語を書く時のそのままのことを言った。
「どうやって、とかはあまり考えたことがないんだけど。書きたくなって書いていたら、お話の中の動物たちとか、子供たちがそれぞれ、笑ったり、泣いたり、怒ったり。そうして、書いているうちに、僕もその物語の中でぼうけんしたり、走り回ったりしているんだ」
そこまで言って、千沙ちゃんの方を見る。
「……と言っても、分かりにくいよね」
でも、千沙ちゃんはかがやく瞳を僕の目とあわせた。
「いいえ、分かる。分かるわ」
そして僕と目があうと、真っ赤になってうつむいた。
「分かる……ような気がする」
僕はそんな千沙ちゃんを見て、すっごくかわいいと思った。
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