上 下
3 / 4

3

しおりを挟む


 次の日の学校。
 僕と目が合った美那ちゃんは、やはり赤くなった。
 僕も胸の中がドキドキと熱く鳴った。そのドキドキが聞こえないように、できる限りいつも通りに彼女の元へ行き、本を一冊渡した。

「……はい」

「これ……若草物語?」

「うん。美那ちゃん、ずっと読みたいって言ってたでしょ。」

「ありがとう!これ、ずっと読みたかったの」

 彼女はそうつとめてか、いつもと同じ反応だった。

 それからも、僕達の関係は今までとそう変わったということはなかった。

 ただ、僕の方から積極的に本を貸してあげたりしたし、目が合ったらお互いに少し赤くなるようになった……それだけだった。



 秋も終わりに近づく頃。
 一緒に帰る帰り道で、美那ちゃんは僕に顔を向けてにっこりと笑った。

「私、城命中学校を受験することにしたわ」

「えっ、そうなの?」

 城命中学校は、大学までエスカレーターで進める名門の共学校。僕の住む地域で中学受験をするコは、大抵目指している学校だ。

「ええ。奏は、どこを受験するの?」

「僕は……」

 本当の事を言おうか、少し迷った。

「立洋中学校」

 他県の、男子進学校だ。

「えっ、城命中学校じゃないの?」

「うん。僕、将来獣医さんになりたいんだ。城命中学校だったら大学までエスカレーターだけど、獣医にはなれない。立洋中学校は遠いけど、難しい大学への進学率が凄く高いんだ。だから、僕は……立洋中学校を受験する」

 僕は自分の決意を話した。

「そう……分かったわ」

 美那ちゃんは寂しそうに、澄んだ瞳を下に向けた。



 次の日。
 帰りの下駄箱で美那ちゃんは僕に黒いコスモスを渡した。

「これ……」

「私からの、プレゼント」

 美那ちゃんは、寂しそうに眉を下げて微笑んだ。

「お互い、絶対に志望校合格できるように頑張ろうね!」

 少し潤んだ瞳でそう言って走り去った。



「あんたの恋、終わったね」

 黒いコスモスを見た姉は溜息を吐いた。

「黒いコスモスはチョコレートコスモスって言うんだけど、その花言葉は、『恋の終わり』。ああもう、バカだねぇ。そのコと同じ中学校受けたらいいのに」

 終わった……僕の恋は。
 塞ぎこむ僕を、チョコレートコスモスの仄かなチョコレートの香りが包んだ。

 でも、受験前の時期に落ち込んでばかりもいられなかった。僕はそれから彼女のことを忘れるくらいにがむしゃらに勉強して、そして、志望校に合格した。
 美那ちゃんも彼女の志望校に合格した。
 実質的に僕達の関係は終わり……僕達は『別れた』んだ。
 お互い、それぞれの道を歩み出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

振られた私

詩織
恋愛
告白をして振られた。 そして再会。 毎日が気まづい。

どうしようもない幼馴染が可愛いお話

下菊みこと
恋愛
可愛いけどどうしようもない幼馴染に嫉妬され、誤解を解いたと思ったらなんだかんだでそのまま捕まるお話。 小説家になろう様でも投稿しています。

美少女幼馴染が火照って喘いでいる

サドラ
恋愛
高校生の主人公。ある日、風でも引いてそうな幼馴染の姿を見るがその後、彼女の家から変な喘ぎ声が聞こえてくるー

姉弟で入れ替わって十一年、今日も私たちは元気です

斯波
恋愛
また一人、キャサリンの美貌に陥落した。 今回、私の元にやっていたのは騎士団トップの象徴である赤マントを羽織ったアイゼン様。他の騎士達や貴族令息のように姉を紹介してほしいとやってきたのである。 顔良し、血筋よし、武力よし。 軍事力を重視するこの国では貴族の権力と並んで重要視されるのは武術であり、アイゼン様は将来性がズバ抜けている。 普通なら声をかけられて喜ぶところだけど、私達は違う。キャサリンを嫁入りなんてさせられない。 だってキャサリンは11年前に私と入れ替わった双子の弟なのだから! 顔見せもデビュタントも入れ替わったままで切り抜けたけど、いつまでも入れ替わったままではいられない。これを機に再度の入れ替えを試みるが、アイゼン様の様子がおかしくてーー

届かない手紙

白藤結
恋愛
子爵令嬢のレイチェルはある日、ユリウスという少年と出会う。彼は伯爵令息で、その後二人は婚約をして親しくなるものの――。 ※小説家になろう、カクヨムでも公開中。

ずぶ濡れで帰ったら置き手紙がありました

宵闇 月
恋愛
雨に降られてずぶ濡れで帰ったら同棲していた彼氏からの置き手紙がありーー 私の何がダメだったの? ずぶ濡れシリーズ第二弾です。 ※ 最後まで書き終えてます。

長い片思い

詩織
恋愛
大好きな上司が結婚。 もう私の想いは届かない。 だから私は…

婚約破棄を言い渡された側なのに、俺たち...やり直せないか...だと?やり直せません。残念でした〜

神々廻
恋愛
私は才色兼備と謳われ、完璧な令嬢....そう言われていた。 しかし、初恋の婚約者からは婚約破棄を言い渡される そして、数年後に貴族の通う学園で"元"婚約者と再会したら..... 「俺たち....やり直せないか?」 お前から振った癖になに言ってんの?やり直せる訳無いだろ お気に入り、感想お願いします!

処理中です...