サンタなんかじゃない

的射 梓

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初めての両想いキスの魔力は遅効性

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「本当に嫌じゃないのか? 俺、女装のほなみんだけじゃなくて、なんて言えばいいか、その……男装のときのほなみんも好きだ」
「全然困ることなんてないじゃないか。それ、要するにぼくが好きっていうことでしょう?」

 ただの女の子の代わりじゃないっていうことだ。
 かっちゃんがあまりにもおかしかったからつい口が滑ってしまったけど……。
 ぼくの返事、だいぶ自信ありげで恥ずかしくなる。かっちゃんが淹れてくれた紅茶をすする。……落ち着く。

「おかしくないか?」
「じゃあ、かっちゃんはぼくがおかしいっていうの?」

 ぽりぽりと頭をかいて返事につまるかっちゃんが愛らしい。

「……クリスマスだしエッチしたいよなーって最初に言い出したのはほなみんだし……この日だけどうしてもそういう気分なのかと思ってた。ほなみんクリスマスしか女装してこないし」

 言わないでください。いや確かに僕が言ったけど。
 趣味は小出しにするものだし……好きな相手だったらなおさらだ。ぼくはかっちゃんの家には遊びに行くけれど、ぼくの家にかっちゃんは……うん、まだ上げられない。
 ダメだこの話が続くと墓穴を掘ると思ったので、話を変えることにする。

「その気もないのに、エッチしちゃうだろうなーって分かってるのに何度も同じことしたりしないし……てかさ、いつから好きだったの?」
「最初から」
「最初から、っていつからよ? 最初のクリスマスから」
「そうなるな」
「え? だって去年も今年も別の子に告白したんだろ?」
「不戦敗じゃカッコ悪いから、とりあえず努力はしたことにしていた。ほなみん以外とは何もない」

 なるほど分からん。

「何それ? だって告白はしたんだろ? 最初から振るつもりだったの?」
「非実在懸想けそう相手なんだよ。最初から作り話だってこと」

 言われてみれば、おかしなところはあった。
 かっちゃんがふられる相手っていつもユから始まる名前で共通の知り合いがいないし、気になる子がいるっていう話は全然しなくて、ぼくが聞くのはいつも振られてからだ。

「へぇ……」
「ほなみん」
「何?」
「悠李って呼んでいいか?」
「いいよ」
「それと」

 かーらーのー?
 と思ったけれど、なかなか続く言葉を言ってくれなくて。

「それと?」
「キスしていい?」

 一瞬の無音が重い。
 重いけど、もう苦しくはなくて。

「……いいよ」

 そう返事をして、ぼくは目を閉じた。
 目をつむったままでいると、かっちゃんが肩に手を回してくれて……。
 さっきのことを思い出して、少しだけ警戒してしまって、肩が落ちてしまう。けど、ぼくもかっちゃんの脇に手を添えて……。

 唇と唇が、触れた。

「ん……」

 ……?

 あれ?

 思ったよりドキドキ、しない。

 グロス塗り過ぎっていうこともないだろうし……。

「っ……」

 息が詰まってきそうになる……けどぼくからは離そうとできなくて。
 少しばかり長く感じる時間が過ぎてから、ようやく唇が離れて。

 なんか、思っていたより全然あっさりしている。

「悠李、その……」

 かっちゃんは今ので結構照れているみたいだ。
 いいな……その感覚、ぼくも感じたかった。

「うん?」
「……好き」
「……うん」

 そのままかっちゃんと見つめ合って。
 さっき、キスしたかっちゃんと。
 あ……やば……今ごろになってようやく、ドキドキしてきた。

「ちょっと、お腹いてきたかも」
「残りのケーキ取ってくるわ」
「いや、いいや。ごめん、甘いものとこってりしたものの食べ過ぎで飽きてきそう……。水でも飲む」

 味付けが濃いものばかりだったので食傷気味だ。買ってくるときにはどれも美味しそうに見えちゃうんだよなあ……。

「なら、リンゴが残ってるから、いてやる」
「え、剥いてくれるの? ありがとう、お願い」

 かっちゃんが持ってきてくれるまで待ってようかと思ったけれど。
 なんとなく離れたくなくって、キッチンに行くかっちゃんのあとをついていく。
 それに気づいたかっちゃんが、振り向いて。

「持ってくから座ってていいぞ」
そばにいたいんだもん」

 かっちゃんは、はあ、と、照れたような呆れたような顔をして。

「足、冷えるぞ。そこにスリッパがあるから履いとけ」
「はーい」

 かっちゃんの視線の先にあったもこのこのスリッパを借りて、履く。
 床に直に立ってるよりマシだけど、まだ冷たい。
 それでも、離れたくない。そのままかっちゃんのリンゴを剥いていくのをながめていた。

 キッチンの高さよりだいぶ背が高くて、腰を少し傾けてりんごを剥くかっちゃん。
 エプロンは無地でシンプルなんだけど不思議とかわいらしい……と思うのはぼくだけか。
 ぼくより一回り大きな手に握られてる細身のペティナイフがアンバランスでプリティだ。
 はぁ、なごむ。
 ていうか、リンゴの皮、薄すぎ!

「ほら剥けた。先、持ってって食べてな」
「分かった」

 そう言ってぼくに手渡すと、かっちゃんは流しをさっと片付け始めた。
 ぼくは先に戻って、かっちゃんの戻ってくるのを待つ。

「なんだまだ食べてなかったのか。まずいってことはないと思うが」

 かっちゃんは戻ってくるなりリンゴを一切れ取って、まるまる自分の口の中に放り込んだ。かっちゃんの頬がリンゴの形にふくれる。
 それを見てぼくも、一切れ取って噛む。

「おいしい」

 かっちゃんの剥いてくれたリンゴをの味を噛みしめるように、ゆっくり咀嚼そしゃくした。
 次の一切れに手を伸ばすとそのままお腹が痛くなるまで食べてしまいそう。少し休憩を挟むことにする。

「量、多かったか? 剥き過ぎたか」
「いや、味わって食べてるだけ」

 するとかっちゃんはリンゴを一口ガリッと噛んで残りをお皿に戻して。
 腰、抱き寄せられた……。

「ん……っ」

 口づけられた結び目から、一口ぶんのリンゴを口移しされて。
 噛むと、しゃりしゃりと口の中で鳴る。変わらず甘いだけなのに、ドキドキする……。

餌付えづけ」
「ズルい。それ反則だから」
「反則的なのは、悠李の可愛さ」

 ぎゅって、抱きしめられた。

「悠李が可愛すぎて我慢できなくなりそ。な、もう一回抱いていい?」

 そう耳元でささやくかっちゃんの声は、さっき事故ったときと違って落ち着いて低くて……エロい。
 体が、熱くなってくる……。

「うん……」

 するとかっちゃんはぼくをお姫様抱っこの格好、いやお殿様抱っこ?ですくっと持ち上げた。
 それから真っ直ぐにベッドへと連れ去られて。

「お姫様抱っこなんて初めてされたよ。てかさ、かっちゃん力強すぎでしょ」

 ぼくは重過ぎはしないはずだけれど、そんなに軽くもないはずだ。

「悠李は俺のお姫様だからな。……悠李のこと早く欲しいと思ったら、変な力が出る」

 ベッドに着くなり仰向けあおむけに寝かされて、かっちゃんが、おおいかぶさってきて。

「ん……ふ……」

 キス。さっきもしたけれど。さっきより全然オトナなキス。
 下唇を軽く挟まれた。リンゴ味のかっちゃんの舌が入り込んできて、口蓋こうがいまで頂かれた。
 体の上のかっちゃんの温度感が高い。ゆるく肩を抱きしめられて、ふわりとした浮遊感に心が浮かれる。
 ずっとこうしてたいって思うほど気持ちよくって、気づくとぼくもかっちゃんに抱きついてた。
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