サンタなんかじゃない

的射 梓

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午後の9時のイカれたパーティー

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 かっちゃんは女の子を見る目がないと思う。毎年毎年同じような子にきつけられて、同じような時期にアプローチして、同じように振られる。
 そのくせ、脈ありそうか探ってくるような、ぼくから見てもそんなに悪くないんじゃないかって思う子には全然興味がないっていう。
 それで今年も、かっちゃんの部屋で男二人だけの寂しいクリスマスだ。

「メリークリスマス! 今年もほなみんに彼女ができなかったことに乾杯!」

 ほなみんていうのは、ぼくの名前、穂波悠李ほなみゆうりの名字から付けられたあだ名だ。

「何だよそれ。ぼくはできなんじゃなくって作ってないだけだし。振られたのはかっちゃんじゃない」

 彼は高丘和寛たかおかかずひろって言って、一年生からの付き合いだ。友達だ、と、少なくともかっちゃんは思っているはずで。

「そら、ほなみんに先越されたら嫌だからな」

 先なんて越せるわけないじゃないか。

「クリスマスに彼女を届けてくれるサンタさんがいなくなっちゃうから? まあでも、代わりに彼氏を届けてくれるブラックサンタさんが来るかもよ?」
「それは嫌だなー」

 かっちゃんは面白そうにけらけらと笑う。
 その笑顔だけみればとっても素敵で、だからつられてぼくもへらへらと笑う。へらへら笑って……疲れる。
 やっぱり、嫌なんだ……。

 クリスマスまでに彼女できなかったっていうかっちゃんに、じゃあなぐさめてあげよっかって女の子の格好して過ごす。
 かっちゃんと知り合ってから、クリスマスの日はずっとそれが定番になっている。
 一日だけ彼女の役。サンタさんていうより、織姫おりひめ様みたいだ。……そう思っているのはぼくだけだろうけど。

「とりま、食べよっか」

 注いであったワインのグラスを手にとって、すする。
 ようやくお巡りさんに捕まらずに飲めるようになったワインの味は……まだ、苦くて。かなり甘くて口当たりのまろやかだという評判のを選んだはずなのに、酸っぱい。
 けれど香りは良くて、ちびちび飲むと神経がぎ澄まされてきたような感じがする。

「なんか今年も油っぽいものばかりになっちまって悪いな」
「へーきへーき。それよりもっと食べた気になるのの方が良かった? いちおう、彼女っぽいものを、と思ったんだけど……」

 かっちゃんが用意してくれたのはフライドチキンとかピザとかとにかくお腹に溜まりそうなもの。
 乙女はファーストフードなんてもってのほからしいから、女の子スイッチの入ってるぼくには頼みづらいだけで、決して嫌いじゃない。
 おいしいものをちょっとずつ色々食べたいなと思ったぼくはサンドイッチ、ベーグルやマカロンという取り合わせだ。なんで、かっちゃんは気にしたのかなって思う。 

「ほなみんが持ってきてくれたのは全部俺の好み。それもらっていいか?」
「はい、どーぞどーぞ」

 にこにこ笑って手渡す。かっちゃんはすぐに食べるかと思ったらそうでもなくて。

「これ、ほなみんが食べてるところが見たい。写真撮ってもいい?」

 どくん、と胸が高鳴る。
 返事をするのに異常なほど時間がかかって……。

「しょうがないにゃあ……いいよ」

 できる限り変な写真にならないようにと思ったのに、緊張してうまく笑顔が作れない。
 あまりにもあまりな写りようだから消してって言ったら、かっちゃんはそれなりに見れるものが撮れるまで撮り直してくれた。角度とか色々考えて。

  * * *

 びちゃ。
 かっちゃんの撃ったインクが目の前に落ちて、足を取られる。
 すると続けざまに撃たれて、体中かっちゃんのインクまみれになって、倒されてしまった。
 びちゃ、びちゃ、びちゃ。

 ぼくは動けない。
 ぼくは動けない。

 再び動けるようになったときには当たり一面かっちゃん色に塗られてしまっていて、ぼくに勝ち目はなかった。

「くぅー、また負けた。やっぱりかっちゃんは強いなあ」

 かっちゃんが体を流している間もこのゲームの練習してたのに、少しも差が縮まってない。
 ぼくがお風呂もらっているときにかっちゃんもやってたんだろうから、仕方ないけど。

「すまんな」

 ゲス顔なのに爽やかなんて反則だ。
 熱中してて手が凝ってしまったので、ぶらぶらと腕の先を振ってほぐす。ついでに時計を見やった。

 時計の針が二つとも左手のほうにあった。
 長針が短針に追いつこうとして、にらみ合いになっている。止まって見える二つの針に、なぜか緊迫感を感じて。
 そして、撃ち合いになる。
 そろそろかな……。

「ほなみん」
「ん?」

 触れ合ったかっちゃんの肩がより重くなったように感じる。

「今年も慰めてくれるよな?」

 とくん、とくん、と体の中で血が飛び跳ねる。
 いつもそうだ。今日、だけしか続かないのに。

「……うん」

 時刻は、ホントかどうか知らないけど、一年で一番セックスしてる人が多いっていう時間帯。
 もしかしたら、かっちゃんが好きだって言ってた……今も多分好きなその子も、エッチしてるかもしれない時間。
 いつもはただの友達のぼくらなのに、このときばかりは、どうしてもかっちゃんも我慢できなくなっちゃうらしい。
 初めてのときは半ば冗談みたいな感じでぼくから切り出したのに襲われて、それから毎年こうだ。
 一年に一回だけ、かっちゃんがふられた子の代わりになって、彼女になる。それで、エッチする……。

「ほなみん。めて」
「ぼくただの身代わりなんだからさ、かっちゃんの好きだった子の名前で呼んでよ。変な気分になる」
「すまん。ユズキ、舐めてくれる?」
「いいよ」

 のそのそとかっちゃんの前に頭を伏せた。
 それで、ゆっくりベルトをほどいて、ズボンを下ろす。

「ユズキに脱がしてもらうのすっげーエロい」
「……」

 だからモテないんじゃん、と思うけど、かっちゃんがよろこんでくれるのを分かっててやってるぼくも大概たいがいだ。
 パーカーのフードをかぶって、カオ見られなくなってるといいなって思いながら、彼の切っ先にキスをする。

「……っ」

 ちゅぷ、ちゅぷと舐めていくと、かっちゃんの幹がもっと太く固くなってくる。
 かっちゃんは男で、綺麗にめかしこんだところでぼくだって男だ。それでも、生理反応で大きくなる。
 けれど、きっとかっちゃんはその、ユズキっていう子に舐められてること考えて大きくしてるんだろうな。
 そんなことを考えてたら、かっちゃんの先っぽが少し、苦くなった。

 余計なことは、考えないことにする。

「ね、気持ちいい?」

 あ、聞いちゃった……。
 かっちゃんが感じてくれるか見てみたいけど、見上げるわけにはいかない。
 ぼくがかっちゃんをのぞきこむとき、かっちゃんもまたぼくを見ているのだ。
 今のぼくは、ユズキっていう子の代わりだから……できるだけ、ぼくを出さないようにする。
 でも、うまくできてるのかどうか知りたくて。鬱陶うっとうしいよねって思いながら、聞いてしまった。

「ん、いい。……っは、すっげ……」

 すごく、いいらしい。
 嬉しくなって、もっとかっちゃんのをすする。イヤらしい音とかするように、しゃぶってみる。
 かっちゃんの切っ先はどんどん熱くなってきて。張り裂けんばかりに勃起して。どくどく波打ってる……。

「っ! 出そう……」

 返事しちゃうとかっちゃんがえちゃう気がして、だから、そのまま続ける。
 ちゅぷちゅぷちゅぷちゅぷ。
 手とかも使って、搾り出すようにして、かっちゃんの軸を揺らした。
 出して。ぼくので気持ちよくなって……!

「……ふ、は」

 びゅるびゅると口の中にかっちゃんの欲望が吐き出される。その、ユズキっていう子に向けられた欲望を、こぼさないように飲み下す。
 苦い。けど、その苦味が、かっちゃんのを舐めて出させたんだっていうことを実感させてくれる。
 それでも、苦いのは変わらないのに。
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