54 / 363
第54話
しおりを挟む
剣崎さんと相談、と言うにはあまりに進展がなさすぎるそれをした後、そのままホテルへ直帰……してカリバーだけを回収、落葉ダンジョンへと向かう。 することは勿論新たなスキルの習得と、カリバーの新スキルの確認。
本当はすぐにでも確認したいのだが、あまりに強力過ぎたり派手だった場合街中で使うのは厳しい。 勿論協会の裏で軽い運動だとか、バーベキューで火をつけます程度なら問題ないが、建物を壊したりした場合速攻でしょっ引かれるだろう。
一人一人が強大な力を持ちうる以上、結構探索者の扱いは厳しいのだ。
本当は希望の実集めで花咲へ行きたかったが、どうやら調査で人が多く来るらしい。
あまりに人が多いところは苦手だ、疲れるしうるさいから。
真昼間に一人でぶらぶら歩いていると、相変わらず街には人が少ない。
琉希もそうだが若者は学校へ、社会人は会社へ。 ダンジョンが生まれようと大衆のルーチンワークはさほど変わることがなく、皆『普通』を『普通』に許容して生きている。
つい数か月前まで己自身がそこに組み込まれていたのに、気が付けば私という歯車は世間から外れ、一人、奇妙な体験と共に転がり続けている。
いったい私はどこまで転がり続けるのだろう。
そしてその転がり続けた先に、一体何が待ち受けているのだろう……何も分からない、何も見えない。
「ふぁ……」
大きく背伸びして、全身の筋肉を伸ばす。
今日も快晴、ぽかぽかと暖かい。
いくら考えたって分からない物は分からないし、似たような悩みを持つ人間は、それこそ何千年も昔からごまんといる。
そんだけの人が考えておきながら、いまだに人生でこういった悩みが出たら、必ずこうしなさいなんて大衆に受け入れられた結論は存在しない。
つまりこれまでの道に、そしてこれから私が進む道に正解なんてものは存在しなくて、きっと何度も悩み続けて探っていくことになるのだろう。
まあしいて言うならあれだ。
ケセランパサラン。
◇
快晴だといった直後にダンジョンへ潜るのはどうなのだろう。
そんな私のポケットは拾った希望の実でパンパン、こうもぎっちり詰まっていればまともに動くことすら支障が出る。
……このままでは、ね。
私がリュックを背負ってきていないのには、これも多分に関係している。
昨日のダンジョン崩壊、その過程では私は四桁一気にレベルアップという、誰が聞いても驚愕するであろう躍進を遂げた。
それによって私は、なんと2000ものSPを入手している。
ここまで言えばもうわかるだろう。
そう、私が入手するのは……
『スキル アイテムボックス LV1 を獲得しました』
「おほー」
ポケットからばっさばっさと希望の実を取りだし、空間にできた揺らぎへ叩き込んでいく。
左右のポケットに詰まっていた希望の実、その全てを叩き込んでもまだ入る様子。
調子に乗ってカリバーを突っ込んでみれば、残念ながらこれは無理な様子。
壁へ押し付けているような違和感が返ってきて、どんなに強く押し込んでも進むことはない。
しかしこりゃ便利だ、魔石もこれならある程度入りそうだし。
あまりの便利さに感動した私、ちょっと悩みこそしたが、残っていた1500ポイントも使って『アイテムボックス』をレベル3にまで上げてしまう。
『スキル累乗』も率先してあげたいところだが、あまり上げ過ぎてもそこまで攻撃力が必要ない。
白銀の騎士戦でも何度か『累乗スカルクラッシュ』『累乗ストライク』を使ったが、正直身体が結構ヤバい状態になっていた。
下手したらスキルを使った瞬間、体が真っ二つに千切れてしまうかもしれない。
レベルアップによる恩恵で強靭な体になっているとはいえ、ストライク走法、もとい自殺ダッシュ同様、スキルの使い方によっては身体を痛める。
さらに『累乗』なんてしていった先には、冗談抜きで……今後はある程度、慎重にスキルのレベルを上げていく必要があるだろう。
いやな想像をしたところで頭を振りかき消し、レベルを上げたアイテムボックスに意識を向ける。
再度カリバーを入れてみれば、今度は何とか丸ごと入ってくれた。
しかし希望の実とカリバーでやはり限界、これ以上は入らないらしい。
琉希がいるときは回復魔法でどうにかなるが、ソロの時はやはり傷口を抑える布などが欲しいので、リュック自体はまだ必要そうか。
しかし動き回るとき、リュック内の魔石が動いたりしてまごつくこともあったし、魔石を持たないだけでも相当行動しやすいな。
SPをつぎ込んだ価値はあった。
これには私も勝利を確信、納得のガッツポーズ。
今後はおやつついでにケーキを、アイテムボックスに入れて持ち込むのもありかもしれない。
アイテムボックスへ突き込んだカリバーだが、再度引っ張り出す。
軽く素振り、相棒、私、共に調子は上々。
相変わらず新品同様、傷一つない美しい金属バットだ。
よしよし、ういやつめ。前々から考えていたが今なら余裕があるし、あとでスポーツ道具店にいって拭く用の油買ってやるからな。
さて、探索者を始めてからずっとそばにいた相棒だが、先日の戦いでなんかスキルを獲得しただとか聞こえてきた。
確かにカリバーは壊れないというだけで強力だが、騎士の剣の強力な効果を見た後だと、やはりちょっと物足りない感はある。
今後戦い続ける中で何の能力もない武器を振るうのは、拳を痛めにくいなどそりゃ素手よりはましだが、流石に勘弁してもらいたい。
そんなタイミングで新たなスキル、これはもはや天命といっても過言ではない。
神が私に、カリバー一本で戦い抜けと言っているようなものだ。
ふふ、私のために進化するなんて、お前もなかなか献身じゃないか。
さあ見せてみろ、お前の新たな力を!
「『鑑定』!」
本当はすぐにでも確認したいのだが、あまりに強力過ぎたり派手だった場合街中で使うのは厳しい。 勿論協会の裏で軽い運動だとか、バーベキューで火をつけます程度なら問題ないが、建物を壊したりした場合速攻でしょっ引かれるだろう。
一人一人が強大な力を持ちうる以上、結構探索者の扱いは厳しいのだ。
本当は希望の実集めで花咲へ行きたかったが、どうやら調査で人が多く来るらしい。
あまりに人が多いところは苦手だ、疲れるしうるさいから。
真昼間に一人でぶらぶら歩いていると、相変わらず街には人が少ない。
琉希もそうだが若者は学校へ、社会人は会社へ。 ダンジョンが生まれようと大衆のルーチンワークはさほど変わることがなく、皆『普通』を『普通』に許容して生きている。
つい数か月前まで己自身がそこに組み込まれていたのに、気が付けば私という歯車は世間から外れ、一人、奇妙な体験と共に転がり続けている。
いったい私はどこまで転がり続けるのだろう。
そしてその転がり続けた先に、一体何が待ち受けているのだろう……何も分からない、何も見えない。
「ふぁ……」
大きく背伸びして、全身の筋肉を伸ばす。
今日も快晴、ぽかぽかと暖かい。
いくら考えたって分からない物は分からないし、似たような悩みを持つ人間は、それこそ何千年も昔からごまんといる。
そんだけの人が考えておきながら、いまだに人生でこういった悩みが出たら、必ずこうしなさいなんて大衆に受け入れられた結論は存在しない。
つまりこれまでの道に、そしてこれから私が進む道に正解なんてものは存在しなくて、きっと何度も悩み続けて探っていくことになるのだろう。
まあしいて言うならあれだ。
ケセランパサラン。
◇
快晴だといった直後にダンジョンへ潜るのはどうなのだろう。
そんな私のポケットは拾った希望の実でパンパン、こうもぎっちり詰まっていればまともに動くことすら支障が出る。
……このままでは、ね。
私がリュックを背負ってきていないのには、これも多分に関係している。
昨日のダンジョン崩壊、その過程では私は四桁一気にレベルアップという、誰が聞いても驚愕するであろう躍進を遂げた。
それによって私は、なんと2000ものSPを入手している。
ここまで言えばもうわかるだろう。
そう、私が入手するのは……
『スキル アイテムボックス LV1 を獲得しました』
「おほー」
ポケットからばっさばっさと希望の実を取りだし、空間にできた揺らぎへ叩き込んでいく。
左右のポケットに詰まっていた希望の実、その全てを叩き込んでもまだ入る様子。
調子に乗ってカリバーを突っ込んでみれば、残念ながらこれは無理な様子。
壁へ押し付けているような違和感が返ってきて、どんなに強く押し込んでも進むことはない。
しかしこりゃ便利だ、魔石もこれならある程度入りそうだし。
あまりの便利さに感動した私、ちょっと悩みこそしたが、残っていた1500ポイントも使って『アイテムボックス』をレベル3にまで上げてしまう。
『スキル累乗』も率先してあげたいところだが、あまり上げ過ぎてもそこまで攻撃力が必要ない。
白銀の騎士戦でも何度か『累乗スカルクラッシュ』『累乗ストライク』を使ったが、正直身体が結構ヤバい状態になっていた。
下手したらスキルを使った瞬間、体が真っ二つに千切れてしまうかもしれない。
レベルアップによる恩恵で強靭な体になっているとはいえ、ストライク走法、もとい自殺ダッシュ同様、スキルの使い方によっては身体を痛める。
さらに『累乗』なんてしていった先には、冗談抜きで……今後はある程度、慎重にスキルのレベルを上げていく必要があるだろう。
いやな想像をしたところで頭を振りかき消し、レベルを上げたアイテムボックスに意識を向ける。
再度カリバーを入れてみれば、今度は何とか丸ごと入ってくれた。
しかし希望の実とカリバーでやはり限界、これ以上は入らないらしい。
琉希がいるときは回復魔法でどうにかなるが、ソロの時はやはり傷口を抑える布などが欲しいので、リュック自体はまだ必要そうか。
しかし動き回るとき、リュック内の魔石が動いたりしてまごつくこともあったし、魔石を持たないだけでも相当行動しやすいな。
SPをつぎ込んだ価値はあった。
これには私も勝利を確信、納得のガッツポーズ。
今後はおやつついでにケーキを、アイテムボックスに入れて持ち込むのもありかもしれない。
アイテムボックスへ突き込んだカリバーだが、再度引っ張り出す。
軽く素振り、相棒、私、共に調子は上々。
相変わらず新品同様、傷一つない美しい金属バットだ。
よしよし、ういやつめ。前々から考えていたが今なら余裕があるし、あとでスポーツ道具店にいって拭く用の油買ってやるからな。
さて、探索者を始めてからずっとそばにいた相棒だが、先日の戦いでなんかスキルを獲得しただとか聞こえてきた。
確かにカリバーは壊れないというだけで強力だが、騎士の剣の強力な効果を見た後だと、やはりちょっと物足りない感はある。
今後戦い続ける中で何の能力もない武器を振るうのは、拳を痛めにくいなどそりゃ素手よりはましだが、流石に勘弁してもらいたい。
そんなタイミングで新たなスキル、これはもはや天命といっても過言ではない。
神が私に、カリバー一本で戦い抜けと言っているようなものだ。
ふふ、私のために進化するなんて、お前もなかなか献身じゃないか。
さあ見せてみろ、お前の新たな力を!
「『鑑定』!」
0
お気に入りに追加
774
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜
mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!?
※スカトロ表現多数あり
※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話
島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。
俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。
飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。
隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。
だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。
そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。
旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉
Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」
華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。
彼女の名はサブリーナ。
エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。
そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。
然もである。
公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。
一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。
趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。
そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。
「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。
ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。
拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる