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第44話
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何度も触り、慣れたはずの真っ赤な液体。
ねばつき絡みつく感触はなぜか、不気味なほどの違和感を伝えてくる。
手の中で冷たい肉塊へと変わる泉都を抱きしめ、茫然と目の前の怪物を見る。
何なのだ、あのスライムは……!
彼女の血を浴び、てらてらと輝くスライム。
いや、本当にスライムなのか、あの化け物は。
私の知っている奴らは弱く、レベル一が体当たりされようとちょっと痛いだけ。
こんな、こんな簡単に人を殺すなんて……!
「か……『鑑定』っ!」
――――――――――――――――
種族 バイティングスライム
名前 ガッツ
LV 200
HP 347 MP 234
物攻 723 魔攻 0
耐久 377 俊敏 201
知力 257 運 33
――――――――――――――――
200……!?
冗談だろう、そう言ってほしい。
天を仰いで、自分が今見たものがでたらめだと、何度も暗示をかける。
だってここはFランクの、しかも最低レベルのダンジョンだぞ。
ありえない、こんなのあってはならないだろう。
しかし現実は非常で、その数字が変わることはなかった。
もっと私が早くに異常を察知していたら……もしかしたら、泉都は死ななかったのかもしれない。
後悔が押し寄せる、しかしもう遅い。
手の中にある泉都の亡骸が、私を責めるように見つめていた。
……逃げないと。
このダンジョンから逃げて、自分より強い存在に危険を提示しないと。
200なんてのがうじゃうじゃいるのなら、生きて出られるわけがない。
誰でもいい。筋肉でも、剣崎さんでも、穂谷さんでも誰でもいいから、レベルの高い人を呼ばないと。
幸いにしてスライムは目が見えないらしく、生きている私よりも、目の前へ転がってる泉都の下半身に夢中だ。
肉を食み、じっくりと溶かしている。
俊敏は私の方が高い、距離さえ開ければ十分逃げられるだろう。
ごめん、泉都。
朽ちた彼女、その上半身だけをリュックへ差し込む。
下半身まで持ち帰ることはできないが、せめて上だけでも。
今背負っているリュックは登山用故大きく、少女の上半身だけならどうにか入った。
唇を噛み締め、血に濡れた手でカリバーを握りしめる。
逃げないと。
「……『ステップ』! 『ストライク』! 『ステップ』!」
今は体の傷だとか、スキルを中断することによる反動だとかを気にしてはいられない。
ただ逃げて、このダンジョンから逃げ出すために、ストライク走法を躊躇せず使う。
みるみる後ろへ溶けていく景色、グンと加速し軋む全身。
飛び出した私の音に気付き、こちらへ跳ね寄ってくるスライム。
しかし一度距離を開ければ最後、俊敏に関しては私の方が高いので、どうにか追いつかれずに済みそうだ。
途切れ途切れ、息を荒げそれでも走り続ける。
すべてはここから逃げて生き延び、情報を協会に届けるため。
私たちが希望の実集めをしていたのは、入り口からほど近かったというのもあってすぐに見慣れた門へたどり着いた。
助かった。
心に安堵が満ち、涙腺が緩む。
朝に入ったばかりだしダンジョンの崩壊までまだ時間があるはず、これで後は筋肉に全てを委ねればいい。
門へ手をかけ、深い溜息が零れ……
「……んでっ、なんで開かないの……!?」
目の前ですり抜けた希望に、慟哭した。
開かない。
何度も拳で叩いても、何度押し込んでもピクリともしない。
そんな、こんなのあんまりだ。
だってやっと助かると思って、それを目の前で取り上げるなんて。
「あけ、あけ! 開けてよ! ねえ! やだっ……ねえお願いっ!」
ガンッ、ガンッ、ガンッ
拳から血が滲み、恐怖に指先から血が引く。
いやだ、死にたくない……!
私はもっとやりたいことがあって、もっとみんなと……!
「す……『ストライク』! 『ストライク』! 『ストライク』ッ!」
しかしどんなにカリバーで殴っても、返ってくるのは無機質な金属音だけ。
昏く重い心の中に、絶望という暗闇の中に、理不尽への小さな怒りが灯る。
私が一体何をした? こんなところに閉じ込められて、モンスターに肉をしゃぶられるような罪を、一体いつ犯したっていうんだ。
……やるしかない。
もうだめだ、どうせ私は死ぬんだ。
投げやりな感情。
ならそれまでにダンジョン内のモンスターを少しでも殺して、外に漏れる数を減らさないと。
後ろ向きな行動理念。
ガサッ
草が揺れ、私を追ってきたスライムが姿を現す。
ああ、いいさ。
殺してやる。
お前も、ほかのモンスターも。全員私が地獄に道連れにしてやる。
ぴょんと飛び掛かり、その透明な牙を剥くスライム。
きっと泉都はこれに食いつかれて、真っ二つにされてしまったのだろう。
「ふんっ」
横へ身を逸らし、その口元へカリバーをねじ込む。
重い。
キリキリと音を立てる鋭い牙は、並大抵の武器ならかみ砕いてしまうのだろう。
カリバーが破壊不可でよかった。
そのまま地面へ叩きつけると、べちゃりと広がるスライムの身体。
中心にこんもりとした膨らみが生まれ、そこにスライムの核があると分かった。
そうだ、落ち着け私。
レベルや攻撃力こそ高いが所詮はスライム、冷静を保てば十分に戦える。
核めがけて、全力でカリバーを振り下ろす。
確かな手ごたえ。
確実なダメージが入ったことを、その感触が私に教えてくれた。
さらなる追撃を叩き込もうと体を捻じったときに、奇妙な違和感を感じる。
「……っ!?」
足が……動かない……!?
いや、足だけじゃない。
胴体も、腕も動かない。
喉元に冷たく、鋭い感覚が当たった。
スライムだ。
スライムが全身を細く伸ばして私の身体を縛り、牙の様に尖らせた先端を当てていたのだ。
やられた……!
核を見せつけていたのは罠、私に勝利を確信させるため。
肉を切らせて骨を断つ、まさかスライムがそれをやってくるなんて……!
スライムがゆらりと後ろへ揺れ、勢いをつけて私の喉を掻き斬ろうとした瞬間……
「ふぁ……なんか窮屈ですね」
後ろでもぞもぞと何かが動き、スライムの狙いが逸れた。
どうやら私を縛るときに、リュックごと縛り付けていたらしい。
助かった。
全身の拘束が緩み、そのチャンスを逃さずスライムの核を蹴り上げる。
「ひゃああっ!? なっ、地面が揺れてっ!?」
貰った。
「『ストライク』!」
見事ど真ん中を叩き潰し、粉々に砕けるスライムの核。
光へと変わり、おぞましい怪物はこの世から消えた。
「一体何が起こってるんですか……?」
後ろから間抜けな声が聞こえ、足から力が抜ける。
勝鬨を上げたいところだが、それより色々あって疲れた。
……本当、さっき希望の実食べてて良かったな泉都。
「ところで私のスカートが見当たらないんですけど、何処にあります?」
「後で取りに行くからちょっと黙ってて」
ねばつき絡みつく感触はなぜか、不気味なほどの違和感を伝えてくる。
手の中で冷たい肉塊へと変わる泉都を抱きしめ、茫然と目の前の怪物を見る。
何なのだ、あのスライムは……!
彼女の血を浴び、てらてらと輝くスライム。
いや、本当にスライムなのか、あの化け物は。
私の知っている奴らは弱く、レベル一が体当たりされようとちょっと痛いだけ。
こんな、こんな簡単に人を殺すなんて……!
「か……『鑑定』っ!」
――――――――――――――――
種族 バイティングスライム
名前 ガッツ
LV 200
HP 347 MP 234
物攻 723 魔攻 0
耐久 377 俊敏 201
知力 257 運 33
――――――――――――――――
200……!?
冗談だろう、そう言ってほしい。
天を仰いで、自分が今見たものがでたらめだと、何度も暗示をかける。
だってここはFランクの、しかも最低レベルのダンジョンだぞ。
ありえない、こんなのあってはならないだろう。
しかし現実は非常で、その数字が変わることはなかった。
もっと私が早くに異常を察知していたら……もしかしたら、泉都は死ななかったのかもしれない。
後悔が押し寄せる、しかしもう遅い。
手の中にある泉都の亡骸が、私を責めるように見つめていた。
……逃げないと。
このダンジョンから逃げて、自分より強い存在に危険を提示しないと。
200なんてのがうじゃうじゃいるのなら、生きて出られるわけがない。
誰でもいい。筋肉でも、剣崎さんでも、穂谷さんでも誰でもいいから、レベルの高い人を呼ばないと。
幸いにしてスライムは目が見えないらしく、生きている私よりも、目の前へ転がってる泉都の下半身に夢中だ。
肉を食み、じっくりと溶かしている。
俊敏は私の方が高い、距離さえ開ければ十分逃げられるだろう。
ごめん、泉都。
朽ちた彼女、その上半身だけをリュックへ差し込む。
下半身まで持ち帰ることはできないが、せめて上だけでも。
今背負っているリュックは登山用故大きく、少女の上半身だけならどうにか入った。
唇を噛み締め、血に濡れた手でカリバーを握りしめる。
逃げないと。
「……『ステップ』! 『ストライク』! 『ステップ』!」
今は体の傷だとか、スキルを中断することによる反動だとかを気にしてはいられない。
ただ逃げて、このダンジョンから逃げ出すために、ストライク走法を躊躇せず使う。
みるみる後ろへ溶けていく景色、グンと加速し軋む全身。
飛び出した私の音に気付き、こちらへ跳ね寄ってくるスライム。
しかし一度距離を開ければ最後、俊敏に関しては私の方が高いので、どうにか追いつかれずに済みそうだ。
途切れ途切れ、息を荒げそれでも走り続ける。
すべてはここから逃げて生き延び、情報を協会に届けるため。
私たちが希望の実集めをしていたのは、入り口からほど近かったというのもあってすぐに見慣れた門へたどり着いた。
助かった。
心に安堵が満ち、涙腺が緩む。
朝に入ったばかりだしダンジョンの崩壊までまだ時間があるはず、これで後は筋肉に全てを委ねればいい。
門へ手をかけ、深い溜息が零れ……
「……んでっ、なんで開かないの……!?」
目の前ですり抜けた希望に、慟哭した。
開かない。
何度も拳で叩いても、何度押し込んでもピクリともしない。
そんな、こんなのあんまりだ。
だってやっと助かると思って、それを目の前で取り上げるなんて。
「あけ、あけ! 開けてよ! ねえ! やだっ……ねえお願いっ!」
ガンッ、ガンッ、ガンッ
拳から血が滲み、恐怖に指先から血が引く。
いやだ、死にたくない……!
私はもっとやりたいことがあって、もっとみんなと……!
「す……『ストライク』! 『ストライク』! 『ストライク』ッ!」
しかしどんなにカリバーで殴っても、返ってくるのは無機質な金属音だけ。
昏く重い心の中に、絶望という暗闇の中に、理不尽への小さな怒りが灯る。
私が一体何をした? こんなところに閉じ込められて、モンスターに肉をしゃぶられるような罪を、一体いつ犯したっていうんだ。
……やるしかない。
もうだめだ、どうせ私は死ぬんだ。
投げやりな感情。
ならそれまでにダンジョン内のモンスターを少しでも殺して、外に漏れる数を減らさないと。
後ろ向きな行動理念。
ガサッ
草が揺れ、私を追ってきたスライムが姿を現す。
ああ、いいさ。
殺してやる。
お前も、ほかのモンスターも。全員私が地獄に道連れにしてやる。
ぴょんと飛び掛かり、その透明な牙を剥くスライム。
きっと泉都はこれに食いつかれて、真っ二つにされてしまったのだろう。
「ふんっ」
横へ身を逸らし、その口元へカリバーをねじ込む。
重い。
キリキリと音を立てる鋭い牙は、並大抵の武器ならかみ砕いてしまうのだろう。
カリバーが破壊不可でよかった。
そのまま地面へ叩きつけると、べちゃりと広がるスライムの身体。
中心にこんもりとした膨らみが生まれ、そこにスライムの核があると分かった。
そうだ、落ち着け私。
レベルや攻撃力こそ高いが所詮はスライム、冷静を保てば十分に戦える。
核めがけて、全力でカリバーを振り下ろす。
確かな手ごたえ。
確実なダメージが入ったことを、その感触が私に教えてくれた。
さらなる追撃を叩き込もうと体を捻じったときに、奇妙な違和感を感じる。
「……っ!?」
足が……動かない……!?
いや、足だけじゃない。
胴体も、腕も動かない。
喉元に冷たく、鋭い感覚が当たった。
スライムだ。
スライムが全身を細く伸ばして私の身体を縛り、牙の様に尖らせた先端を当てていたのだ。
やられた……!
核を見せつけていたのは罠、私に勝利を確信させるため。
肉を切らせて骨を断つ、まさかスライムがそれをやってくるなんて……!
スライムがゆらりと後ろへ揺れ、勢いをつけて私の喉を掻き斬ろうとした瞬間……
「ふぁ……なんか窮屈ですね」
後ろでもぞもぞと何かが動き、スライムの狙いが逸れた。
どうやら私を縛るときに、リュックごと縛り付けていたらしい。
助かった。
全身の拘束が緩み、そのチャンスを逃さずスライムの核を蹴り上げる。
「ひゃああっ!? なっ、地面が揺れてっ!?」
貰った。
「『ストライク』!」
見事ど真ん中を叩き潰し、粉々に砕けるスライムの核。
光へと変わり、おぞましい怪物はこの世から消えた。
「一体何が起こってるんですか……?」
後ろから間抜けな声が聞こえ、足から力が抜ける。
勝鬨を上げたいところだが、それより色々あって疲れた。
……本当、さっき希望の実食べてて良かったな泉都。
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