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第24話

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 家々の屋根から太陽が顔をのぞかせ、人々が起床する時間に私はダンジョンへ向かう。

 今日も今日とてダンジョン探索、貧乏ヒモ暮らしとはまさにこのこと。
 ポケットの中には千円、これではネットカフェと言えど、最低レベルの部屋にすら泊まることが出来ない。
 果たして昨日十万すべて置いてきたのは失敗ではなかったかと、己の悪魔が囁く。いや、あれは親切にしてくれた穂谷さんへの感謝もあるのだと、天使と共に悪魔をフルスイング。

 さて、せっかく彼女から服をもらったとはいえ、今の服装は相変わらずボロ切れだ。
 お古と言われて最初こそ気が引けていたが、貰ってみればどれも新品の様に綺麗でかわいい服ばかり。
 そんなのをダンジョンに着て行き即ボロボロにするのは気が引けるし、折角ならいつかお金に余裕が出来た時、休みの日に着たいものである。

 しかし流石にボロボロ過ぎて、警察に見られたら虐待か何かと勘違いされてしまう。
 そこで私が思いついたのが……



「らっしゃーせー」
「これください」
「まいだりー」

 ちゃららっちゃらー
 フォリアは 黒のTシャツを 手に入れた!
 お金を600円失った!

 昨日ファミリーマッチョに入った時気が付いたのだが、なんとコンビニにはTシャツまで売っているらしい。
 どれも男物でSサイズでもだぼだぼではあるが、着る分には何の支障もないだろう。
 すごいぞコンビニ、なんでもあるな。

 そのままトイレを借りてぼろ切れを脱ぎ、さくっと着替える。
 コットン100%と書いてあるだけあって肌触りも柔らかく、ダンジョンで汗をかいてもしっかり吸ってくれそうだ。
 脱いだ服はこのまま捨ててしまうとコンビニの人に迷惑がかかるだろうし、リュックの奥へしまい込んでおく。
 『活人剣』で回復しきれない怪我をしたとき、これを包帯代わりに抑えるだけでも全然違うと思う。

 細々したお金はあれどおおよそ残り四百円、丁度『麗しの湿地』を行き来できる金額だ。
 新しい服を着ると気分がいい、今日も一日頑張ろう。



 朝食である希望の実をゴリゴリかみ砕きつつ、相変わらずピンク一色の湿地へ足を踏み入れる。
 もはや手慣れたもので、粘液を受けては顔の横をつつき、ナメクジたちを魔石へと変換していく。

 このまま奥に潜ってしまうのも手ではあるが、想像以上に敵のレベル上昇が激しい。
 個体によって多少上下するとはいえ、アシッドスラッグたちの平均レベルは15。
 一方で昨日出会ったパラライズ・ドラゴンフライはなんと37、このダンジョンの推奨レベル上限が50だったことを考えると、大量に倒すことはなかなか難しい。
 最低限の魔石は回収しておいて、たとえ奥で何も倒せなかったとしても稼ぎが出るようにしておく必要があった。

「32、33……37かな。よし」

 キラキラ輝く魔石たちを拾ってはビニールに詰めてから、リュックの中にしまう。
 既にナメクジと私のレベル差は26、『スキル累乗』をかけてからいくら倒してもレベルが上がる気配はない。
 しかしこれくらいあれば数日分の宿泊代にはなる。

「さて……いくか」

 カリバーに纏わりついた粘液は、強力な武器になるのであえて落とさない。

 歩みを進めて行けば、周囲にはあの巨大な蓮たちが乱立し始めた。
 戦っているうちにわかったことだが、このピンクの沼は色こそヤバいが、特に毒などもなさそうだった。

 ……蓮って確か根っこも、種も食べれたよね。
 いや、蓮根は地下茎だっけ? まあいいや。

 綺麗な花を見ていると湧いてくるのが、あくなき食欲。
 葉っぱは流石にざらざらとして固そうだが、もしかしてこの茎も表の皮をむけば食べられないだろうか。
 毒があるかもしれないが、即死でなければどうとでもなるし、最悪ゆでこぼせばある程度毒も抜けるだろう。
 ぜひともチャレンジしたい。

「むっ」

 そんなことをつらつら考えていたのだが、ふと目の前の葉が揺れ意識を向ける。
 トンボだ。昨日のあいつそっくりなのが葉の上にとまり、じっとこちらを見つめていた。

 やはり羽音もなく忍び寄っている。
 気を付けなければ、もし首をあの鋭い翅で切り裂かれたり、食い千切られてしまえば一巻の終わり。
 カリバーを正面に構え、周りにもほかの敵がいないかゆっくり見まわす。

 残念ながら、やはりいた。

 一、二……三匹!?

 気を抜き過ぎたか、いつの間にこんな集まっていたのか。
 どいつも蓮の葉に止まり、興味ないですよといった雰囲気をまとわせつつ、しかし私が動けばしっかりとその複眼で追っている。
 ギリギリだった。きっと後一分でも気を抜いていたら、私は殺されていた。

 まさかこいつら、普段は群れで行動してるのか……!?

 あれだけ苦戦した相手なのに、さらにそれが複数来るだなんて冗談じゃない。
 幸いにして昨日拾ったいくつかの小石、そして今のところ傷一つないのが唯一の救いだ。

「……っ」

 フォンッ

 あまりに微かな音。
 気を抜いていれば耳にも入らない音を立て、背後にいた一匹が飛び立つ。

 振り向きざまに一閃、が、当たらない。
 そもそもこちらへ飛んできていない……!?

 首元をひやりと冷たい一陣の風が撫でた。
 いる、後ろに。

「『ステップ』! 『ストライク』!」

 屈んであえて後ろへステップ、直後に私がいた前と横から、二匹のトンボが交差するように飛び込んだ。
 私の後ろにいたトンボはまさか突っ込んでくるとは思わなかったようで、急浮上。
 ツンとむけられた尻へかち上げストライクを叩き込まれ、無様に地面へと転がった。

 そのまま放置しても酸で死ぬだろうが、前回の様に道連れ狙いで特攻されてはかなわない。
 複眼の中心、脳みそがあると思われる場所へカリバーを振り下ろし、ぴくぴくと痙攣を始めたのを確認してから離脱。
 直後に消滅したそいつから経験値が流れ、『経験値上昇』に『スキル累乗』をつけたままであったのもあり、レベルが2上昇した。

 死角からの見せかけな攻撃、そして背後へ現れてからの二重誘導。
 本当に頭いいなこいつら、私より絶対頭いい。

 仲間があっさりやられたことで、私の認識が『獲物』から『敵』へと変わったらしい。
 蓮の葉の上に逃げ、ぐりぐりと首を傾げこちらを観察している。
 昨日のあいつは今の一匹の様にあっさりとは倒せなかった、これから本番というわけだ。

 緊張で額から垂れた汗をぬぐい、二匹を睨みつける。

 かかって来い、トンボどもめ。
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