『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

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第百九十四話

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『一週間前に友人の母が失踪しました。』

 この文面から始まる投稿の最後に添えられた写真は、以前彼女の家で芽衣と共に遊んだとき撮った写真の一部だ。
 偶々背後にアリアのポーチが映りこんでおり、勝手にフォリアの顔を晒すことは躊躇われた琉希は、苦肉の策ではあるが特徴として一つ上げた。

「これは……多分違いますね、日付からして乖離があります」

 自室でコピーし、テープでつなぎ合わせた路線図にバツを入れながらひとり呟く琉希。

 情報は瞬く間に拡散され、琉希の使い捨てアカウントには大量のコメントが寄せられた。
 しかし当然そのすべてが正しいとは限らない。日付、発見した場所等地図へメモを繰り返していく地道な作業の始まりだ。

 恐らくアリアはこの街にはいない。
 フォリアとの諍いを見ていた人間こそ存在しないものの、幸い以前寄った和菓子屋など、彼女が早足で駅の方向へ歩いていく様子は複数人から寄せられている。
 移動手段はほぼ電車だと想定していいだろう。
 フォリアからの生活費などもあるとはいえ、家をほぼ無策で飛び出しているであろう以上無限に金が使えるわけではない、タクシーなどを使うことはほとんどないはずだ。

 まず一週間前、恐らくフォリアが協会に顔を見せなくなった日が起点となる。
 この日の発見情報の真偽判定は簡単だ。最寄りの駅の路線と各駅までの時間、いくつかの物を組み合わせても行動できる距離には限りがあるだろう。
 多めに見積もってもそれに引っかからないものは全て切り捨てていき、恐らく一日目は隣の県にまで足を運んだだろうと睨みが付けられた。

 後は似たような作業の繰り返しだ。
 時間こそかかるものの単純な作業……のはずであった。

「消えた……?」

 しかし四日目、彼女の足取りが途切れた。
 山奥にある田舎の町だ。恐ろしく何もない緑一色、強いて言えば近くにダムとB級ダンジョンが一つ放置されていることくらいだろう。

 そもそもこの方法は賭けの面が強い。
 金髪の容姿端麗な20代に見える女性、滅多にいるわけではないが一切いないとも切り捨てられない、目を引く容姿とはいえ相当曖昧な根拠だけでの捜索だ。
 途中で全く別の人物の情報と入れ違いになる、そもそもが偽の情報であった、条件はともかくとして簡単に途切れてもおかしくはない。

 どうやらこのルートは偽の情報であった可能性が高そうだ。

『琉希ー、飯の時間だぞー』
「……っ、ちょっと休みましょう」

 一つのルートを探るのにも時間がかかる。
 下から自身の名を呼ぶ母の声に集中が途切れた琉希は、彼女へ軽く返事をすると席から立った。



 大量の千切りキャベツ、唐揚げ、なめこの味噌汁、気持ち程度の漬物、そして真っ白なご飯。
 いっそ清々しいまでに男らしい、母の性格を表すような夕食が始まったのは午後七時の事だった。

 黙々と食事を頬張る母の前でちみちみとなめこをつつき、琉希は彼女にどう伝えるか悩み、取りあえずと口を開く。

「えーっと、お母さん」
「なんだ、唐揚げまずかったか? マヨネーズでも付けて食え」

 琉希の言葉を遮り、ぶちゅぶちゅと音を立て唐揚げに振りかけられる大量のマヨネーズ。

 真っ白に染まった油の塊をご飯の上に乗せながら、話をどう切り出すか悩む琉希。
 結局うまい良い訳が思い浮かばず、ここは素直に話してしまおうと腹をくくる。

「あのですね、あたし暫く家を離れたいんですけど」
「どこに行くんだい? あと唐揚げのお代わりいるか?」
「いります。アリアさんが居なくなってしまってですね、彼女のお子さんがあたしの友人でして……」

 わさわさと山盛りにされる唐揚げ。
 年頃の少女がこう唐揚げを大量に貪るのもどうかと思うのだが、探索者という動き回ることをしているとどうにもカロリーの消費が激しく、なんなら部活動をしている同世代よりも食欲旺盛な琉希。
 レベルが上がると体の色々と活発になるのか、探索者になってから肌の調子もいいので、ここは特に抗うこともなく熱々の肉塊を頬張る。

 少女が唐揚げを堪能しているその時、彼女の母は濃く入れた熱い茶を一気に飲み干し、熱い息を漏らした。

「そうか、アリアの記憶戻ったんだな」

 アリアと彼女は同じパートに従事している。
 記憶を失ったことは一大事であったが、そのこと自体は彼女自身気にしておらず、何か問題が起きた場合に備え周囲にも周知していた。
 当然親しくしていた彼女が知らないはずもなく、友人の失踪と彼女の抱える、蘇ったであろう記憶に思いを馳せているようだ。

「はい。それで友達と彼女が喧嘩して家を飛び出したらしく、それを探しに行こうかと思っているのですが……」
「そうか……その子は泣いてたか?」
「え?」

 いきなり飛んできた内容に首を捻る琉希。

 彼女にとっての友人はアリアであり、フォリアについては何度か琉希が話に出していた程度。
 あまり友人らしい友人と交流しているのを見たことがなく、数少ないといってもいい友人のアリアについて何か聞かれるとばかり思っていたので、まさかフォリアについて聞かれるとは想定していなかった。

 彼女は二杯目の粉茶を入れながら、スプーンを琉希に向けぐるぐると回しながら顔をしかめる。

「フォリアちゃんだっけ? アリアが前作業中に言ってたんだよ、娘に酷いことしたってな。随分と思い悩んでた気がするんだが、また泣かせたのか?」
「そう、ですね……ほんの少しだけ」

 『ほんの少しだけ』

 そう単純に言うのは引っかかるものがある。
 命の恩人ともいうべき大切な友人が心を病み、一人抱え、引き籠るほどの状態になるなんて尋常じゃない。
 それを引き起こした原因の一つが彼女だというのなら、たとえそれが何度か出会い、親しくしてくれた人物だとしても良い印象を持つのは難しいだろう。

 しかし彼女は母の友人でもある。
 それ故あまり酷く言うことも躊躇われた。

 しかし彼女の母はその様子を見て感じるものがあったのか、頬を掻きながらため息を吐く。

「別にアタシ相手だからって隠さんで良い、泣いてたんだな? 子供に苦労かけさせたり泣かせる親なんて最低だからな、しっかり殴ってこいよ」

 しかし自分で言った言葉にしっくりこなかったようで、首を捻りながら

「……まあ、あんたに探索者なんてやらせてるアタシが言えることじゃないか」

 と席に着いた。

「い、いえ、あたしが勝手にやってることですので! それに素敵な出会いもしましたし!」

 一回死にましたけど。

 まあ、あれは不幸が重なっただけなので、ノーカンだろう。
 ともかく母の承諾も得られたので、これで憂いはそもそもアリアがどこに行ってしまったのかということだけだろう。

 琉希は温くなった緑茶を一気に煽ると机にコップを置き、母へごちそうさまでした、と伝え二階に戻った。
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