『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

IXA

文字の大きさ
上 下
110 / 257

第百十話

しおりを挟む
 距離はおよそ5メートル、真上から灼熱の太陽光が照り付け、踏み固められ乾いた砂の上に立つのは筋肉と私だけの二人。
 肌の焦げる感覚が緊張感と共に肌へ伝う汗となる。

「そうだな、一発俺に攻撃を入れるかストップ宣言したら終わりにしよう」

 大剣を手に取ることもなく無手、なんなら片手をポケットに突っこんだまま彼が告げた。
 一発入れられるかだ条件だなんて完全に舐められてる、よそ見までして随分余裕綽々じゃないか。

 砂に手を当て・・・・・・、静かに目を瞑る。

 ピンと張った意識はしかしメトロノームのように揺れていた。
 いつ出る? いつ走る? 繰り返される思索は今だと叫び、けれど今出れば纏らない思考に絡めとられ足を縺れさせると理解している。

 落ち着け、整えろ。

 激しく揺れる感情の波は次第に静寂へ、浅い息は深くゆっくりとしたものへと移った。
 そうだ、それでいい……その感情で……



 ……行け!



「うおおお!」

 愚直なまでの猛進、見せかけの怒号。
 砂を巻き上げ、躊躇いもなく一直線にその元へ向かう姿に目を細める男、空気が揺らめき弛緩した僧帽筋がミシリと軋んだ。

 はったりだ。
 たとえ筋肉が油断しているとはいえ経験が違う、このまま傍へ足を運べば無慈悲に叩き潰されてしまうだろうと、そんなのは私にだってわかっている。
 ならば……

「『ステップ』!」

 彼の腕が届かぬ限界の距離、進行方向とは真逆へスキルの導きによって強制的に方向転換させられる私の身体。
 全身の骨が悲鳴を上げ、ピリリと走ったわずかな違和感を振り切り地面を大きく蹴り上げる。

 それは今までの勢い全てを殺し、私の身体を大空へかち上げた。
 風を突き抜けただただ高く、ここには腕どころか彼の大剣だって届きはしない。

「空中に足場はないぞ!」

 遠くなる地面で筋肉が叫んだ。

「かもね……!」

 すり足でその場から軽く身を逸らす彼。私の攻撃が当たらない距離、しかし確実に踏み込んで私を殴り飛ばせる所でしかと構えるつもりだ。
 だがここまでは想定通り。

 筋肉はさっき言ってたよね、機転を利かせる状況に立つなって。
 もしこのまま私が地面に降り立てば、きっと強烈な一撃を叩きこんでこういうはずだ。

『だから言っただろ、危険を避けろって』

 ……と。
 ならばあえてその状況を演じれば、必然的に彼の行動は絞られるはず。

「ヌゥッ!」
「おらっ! 食らえ!」

 そしてそこで裏を掻く!

 空中でばら蒔かれたのは拳一杯に握り締められた砂。
 全力で地面へ投げつけられたそれは激しい雨となり、私のことを目で追っていた筋肉の眼球へ襲い掛かる。

「ぐああーバカなー」

 その刺激は本能的な反射を無理やり引きずり出し、どんな存在でも首を横へ向けさせてしまう。
 やはりどんな高レベルであろうと目に砂が入れば体は動いてしまうもので、筋肉すらも抗うことはできずその太い首を大きく捻ってしまった。

 完璧だ、想像通り……いや、それ以上の成功に心が躍った。

 そう、走り出す直前にたっぷりと握りしめておいたのだよ!
 ぬはぬは! 想定外の目つぶしは痛かろう! 勝った!!

「しねえええええええええええ! 『スカルクラッシュ』!!!」
「お前マジか、あの演技で騙されちゃうのか」


 ガシッ


「ふあっ……!?」
「よっと」

 ポイッ

 空中で掴み上げられたカリバー、抗いようもない強烈な力で振り回され無慈悲に振り払われる私。
 見せつけ、煽るように高々と彼へ持ち上げられた相棒は、私が奪い返そうとジャンプするも、そのたび奪われないようサッと位置を変えられ弄ばれてしまう。

「か、返して……! あだっ」
「はいストップ。まず武器だけに固執するな、それと最後まで油断しない」

 おでこへ軽くカリバーをぶつけられ、無情にも告げられる終了の宣言。
 一撃を叩きこむどころかあっさり作戦の裏を掻かれ、挙句に武器まで奪われてしまう始末。
 淡々と指摘された短所は確かにその通りで、昂った精神の端にわずかに残った冷静な私が正しくだ、しかと頷く。

 思えばそもそもこれは私の欠点を見つめなおし強制してもらう指導、教えてもらった事なのだからそれを無下にする必要もない。
 ……勿論感情的に飲み込み難いものではあるけど、もっと強くなりたい、もっと力が欲しいといったのは私なのだから。

 くっ、次は殺す。

「それにしても死ねはないだろ」
「いやその……ちょっと興奮しちゃって……ごめん」
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。

ヒツキノドカ
ファンタジー
 誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。  そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。  しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。  身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。  そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。  姿は美しい白髪の少女に。  伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。  最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。 ーーーーーー ーーー 閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります! ※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

処理中です...