100 / 257
第百話
しおりを挟む
「うぇ……」
「あっちぃなぁ……」
じめじめとした蒸し暑さ、どこかからか猛々しい唸り声が響く。
視界と行く手を遮る無限の緑、しかし人工の灰色に慣れた私たちにとって何と目にやさしい光景だろう……と感動することはない。
そう、ここはなんとかかんとかとかいう崩壊しかけのダンジョン内部。
門の見た目から即ちそのまま植物系のモンスターが闊歩(?)する土地であり、内部環境自体が熱帯のジャングルさながらの様相を呈している。
要するにめっちゃ蒸し暑いし周りに草木しかない、ダンジョン内部なので虫がいないことだけが救いかな。
「はぁ……」
「少し休むか、ほら」
もう一時間は延々と戦いもなく歩いている。
面白みもなくたまらず漏れた私のため息を聞き、気を利かせた筋肉が指さす先は丁度開けた土地で、どうぞここで休んでくださいといわんばかり。
おあつらえ向きに大きな葉っぱが二枚広がっているし、腰掛けるのにちょうどよさそうだ。
青臭い匂いからかすかに漂う甘い香り、木々の隙間から漏れた風に乗せられ私を誘う。
きっとこれはあそこに生えた黄色い花の物だろう、迷宮内にいるとは思えない平和そのもの。
「いいか、こういう開けた場所はまず警戒を怠るなよ。モンスター側もこちらを捕捉しやすい上、罠が仕掛けられている可能性を考慮し……」
「あー、つかれた……ァ!?」
後ろで筋肉が何か言っている。
目の前の大きな葉へ座ろうとしたその瞬間、
ニチッ
視界の暗転、ぷんと一層強く漂う甘い香り。
『ーーー!』
「は? え?」
体が動かない。
なにかみっちりとぬめらかなものに全身が包まれていて、その上ギリギリとゆっくり締め付けられる感触があった。
真っ暗だしなんか肌はピリピリするし、挙句にくらくらとしてしまうほど濃厚な甘い匂い、こんなところにずっといたら頭がおかしくなりそうだ。
「うぁ……げぇふ……」
まずい……呼吸、できなく……意識……
「きょ……『巨大化』……」
只真っ直ぐに。
掌から背後をすり抜け天を穿ち、私の身体を包み込み強固に閉じられた『ナニカ』を貫くカリバー。
頭上から零れる光、ほんのわずかに緩んだ束縛と新鮮な空気を吸い込むと、ぼんやり靄のかかった思考が多少はクリアになった。
やってくれたなクソ。
「『アイテムボックス』」
空間が生まれ自由になった指先へ伝わる温かな感触。
いったい何のモンスターかは知らない、だが魔石というだけで今は十分価値がある。
全力で握り締めたその時、薄暗い小さな空間へ光が溢れ出した。
砕ける音が手に伝わり、耳を劈き暴力的なまでの爆発音が耳の奥底へ雪崩れ込んでくる。
爆破の一瞬広がった空間の真ん中、私は……
「ああああああ! うるさああああ!? 『ストライク』ッ!」
全力でカリバーを振り回した。
「うおっ、出てきた」
「あ、筋肉」
私を包んでいた草をげしげしと踏みつつ外へ抜け出すと、何やら身構えた筋肉の姿。
曰く私を助け出そうとしていたようだが、まあこの程度私にかかれば簡単に対処できてしまうので何の問題もない、鳥取クローという物だ。
ふふん、まあ余裕よよゆー。
――――――――――――――――
種族 バジリスクキラー
名前 イレイ
LV 1000
HP 5003/10024 MP 1021
物攻 1087 魔攻 3475
耐久 9085 俊敏 754
知力 43 運 11
――――――――――――――――
それにしても私を包んでいた葉っぱ、どうやら一枚だけではなく何枚もが折り重なっていたらしい。
モンスターではないかと思っていたのだがやはり、しかし今まで戦ってきたモンスターのように知的な行動をしてくるというわけでもなく、やはり植物というわけだろう。
上の葉っぱはぐちゃぐちゃだというのに体力はいまだ半分以上残っていて、ここもやはり私の知っている植物同様、葉っぱが切り取られても根っこが残っていれば問題ないのか。
レベルこそ低いがなかなか侮れないモンスターだ、多少レベルが高い程度であれば難なく食われてしまったかもしれない。
んー……ばじりすく……たしかイタリアンの奴に乗っかっている葉っぱだっけ。
食用みたいな名前して随分とえぐい攻撃をしてくれたな、おらおら。
残ったはっぱをげしげしと蹴っていると、筋肉が微妙な顔つきでこちらを見ていることに気付く。
「--いつもこんな無茶な事してるのか」
「ん? 何が?」
『合計、レベルが3上昇しました』
「……はぁ、取りあえず服着替えとけ」
指摘されて下を見れば爆発の勢いでお腹のあたりの服が吹き飛んでしまったらしい。
なにか顔を赤らめて言われたのならまた別の話だが、淡々と指摘されてしまえば私も特に反応することもない。
まあ琉希のように普通の成長をしているのならともかく、私の身体を見てそんな反応をされても困るのだが。
そんな感じで着替えた私と筋肉、そしてモンスターの居なくなったそこでしばしの休憩が始まった。
「あっちぃなぁ……」
じめじめとした蒸し暑さ、どこかからか猛々しい唸り声が響く。
視界と行く手を遮る無限の緑、しかし人工の灰色に慣れた私たちにとって何と目にやさしい光景だろう……と感動することはない。
そう、ここはなんとかかんとかとかいう崩壊しかけのダンジョン内部。
門の見た目から即ちそのまま植物系のモンスターが闊歩(?)する土地であり、内部環境自体が熱帯のジャングルさながらの様相を呈している。
要するにめっちゃ蒸し暑いし周りに草木しかない、ダンジョン内部なので虫がいないことだけが救いかな。
「はぁ……」
「少し休むか、ほら」
もう一時間は延々と戦いもなく歩いている。
面白みもなくたまらず漏れた私のため息を聞き、気を利かせた筋肉が指さす先は丁度開けた土地で、どうぞここで休んでくださいといわんばかり。
おあつらえ向きに大きな葉っぱが二枚広がっているし、腰掛けるのにちょうどよさそうだ。
青臭い匂いからかすかに漂う甘い香り、木々の隙間から漏れた風に乗せられ私を誘う。
きっとこれはあそこに生えた黄色い花の物だろう、迷宮内にいるとは思えない平和そのもの。
「いいか、こういう開けた場所はまず警戒を怠るなよ。モンスター側もこちらを捕捉しやすい上、罠が仕掛けられている可能性を考慮し……」
「あー、つかれた……ァ!?」
後ろで筋肉が何か言っている。
目の前の大きな葉へ座ろうとしたその瞬間、
ニチッ
視界の暗転、ぷんと一層強く漂う甘い香り。
『ーーー!』
「は? え?」
体が動かない。
なにかみっちりとぬめらかなものに全身が包まれていて、その上ギリギリとゆっくり締め付けられる感触があった。
真っ暗だしなんか肌はピリピリするし、挙句にくらくらとしてしまうほど濃厚な甘い匂い、こんなところにずっといたら頭がおかしくなりそうだ。
「うぁ……げぇふ……」
まずい……呼吸、できなく……意識……
「きょ……『巨大化』……」
只真っ直ぐに。
掌から背後をすり抜け天を穿ち、私の身体を包み込み強固に閉じられた『ナニカ』を貫くカリバー。
頭上から零れる光、ほんのわずかに緩んだ束縛と新鮮な空気を吸い込むと、ぼんやり靄のかかった思考が多少はクリアになった。
やってくれたなクソ。
「『アイテムボックス』」
空間が生まれ自由になった指先へ伝わる温かな感触。
いったい何のモンスターかは知らない、だが魔石というだけで今は十分価値がある。
全力で握り締めたその時、薄暗い小さな空間へ光が溢れ出した。
砕ける音が手に伝わり、耳を劈き暴力的なまでの爆発音が耳の奥底へ雪崩れ込んでくる。
爆破の一瞬広がった空間の真ん中、私は……
「ああああああ! うるさああああ!? 『ストライク』ッ!」
全力でカリバーを振り回した。
「うおっ、出てきた」
「あ、筋肉」
私を包んでいた草をげしげしと踏みつつ外へ抜け出すと、何やら身構えた筋肉の姿。
曰く私を助け出そうとしていたようだが、まあこの程度私にかかれば簡単に対処できてしまうので何の問題もない、鳥取クローという物だ。
ふふん、まあ余裕よよゆー。
――――――――――――――――
種族 バジリスクキラー
名前 イレイ
LV 1000
HP 5003/10024 MP 1021
物攻 1087 魔攻 3475
耐久 9085 俊敏 754
知力 43 運 11
――――――――――――――――
それにしても私を包んでいた葉っぱ、どうやら一枚だけではなく何枚もが折り重なっていたらしい。
モンスターではないかと思っていたのだがやはり、しかし今まで戦ってきたモンスターのように知的な行動をしてくるというわけでもなく、やはり植物というわけだろう。
上の葉っぱはぐちゃぐちゃだというのに体力はいまだ半分以上残っていて、ここもやはり私の知っている植物同様、葉っぱが切り取られても根っこが残っていれば問題ないのか。
レベルこそ低いがなかなか侮れないモンスターだ、多少レベルが高い程度であれば難なく食われてしまったかもしれない。
んー……ばじりすく……たしかイタリアンの奴に乗っかっている葉っぱだっけ。
食用みたいな名前して随分とえぐい攻撃をしてくれたな、おらおら。
残ったはっぱをげしげしと蹴っていると、筋肉が微妙な顔つきでこちらを見ていることに気付く。
「--いつもこんな無茶な事してるのか」
「ん? 何が?」
『合計、レベルが3上昇しました』
「……はぁ、取りあえず服着替えとけ」
指摘されて下を見れば爆発の勢いでお腹のあたりの服が吹き飛んでしまったらしい。
なにか顔を赤らめて言われたのならまた別の話だが、淡々と指摘されてしまえば私も特に反応することもない。
まあ琉希のように普通の成長をしているのならともかく、私の身体を見てそんな反応をされても困るのだが。
そんな感じで着替えた私と筋肉、そしてモンスターの居なくなったそこでしばしの休憩が始まった。
13
お気に入りに追加
713
あなたにおすすめの小説

異世界に落ちたら若返りました。
アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。
夫との2人暮らし。
何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。
そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー
気がついたら知らない場所!?
しかもなんかやたらと若返ってない!?
なんで!?
そんなおばあちゃんのお話です。
更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?
サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。
*この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。
**週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!

さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。
ヒツキノドカ
ファンタジー
誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。
そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。
しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。
身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。
そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。
姿は美しい白髪の少女に。
伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。
最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。
ーーーーーー
ーーー
閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります!
※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!

竜騎士の俺は勇者達によって無能者とされて王国から追放されました、俺にこんな事をしてきた勇者達はしっかりお返しをしてやります
しまうま弁当
ファンタジー
ホルキス王家に仕えていた竜騎士のジャンはある日大勇者クレシーと大賢者ラズバーによって追放を言い渡されたのだった。
納得できないジャンは必死に勇者クレシーに訴えたが、ジャンの意見は聞き入れられずにそのまま国外追放となってしまう。
ジャンは必ずクレシーとラズバーにこのお返しをすると誓ったのだった。
そしてジャンは国外にでるために国境の町カリーナに向かったのだが、国境の町カリーナが攻撃されてジャンも巻き込まれてしまったのだった。
竜騎士ジャンの無双活劇が今始まります。

職業・遊び人となったら追放されたけれど、追放先で覚醒し無双しちゃいました!
よっしぃ
ファンタジー
この物語は、通常1つの職業を選定する所を、一つ目で遊び人を選定してしまい何とか別の職業を、と思い3つとも遊び人を選定してしまったデルクが、成長して無双する話。
10歳を過ぎると皆教会へ赴き、自身の職業を選定してもらうが、デルク・コーネインはここでまさかの遊び人になってしまう。最高3つの職業を選べるが、その分成長速度が遅くなるも、2つ目を選定。
ここでも前代未聞の遊び人。止められるも3度目の正直で挑むも結果は遊び人。
同年代の連中は皆良い職業を選定してもらい、どんどん成長していく。
皆に馬鹿にされ、蔑まれ、馬鹿にされ、それでも何とかレベル上げを行うデルク。
こんな中2年ほど経って、12歳になった頃、1歳年下の11歳の1人の少女セシル・ヴァウテルスと出会う。凄い職業を得たが、成長が遅すぎると見捨てられた彼女。そんな2人がダンジョンで出会い、脱出不可能といわれているダンジョン下層からの脱出を、2人で成長していく事で不可能を可能にしていく。
そんな中2人を馬鹿にし、死地に追い込んだ同年代の連中や年上の冒険者は、中層への攻略を急ぐあまり、成長速度の遅い上位職を得たデルクの幼馴染の2人をダンジョンの大穴に突き落とし排除してしまう。
しかし奇跡的にもデルクはこの2人の命を救う事ができ、セシルを含めた4人で辛うじてダンジョンを脱出。
その後自分達をこんな所に追い込んだ連中と対峙する事になるが、ダンジョン下層で成長した4人にかなう冒険者はおらず、自らの愚かな行為に自滅してしまう。
そして、成長した遊び人の職業、実は成長すればどんな職業へもジョブチェンジできる最高の職業でした!
更に未だかつて同じ職業を3つ引いた人物がいなかったために、その結果がどうなるかわかっていなかった事もあり、その結果がとんでもない事になる。
これはのちに伝説となる4人を中心とする成長物語。
ダンジョン脱出までは辛抱の連続ですが、その後はざまぁな展開が待っています。

異世界人生を楽しみたい そのためにも赤ん坊から努力する
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前は朝霧 雷斗(アサギリ ライト)
前世の記憶を持ったまま僕は別の世界に転生した
生まれてからすぐに両親の持っていた本を読み魔法があることを学ぶ
魔力は筋力と同じ、訓練をすれば上達する
ということで努力していくことにしました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる