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第九十話

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「な……何故……」
「私が報告したからよ。まさか第一人者である貴女がそこまで重大な情報を隠し持って……他国と内通し技術を売り払おうとしていたなんて、ね。ずっとこの研究について反対していたのはまさか、大金と共に隣国へ亡命でもする予定だったのかしらぁ?」
「……は? 何言ってるんだよお前」

 自分自身思ってもいない内容、いや、この小さなエルフが思いつくわけもない筋書き・・・をつらつらと語るクラリス。

 学会の異端児として名を馳せ、革命的な発明を次々と発表していたカナリア。
 彼女の存在によってこの国、さらにはこの世界そのものの技術は、この数十年で飛躍的に向上していった。

 だがそういった技術の発信は彼女が裏で発見し、『次元の狭間』と名付けた存在、そして研究の隠れ蓑に過ぎなかった。
 最終的にこれは人類の手に余ると結論付け、研究結果の抹消を決定したのだが……

「でも残念でしたぁ。貴女が内密に処理しようとしていた資料すべては私が回収したの、気付かなかったでしょ? 既に研究と試運転は始まっているわぁ」
「おま……お前…………!」

 幼馴染であり良き理解者だと思っていたクラリス。
 だが普段彼女が浮かべていた笑みの裏に渦巻く怒りや嫉妬を、カナリアは今の今まで気づくことが出来なかった。
 ふとした日常での違和感からカナリアの身辺を調べたクラリスは、彼女が情報を破棄する直前で『次元の狭間』の存在を知ることとなったのだ。

 クラリスの話に絶句し、パクパクと口を開くだけのカナリア。
 彼女にとっては初耳、しかし周りの人は平然としており既に織り込み済みの様子。
 たった一人、誰からも気付かれることなく観察している……半分ほど上の空だが……未来からの目撃者を除いて。

「天へ続く蒼の塔・・・、ここからも見えるでしょう? あれも研究の一環、いえ、研究の要よ。世界そのものへ干渉するために建てられたの」
「……! まさか……だってお前、あれは新しい観光名所だって……! 一緒に行こうって言ってたじゃないか!」
「……どうしてこんな頭お花畑に負けていたのかしら。」

 立ち上がりクラリスへ飛び掛かろうと怒りをむき出しにするも、軽く鎖をひかれただけでその小さな身は地面へと這いつくばり、何もなすことはできない。
 嘲笑う彼女の足元、カナリアは精いっぱいの声を張る。

「聞いてくれ王よ! あれは人類には早過ぎる、いや、手を出してはならない存在なんだ! どんな悪影響があるのか……」



「その悪影響とやらは『異世界』へのことか?」

『……!?』

 視界の端でちらちら動いていた王?とやらの言葉を聞き、心臓を鷲掴まれたような衝撃が走った。
 どうせ関係ないことだと、異世界のことだと高をくくっていた私の脳天を叩いて注意を促すような、そんな感覚。

 ま、ままっ、まさささささっまさか、ね。
 異世界ったって、私たちの世界であるとは限らない。
 ……だよね?

「な、ならば! 聡明な王ならばご理解下さるはず! 下手をすれば無辜の民、いや、異世界そのものが犠牲に……!」
「勘違いしているようだが……王という物は国と一心同体、己が国を導き、富ませることこそが使命であり運命なのだよ。その過程において必要なら周辺各国へ首を垂れ、罪を背負い身を削る。だが『次元の狭間』に眠る魔力は誰のものでもなく、恒久的に湧く得難い資源よ。万が一には異世界の存在が犠牲になる、それは悲しいこと」

「しかし己が国のためなれば、些末な事よ」

 もういいだろう。
 椅子から立ち上がり、背を向けその場から去る王とやら。
 入れ替わってカナリアの前に立ったのはクラリス、無言で会話を見ていた彼女は下卑た笑みを隠さない。

 言っている事がよく分からなかった。
 もっとわかりやすく言ってほしい。

「可哀そうだけれどごめんなさいねぇ、あの人国のためなら冤罪とか関係ないのよ。残念だけれど隠してたって事実を報告された時点で貴女は……」

 あら? 報告したの私だったわぁ。

 クスクス、ケラケラと。
 口角を歪ませひとしきり嗤った彼女は、項垂れたカナリアを見下ろし……ふと思い出したようにしゃがみこんだ。

「そういえば貴女の処刑方法知ってるかしら? 大好きな次元の狭間に放り込まれるらしいわよぉ? 確か中に入ったものはぜぇんぶ魔力に変換されて消えるなんて貴女の資料には書いてあったわね。大丈夫、その魔力も全部汲み上げて私たちが大切に使ってあげるわぁ」

 ツンツンと長い爪でカナリアの頬をつつきながら、にやついた表情で彼女の処刑方法とやらを語る。

 うーん……?
 この次元の狭間ってやつ、なんか所々で聞いたことあるような、ないような話が……あるような……ないような……?
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