『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

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第八十三話

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 ミチィッ!

 柔らかいのに硬い。
 ビリビリとしびれる刺激が両掌に広がり、筋肉が、肌が震える。
 痛い。
 
 しなやかな毛皮の奥に隠れた強靭な筋肉と頑丈な骨、三つが組み合わさった狼の体は天然の複合装甲となって攻撃の衝撃を緩める。
 伊達さんへ近づけた口を遠ざけ私を睨み、だがこれといってダメージを負った様子はなかった。

 これでも細い木なら容易くぶっ飛ばしてしまえるはずなのだが……ふざけたやつだ。

「しょあっ! おほほ、ごめんあそばせ!」

 遅れて動き出した安心院さんが二人を飛び越し転がり、そのまま伊達さんを小脇に抱え距離をとる。
 彼がポーションを口に含んだのを目の端でとらえつつ牽制、二人のもとへ狼の意識がいかないように祈り振り回されるカリバー。

『クルルル……』

 ひょー、で、でかい……

 近づくほどに覇気が毛穴を開き、本能的な忌避感に脳が掻き毟られる。
 実際長さで比べたのならダチョウたちの方が上なのだろうが、空へ伸びる鳥と違って極太の手足や燃え盛る毛皮、鋭い眼光がかの存在をより一層恐怖の存在へと押し上げていた。
 生まれながらの絶対的な強者、四肢に力を滾らせたその大狼は凛として存在を私に知らしめる。

 少しでも目を逸らせば、一瞬で詰められて殺されるだろう。
 確信に冷や汗が止まらない。
 鳥だって、蛾だって相当な強敵だっていうのに、こいつはそんなの鼻で笑ってしまうほどの力が滾っているのを、わずかに対峙しただけで嫌というほど分からせて来る。

「……!」

 なにも見えなかった、ただ影が消えた。だから・・・跳んだ。

 草が吹き飛ぶ。土が抉れる。

 奴はただそこに居た、数舜前に私が立っていた場所に。
 元からそこにいたのだとでもいうように、なんの気負いもなく。色の変わった足元だけが、奴がそこに飛び掛かったことを示していた。

「……っ、ハァッ……! ハァっ……!」

 速過ぎる……!
 本当に気が付いたら居ましたって、冗談じゃない。
 どうにか距離を少しは取れたがこの速さ、ちょっとでも気が緩めばすぐに詰められてかみ殺されるだろう。

 緊張で息が上がる。

 どうやって、どうやってダメージを……いや、せめて皆で逃げる隙を……

「ィィイイイッヤッ!」
「あ、安心院さん……!」 

 その時、背後から奇声を上げ跳びあがった彼女。
 あまりの大声にびくりと声に震えた狼、息もつかぬ刹那に彼女は首元へと肉薄し、固く握られた拳を叩きこんだ。

 が、

「なっ……」

 一体どういったわけか、安心院さんはそのままずっぷり沈み込むように体に飲み込まれたかと思えば彼女の一撃は狼の体をすり抜け・・・・空を切る。
 勢いあまって土を跳ね飛ばし着地、彼女は大きく目を見開き振り返った。

 私を襲って来た時のように高速移動したわけでもない、それは私だって見ていたのだから確かだ。
 そこからピタリとも動いていないというのに、この大狼に間違いなく安心院さん攻撃は当たっていたというのに、なぜかするりと身体をすり抜けてしまった。

 奇襲や搦め手を恐れたのか、それとも私たち……いや、彼女を明確な脅威として判断したのか、狼はその顔を低く伏せ唸り動こうとしない。
 今なら……

「……『鑑定』」

――――――――――――――――


プロメリュオス・ディヴィジョン
名前 

LV 55000
HP 590383/610383 MP 6890/6890
物攻 222048 魔攻 87362
耐久 110038 俊敏 300183
知力 88797 運 44

――――――――――――――――

 ごま……っ!?
 まさかこいつ、ここのボスなのか。
 数日とはいえずっとここに潜っていた私が見たことのない姿、明らかに先ほどの鳥たちと比べても飛びぬけたレベル。崩壊が始まった影響でボスエリアから離れて出てきた、そういうことなのだろう。

 目に飛び込んできたのは、もしかしたら一人で抑えられるかもしれない、なんて最初の頃考えていた私を嘲笑うかのように飛びぬけた異常なステータス。
 最初から勝ち目なんてなかった、間に合わせることなんて無理だった。

 情けないやら、無力感に苛立たしいやら、もう自分の感情が分からない。
 もっと力があれば、もっと早くに向かっていればこんなことにはならなかったのに。

 安心院さんと狼の睨み合いへ迂闊に手を出すこともできず、私はただ臍を噛むことしかできなかった。
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