『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

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第八十一話

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「しょ、それは……」

 なんだ、何を疑われてるんだ……?

 ニコニコと先ほどと変わらぬ雰囲気、けれどどこかピンと張り詰める何かを感じる。
 私がダンジョンの崩壊が起こることを知っていたと、そういいたいのか? 落ち着け、それは流石にあり得ない。

 続けざまに安心院さんは、私から何か聞き出そうと詰めてくる。

「侵入時刻は十四時四十七分、トライするにしては少しばかり遅い時間ですわね?」
「お、お昼休みも終わったし、腹ごなしかな」

 まだ、私が金髪の女だと思っている?
 何かを企んでいるとでも思っているのか……?

「安心院、そろそろ準備しろ」
「……困ったことがあれば何でも相談をしてくださいまし、ね?」

 完全に把握されてそう……




 困りましたわね……

 へにょりと眉を八の字にするフォリアを見て、安心院は内心どうしたものかとため息を吐いた。

 監視カメラの映像からして探索者の出入りがあった夜までダンジョンから出ることは可能、深夜遅くになってからダンジョンの崩壊が始まったと推測される。
 つまり深夜までこの少女は、ダンジョンから出ようとしなかったと考えられるのだ。
 いったいどうして、どんな理由があって?

 あまり大きな声で言えるようなことではないが、正直ダンジョンの管理はザルだ。
 大きな街では監視カメラ等が設置されているとはいえ、老若男女侵入しようと思えば、探索者等の許可証がなくともいくらでも入り込むことが出来る。
 第一エコな資源の獲得だ、人類の新たなる可能性だと謳って、許可証自体の入手も簡単すぎることを批判する声は多い。
 社会的には最終的な受け口としての役目もあり、一概にそれが悪いとも言えないのだが。

 もちろんそれだけ簡単に入ることが出来るのなら、悪用するものだって出てくる。
 子供をダンジョンで戦わせ、魔石だけは自分で売り払うことで利益を得ようとする親や、あまりよろしくない組織の者たちだ。
 恐怖や金など、彼らがその束縛から離れられない理由は多岐にわたる。だが間違いなくその犯罪として引っかかりにくい悪の芽は、確実に社会へ暗い影を伸ばしつつある。
 法整備だって未だに完全ではない、どうにかしっぽを捕まえ、そこから検挙へ繋げるのも安心院達の職務の一環であった。

 そう、安心院はフォリアが虐待の末、何やらそういったものに指示されているのではないかと疑っている。

 妙にいろいろと怯えた様子と言い、どこか落ち着かない動きと言い、正に教本に乗っていた通りですわ。
 体が小さいのはもしかしたら、まともに食事を与えられていなかったからかもしれませんわね。

 めらりと燃え上がる正義の精神、安心院は拳を握り締め、人生初となる巨悪の影に武者震いをした。……後ろで呆れたように眉を顰める、先輩の伊達に気付かないまま。

「まあ、仕方ありませんわね。では伊達さん……」
「ああ、まずは情報共有と行こうか……えーっと」
「あ、私? えっと、その、結城、だけど」
「結城か。よし、これより俺たちは入り口に向かってボスの討伐部隊と合流する。どんな奴かは分からんが、そいつを倒さないとここから出ることなんて出来ないからな……完全に崩壊したときはまた別だが」

 彼女の家庭環境などは置いておいて、それよりまずはここからの脱出が最優先。
 伊達の言葉に続けて、安心院は懐中時計を『アイテムボックス』から取り出すと、そっと二人の前へ置いた。

「丁度あと30分もすれば作戦決行時刻になりますわ」
「ああ。さっきの戦闘を見ていたら分かるだろうが、俺たちはある程度戦闘技能を備えている。君が戦闘に関わることはないし、合流までは基本的に守られる立場、合流後は後方支援として動いてもらいたい。おそらく突入部隊と言っても人数は相当絞られるからな、一人でも手が欲しいだろう」
「あ……うん。でも、私、戦えるし……せめて合流するまでは一緒に戦った方が……」

 積極的に戦闘へ参加しようとするその心持ち、それはありがたいものだ。
 だが彼女の体はきっと彼女が思っているより疲弊している。それは自身の疲労にすら気付けていない状況が、何よりもはっきりと示している。
 それに……

「少しは信頼してもらいたいですわ」
「ああ。こいつみたいに情けないところもまあ多々あるけど、これでも俺達は人守るためにこの仕事ついてんだわ」
「はぁ!? なんですのその言いよう!?」

 解せませんわ。
 私のいったいどこが情けないのかしら。
 今日はちょっとばかり考えなしに出てきてしまったところはあれど、これでも警察学校では優秀な成績を収めてきたつもりですわ……いや、今はそんなことを言っている暇はありませんわね。

 軽く首を振り、脇へ逸れた考えを振り払う。

 時々子供でも頭を抱えるような失態を犯す者や、組織の一部が腐り果てているところもあれど、警察という物に就く人間は多かれ少なかれ誰かを助けたいという精神でこの仕事に就く。
 特に昨今は人類がレベルアップという力を手に入れ、単純な暴力沙汰ですらかつての事件とは比べ物にならないほど、飛躍的に危険度が増している。
 それでも就くと決めてなったのだから、そう簡単に舐められては困る。

「大丈夫ですわ。私たちがきっと、あなたを守ってあげます」

 ぽんぽんとその金髪を撫で、安心院と伊達は互いに頷いた。
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