『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

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第七十八話

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『ケェッ?』
『ココ?』

 木の影から真ん丸な奴らがひょっこりと顔を出し、くりくりとつぶらな瞳でこちらを見る。
 せめて腰くらいの高さならまだかわいげがあるのだが、どいつもこいつも数メートルの巨体で爆走して来るのだから、愛おしさのかけらも感じない。
 ぶっとばしたい。

「まだ出てくるの……!?」

 苛立ちにため息でも一つ吐いてやりたい気分だが、そんなことをする暇もない。
 気の抜けるような鳴き声だが既に同じ声を上げる存在を数時間殺して来たので、いい加減にうんざりしてきた。

 広大な森。たとえ共食いをしていたとして、それでも次から次へ湧いてくるモンスターは一向に尽きることがない。
 こんな状況だというのにレベルが上がる度、どこかふわふわとした、非現実的な感覚に襲われる。
 うまく事の進まない現状に間違いなく心は苛立っている……はずなのだが、自分の心が自分のものじゃないみたいに、愉快な感情が勝手に湧き出してくる。
 これがランランハイハイというやつか? 自分の感情が気持ち悪いと思ったのは初めてだ。

 疲れて変になってるのかな……

 固まった眉間をほぐしぎゅっと相棒の柄を握る。

 幸か不幸か、ダンジョン崩壊の最初も最初、出だしに遭遇することができたおかげで、今のところ敵のレベルに対応しきれないということはない。
 もちろん相手のレベルにばらつきがあるのはそうだが、こちらだって数か月頑張って戦ってきたので多少のレベル差なら何とか覆せるし、なにより相手のレベルが上がるほど私のレベルも加速的に上昇する。
 これは『スキル累乗』と『経験値上昇』の組み合わせができるからこそで、普通の人ならこうはいかなかっただろう。

 だが遭遇するモンスター……ほとんど巨大ダチョウだが、蛾はレベル差があるダチョウに一方的に食われている……自体のレベルも、猛烈な勢いで上がってきている。
 きっと丸ごと食べているので、私同様に経験値か魔力を余すことなく吸収して、すべてレベルアップにつながっているんだと思う。
 要するに滅茶苦茶ギリギリの状態なのだ、戦う手を止めると相手のレベル上昇速度が上回ってしまうから。

 私と同じようなレベル上昇をする存在がここまで厄介だとは思ってもいなかった……

 泣きたい。
 めっちゃ泣きたい。
 インチキレベルアップも大概にしろ、ずるをしてレベルを上げるなんてずるいぞ。
 大体モンスターがレベルアップするとかダメだろどう考えても、大食いでカレー食べてるときに突然カレーがどんどん辛くなったら困るでしょ。

 何よりもきついのは敵の体が大きくなることで、殴ろうとまともに攻撃が入らないこと。
 『巨大化』と『累乗ストライク』の併用はMP的にも、肉体的にも消耗が激しく、治るとはいえ使う度に走る全身への激痛は、精神的にもこちらを疲弊させてくる。

「くっ……『巨大か……」

 唱えた瞬間からずしりと来るはずの重さは、そのわずかな片鱗すら見せてはくれなかった。
 いや、重さだけではなく、スキルを使ったとき特有の、体へ何かが巡る感覚もない。

 MPが切れたんだ……!

 ステータスを開くまでもない、疲労で鈍くなった頭でもそれは直感で理解できた。

 多少睡眠をとったとはいえ二日間戦い続けた結果、レベルアップでは回復しないのもあって、ついにスキルを一回発動するだけのMPすらも切れてしまった。
 何より私は『スキル累乗』によって重ね掛けした分だけ、消費するMPが跳ね上がる。
 ここまで持っただけマシかもしれない。

 にしたってこれはいかんね、どうしたものか。
 失敗前提、死ぬ覚悟。ダンジョン崩壊が起こった場合間違いなく死ぬとは思っていたが、あっさり死んでたまるか。
 私はまだ、やってないことが星の数だけあるんだから。

 一瞬ぶれた意識の間隙を縫い、一斉に鳥たちは全身へ炎を纏い、地を駈けた。
 こちらへ驀進する炎の塊。体は大きくなろうと何の問題もなく、ダチョウの技は扱えるらしい。

「しぃ……っ!」

 ギリギリではあったが直前に気付くことで、地面を転がりながらの回避は間に合った。

 激しい熱波が背中を駆け抜け、髪が熱に犯される匂いが鼻を衝く。

 ズゥゥ…………ン

 勢いを抑えきれなかったのだろう、
 私が数人手を広げたって覆えそうにない大きな幹も、その巨体による突進にはひとたまりもなく、メキメキと嫌な音を立てへし折られる。
 しかしそれをものともしない。纏わりついた木屑を身震い一つ、無傷ではい出てきたダチョウは長い首で辺りを見回し仲間と何やら合図を取ると、再び獲物わたしをただまっすぐに見据えた。

 『経験値上昇』にかけた『スキル累乗』を一旦解除して魔石を確保、即砕いてぶん投げて全力ダッシュ……かな。
 多少ダメージを食らうのは前提で行くしかないよね……嫌だなぁ、痛いの。
 あの赤と白の肉が裂け、罅が入った骨が軋み、筋肉が震えて痛みを伝える感覚は永遠に慣れることはなさそうだ。

 よし、行くぞ。ぶっ飛ばすぞ。

「う……お、お、おぉぉぉ!!」

 震える膝を押しつぶす勝鬨、疲労を吹き飛ばす絶叫……を上げた瞬間、突然横から何かが駆け抜けてきた。

「行け安心院!」
「かっ、確保ぉぉぉぉぉぉッ!」
「ほげぇっ!?」

 どこかで聞いたことのある男の声と、どこかで見たことのある巻かれた黒髪。
 誰かが猛烈な勢いで腹に突き刺さってきたと思ったら、さっきまで私を喰おうと睨みつけてきた鳥たちの頭が次々に爆散した。

 え、なにこれ。
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