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第六十八話 モスバスター
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最後に普段より重いリュックを背負い、拘束ベルトをしっかりと嵌めていく。
上半身ほどあるとはいえぴったりフィット、これで準備は完了だ。
……が、
「んー……微妙」
手足を軽く捻り動かし調子を確かめるが、どうも落ち着かない。
その原因は私の足を包み込む青いアレ、ジーンズのせいだ。
あの蛾の何より厄介なのは、手足に張り付く鋭い毛や鱗粉。
動きやすく足を守れるものということで選んだのだが、聞いていた話と違ってってとても硬い。
ごわごわを通り越してごわってぃだ。
なんだあの店員は、どうしてプロテインといい店員は嘘をつくのか。
不満に合わせてカリバーをぶんぶん振り回し、数時間ぶりの『炎来』、その門へと足を運ぶ。
時刻は既に夕方。
あれだけいた人々も既に去った後のようで、辺りには人っ子一人いない。
子供も間違えて入ってしまえば危険だからだろう、昼間はなかった柵が突き立てられていた。
濡れ内容にだろう、シートの被せられた台から地図を一枚抜き取れば、そこには適当に描かれた円形の図。
門を中心として広がった円形の森、それが『炎来ダンジョン』の基本的な形らしい。
それにしたってあまりに簡素過ぎてどうなんだ。まあ書くことが特にないほど、ただの広々とした森ということなのかもしれないが。
ぐにゃりと歪んだ門の先、昼間の様に明るい燃え盛る木々。
一応空は次第に暗くなっているのだが、こうも明かりが周りにあればそんなのは関係ない、ということなのだろう。
景色はまだ特に変化なし、ダンジョンの崩壊がこの先起こるかもしれないだなんて、この風景を見慣れた人間には思いもよらない……かもしれない。
「……よし」
パチパチと炎が爆ぜる音を背に、緊張からかピクピクと勝手に動く瞼をぎゅっと閉じ、胸の奥底に溜まった息を吐きだす。
大丈夫だ、大丈夫。
ダンジョン崩壊が起こる確証なんてないんだ、落ち着いてレベルを上げよう。
あそこが崩壊するかも、なんて虚言は日々あちこちで飛び交っていて、今回のそれだって起こらない可能性の方が、起こる可能性よりも何倍も高い。
第一助けてくれた人が言った話とはいえ、証拠もないのに完全に信じるだなんて狂ってる。
このレベル上げはハレー彗星の噂話を信じた人が、無駄にタイヤを買い込んだのと同じで、いつか笑い話としてネタになるかもしれないからやるだけ。
お腹の奥底にこびり付いた不気味な確信を覆い隠すように、自分の気持ちを軽くするように、いくつもの言い訳を積み重ねていく。
暫しそうやって自己暗示をしていると、何か柔らかなものがこすれ合う音が鼓膜を叩いた。
……来た。
音のする方向へ首を傾け、こちらへゆらゆらと近寄ってくる蛾を睨みつける。
――――――――――――――――
種族 モスプロード
名前 コットン
LV 1200
HP 4323 MP 3021
物攻 376 魔攻 4542
耐久 377 俊敏 199
知力 650 運 38
――――――――――――――――
「『ステップ』! 『ストライク』! 『ステップ』!」
地面を蹴り飛ばし、スキルの導きに逆らって蛾へ飛び掛かる。
以前と違って積極的に私が攻撃へ向かったからだろう、ゆらりゆらりと、ゆっくり旋回してその場から立ち去ろうと行動を始めた。
やっぱり、遅い。
思った通りの行動。
そのままストライク走法でその身を抜き去り、真正面へと立ちふさがる。
確かにこいつの爆ぜる針は厄介だ。
だが効果が発揮されるのには時間がかかるし、その前に行動を終えれば何の価値もない。
私の高い俊敏値と危険な走法の組み合わせは、同レベル帯では比肩する者がいないだろう。
最初こそ気を抜いていたが、魔攻に特化したこいつのステータスでは、いくら逃げたくとも逃げられまい。
「『巨大化』! ……っ! せやっ!」
ドンッ!
上昇して逃げるより素早く振るわれ、その身に届くほど長く伸びたカリバーが打ち据え、鈍い水音を響かせる。
そのまま遠心力に身体を振り回され、二度、三度と激しく地面の草を飛び散らす。
翅は折れ曲がり、ヤシの葉じみた触角は千切れ、その柔らかな腹は大きく凹んで透明な体液をたらりとこぼしてた。
――――――――――――――――
種族 モスプロード
名前 コットン
LV 1200
HP 2034/4323 MP 3001/3021
――――――――――――――――
初手さえ取ってしまえばなんてことはない、耐久の低さも相まって蠢くサンドバックだ。
「『ストライク』」
叩き付けられた衝撃だろう、蛾の周りに舞っていた金色の粒子を吹き飛ばし、むやみに針が刺さらぬようゆっくりと近づく。
それでもやはり残っているものが多少はあるようで、チクチクとささくれるような不快感が、顔やむき出しの掌へ纏わりついた。
この程度なら十分許容範囲だ。
なんたって私には……
「『スカルクラッシュ』!」
『活人剣』で、十分カバーできる。
微かな手ごたえとどこか気の抜けるような音。
手や顔にあった刺激がゆっくりと消える。
脳天を叩き潰された蛾は微かに脚を振るえさせ、直後光となって風に流されていった。
『レベルが73上昇しました』
「よし!」
カッと熱くなり、全身から高揚感が沸き上がる。
危険こそあれど流石はDランクダンジョン、レベルの上がり幅もかつてないほど。
これなら崩壊までに間に合うかも……
いや違う違う、崩壊なんて起こらないかもしれないんだ。
ごろりと転がったのは、蛾の毛と同じく赤橙色の魔石。
どれほどの値段になるか気になるし、今から協会で確認したいところではあるが、今回はこれも貴重な武器になるかもしれないので、リュックの中へ放り込む。
……もっと、レベル上げないと。
上半身ほどあるとはいえぴったりフィット、これで準備は完了だ。
……が、
「んー……微妙」
手足を軽く捻り動かし調子を確かめるが、どうも落ち着かない。
その原因は私の足を包み込む青いアレ、ジーンズのせいだ。
あの蛾の何より厄介なのは、手足に張り付く鋭い毛や鱗粉。
動きやすく足を守れるものということで選んだのだが、聞いていた話と違ってってとても硬い。
ごわごわを通り越してごわってぃだ。
なんだあの店員は、どうしてプロテインといい店員は嘘をつくのか。
不満に合わせてカリバーをぶんぶん振り回し、数時間ぶりの『炎来』、その門へと足を運ぶ。
時刻は既に夕方。
あれだけいた人々も既に去った後のようで、辺りには人っ子一人いない。
子供も間違えて入ってしまえば危険だからだろう、昼間はなかった柵が突き立てられていた。
濡れ内容にだろう、シートの被せられた台から地図を一枚抜き取れば、そこには適当に描かれた円形の図。
門を中心として広がった円形の森、それが『炎来ダンジョン』の基本的な形らしい。
それにしたってあまりに簡素過ぎてどうなんだ。まあ書くことが特にないほど、ただの広々とした森ということなのかもしれないが。
ぐにゃりと歪んだ門の先、昼間の様に明るい燃え盛る木々。
一応空は次第に暗くなっているのだが、こうも明かりが周りにあればそんなのは関係ない、ということなのだろう。
景色はまだ特に変化なし、ダンジョンの崩壊がこの先起こるかもしれないだなんて、この風景を見慣れた人間には思いもよらない……かもしれない。
「……よし」
パチパチと炎が爆ぜる音を背に、緊張からかピクピクと勝手に動く瞼をぎゅっと閉じ、胸の奥底に溜まった息を吐きだす。
大丈夫だ、大丈夫。
ダンジョン崩壊が起こる確証なんてないんだ、落ち着いてレベルを上げよう。
あそこが崩壊するかも、なんて虚言は日々あちこちで飛び交っていて、今回のそれだって起こらない可能性の方が、起こる可能性よりも何倍も高い。
第一助けてくれた人が言った話とはいえ、証拠もないのに完全に信じるだなんて狂ってる。
このレベル上げはハレー彗星の噂話を信じた人が、無駄にタイヤを買い込んだのと同じで、いつか笑い話としてネタになるかもしれないからやるだけ。
お腹の奥底にこびり付いた不気味な確信を覆い隠すように、自分の気持ちを軽くするように、いくつもの言い訳を積み重ねていく。
暫しそうやって自己暗示をしていると、何か柔らかなものがこすれ合う音が鼓膜を叩いた。
……来た。
音のする方向へ首を傾け、こちらへゆらゆらと近寄ってくる蛾を睨みつける。
――――――――――――――――
種族 モスプロード
名前 コットン
LV 1200
HP 4323 MP 3021
物攻 376 魔攻 4542
耐久 377 俊敏 199
知力 650 運 38
――――――――――――――――
「『ステップ』! 『ストライク』! 『ステップ』!」
地面を蹴り飛ばし、スキルの導きに逆らって蛾へ飛び掛かる。
以前と違って積極的に私が攻撃へ向かったからだろう、ゆらりゆらりと、ゆっくり旋回してその場から立ち去ろうと行動を始めた。
やっぱり、遅い。
思った通りの行動。
そのままストライク走法でその身を抜き去り、真正面へと立ちふさがる。
確かにこいつの爆ぜる針は厄介だ。
だが効果が発揮されるのには時間がかかるし、その前に行動を終えれば何の価値もない。
私の高い俊敏値と危険な走法の組み合わせは、同レベル帯では比肩する者がいないだろう。
最初こそ気を抜いていたが、魔攻に特化したこいつのステータスでは、いくら逃げたくとも逃げられまい。
「『巨大化』! ……っ! せやっ!」
ドンッ!
上昇して逃げるより素早く振るわれ、その身に届くほど長く伸びたカリバーが打ち据え、鈍い水音を響かせる。
そのまま遠心力に身体を振り回され、二度、三度と激しく地面の草を飛び散らす。
翅は折れ曲がり、ヤシの葉じみた触角は千切れ、その柔らかな腹は大きく凹んで透明な体液をたらりとこぼしてた。
――――――――――――――――
種族 モスプロード
名前 コットン
LV 1200
HP 2034/4323 MP 3001/3021
――――――――――――――――
初手さえ取ってしまえばなんてことはない、耐久の低さも相まって蠢くサンドバックだ。
「『ストライク』」
叩き付けられた衝撃だろう、蛾の周りに舞っていた金色の粒子を吹き飛ばし、むやみに針が刺さらぬようゆっくりと近づく。
それでもやはり残っているものが多少はあるようで、チクチクとささくれるような不快感が、顔やむき出しの掌へ纏わりついた。
この程度なら十分許容範囲だ。
なんたって私には……
「『スカルクラッシュ』!」
『活人剣』で、十分カバーできる。
微かな手ごたえとどこか気の抜けるような音。
手や顔にあった刺激がゆっくりと消える。
脳天を叩き潰された蛾は微かに脚を振るえさせ、直後光となって風に流されていった。
『レベルが73上昇しました』
「よし!」
カッと熱くなり、全身から高揚感が沸き上がる。
危険こそあれど流石はDランクダンジョン、レベルの上がり幅もかつてないほど。
これなら崩壊までに間に合うかも……
いや違う違う、崩壊なんて起こらないかもしれないんだ。
ごろりと転がったのは、蛾の毛と同じく赤橙色の魔石。
どれほどの値段になるか気になるし、今から協会で確認したいところではあるが、今回はこれも貴重な武器になるかもしれないので、リュックの中へ放り込む。
……もっと、レベル上げないと。
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