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第六十話 遊び
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ありがとうございました
――――――――――――――――――
「今日行くダンジョンだけど……」
「あ、ちょっとその前に良いですか?」
「なに?」
きりりとした琉希の顔。
にやけがない、一体何が彼女をそんな顔にしたのか。
◇
「髪型はいかがなさいますかぁ?」
茶髪を緩く巻いたお姉さんが、私の髪を弄って甘ったるい声で話す。
目の前には巨大な鏡、そして普段より輪をかけて固まった私の顔。
何もかもが暖色で構成された部屋……というより街にある美容院だ、ほかにも若い女性が何人か座って、あれこれ談笑しつつ髪の手入れをしている。
どうして私はこんな場所にいるんだろう。
今までまともに関わったことのない場所にいるので、全身が凄いむずむずする。
髪なんて適当に肩から上で切っていたので、髪型をどうするかなんて言われたところで、適当にしろとしか言えない。
しかし初対面の相手、そう気軽に話すのも気が引ける。
どうしよう……逃げたい、帰りたい、ダンジョンいきたい、希望の実食べたい。
何なのだこれは、どうすればいいのだ。
どうしたらいいか分からなくなったので、ここへ連れてきた本人へ救援要請。
「りゅ、琉希……!」
「フォリアちゃん可愛いんですけど、こう、髪とかあんまり手入れしていないのが気になっていたんですよね! この機に色々やっちゃおうかなって!」
後ろから一応返ってきたが、返答が返答になっていない。
くそっ、前も横もニコニコニコニコした奴らに囲まれていて、逃げ道がない。
なんでこいつらこんなに笑顔を貼り付けているんだ、普通の表情はどこに置いてきたんだ。今すぐ私が嵌めなおしてやる。
他人へ無防備に首筋を晒すのが、こんなにも不安になるとは思ってもいなかった。
手癖なのか知らないが、櫛で何度も襟足を梳かれるたびにこそばゆさと恐怖が交互に訪れ、一秒たりとも落ち着けない。
「髪質は細くて柔らかいのでぇ……してー……トリートメントをー……」
「ウッス……ウッス……」
「あっ、それならカールさせて……ーを……」
何言ってるかさっぱりわからん。
ニコニコともはや私は置き去り、琉希と美容師の激しい舌戦が頭上で繰り広げられる。
下手したら苦手な数学よりも分からない、あーあー、もう少し日本語でしゃべってくれ。
硬く目を閉じ、すべて放り投げて椅子へ身を沈める。
確かにおしゃれはしたいと以前考えていたが、こうも複雑怪奇だとお手上げだ。
もう知らん、お金は払うからあとは全部任せた。
◇
「すっごい可愛いですよ!」
「そ、そう?」
「ええ、ええ!」
パチパチパチとテンション高く拍手、ゆるく巻かれた私の髪。
髪を洗ったりトリートメントをかけたり……あれこれやっていたらしいのだが、気が付けば既に三時間以上経過していた。
その上その店専売のシャンプーだのトリートメントだのを買わないかと勧められ、よく分からないまま買ってしまった。
もしかして私はいいカモ扱いされたのでは、と気づいたときにはもう遅く、紙袋片手に美容院の前で茫然。
怒涛の勢いであれこれと押し付けられ、何を言っていたのか半分……いや、四分の一も理解できなかった。
取り敢えずそれらは全部、空にしていた『アイテムボックス』へ放り込む。
髪質は一日二日で改善するものでないし、毎日使ってくれなどと言われた気がするので、一応今日から使ってみようとは思う。
はあ、疲れた。
美容師との会話は楽しくもあったが、なんか物凄いあれこれ喋ってくるし、なぜそこまで話すことがあるんだとこちらが聞きたくなるくらい、次から次へと話題が飛び出て目まぐるしい。
舌噛まないのだろうか、口の中にばねでも仕込んでいるんじゃないか?
近くのハンバーガーショップに入り適当に注文、ポテトを食べながらジュースを吸い込む。
うまい。
ポテトが香ばしいのは、揚げ油にラードを使っているからだろう。
壁に貼ってあった紙にそう書いてあるので間違いない。
「ふぃー……、それでダンジョンなんだけど」
「次はですねー、服を買いに行きましょう!」
「ま、まだ行くの……!?」
終わらない店巡り、一体何が彼女をそこまで駆り立てるのか。
「何言ってるんですか! コンビニの服ローテなんて、十五の女の子がする生活じゃありませんよ! もっとかわいい服着て、楽しいことしましょうって!」
「い、いや……よく分かんないし……」
「じゃあ私が教えてあげます! なんならお金は私から出しますから!」
金を出すから一緒に行こうだなんて、まるで私がヒモみたいじゃないか。
いやお金は私もあるからそんな気にしなくていいのだが、ダンジョン……まあいいか。
分厚いハンバーガーを一口、うまい。
横目で琉希とちらりと見れば、彼女も笑顔でエビバーガーに食いついていた。
なぜ私なんかに構うんだろう。
無口だし、自分でいうのもあれだが態度も素っ気ないし。
人当たりのいい彼女だからきっと友人も多いだろう、わざわざ私とつるむ必要がないだろうに。
最初は何か企んでいるのかと思いきや、多分大体の行動をそこまで考えてやっているようにも思えない。
全くもって理解できない。
まだクロの方が考えを理解できる気がする、どれもこれもが突拍子もなさすぎる。
「なに笑ってるんですか?」
「……別に」
……別に笑ってなんかいない。
ただ顔が、そういう風に見えただけだろう。
ありがとうございました
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「今日行くダンジョンだけど……」
「あ、ちょっとその前に良いですか?」
「なに?」
きりりとした琉希の顔。
にやけがない、一体何が彼女をそんな顔にしたのか。
◇
「髪型はいかがなさいますかぁ?」
茶髪を緩く巻いたお姉さんが、私の髪を弄って甘ったるい声で話す。
目の前には巨大な鏡、そして普段より輪をかけて固まった私の顔。
何もかもが暖色で構成された部屋……というより街にある美容院だ、ほかにも若い女性が何人か座って、あれこれ談笑しつつ髪の手入れをしている。
どうして私はこんな場所にいるんだろう。
今までまともに関わったことのない場所にいるので、全身が凄いむずむずする。
髪なんて適当に肩から上で切っていたので、髪型をどうするかなんて言われたところで、適当にしろとしか言えない。
しかし初対面の相手、そう気軽に話すのも気が引ける。
どうしよう……逃げたい、帰りたい、ダンジョンいきたい、希望の実食べたい。
何なのだこれは、どうすればいいのだ。
どうしたらいいか分からなくなったので、ここへ連れてきた本人へ救援要請。
「りゅ、琉希……!」
「フォリアちゃん可愛いんですけど、こう、髪とかあんまり手入れしていないのが気になっていたんですよね! この機に色々やっちゃおうかなって!」
後ろから一応返ってきたが、返答が返答になっていない。
くそっ、前も横もニコニコニコニコした奴らに囲まれていて、逃げ道がない。
なんでこいつらこんなに笑顔を貼り付けているんだ、普通の表情はどこに置いてきたんだ。今すぐ私が嵌めなおしてやる。
他人へ無防備に首筋を晒すのが、こんなにも不安になるとは思ってもいなかった。
手癖なのか知らないが、櫛で何度も襟足を梳かれるたびにこそばゆさと恐怖が交互に訪れ、一秒たりとも落ち着けない。
「髪質は細くて柔らかいのでぇ……してー……トリートメントをー……」
「ウッス……ウッス……」
「あっ、それならカールさせて……ーを……」
何言ってるかさっぱりわからん。
ニコニコともはや私は置き去り、琉希と美容師の激しい舌戦が頭上で繰り広げられる。
下手したら苦手な数学よりも分からない、あーあー、もう少し日本語でしゃべってくれ。
硬く目を閉じ、すべて放り投げて椅子へ身を沈める。
確かにおしゃれはしたいと以前考えていたが、こうも複雑怪奇だとお手上げだ。
もう知らん、お金は払うからあとは全部任せた。
◇
「すっごい可愛いですよ!」
「そ、そう?」
「ええ、ええ!」
パチパチパチとテンション高く拍手、ゆるく巻かれた私の髪。
髪を洗ったりトリートメントをかけたり……あれこれやっていたらしいのだが、気が付けば既に三時間以上経過していた。
その上その店専売のシャンプーだのトリートメントだのを買わないかと勧められ、よく分からないまま買ってしまった。
もしかして私はいいカモ扱いされたのでは、と気づいたときにはもう遅く、紙袋片手に美容院の前で茫然。
怒涛の勢いであれこれと押し付けられ、何を言っていたのか半分……いや、四分の一も理解できなかった。
取り敢えずそれらは全部、空にしていた『アイテムボックス』へ放り込む。
髪質は一日二日で改善するものでないし、毎日使ってくれなどと言われた気がするので、一応今日から使ってみようとは思う。
はあ、疲れた。
美容師との会話は楽しくもあったが、なんか物凄いあれこれ喋ってくるし、なぜそこまで話すことがあるんだとこちらが聞きたくなるくらい、次から次へと話題が飛び出て目まぐるしい。
舌噛まないのだろうか、口の中にばねでも仕込んでいるんじゃないか?
近くのハンバーガーショップに入り適当に注文、ポテトを食べながらジュースを吸い込む。
うまい。
ポテトが香ばしいのは、揚げ油にラードを使っているからだろう。
壁に貼ってあった紙にそう書いてあるので間違いない。
「ふぃー……、それでダンジョンなんだけど」
「次はですねー、服を買いに行きましょう!」
「ま、まだ行くの……!?」
終わらない店巡り、一体何が彼女をそこまで駆り立てるのか。
「何言ってるんですか! コンビニの服ローテなんて、十五の女の子がする生活じゃありませんよ! もっとかわいい服着て、楽しいことしましょうって!」
「い、いや……よく分かんないし……」
「じゃあ私が教えてあげます! なんならお金は私から出しますから!」
金を出すから一緒に行こうだなんて、まるで私がヒモみたいじゃないか。
いやお金は私もあるからそんな気にしなくていいのだが、ダンジョン……まあいいか。
分厚いハンバーガーを一口、うまい。
横目で琉希とちらりと見れば、彼女も笑顔でエビバーガーに食いついていた。
なぜ私なんかに構うんだろう。
無口だし、自分でいうのもあれだが態度も素っ気ないし。
人当たりのいい彼女だからきっと友人も多いだろう、わざわざ私とつるむ必要がないだろうに。
最初は何か企んでいるのかと思いきや、多分大体の行動をそこまで考えてやっているようにも思えない。
全くもって理解できない。
まだクロの方が考えを理解できる気がする、どれもこれもが突拍子もなさすぎる。
「なに笑ってるんですか?」
「……別に」
……別に笑ってなんかいない。
ただ顔が、そういう風に見えただけだろう。
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