『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

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第五十九話 

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 日曜日、一週間ぶりとなる琉希との会遇。
 午前の九時に協会の前で出会い、一週間で随分と協会に馴染んだヤツを彼女が見つけた。

「やーん、可愛いですね!」

 ぐにぐにと琉希の腕の中で揉まれる黒猫……もとい、クロ。
 きんきらの黄色い瞳をぱちくり、きゅうと黒目を細めて気持ちよさそうに撫でられている。
 ゆらりと揺れる長い尾、気分は上々らしい。

 なぜか私以外の人間にはなついていて、どんなに撫でられようとも抵抗をしない。
 しかしひとたび私が手を伸ばせば……

『フシャーッ!』
「む……」

 半ギレ状態で切りかかってくる。
 完全に嫌われてしまった……というか最初から嫌われていたので、あんまり変わってないのか。
 いったい私の何が気に食わないというのか、引っかかれるのは無視してそのまま撫でる。

 ふふん、猫ごときが私に勝てると思うなよ。

 み゛よぉぉ、と地獄の底から響くような鳴き声、勿論力をかけているわけでもなく、やさしくなでている。
 どんだけ私に撫でられたくないんだ、そんな声出されるともっと撫でたくなっちゃうじゃないか。

「相変わらず相性悪いなお前たちは」
「あ……」

 背後から筋肉が現れ、ぽんとこちらの頭を撫でてくる。
 瞬間、私にいじられていたクロがぴょんと起き、彼の肩へと飛び乗った。
 クルクルと機嫌よさげに喉を鳴らし、彼の頬へ顔をこすりつけているのだが、どうやら協会の職員の中でも筋肉が一番のお気に入りらしい。

 いったい私と何が違うんだ。筋肉か、やはり筋肉なのか。

 彼がポケットから取り出したカリカリを旨そうに食べているので、こちらも便乗して希望の実を差し出す。
 しかし軽く嗅いで猫パンチ、希望の実は要望に沿えなかったようだ。

「……そろそろいいか?
「うん」

 クロを下ろした筋肉、琉希、そして私が協会の奥へと進む。
 勿論話す内容は先週のダンジョン崩壊、その調査結果と魔石についてだ。

 三人ソファに腰を下ろし、顔を付き合わせる。

「どっちから話してほしい?」
「私は探索者になったばかりで詳しくないので……フォリアちゃん、後は任せました!」
「ん、花咲のダンジョン崩壊について」


 ダンジョンの崩壊はめったに起こるものではないが、一度起こってしまえばとてつもない災害と化す。
 そのくせ噴火などと違って予兆なんてものがほぼなく、私たちの様に予兆を察知しても知らせるため外に出ることが出来ないのだから質が悪い。
 ダンジョン内は当然通信機器なんて使えないので、それが一層情報伝達の困難さを上げていた。

 つまり私たちの様に予兆に巻き込まれ、その上で情報を持ち帰る存在は珍しいということ。
 出来る限りダンジョンについて情報を仕入れたい協会側もそういった手合いに対しては、随分と手厚い扱いをしてくれる。
 普段は魔石の売り買い程度の扱いでも、こういうときばかりはあれこれ情報の融通をしてくれると言訳だ。

「花咲ダンジョンは完全に鎮静化していた、崩壊はもうしばらく起こらないだろう」
「一度収まったからって二度目はないって根拠は?」
「経験則、だな。少なくとも今のところ、同じ場所が短期間で崩壊の予兆を見せたことはない」

 ダンジョンが世界に生まれて三十年弱。
 果たしてその時間が根拠として十分に働くかは人によるだろうが、少なくとも私よりは情報に通じているだろう。
 協会が大丈夫だというのなら、私があえて食って掛かる必要もない。
 花咲は沈静化してもう崩壊の危険性はない、私もそれでいいと思う。

 どういう理論かは知らないが、ダンジョン崩壊が確かにあったという証拠も確認したらしい。
 嘘をついても意味はないというわけ、まあ嘘なんてついていないから私には関係のないことだが。

「んでこれが崩壊を止めたってことで、協会からの報奨金な」

 筋肉が机の下から、一枚の封筒を取り出す。
 一枚の封筒といっても相当分厚く、一つの箱とでも言われた方が納得できるほど。
 随分と好待遇だ。

「ええっと、私はそこまで活躍していないので……」
「半分は私の口座に入れといて」
「そう言うと思って既に半分に分けてある」

 ニヤリと笑みを浮かべ。筋肉はさらにもう一つの封筒を取り出してきた。
 必死に断って返そうとする琉希であったが、彼女が居なければ今の私はこの世にいなかった。
 断られる方が困るので、無理に押し付けてしまう。

 私の分は筋肉が机の下に仕舞い、コホンと一つ咳。

 次の話こそがメイン、なぜ魔石の魔力が少なかったのかについてだ。
 魔石は研究所へ送られたはずだが、そこなら何か原因が究明できるかもしれない。
 しかし彼の顔は、以前と同じく渋い物。

 ……これはあまり期待できなさそうだ。

「一つだけ、分かったことがある」
「ほほう、一体何でしょう!」
「魔石の魔力だがな、抜き取られたんじゃなく最初から少なかったらしい。数値にしておよそレベル二桁程度」

 最初数値を図ったとき、筋肉は魔力を使ったんじゃないかと聞いてきた。
 しかしどうやらあの魔石、そもそも入っていた魔力が少なかったと……ふむ。
 勿論ダンジョン崩壊の痕跡などがあった以上、虚偽の報告だとも取れないので、はっきり言って研究所もお手上げだと。

 お前、まさか魔石を間違えてないよな? なんて疑いの目。
 失敬な、ちゃんと渡した。
 第一魔石なんて持っていたところで、私が使うことはほぼない。
 強いて言えばウニから借りる銃だろうが、あの程度なら1000レベルもあるモンスターの魔石を使う必要もない。

「……怒らないんだな」
「うん、前はごめん」
「気にするな」

 まるで犬か猫でも扱っているように、雑に頭をぐりぐり撫でられる。
 髪がぐちゃぐちゃになる、やめろ。

「なんか親子みたいですね」
「別に……そんなんじゃにゃい」
「あっ、噛んだー! 恥ずかしいんですね、分かりますよ!」

 横で見ていた琉希がにやにやと、いやな笑み。
 筋肉が親だなんて冗談じゃない。
 親なんてどいつもまともじゃない奴らだ、そんなもの……

 話も終わったので、琉希の手を引っ張って部屋を出る。
 熱くなった頬は隠して。
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