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第四十七話 トランスフォー〇ー

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 侵入した直後。

 ドンッ!

 激しい地響きを上げて降り立ったのは、巨大な白銀の壁。
 やはり先生と同じ、スウォーム・ウォールの仲間だったようだ。

 琉希の岩に乗ったまま恐らく攻撃の当たらないであろう高度まで飛び、遠目から観察を行う。

 ピクリとも動かない白銀の壁だが、表面には複雑で緻密な模様が描かれている。
 華美といっても過言ではなく、どこか高貴な雰囲気があるのはレベルが上がったからか。
 モンスターにそんな概念があるのか知らないけど。

「『鑑定』」

――――――――――――――

種族 グレイ・グローリー
名前 

LV 1000
HP 20000 MP 37432
物攻 6532 魔攻 4521
耐久 3542 俊敏 2026
知力 2567 運 53

――――――――――――――

「灰色の栄光ですか……意味深ですね」
「……名前よりステータス見て」

 きらりと目を輝かせ、琉希が壁の種族を読み上げる。
 どうして種族に注目してしまったのか、何よりも先にみるべきはその隔絶したステータスだろう。
 スライムが赤子に見えるほど膨大なHP、そしてその他のステータスもまんべんなく高く、私自慢の耐久すら余裕で追い抜かれている。

 これは結構辛い戦いになりそうだなぁ……

 かつて先生に強烈な一撃を入れられたのを思い出し、腹がきりりと痛む。
 何より俊敏がそこそこ高いのが不安だ。
 ただの壁にしか見えないが、何をしでかしてくれるのか。

 とはいえ遠距離から見ているだけでは戦いが進まない。
 一度入ってしまった以上、奴を倒すかこちらが死なない限りここから出ることもできないし、動かないなら動かないで遠慮なくやらせてもらおう。

 リュックを下ろし、琉希に手渡す。
 まずは最初の予定通り、魔石による爆撃だ。

「じゃあいきますよ! ほいっ」

 ポイっとちょうどいい場所に投げられたスライムの魔石。
 私は餅つきの要領でそれを

「ほーむらーん」

 カリバーで叩き落していく。

 次から次へと横から投げられてくるそれを、壊れない程度に罅を入れつつ打っていく作業。
 勿論この程度では、たとえ当たったとして大したダメージにもならず、地面は土なので衝撃で砕けることも期待できない。
 だがそれでいい。

 時間にして五分ほどそれを続けた。
 そして……

「はい、最後の一個です!」
「了解。『スカルクラッシュ』ッ!」


 光り輝くカリバーが力強く振り下ろされ、最後の魔石だけは粉々に砕いた。
 まるでカリバーの輝きが乗り移ったかのように煌めき、細かな振動を帯びて地面へと転がっていく魔石の屑。
 それを確認した私たちは石の上に伏せ、一気に急上昇する。

 一秒、二秒……

 その瞬間、世界から色と音が消えた。
 

 ドォォォオォォンッ!


 全身を焼き付くように強烈な爆音と熱気。
 最後の魔石が砕け爆発した直後、その衝撃波によって連鎖的に砕かれた魔石たちが、何度も何度も空気を叩き続ける。
 破壊不可であるはずの『宝剣』によってユニーク武器化された岩が、あまりの衝撃に大きく揺れ動き、振り落とされるかもしれない恐怖と戦いながら、ひしと岩の端へ縋り付いた。


「……終わった?」
「みたい、ですね……」

 暫くして音と暴風が止み、二人顔を見合わせ下を覗く。

 焦げ付き、いまだに煙を上げる土。
 壁があったそこには巨大なクレーターが生まれていて、その中心にいたのは……

――――――――――――

種族 グレイ・グローリー

LV 1000
HP 17237/20000 MP 19543/37432

――――――――――――

軽い煤に体を汚しながらも、悠然と立つ『白銀の騎士』であった。

「なっ……」

 壁は一体どこへ行ったのか、いや、あれこそが壁なのか。
 細く長いレイピアを顔の前で縦に構え、ピクリともせずその場に立ち尽くしている。
 その顔がゆっくりと動き、昏く深い鎧の奥底、そこに座す鋭い瞳が私を見た気がした。

 気が付くと目の前には、その騎士が剣を振り下ろそうと構えていて……

「……フォリアちゃん!」

 鳴り響く駆動音、飛び散る眩い火花。

 私を突き倒し、かの騎士が振り下ろした剣をチェーンソーで受け止める琉希。
 しかし押し負けているらしく、ゆっくりとその剣が彼女の頬をなぞった。

「……っ! 『ストライク』ッ!」 

 がら空きであったその胴体へ『ストライク』を叩きつければ、大きく身体をくの字にして、反対側へと吹き飛ばされていく騎士。

「ごめん」
「ええ、ラーメンおごりで良いですよ!」

 まさか地面からここまで飛びあがり、無理やり岩の上に乗ってくるとは思いもしなかった。
 もし彼女の反応が少しでも遅れていたら、私の首は既に切り落とされていただろう。
 その事実に心臓が激しくなり、背筋へ冷たいものが駆け抜ける。

 何より不味いのは相手がここまで飛びあがることのできる事実。
 高所は相手が来れないのならアドバンテージになるが、逆に手が届いてしまうのなら、ただ逃げ場が少なくなっただけ。
 どうせ魔石ももうないし、ここにずっといる意味もない。

 琉希もうなずき、互いに飛び降りる。
 軽く衝撃を散らすため転がりカリバーを構えたあたりで騎士も体勢を立て直し、ゆらりと剣を構えた。
 先手必勝、真っ先に殴り掛からせてもらおう。

 地面を蹴り飛ばし一直線、騎士の正面へ肉薄。

「『ストライク』」

 かつて先生にも有効であった横を走りぬき、すれ違いざまの一撃。
 しかしかの存在もこれに反応しないわけがなく、絡めるように剣を伸ばし、カリバーを弾き飛ばそうとその身を間隙へ滑り込ませてきた。

 だが私だって、当時より強くなっているんだ。
 舐めるなよ。

「『ステップ』!」

 剣とカリバーが触れ合う刹那、バックステップによって騎士の正面、加えて手元へとスキルの導きによって、無理やり身体をねじ込む。
 ゴギリ、と不気味な音がして、背筋へ小さな痛みが走る。
 ちょっと無理し過ぎたか、そう思った直後に暖かな光が溢れ、痛みが消え去った。 

 琉希の回復魔法だ。
 ただスライムを減らすのも退屈だったので『ストライク走法』の話をしたのが、うまいことここで作用してくれたらしい。

 回復魔法って本当に便利だ、これなら無理をしてでも遠慮なく攻撃できる。

「『ストライク』っ!」

 目の前へ迫ったその腕に合わせてカリバーを薙ぎ払えば、騎士の一刀自体の衝撃も合わさり、金属同士がつんざくような爆音を響かせた。

「かはっ……!」
「フォリアちゃんっ!? 『ヒール』!」

 そしてそれに耐えきれず、紙屑の様に空へ舞い、地面へと叩きつけられる私の身体。
 力、そして体格、すべてが負けている私が競り負けたのだ。
 騎士の腕も多少の歪み見せているようではあるが、この程度では致命傷にも程遠い。

 肺から空気が無理やり引きずり出され、衝撃と酸素を失ったことによりひどく痛む頭。
 追って琉希の回復がかかるが、流石にキツい。
 叩きつけられたときに頭も打ったのか、妙に体がふらつき、抉り出されるような吐き気が喉奥から湧き上がってくる。

 ヤバい、こいつめっちゃ強いわ。

 どこか遠く感じる視界の中、駆け寄ってくる騎士を見つめて浮かんだ感想は、そんな幼稚なものであった。
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