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第二十九話 メタルなあの人はツンツン系

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 針まみれのカタツムリ……ハリツムリの、唯一予想通りだったのは緩慢な動き。
 デカい体に殻まで金属質な全身もあり、こちらへ寄ってきてはいるもののあまりに遅い。
 わざわざ待ってやる必要もないし、先生の時みたいに愚直に近づいてカウンターを食らう気もない。 というかこの攻撃力、下手しなくても直撃したら死ぬ。

 飛び道具を持っている可能性も気にして側面へ移動、リュックに仕込んであった石ころをその場に散らす。
 私が用意してきた作戦は三つあり、そのうちの一つがこれ。
 することはごく単純。遠距離から『ストライク』で石を打ち込み続ければ、遅い敵なら嵌め殺すことが出来る可能性だ。

 気分は甲子園球場。
 ツンツンと冷たい、グレてしまった不良ハリツムリへ、私が熱い野球精神を叩き込みたいと思う。
 野球のルール知らないけど。

「ふっ、『ストライク』!」

 まずはお試し、『スキル累乗』は使うと石が砕けてしまうので今回はなしの方向で。

 輝くカリバーの推進力を受けた小石は真っ直ぐに突き進み直撃、が、しかし針と針の間へ挟まり速度を失った。
 針くらい折れると思っていたのだが、これはまさか…… 

 二発目、三発目も間髪入れず発射。
 が、しかしそのどれもが針の隙間に埋まり、やはり何一つ折れることなく終わる。
 やはりか。ピンクナメクジと同じでこいつ、衝撃にめちゃくちゃ強い。
 体表こそ金属でおおわれているが、本質はナメクジもカタツムリも似たようなものなのだろう。

 表面へ垂直の攻撃がだめなら、横からの攻撃はどうだ。
 横からの薙ぎ払いならば衝撃を吸収されることもないし、針をへし折ることさえできれば直接叩くこともできる。

 ズリ、ズリ、とハリツムリ自体は愚鈍な動き、しかしバカでかい身体と不安定な葉の上なので振動が凄い。
 ただ葉の上を這いずっているだけだというのに、立っているこちらも下手すればバランスを崩してしまいそうになる。
 焦る必要はない、しっかり踏み込んで近づけばいい。

 正面を取らないよう周りながら距離を詰め、足に生えた針をカリバーで軽く薙ぎ払う。

 カンッ!

「折れた……!」

 予想は見事的中。

 見事な棘も横からの攻撃には脆く、へし折れた針達がくるくると回って沼の中へと沈んだ。
 勿論その図体からすればごく一部、人でいえば爪の先が欠けた程度に過ぎない。が、しかしダメージを与えることが出来る証拠にはなった。


「『鑑定』」

――――――――――――――――

種族 メタルホイールスネイ
名前 クレイス
LV 60

HP 1358/1360 MP 557/557

――――――――――――――――

 全く削れていない。
 ま、まあこれならこのカタツムリ動きも遅いし、ちまちま削っていけば……

『オ……』

「ん?」


『オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!』


「うるっ……さぁ……っ!?」

 ハリツムリの天を衝く絶叫、口の中にも無数に生えた針がシャリシャリと互いにぶつかり合い、不愉快な金属音が撒き散らされる。
 あまりの爆音に耳を抑えているにも関わらずまったく意味がない、その上振動で全身の皮膚までがビリビリと引き攣った。
 果たして今私は立っているのか、寝ているのか、平衡感覚すら失う。

 あまりに突然の豹変、一体何が起こったのか。
 理解が追い付かない。
 まさか針は折っていけなかったのか、それともダメージを一でも食らうと、がらりと動きが変わってしまうような敵だったのか。

 慟哭が終わった瞬間を見計らい、葉の端へと駆け出す。
 ハリツムリのツン、と飛び出した目がグネグネと左右している。
 何が起こっているかさっぱり認識できていないが、少なくとも近くにいるのは危険な気がした。

 一体何を仕掛けてくるんだ……
 魔法か、それとも全身の針を飛ばすのか、ピンクナメクジみたいに酸でも吹くか……?

 ふいに、ふくらはぎをねっとりと、何かが舐めた。

「え……?」

 今私たちは一対一の戦いをしていて、誰もその邪魔をできないはず。
 なのにどうしてだろう、どうしてこんなに無数の存在から睨みつけられているような感覚が、体中を這い摺り回っているのは。
 いやな予感は大体当たる、焦って飛びのいた場所にそいつらはいた。

 沼の奥底から這い出てきたのは、ピンクの憎きアイツ。
 ゆっくりと葉の上に出てきて、丁度近くにあった私の足へ、奴らの目が触れたらしい。

 そういえばお前たち全滅したら沼からどんどん出てきてたな、なんてのんきな感想が脳裏をよぎる。

 そして何度も受け慣れたこいつらの攻撃は……

「す、『ステップ』! 『ストライク』! 『ステップ』!」

 無意識のストライク走法。直後、私が立っていた場所から激しく白煙が立ち込めた。
 酸だ。
 すんでのところで避けられたが、もし直撃していたらその瞬間にすべてが終わっていた。

 顔中に冷たい汗が吹き出し、心臓が奇妙な鼓動を始める。

 しかも一匹じゃない。
 周りを見回せば、水中からにょきにょきと突き出す目、目、目!
 居る。十匹、二十匹、それだけで済むだろうか。 じわりじわりと寄ってきているのはきっと、ハリツムリの絶叫こそが彼らを集めるための呼び鈴だったのだろう。

 冗談だと言ってほしい。
 こっちは一度入ってしまえば、勝利以外で二度と出ることが出来ないというのに。
 ずるいずるいずるいずるい! お前らは仲間を呼び放題だなんてバランスが狂ってる、正気じゃない!
 ふざけるな。こんなの、こんなの死ねって言ってるようなものじゃないか。

「か……『鑑定』っ!」

 

 頼む、弱くあってくれ。
 しかしどうせ無理だと、心の端で私が叫んだ。

――――――――――――――

種族 アシッドスラッグ
名前 ジョン

LV 47
HP 223 MP 126
物攻 237 魔攻 167
耐久 41 俊敏 6
知力 12 運 3

――――――――――――――

ああ、最悪だ。
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