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第十五話 だっかーん

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 彼女の口角からぺらりと風を舞う小説の破片、それを摘まみ上げ口へと運ぶ。

 もさもさとして無味、だが微妙にインクと紙の匂いがじんわりと溢れる。
 つまり不味い、流石に希望の実よりは食べようと思えば食べられるが。
 雑誌だとか小説だとか関係なく、紙は食べるものではないし、食品として扱われているのを見たことが無い。
 もしかしたら私が知らなかっただけかもと思って食べたが、至極当然の現実が風味となり鼻を通り抜けた。

「え、ちょっ、な、なんで食べっ!?」
「園崎さんは紙食べるの好き? 私は苦手かも」

 もしかしたら美味しい食べ方があるのかもしれない、炒めればいいのかな。

 暫しわたわたと両手を動かし、なにやら思案している園崎さん。
 人に見られるの嫌だったのかな、悪いことしたかもしれない。

「い、いや私は……そう、スキル! ユニークスキルの能力で食べることが出来るの!」
「へえ、すごい。うらやましい」

 そんなユニークスキルもあるなんて、本当にうらやましい。
 素直に感心していた私だが、園崎さんは椅子に座ったまま、何故か私の様子を窺うように下目使い。

「……変じゃない? 気持ち悪くない?」
「……? なんで?」
「――ううん、なんでもない! ごめんね変な所見せちゃって、鍛錬でもしに来たの?」

 園崎さんの挙動が一番変だ、とは言えない。
 私なんてよれよれぼろぼろの服を着て、バットを片手に町を闊歩しては、誰も食べない希望の実を常食している人間だ。
 紙を食べる以外普通な園崎さんより、多分私の方が社会的に駄目な存在だと思う。

 彼女に袋の中身を見せ、これを焼いて食べたいというと興味を持ったらしく、私も横にいていいかな? と聞いてきた。
 勿論断るわけもなく、椅子を一つ引っ張ってきて、彼女と焚火を作って囲むことにする。

 焚火などやったことが無かったが彼女が詳しく、辺りに生えてる木々の枝を拾い集めては積み上げあっという間に組み上げてしまった。
 最後に食べていた小説をぺりぺりと千切り

「あ、しまった。これじゃ火がつけられないわね」
「これ使う?」
「あ、もしかしてキー君から借りてきたの? ありがとうね」

 手慣れた様子でトリガーに指をかけ、紙片へ火をつける。
 暫し残った小説で仰いでやれば炎は大きく育ち、木の枝を舐めてぱちぱちと猛り始めた。
 肉を枝に付け地面へ刺し込んでやればじっくりと炙られ、ジュクジュクと美味しそうな臭いや音が溢れ出す。
 とはいえそこそこ分厚いし、ゆっくり焼くべきだろう。

 二人で揺れる炎を見ていると不思議と口も軽くなり、園崎さんは色々と話し出した。
 キー君とはあの受付のムカつく奴で、彼女の弟でやはり今日から協会支部へ配属となったらしい。
 口は悪いけど良い子だから仲良くしてあげてね、そう笑う彼女の横顔は、一人の姉として弟を大切にしているのが分かる。

 ……正直気は進まないがまあ、買取や受付でいつもお世話になっているしちょっと様子を見るくらいなら、考えなくもない。

 彼女いつも人の少ないこの時間にここに来ては、のんびりいろいろな本を食べているそうだ。
 本に篭もった書き手の思いや、文章の内容が色々な味となって楽しめるらしい。
 良く分からないけど、私には思いもよらない味を食べることが出来るなんて楽しそう。
 いつか私にもそんなスキルが生えてこないかな、なんてつぶやいたが、彼女は引き攣った笑みを浮かべるのみだった。

 雲が流れていくのを眺めながら、のんびりと肉が焼けるのを待つ。
 微かに透明がかっていたナメクジ肉であったが、しっかりと火が通ったらしく軽い焦げ目と、白くなった内部。

「いただきます」

 噛みつけばあの殴った時の弾力は何処へやら、さっくりと柔らかく簡単に食い千切れる。
 味は油もなく淡白で、しかし噛めば噛むほどしっかりとした旨味が溢れ、満足感があった。
 触った時の感触通りと言えば通りか、塩味こそ足りないがこれは貝だ。旨味の強さといい、大きな貝を食べているような食感と味。

 なんて良いものを見つけてしまったんだ。

 希望の実は確かに食べるだけで栄養が取れるが、恐ろしいほど不味いし流石に飽きる。
 この味なら塩を買って掛けるだけでおいしく食べられるし、希望の実の味を誤魔化すのにも十分、しかも狩場で拾えるのだから言うことが無い。
 ドリアは後回しだ、今はこれを食べてお金を貯めよう。

 むごんでもにゅもにゅと食べていると、横から視線を感じる。
 ちらっと向いてみれば園崎さんが私の手元を見つめ、しかし慌ててそっぽを向いた。
 ならない口笛なんて吹いて、この人は嘘や演技が下手だ。

「一口食べる?」
「いや、流石に貧乏の中毎日頑張ってる子のご飯を貰うことは……」
「いいよ、どうせ明日も拾うだろうし」

 口では嫌がっていても、身体は正直だ。
 ずい、ずい、と突き出してやれば臭いが鼻をくすぐり、結局彼女も一口食いついた。

 お上品な小さい一口であったが旨味は確かに伝わったらしく、一瞬口を止めて、そのまま無言で呑み込んだ。

「あ、美味しいわね……!」
「うん、おいしい」

 そういえばだれかとご飯を一緒に食べたのは、随分と久しぶりな気がする。
 いや、施設では他の子どもと一緒に食事するのだが、ほぼ強制なそれとこれとはまた別の話だ。

 もう一口食べるかと突き出すも、流石に断られてしまう。
 結局ほとんどを自分で食べつつ園崎さんと話していると、後ろから大きな影が降りた。
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