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第十二話 蛍光ピンクな彼

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 ヌメヌメテカテカ、その上蛍光ピンクの悍ましい巨大ナメクジ。
 はっきり言って最悪の存在だ、どうしてこんなものを神様は生み出してしまったのか。
 近寄りたくない……

 しかし二百円も払って来た以上、その分と明日の宿泊代は稼がなくてはいけない。
 一体このナメクジがどんな魔石を落とし、いくらになるのかは知らないが、最低一匹、精神が持つなら出来る限り大量に狩る必要がある。
 そして明日からは来ない、絶対に来ない。

 天を眺め、流れていく雲へ意識を飛ばす。
 ああ……よし、覚悟はできた。

 ステータスを見る限り速度はなく、先生の様に変形をするとも思えない。
 一気に殴って戦いを終わらせよう。カリバーを握りしめ、『スキル累乗』の対象を『ストライク』へと変更。
 正面から一気に駆け寄り
「そいっ……!?」

 見た目通りいうべきか、ぐにゃりと柔らかな反応。
 しかし半分ほどまで沈み込んだかと思うと、異常なまでの反発力が突然生まれ、餅つきでもしているかのように身体が後ろへと突き返される。
 反動で片足立ちになり、そのままゆっくりと後ろへ倒れていく私。

 今の感触、打撃全く効いていない気がする。

 ここで倒れてしまうと泥にダイブすることになるし、どう見ても肌に悪そうなこれに触れたくない。
 ちょっと体勢的に無理があるかもしれないが

「『ストライク』!」

 スキルによる強制的な姿勢の変更、そして生み出された回転は姿勢を立て直すには十分。
 ぐるりと右足を中心に一回転、体勢を崩して上半身を倒しつつ、かちあげる様に放たれた『ストライク』はアシッドスラッグを大空へと舞いあげた。

 泥を撒き散らし、どう、と地面へ転がるピンクの物体。
 ついでに私も遠心力で体を起こし、体勢を元に戻す。

 ちょっと腰捻ったかもしれない、痛い。
 でも今の私には『活人剣』があるので、多少身体を痛めていても相手を殴っていれば治るはず。
 おお、そう考えると凄いぞ『活人剣』。

「『鑑定』」

――――――――――――――
種族 アシッドスラッグ
名前 ゲニー

LV 15
HP 48/70 MP 44/44
――――――――――――――

 全然効いていない。
 いや正確には効いているのだが、本来与えられるダメージには遠く及ばない。
 今の私が全力でストライクを発動すれば、先生相手にも80程度のダメージを与えられる。
 だというのに実際はその四分の一ほど、たとえ見かけの耐久が低かろうとスキルや本体の能力次第でいくらでも抑えられるという訳だ。

 困った、打撃が効かないのなら斬撃か魔法と言いたいが、残念ながらそのどちらも私には扱えない。
 幸いにして『スキル累乗』によって『ストライク』を発動したときの消費MPは10、その上私は無駄にMPが高いので、ここは一気に殴り飛ばしてしまう方が良いだろう。

 バットを横に構え、のんびりと起き上がっているナメクジへ肉薄、側面に重ねて全力の横薙ぎを繰り出す。
 目のあたりがパカリと開き、何かしようとしているが遅い。
 先手必勝、緩慢な行動が終わる前に攻撃してしまえば、相手は何もできずに倒される。

 その顔面へとカリバーが吸い込まれていき……
「――『すとらいく』?」

 が、空振り。

 あれ?

 間違いなくその顔に叩き込まれたはずのカリバー、しかし一切の衝撃がなく、まるで空を切ったかのように無抵抗。
 というか突然、カリバーが物凄い軽くなった。

 一体何をされたのか、ピンクナメクジを見て見れば、子供の水鉄砲程度の勢いでビューっと、なにやら粘液を吹き出していた。
 そしてその前に転がっているのは、見慣れたべこべこに凹んでいるカリバーの上半身。
 手元を見れば半分ほどから溶け、今なお少しずつ金属部が消えていくカリバー。

「……あ」

 カリバー、溶かされた。

『武器破損による、ユニーク武器化判定が行われます』
『固有名称を確認、判定確率の補正完了』

『成功。固有名称カリバー』

「おお」

 真っ二つになったカリバーであったが、私が握っていた柄からにょきっと新しく生えてきた。
 ピカピカだ、一体どういう仕組みなのか分からない。

 こういう時どんな顔をしたらいいのだろう。
 ずっと使ってきた相棒が溶かされ真っ二つになったかと思えば、まさか新品になって生えてくるとは思わなかった。

 筋肉曰く使い込んでいれば進化するとのことだったが、破壊されたときにも判定があるようだ。
 どうやらユニーク武器になったのは、名前を付けたおかげでもあるらしいし、所持者の愛着とかでも成功率が上がるのか。

 私が相棒の復活に感動していると、いつの間にか方向転換を済ませたナメクジがこちらを向いていて、プッと何かを吐き出した。

 速い……!?

 
 本体の緩慢な動きとは対照に、その吐き出された粘液の速度は成人の全力投球程度はある。
 目の前に物が迫ってきたら誰しも顔を覆ってしまう様に、私もカリバーを盾にしてその場に立ちすくんでしまった。
 不味い、これではせっかく治ったばかりのカリバーが、また溶けてしまう。

 想像以上に粘度が高く、ねっとりとカリバーへ張り付くそれ。
 微かに飛び散った粘液は服の端を掠め、瞬間、そこらが黒焦げ、果てには穴あきとなる。

 もしこれを直接受けたら……!

 背筋に氷を投げ込まれたような気分だった。
 誰だってわかる。金属の塊があっという間に溶け、服は触れた所から黒く焦げる。
 生身に直接、更にはカリバーで守っていなければ顔に当たっていたわけで、そうなったらポーションも回復魔法もない私は、死神と握手するしかない。

 ああ、だけど私の代わりにカリバーは壊れて……

「あれ、壊れてない?」

 そこにあったのは粘液を纏わせつつも、ピカピカと誇り高く輝く金属バット。
 一度ナメクジは放置して、入り口付近まで撤退。

 まさか筋肉が言っていたように……

「『鑑定』」


―――――――――――――――――――――――
 名称 カリバー(フォリア専用武器)

 スキル 不屈の意志
 逆境を乗り越え、運命に抗うと決めた少女の武器
 彼女が歩みを止めぬ限り、この武器は傍へ寄り添い
 続けるだろう
―――――――――――――――――――――――

 カリバー……!

 良く分からないかっこいいことが書かれているが、要するに私が生きていれば壊れないってことだよね。
 なんだろう、息子が立派に成長して、今度は俺が助けるよって言ってくれているような気分だ。

 無性に頬ずりしてあげたい衝動にかられたが、残念ながら今は粘液がべっとりとついていて、そんなことをしてしまえば顔が無くなる。
 だがこれでもう、武器の心配をする必要は無い。

「行こう、カリバー!」

 復活した相棒は、粘液でてかてかと輝いていた。
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