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第八話 先生は財布
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ボスを倒して一定時間経つと、探索者の身体はダンジョンの入り口へと転送される。
理由は不明だが、ボス戦で消耗した身体で来た道を戻るというのは危険が伴うし、ありがたい仕組みだ。
花咲ダンジョンからボロボロの身体を引きずって、やっとこさ協会へと向かったのだが
「え!? に、二千円にしかならないの……!?」
「ええ、スウォーム・ウォールの魔石ですよね? 一応多少は魔力が多いので色を付けるとして、それでも二千五百円くらいですね」
ボロボロの身体で協会に向かい、漸く手に入れた先生の魔石を売ろうとしたのだが、あまりに世知辛い現実が私を待っていた。
二千円じゃネットカフェで過ごしたら無くなってしまう、五百円も併設のシャワー代金で吹っ飛ぶし……
一万円くらいは貰えるだろうと、そのお金でどんなケーキを買おうかとわくわくしていたのに。
やはりもう少しレベルが上がり、効率のいいダンジョンに潜れるようにならなければいけないようだ。
「それにしてもアレを物理だけで倒す人、初めて見ましたよ」
「……?」
「スウォーム・ウォールは魔法がよく効きますからね。魔法職の人が居ればすぐに討伐できますよ」
「……!?」
つらい、おせちがからい。
そういえば私を追放だ何だと言って切り捨てた三人も、既にレベル10を突破していたはず。
もしかして私がいないときに、魔法で楽々討伐していたのか。
それならばあの自信も分かる。私がスライムを必死にシバいている間に、スウォームを何度も倒してレベルを上げていたのかもしれない。
一人で戦い続ける弊害がだんだん浮き彫りになってきた。
回復、そして魔法。すべてを網羅するのはあまりに不毛、まんべんなくというと聞こえはいいが要するにただの器用貧乏。
「分かった。魔石はそれでいい……」
「え、な、泣かないでください。信頼できる仲間を見つければ、きっと今度は簡単に……」
「泣いてない。仲間なんていらない」
だが私には『スキル累乗』がある。
たとえ器用貧乏でスキルレベルが高くなくとも、賭け合わせていけば高性能な魔法として代用できるはず。
仲間なんていなくとも、器用万能に私はなる。
園崎さんからお金を受け取り、足早にカウンターから離れる。
私以外にも魔石や素材、ドロップアイテムを売ろうと待っている人はたくさんいて、ずっと噛みついていれば目を付けられてしまう。
ぶっちゃけソロの探索者がダンジョンで殺されてしまえば、それが他殺かモンスターによる戦士なのか判別がつかない。探索者は割とブラックかつアウトローなのだ。
紙切れ二枚と一枚のコイン。
命を賭けた見返りは、あまりにちんけなものだった。
◇
ギルドお抱えの回復術師に千円支払い、回復魔法をかけてもらう。
幸いにして私はHPが低いので、たった一回でも十分全快にまで届き、皮がむけピリピリと痛かった掌も、すりむいたりした足も綺麗サッパリ治った。
そして千五百円だけをポケットに突っ込み、ギルドを後にして……
「ステータスオープン」
―――――――――――――――
結城 フォリア 15歳
LV 17
HP 42 MP 85
物攻 39 魔攻 0
耐久 107 俊敏 78
知力 17 運 0
SP 10
スキル
スキル累乗 LV1
悪食 LV5
口下手 LV11
経験値上昇 LV2
鈍器 LV1
称号
生と死の逆転
装備
カリバー(小学生向け金属バット)
―――――――――――――――
よしよし、レベル上がってSP入ってる。
これから一人で戦っていくうえで必要なのはなにか。
高威力の魔法スキルか、バットに何か魔法剣的なことを出来る力か。
違う、回復だ。昨日の死ぬか避けるかのチキンレースも、『ストライク』で死ぬかどうかのギリギリを攻めるのも、回復で余裕を保てていれば何とかなった。
回復ポーションも存在するが高い、最低基準で一本五千円なんて貴族しかつかえないぞ。
住所不定の十五歳にはぜいたく品過ぎる。
だが私はMPが高いのに魔攻が0という、嫌がらせのようなステータス。
これでは魔攻で回復量が決まる回復魔法は使えないし……
基本スキルとはいえ無数にあるそれをソートしていく中、一つだけ光るものがあった。
―――――――――――
活人剣 LV1
攻撃時、ダメージの1%を回復に転化する
必要SP:20
―――――――――――
うーん……活人剣か。
回復量が微妙でいまいち使いにくく、あまり人気がないスキルだと聞いたことがある。
しかし今の私にはこれしかない、のかな。うん、これを取ろう。
とはいえそもそも、今の私ではSPが足りない。
相棒を握りしめ、歩みを進める。
時刻は12時を過ぎた所、レベルアップでステータスも上がったし、やるべきことは決まっている。
先生を殴りまくって、お金と経験値をもらうのだ。
◇
「先生、お金と経験値ちょうだい」
ドゴォッ!
カリバーを叩き付ければわかるのは、以前ストライクを発動した時と同程度の威力が出ているという事。
レベルアップによって上がったステータスのおかげで、それほどの攻撃を行っているのにも関わらず、衝撃によってダメージを受けるという事もない。
手に馴染む、とでもいうのだろうか。
成長を感じる。
二度、三度と擦れ違い打ち据えていけば、今度は茶色いスウォームの壁に罅が入った。
HPは満タンで、上がった耐久も併せて数発攻撃を受けても、何ら問題はない。
受け流し、滑り込み、跳躍。
再三にわたる執拗な一か所への攻撃は罅を砕き、弱点を空中へと晒した先生。
最後は『スキル累乗』で決まりだ。
「『スキル累乗』対象変更、『ストライク』」
声を受け、呼応するように輝きを増すカリバー。
土を舞い上げ跳躍した私はスキルに導かれ、全身を独楽の様に大きく振り回した。
深く息衝き一点を見据える、余計な所に力はいらない。
ドンッ!
『合計、レベルが4上昇しました』
ステータスの差という物は、なんと恐ろしいのだろう。
あれだけ苦戦した相手に私は、たったの30分ほどで討伐を終えてしまった。
経験値もお金もくれるなんて、先生はカモだ。
理由は不明だが、ボス戦で消耗した身体で来た道を戻るというのは危険が伴うし、ありがたい仕組みだ。
花咲ダンジョンからボロボロの身体を引きずって、やっとこさ協会へと向かったのだが
「え!? に、二千円にしかならないの……!?」
「ええ、スウォーム・ウォールの魔石ですよね? 一応多少は魔力が多いので色を付けるとして、それでも二千五百円くらいですね」
ボロボロの身体で協会に向かい、漸く手に入れた先生の魔石を売ろうとしたのだが、あまりに世知辛い現実が私を待っていた。
二千円じゃネットカフェで過ごしたら無くなってしまう、五百円も併設のシャワー代金で吹っ飛ぶし……
一万円くらいは貰えるだろうと、そのお金でどんなケーキを買おうかとわくわくしていたのに。
やはりもう少しレベルが上がり、効率のいいダンジョンに潜れるようにならなければいけないようだ。
「それにしてもアレを物理だけで倒す人、初めて見ましたよ」
「……?」
「スウォーム・ウォールは魔法がよく効きますからね。魔法職の人が居ればすぐに討伐できますよ」
「……!?」
つらい、おせちがからい。
そういえば私を追放だ何だと言って切り捨てた三人も、既にレベル10を突破していたはず。
もしかして私がいないときに、魔法で楽々討伐していたのか。
それならばあの自信も分かる。私がスライムを必死にシバいている間に、スウォームを何度も倒してレベルを上げていたのかもしれない。
一人で戦い続ける弊害がだんだん浮き彫りになってきた。
回復、そして魔法。すべてを網羅するのはあまりに不毛、まんべんなくというと聞こえはいいが要するにただの器用貧乏。
「分かった。魔石はそれでいい……」
「え、な、泣かないでください。信頼できる仲間を見つければ、きっと今度は簡単に……」
「泣いてない。仲間なんていらない」
だが私には『スキル累乗』がある。
たとえ器用貧乏でスキルレベルが高くなくとも、賭け合わせていけば高性能な魔法として代用できるはず。
仲間なんていなくとも、器用万能に私はなる。
園崎さんからお金を受け取り、足早にカウンターから離れる。
私以外にも魔石や素材、ドロップアイテムを売ろうと待っている人はたくさんいて、ずっと噛みついていれば目を付けられてしまう。
ぶっちゃけソロの探索者がダンジョンで殺されてしまえば、それが他殺かモンスターによる戦士なのか判別がつかない。探索者は割とブラックかつアウトローなのだ。
紙切れ二枚と一枚のコイン。
命を賭けた見返りは、あまりにちんけなものだった。
◇
ギルドお抱えの回復術師に千円支払い、回復魔法をかけてもらう。
幸いにして私はHPが低いので、たった一回でも十分全快にまで届き、皮がむけピリピリと痛かった掌も、すりむいたりした足も綺麗サッパリ治った。
そして千五百円だけをポケットに突っ込み、ギルドを後にして……
「ステータスオープン」
―――――――――――――――
結城 フォリア 15歳
LV 17
HP 42 MP 85
物攻 39 魔攻 0
耐久 107 俊敏 78
知力 17 運 0
SP 10
スキル
スキル累乗 LV1
悪食 LV5
口下手 LV11
経験値上昇 LV2
鈍器 LV1
称号
生と死の逆転
装備
カリバー(小学生向け金属バット)
―――――――――――――――
よしよし、レベル上がってSP入ってる。
これから一人で戦っていくうえで必要なのはなにか。
高威力の魔法スキルか、バットに何か魔法剣的なことを出来る力か。
違う、回復だ。昨日の死ぬか避けるかのチキンレースも、『ストライク』で死ぬかどうかのギリギリを攻めるのも、回復で余裕を保てていれば何とかなった。
回復ポーションも存在するが高い、最低基準で一本五千円なんて貴族しかつかえないぞ。
住所不定の十五歳にはぜいたく品過ぎる。
だが私はMPが高いのに魔攻が0という、嫌がらせのようなステータス。
これでは魔攻で回復量が決まる回復魔法は使えないし……
基本スキルとはいえ無数にあるそれをソートしていく中、一つだけ光るものがあった。
―――――――――――
活人剣 LV1
攻撃時、ダメージの1%を回復に転化する
必要SP:20
―――――――――――
うーん……活人剣か。
回復量が微妙でいまいち使いにくく、あまり人気がないスキルだと聞いたことがある。
しかし今の私にはこれしかない、のかな。うん、これを取ろう。
とはいえそもそも、今の私ではSPが足りない。
相棒を握りしめ、歩みを進める。
時刻は12時を過ぎた所、レベルアップでステータスも上がったし、やるべきことは決まっている。
先生を殴りまくって、お金と経験値をもらうのだ。
◇
「先生、お金と経験値ちょうだい」
ドゴォッ!
カリバーを叩き付ければわかるのは、以前ストライクを発動した時と同程度の威力が出ているという事。
レベルアップによって上がったステータスのおかげで、それほどの攻撃を行っているのにも関わらず、衝撃によってダメージを受けるという事もない。
手に馴染む、とでもいうのだろうか。
成長を感じる。
二度、三度と擦れ違い打ち据えていけば、今度は茶色いスウォームの壁に罅が入った。
HPは満タンで、上がった耐久も併せて数発攻撃を受けても、何ら問題はない。
受け流し、滑り込み、跳躍。
再三にわたる執拗な一か所への攻撃は罅を砕き、弱点を空中へと晒した先生。
最後は『スキル累乗』で決まりだ。
「『スキル累乗』対象変更、『ストライク』」
声を受け、呼応するように輝きを増すカリバー。
土を舞い上げ跳躍した私はスキルに導かれ、全身を独楽の様に大きく振り回した。
深く息衝き一点を見据える、余計な所に力はいらない。
ドンッ!
『合計、レベルが4上昇しました』
ステータスの差という物は、なんと恐ろしいのだろう。
あれだけ苦戦した相手に私は、たったの30分ほどで討伐を終えてしまった。
経験値もお金もくれるなんて、先生はカモだ。
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