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第六話 甘くて苦いワ〇ダボス

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 翌日、花咲ダンジョン最奥にて。

 ここは見た目からして草原、ボスエリアと言っても何か大きな扉があって、中に構えているなどと言うことは無い。
 その代わりボスエリアには、草が一本も生えていないのだ。
 強いて言うのなら学校のグラウンド、入れば地獄の体育が始まってしまう。

「ふぅ……よし」

『スキル 鈍器 LV1 を獲得しました』
『鈍器LV1 により ストライク を習得しました』

 ウィンドウへ手を翳し選択、お目当てのスキル。
 筋肉の助言に従い、鈍器スキルを習得した。

―――――――――――

鈍器 LV1

 打撃系武器の威力が1.1倍

 アクティブスキル
 ストライク 習得条件:鈍器 LV1
 消費MP5
 質量を利用した横の殴打
 威力 自分の攻撃力×1.5倍

 冷却時間 3秒

―――――――――――

 『スキル累乗』とはまた別の、新たなアクティブスキル。
 『鈍器』自体に攻撃への補正がかかるのは驚いたが、つまりはこの名前を叫べば技が発動するのだ、そう本に書いてあった。
 冷却時間はそのまま、二度目を発動するまでに必要な、待機時間か。

 ……一度も使わないでボス戦に挑むのは危険かもしれない。

 丁度横にスライムがふよふよ震えていたので、掴んで放り投げ

「『ストライク』」

 ぐいっと、何もしていないのに体が勝手に動き出す。

 輝くカリバーがスライムの中心をしかと捉え、衝撃を受け爆散。

「うへぇ……」

 ねちゃぁ……っとしたスライムが顔面にぶっかかり、そのまま消滅。

 もう十分だ、大体わかった。
 スキルという物の強力さ、十分に理解できた。
 あまり試し打ちをしていてもMPが無くなるだけ、もしボス戦で0になりましたなんて目も当てられない。
 さっさと突入しよう。

 あ、でもその前に。

「いただきます」

 ポケットから食べなれたそれを取り出し、口に放り込む。

 カリ……コリ……

 そこら辺に落ちている苦くて、渋くて、酸っぱい希望の実。
 レベル10というその制限ギリギリ、今まで知られていないのだから、復活する可能性は笑ってしまう程低確率なのだろう。
 それでもこの実はこの一週間私の食事として、そして私の未来を切り開く希望に繋がった。
 だから食べた、願掛けだ。

 私は勝ち続ける、さいきょーになる。

 でもやっぱり不味いので水で流した。



 足を踏み入れた瞬間、雰囲気が変わったのを理解する。

 首の後ろがちりちりと灼け、何者かに見つめられているような、全身を這う不気味な感覚。
 しかし何もいない。まるで私と何者かが戦う闘技場の様に、黒々とした円形の大地がそこにはある、

 サク、サク、と慎重に足を進め、三分の一ほどまで差し掛かった瞬間

 ドンッ!

 影が落ちたと思いきや、空中から巨大な壁が落ちてきた。
「……っ! 『鑑定』!」

――――――――――――――

種族 スウォーム・ウォール
名前 ジャマイカ
LV 5
HP 200 MP 37
物攻 27 魔攻 11
耐久 50 俊敏 1
知力 7 運 11

――――――――――――――

 ヤバい、めっちゃ強いではないか。

 名前がある辺り一概にボスと言っても個体差があるのか、写真で見た同族よりも黒々としている。
 大きさは縦横共に二メートルほど、でこぼことしてスライムが重なった跡があり、子供が泥を重ねて作った壁みたいだ。

 そして何よりもHPと耐久が異常に高い、まさにボスといった風貌。
 100ですら見た事が無いレベルなのに、突然200だなんて何を考えているんだ。
 これは不味い、筋肉は行けるだなんて言っていたが、想像以上に強そう……

 ……と、ここまでちょっと距離を取って考えていたのだが、スウォームはピクリとも動かない。
 もしかして本当に壁で、攻撃とか一切してこないのかな……?
 それならとんだ見掛け倒しじゃないか。

 最初の緊張感から外れ、気の緩みまくった私はホイホイ近寄って
「そりゃっ……!?」

 カリバーを振ろうとした瞬間、拳の様に太い棒が壁から高速で伸びた。

 速い……!?

「げ……ぇ……」

 ミシ、と骨が軋み、後ろへ吹っ飛ばされる。
 ゴロゴロと回る視界の中、自分の失敗を悟った。
 ああ、やってしまった。戦いの最中だというのに、どうしてそう簡単に気を許してしまうのか。

「ステータス……オープン……!」

――――――――――――――

結城 フォリア 15歳
LV 10
HP 12/28 MP45/50

――――――――――――――

 鑑定してみれば、そこにはたった一撃で半分を切った己の貧弱なHP。
 耐久が高くてよかった、下手すれば即死だったかもしれない。

 くらくらと頭が揺れ、視界がぼんやりと定まらない。
 痛む腹を抑えながら立ち上がり、奴を見て見ればいまだに動くことは無く、ただそこに立ち尽くしている。

 成程、こうやって調子に乗って寄ってきた初心者を、手痛い攻撃でぶっ飛ばしてきたわけだ。
 今の痛みで十分に目は覚めた。あいにくと私は俊敏に自信がある、ちまちま削って逃げる作戦で行こう。

 全力で駆け寄り、横に素振り。
 激しい衝撃が腕を伝い泣きそうになるが、気にせずそのまま走り去る。
 足を止めればあの一撃が来て、今度喰らってしまえばもう二度と立つことは出来ない。仲間がいれば回復なども出来るだろうが、私にそんなものはないのだ。

 足元へ背後から迫る棒、それを蹴り飛ばしそのまま前転。
 無事攻撃の範囲外へ離れることに成功した。

――――――――――――――

種族 スウォーム・ウォール
名前 ジャマイカ
LV 5
HP 184/200 MP 37

――――――――――――――

 ……先はまだ長そうだ。

 腕と手首をぐるぐるとまわし、短く息を吐く。
 一撃喰らえば死ぬ、そのくせ相手のHPは未だ多く、戦いの終わりは見えない……だというのに、なんだか楽しくなってきた

 私はもしかしたらマゾだったのかもしれない。
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