上 下
29 / 40
STAGE2

第29話 下位神

しおりを挟む
          ※



 超神ベアルと邪神ファルガ。
 二人の神が今、俺の前で並んで正座していた。

「……さて、これで落ち着いて話ができるな」
「は、はい……」

 超神ベアルはもう帰ってもらってもいいのだが、なぜか進んで正座している。
 俺の力に屈した証なのか、絶対服従だとでもいうように。

「俺は事情があってこの世界をお前の支配から解放しないとならない」
「は、はぁ……」
「俺と戦うか?」
「いやいやいやいや!! そんな無茶無理無謀をするなら、世界とかどうでもいいです!」

 巨人は顔をぶんぶんと左右に振った。
 正直でよろしい。

『アル……長嶺の指名は、世界の支配を目論むファルガの討伐だったな?』
『うむ』
『なら世界が解放された場合はどうなる?』
『ファルガからの世界の開放が目的なのだ。使命は達成と考えていいだろう』

 ならこれで、長嶺の使命は完了したとみていいだろう。

『だがその場合、この世界を新たに管理する神を派遣する必要があるな』
『放置というわけにはいかないわけだ』
『管理者は必要だ。そうでなければ不慮の事態への対応ができぬからな』

 前に言っていたエネルギーの存在限界がどうとか言うのか。
 異世界の転移や転生も、そのエネルギーの調整をするのに行われてると言ってたもんな。
 世界に置いておけるエネルギーの限界を超えると、何らかの障害を起こり、最悪は世界が消滅する可能性もある……だったか・

(……この世界にも多くの命がある以上、自分勝手な無責任はできないわな)

 さて、そうなると……だ。

『管理者の候補は直ぐに見つかるか?』
『代理であればな。正式な任命は管理局の女神たちが行うだろう』

 少し時間がかかるということか。
 なら、

「ファルガ……お前が力を奪った神は、今どこにいるんだ?」
「ガブリンの奴は力を奪ったあとは……適当に投げ飛ばしてしまって、大陸のどこかにいると思うのですが……」

 この世界の元神はガブリンという名前らしい。

『そいつを見つけて管理者にするほうが早いか?』
『それもいいが……悪魔如きに負けた神ではな……』

 確かに不安は残る。
 ファルガはそこまで強い悪魔ではなかった。
 だが、

『様子だけでも見に行ってみるか。力を奪われて苦労しているかもしれない……』
『貴様もお人好しよなぁ……まあ、好きにするがいい。我はお前が何をするかを見届けよう』

 アルは俺を止めることはない。
 俺が何を成すのかを楽しみたいのだろう。
 それともう一つ、唯一の友である俺と世界を見て回りたいのかもしれない。

「ファルガ……世界を解放して、今後無駄な争いをしないという条件を飲むなら、お前を見逃してやる」
「そ、そんなことでいいのなら今直ぐにでも!」
「もし約束を破ったら……消し飛ばすぞ?」
「破りません! 絶対服従の契約を結ばせていただきます!」

 そこまで言うなら、もう十分だろう。

「人も襲うなよ?」
「勿論! 人の恐怖を蓄えても上がる力は微々たるものだと理解しました。……一生、届かぬ力があることもわかったので……」

 なぜかファルガは目を輝かせて俺を見ていた。
 それはまるで、子供が初めて英雄をように眩しい。

「わかった。それともう一つ聞きたい」
「うん?」
「お前、管理局の女神については誰に聞いた?」
「悪魔王ロロ様です」
「ロロ?」
「はい……管理局の女神や、超神ベアル……それに、ガブリンについて聞かされました。奴らは悪魔を下賤と罵り、存在を消そうとしていると……」

 アルが本当に悪魔を消そうとしているなら、それこそ一瞬だと思うが……。
 俺はベアルに目は向けた。

「わ、私は知りませんよ! 初耳です! 初耳! そもそも仕掛けられなければ、こちらからは悪魔のことなんて放置ですよ!」
「悪魔王様が嘘を吐いたというのか!?」
「そもそも悪魔王ロロなど聞いたことがない!」

 ファルガとベアルが睨み合う。

『アル? 聞く必要もないと思うが……』
『悪魔王という地位もロロという名も、全く聞いたことがない』
『だよな』

 となると、今回の話を仕組んだのはその悪魔王という奴だろう。

「ファルガ、今からロロに会えるか?」
「それは難しいです。こちらからお会いできる方ではないので……」

 なら、もし障害になるようなら対応すればいいか。

「わかった。じゃあ俺はガブリンを探してくるから、何かあったら連絡してくれ」
「かしこまりました!」
「あ、あの~……わ、私はどうしたら?」

 恐る恐る、ベアルが聞いてきた。

「ベアル、ガブリンの居場所を特定できるか?」
「ま、まあ……力を奪われたとはいえ、元神ではあるので……コンタクトは取れるかと思います」
「なら、ここに連れ戻してくれ。それが終わったら自由にしてくれていいぞ」
「かしこまりました!」

 自由にと伝えた為か、ベアルは声を跳ねさせた。
 そして、深々と頭を下げてから超神ベアルは姿を消す。
 これなら思いのほか、直ぐに見つかりそうだ。

「え~と……狭間くん、よく状況がわからないんだけど……」
「もう、だいたい解決した」
「すごい……あっという間だったね。ボク、何もできなかったよ……」

 申し訳なさそうに長嶺は視線を逸らす。
 だが、それは仕方ないことだ。

「俺は長嶺が無事でいてくれただけで、十分に嬉しかったよ」
「っ……も、もう……! どうして真顔でそんなこと言えるの! ぼ、ボク……勘違いしちゃいそうになる、から……」
「勘違い?」
「も、もういいの! とにかく、女の子をキュンとさせるの禁止!」

 長嶺は人差し指をピッと立てながら、俺にそう宣言したのだった。
 
「とにかく、変なことを言ったつもりはないんだが悪かった」
「はあ……いいよ。狭間くん、いい人だから誰にでも優しいんだもんね……でも、女の子誰にでも優しいの禁止!」
「禁止が多いな……」

 思わず苦笑してしまった。

「さて……あとは、ファルガが力を吸い取った神様を探して、そいつに世界の管理権を戻せば長嶺の使命は完了だ」
「じゃあベアルさんが、戻ってくるのを待つ感じだね」
「ああ、もう少し辛抱してくれ」
「辛抱なんて……ボクは狭間くんと二人でなら、この世界を見て回ってみたいなぁと思ってたから……」
「なら全部終わったあとに、また戻ってくればいいさ」
「できるの!?」
「ああ、転移で飛べば一瞬だ」
「な、なんだか旅行気分みたいな感じだね」

 異世界旅行……と、考えると、まあ悪くはないかもしれない。

「――お待たせしました! ガブリンを連れてきました」

 なんと先程消えたベアルがもう戻って来ていた。
 しかも、その隣にはスタイルのいい少女が立っていて――。

「あれ?」
「あ!?」
「ふえっ!?」

 顔を見た瞬間――俺と長嶺、そしてガブリンの声が重なった。
 これは完全に予想外だった。
 何せ目の前にいたのは、

「狭間に、長嶺ちゃん!?」

 俺たちの同級生である楠木夢美(くすのきゆめみ)だったのだから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界のおっさんフリー冒険者は固有スキル「傘を刺す」で最強無双だった

中七七三
ファンタジー
なんの恥ずかしげもないテンプレ展開。 超ブラック企業に務めるおっさん、サラリーマンはトッラク(以下略 んで、異世界に転生。 転生したのは、異世界有数の名門貴族。 そして、5歳になると「固有スキル」を与えられるのだ。 降臨の儀式で、天より魔具を授かり、それと一体となるこで「固有スキル」を発揮できる。 異世界に転生したおっさんも、儀式で魔具を授かる。 それは、彼を「異世界最強・無双」にするものだった。 余りに希少な能力に、周囲は騒然、盛り上がる。 しかし―― 「いらねーよこんな魔具(もん)!」 転生した元おっさんは、そんなものは要らなかった。 魔具も「異世界最強・無双」の固有スキルもいらない。 めざすのは、まったりゆっくりのスローライフだ。 しかし、付与された魔具と固有スキルはもう切り離せない。 「なにが、高貴なる物の義務だ。クソか! アホウか!」 彼は家を飛び出し気ままな冒険者生活に入った。 それも、楽ちんな採取専門のフリー冒険者。 冒険者ギルドにすら所属していない。 「Sランク? なにそれ。いいよ適当で……」 しかし、彼の「異世界最強・無双」の力は魅力的すぎた。 実家からは、彼の「すご腕の婚約者」たちが、追手として放たれた。 3人の美少女達―― 「もうね、彼の子をなせば、名門貴族の正妻確約なのよぉ!」 「あら、そう簡単にいくかしら?」 「愛してます…… 愛しています…… 愛しているのです……」 元おっさん、逃げ切れるのか? 気楽に、ゆったり生活できればそれで十分―― 元おっさんサラリーマンにして、転生フリー冒険者に安息の日はやってくるのか? (表紙は「英雄キャラクタージェネレータ|サクセス」様で作成したものです)

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜

上村 俊貴
ファンタジー
【あらすじ】  普通に事務職で働いていた成人男性の如月真也(きさらぎしんや)は、ある朝目覚めたら異世界だった上に女になっていた。一緒に牢屋に閉じ込められていた謎のしゃべるうさぎと協力して脱出した真也改めマヤは、冒険者となって異世界を暮らしていくこととなる。帰る方法もわからないし特別帰りたいわけでもないマヤは、しゃべるうさぎ改めマッシュのさらわれた家族を救出すること当面の目標に、冒険を始めるのだった。 (しばらく本人も周りも気が付きませんが、実は最強の魔物使い(本人の戦闘力自体はほぼゼロ)だったことに気がついて、魔物たちと一緒に色々無双していきます) 【キャラクター】 マヤ ・主人公(元は如月真也という名前の男) ・銀髪翠眼の少女 ・魔物使い マッシュ ・しゃべるうさぎ ・もふもふ ・高位の魔物らしい オリガ ・ダークエルフ ・黒髪金眼で褐色肌 ・魔力と魔法がすごい 【作者から】 毎日投稿を目指してがんばります。 わかりやすく面白くを心がけるのでぼーっと読みたい人にはおすすめかも? それでは気が向いた時にでもお付き合いください〜。

世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜

ワキヤク
ファンタジー
 その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。  そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。  創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。  普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。  魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。  まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。  制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。  これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。

25歳のオタク女子は、異世界でスローライフを送りたい

こばやん2号
ファンタジー
とある会社に勤める25歳のOL重御寺姫(じゅうおんじひめ)は、漫画やアニメが大好きなオタク女子である。 社員旅行の最中謎の光を発見した姫は、気付けば異世界に来てしまっていた。 頭の中で妄想していたことが現実に起こってしまったことに最初は戸惑う姫だったが、自身の知識と持ち前の性格でなんとか異世界を生きていこうと奮闘する。 オタク女子による異世界生活が今ここに始まる。 ※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。

攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?

伽羅
ファンタジー
 転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。  このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。  自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。 そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。 このまま下町でスローライフを送れるのか?

ゲームのモブに転生したと思ったら、チートスキルガン積みのバグキャラに!? 最強の勇者? 最凶の魔王? こっちは最驚の裸族だ、道を開けろ

阿弥陀乃トンマージ
ファンタジー
 どこにでもいる平凡なサラリーマン「俺」は、長年勤めていたブラック企業をある日突然辞めた。  心は晴れやかだ。なんといってもその日は、昔から遊んでいる本格的ファンタジーRPGシリーズの新作、『レジェンドオブインフィニティ』の発売日であるからだ。  「俺」はゲームをプレイしようとするが、急に頭がふらついてゲーミングチェアから転げ落ちてしまう。目覚めた「俺」は驚く。自室の床ではなく、ゲームの世界の砂浜に倒れ込んでいたからである、全裸で。  「俺」のゲームの世界での快進撃が始まる……のだろうか⁉

~僕の異世界冒険記~異世界冒険始めました。

破滅の女神
ファンタジー
18歳の誕生日…先月死んだ、おじぃちゃんから1冊の本が届いた。 小さい頃の思い出で1ページ目に『この本は異世界冒険記、あなたの物語です。』と書かれてるだけで後は真っ白だった本だと思い出す。 本の表紙にはドラゴンが描かれており、指輪が付属されていた。 お遊び気分で指輪をはめて本を開くと、そこには2ページ目に短い文章が書き加えられていた。 その文章とは『さぁ、あなたの物語の始まりです。』と…。 次の瞬間、僕は気を失い、異世界冒険の旅が始まったのだった…。 本作品は『カクヨム』で掲載している物を『アルファポリス』用に少しだけ修正した物となります。

処理中です...