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STAGE2

第27話 詰所の牢

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 俺たちは町の門を守る衛兵の元へ向かった。
 そして山賊の居場所を尋ねると、詰所の牢屋に閉じ込めていると聞くことができた。

「詰所はここを真っ直ぐ行って、最初の曲がり角を右に行った先だ。茶色の石壁で作られている建物だから見れば直ぐにわかると思うぞ」
「助かるよ」
「感謝しなくちゃならないのはオレたちのほうだ。あんたは賞金首を捕まえただけじゃなく、攫われた娘たちを助けてくれたんだからな」

 あの山賊どもにはこの町の人々も、苦労させられていたのだろう。
 彼の言葉や態度から、俺に対する深い感謝が伝わってきた。
 話しが終わると、俺たちは衛兵に会釈して踵を返す。

「まだ移送されてなくてよかったね。これなら直ぐに話を聞けそう」
「だな。余計な手間が省けた」

 詰所を目指して歩いて行くと、聞いていた通りの建物を発見した。

「……牢屋があるってことは、悪い人もいっぱいいるのかな?」
「一時的に拘束しておくだけだろうから、流石にそこまで多くはないだろ」
「だといいんだけど……」
「心配しなくていいぞ」
「え……?」
「俺がいるんだ。お前に危害は加えさせない」
「ぁ……」

 俺が言うと、長嶺は頬を赤く染めて、そわそわした様子で俺に上目遣いを向けた。

「狭間くん、ありがとう。なんだかすごく安心する」

 だが直ぐに落ち着きを取り戻して、彼女は柔らかな微笑を浮かべる。

「それじゃ入るか」
「うん!」

 俺たちは詰所に入った。
 すると待機中の衛兵が二名、椅子に座っていた。

「ん? あなたたちは、山賊を捕まえてくださったかたですよね?」
「おお! この方たちが!」

 先程、山賊を引き渡した時にいた衛兵の一人なのだろう。
 直ぐに俺に駆け寄ってくると、深々と頭を下げた。

「あ、いや、ぼ、ボクはその別に何かしたわけじゃなくて……」

 うやうやしい衛兵たちに、長嶺は後退(あとずさ)りする。
 だが、歓迎ムードであることに違いはないので、これなら話を順調に進められそうだ。
「さっき拘束した山賊に会いたいんだが……」
「山賊というと……リーダーのモヒカーンにですか?」
「あいつ、そういう名前だったのか」

 確かに髪型がモヒカンだが、名前までモヒカンにする必要はないだろうに。
 いや、名前がモヒカンだったから、髪型をモヒカンにしたという可能性も……。
 などと思考がループしかけて、俺は頭を振って考えるのをやめた。

「モヒカーンは、ここ数ヵ月で急に名前を上げた賞金首です。現在、牢に拘束しておりまして、明日にはアムダスタ牢獄に移送予定です」

 この異世界にも、犯罪者を捉えておく牢獄があるわけだ。
 なら移送前で助かった。

「確認したいことがあるんだが、牢に案内してもらってもいいか?」
「何か調査ですか?」
「人助けにどうしても必要なんだ」
「――わかりました! ご案内いたします」

 人助けという言葉を聞いた為か、衛兵たちは迅速に対応してくれた。
 ちなみに長嶺を助ける為なので決して嘘ではない。

「こちらです」

 扉を開いた先を進んでいくと、地下に繋がる階段があった。

「お、お化けとかでそうな感じだね」
「そういうの、苦手なのか?」
「べ、別にそんなことないから! ぼ、ボク、子供じゃないよ!」

 先を歩いている長嶺が振り返り、ぷんっ、と頬を膨らませて抗議してきた。
 その可愛らしい姿に俺は苦笑してしまう。

「う、嘘じゃないからね!」
「わかってる。からかって悪かった」

 謝罪の意味を込めて、俺は少女の頭を撫でた。

「ぁ……も、もう! やっぱり子供扱いするんだから……」

 口では怒ったような口調だが、決して嫌がっていないのは彼女の顔を見ればわかる。
 本来は同じ年齢でも、どうしても同級生という感覚がないのは俺が精神的に歳を重ね過ぎてしまった為だろう。

「この先の地下牢に拘束しています」

 この辺りにも衛兵を置いており、かなり厳重に管理していることがわかる。
 そして進んだ先の扉を衛兵が開い――

「ぎゃあああああああああ、だ、誰か、誰か助けてくれえええええええっ!」

 突然の絶叫。
 それは間違いなくあの山賊、モヒカーンの声だった。
 動揺したのか衛兵の動きが止まる。

「悪い、入るぞ」

 俺は一声掛けると、扉を開き中に入った。

「す、すみません!」

 そして衛兵たちも後に続く。
 複数の牢屋の中に山賊たちが数人に分けられ、押し込まれているのが見えた。
 が、今はそれはどうでもいい。
 問題は闇を纏った獣が、牢屋にいる山賊たちを襲っていることだ。

「た、助けて、助けてくれえええええ! ぐがっ、ぎゃああああっ」

 必死に獣に抵抗する山賊たち――だが、リーダーであるモヒカーンは、闇の獣の突進を受けて態勢を崩した。
 獣は大口を開くと、闇の牙で標的の喉元に喰らい付く――

「よっと」

 が、今こいつに死んでもらうわけにはいかない。
 俺は瞬時に牢に転移すると、獣の首根っこを引っ掴んだ。

「ひいいいいいっ!?」
「喚くな」
「た、たたたたた助けてくれ! 助けてください!」
「助けてやってもいい。だが条件がある?」
「どどどどどんな条件でもいい!」
「本当だな?」
「ああ! ああ! 絶対に約束を守る!」
「『契約』成立でいいんだな?」
「いい! いいから早くその化物を!!」

 確かに約束した。
 なら今度は俺が契約に応じてモヒカーンを守るとしよう。

「獣共、伏せ!」

 俺は一言、命じた。
 すると山賊たちを噛み殺そうとしていた獰猛な闇の獣が、一斉にその場に伏せた。
 その飼い主に従う従順なペットと言ったとこだろう。

「ぇ……な、なんだ、どうなってるんだ?」
「こいつらの召喚者から、行使の権利を奪った」
「は……?」
「もうお前らを襲うことはないってことだ」
「……わ、わけわからねえが、あ、あんた、マジで俺の命の恩人だ!」

 モヒカーンが涙ながらにその場で土下座する。
 固い石床に額を押し付けていた。

「狭間くん、本当にすごいよ……」
「このくらいは長嶺でもできるようになるさ」
「な、なるかなぁ……」

 苦笑する少女だが、彼女も訓練を積めばこの程度は雑作もないことになるだろう。 

(……しかし、このタイミングでモヒカーンを殺そうとするとはな)

 どうやらファルガは、こっちの動きを読んでいると考えたほうがよさそうだな。
 だが見られている気配はない。
 だとすると、別次元から俺たちを観測している可能性もある。

(……そうだ。ちょっと試してみるか)

 俺はあることを試すことにした。
 だが、それには少し時間がかかる。
 その間、

「モヒカーン、単刀直入に聞く。ファルガについて知ってることを話せ」

 俺は土下座するモヒカーンに質問を向けた。
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