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STAGE1

第7話 襲来

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 どこに向かうのかと思えば、寮は学校の敷地内にあった。
 五階建てになっていて部屋の数も多い。
 学校の生徒はここで寝泊まりしているのだろう。
 恋の部屋2階の右奥だった。

「ただいま」
「お邪魔します」

 一応、声を掛けてから入る。
 ベッドに椅子と机。
 寝る為にあるような部屋だった。

「ベッドにでも座ってて。
 何もないからお茶も出せなくて申し訳ないんだけど……」
「いや、お構いなく。
 ゆっくりと話ができればそれでいいからな」

 俺がベッドに座ったあと、恋も隣に腰を下ろした。
 まずは恋の使命に関して確認しておきたい。
 が、恋も俺に話しておきたいことがあると言ってたな。

「さて、どっちから話をする?」
「巡の話を聞かせてよ。
 日本に帰れるっていうのはどういうこと?」
「わかった」

 この話を聞いてからずっと、恋はそわそわとしていた。
 当然だが、かなり気になっているらしい。

「俺はお前を日本に連れ戻す為に、この世界に転移してきたんだ」
「ぇ……? ど、どういうこと?」

 俺はここに来るまでにあった出来事をざっくりと伝えた。
 恋は百面相しながら俺の話を聞いている。
 今まで俺の身に起こった話を聞けば、この顔も当然だと思う。
 だが恋の理解は早かった。
 自身も異世界に転移していることを考えれば、何が起こってもおかしくはないと考えたようだ。

「……何度も転生と転移をって……地獄じゃん……!」
「まぁ……な。
 流石にキツい時もあったよ」

 全部が全部、辛い思い出ばかりではないけれど、それでも心が折れそうになったこともあった。
 それでも諦めなかった結果、今がある。
 友達を、大切なものを取り戻す為の力を手に入れられたと思えば、結果オーライだ。

「あたしたちを助ける為に、また異世界に来るなんて怖くなかったわけ?」
「それは全く。
 お前らにもう二度と会えないと思う方が、俺は怖かったよ」
「っ……巡、ありがと。
 お礼を言わないといけないのは、あたしのほうだよ」

 恋の目に涙が浮かでいた。

「泣くなよ」
「泣いてない!」

 胸に顔を埋めて、恋は涙を隠す。
 相変わらず意地っ張りのようだ。

「……二人きりの時は甘えさせてくれてもいいから」

 つまり撫でろということらしい。
 俺は恋の頭を撫でると、さらさらの長髪がさらりと揺れた。
 すると恋は満足に満面の笑みを向ける。
 誰に対しても気が強くツンとした態度の恋だが、俺と二人きりの時は甘えん坊になる。 それだけ気を許してくれているということだろう。

「巡……」
「うん?」
「あたし、こっちってからずっと、本当は怖かった。
 一人ぼっちでこの世界に来て……みんながどうなったかもわかんなくて……不安ばっかりで、一人になった時、泣いちゃったりもした」

 全く知らない世界に、たった一人きり。
 その恐怖は計り知れない。
 しかもここは地球ではなく異世界なのだから。

「でも、さっき巡の顔を見た瞬間、すっごく嬉しくなっちゃって、今はそんな不安吹き飛んじゃった」
「俺も同じ気持ちだ。
 それに恋が無事で安心した」
「また……みんなに会えるよね」
「勿論だ。
 その為に俺がいる」

 全員を異世界から救い出して、今度こそ日常を取り戻す。

「うん! ……よし! ありがとう、巡! もう元気充電完了!」

 俺から離れて、恋は気合を入れるみたいに細い腕で力こぶを作るように両腕をグッとさせた。

「恋……日本へ帰還する為に、直ぐにでも動きたい」
「わかった。
 あたしは何をすればいい?」
「まず異世界に来た時にお前に与えられた使命について教えてくれないか?」

 使命というのは、異世界転移者が神々から与えられる啓示のようなものだ。
 それを達成することで元の世界へ安全に帰還することができる。

「あたしの使命は魔王討伐」
「魔王のいる場所はわかるか?」
「この大陸の北にある暗黒大陸――そこに魔窟と呼ばれるダンジョンがあるらしいの。
 その最深部に魔王がいるって……でも、魔王の姿を目にしたことがある者は誰もいない」
「なら、行ってみるか」

 俺はベッドから立ち上がった。
 場所がわかっているのなら、あとは討伐するだけだ」

「ええええええっ!? ちょっと待ちなさいよ! 魔王よ! この世界で最強って言われてるの! ちゃんと訓練を積んでからじゃないと――」
「そんなのは無限に積んだ」
「無限って、めちゃくちゃ言わないでよ! 命がかかってるんだから」

 比喩ではない。
 本当に無限に近い時間、俺は異世界で闘いに明け暮れていたのだから。

「安心しろ。
 お前のことは必ず俺が守る」
「……巡が強いのはわかるよ。
 でも……やっぱり怖い。
 巡のことは信じてるけど、もっと訓練を積んであたし自身が強くなって万全を期したほうがいいんじゃないかな?」

 戦いの怖さを知っているからこそ、恋は慎重になっているようだ。
 これなら一度、力を見せるのが早いかもしれない。

(……丁度よかったな)

 今、少し大きな魔力を持った何かが、この城下町に近付いてきている。

「恋、外に出るぞ」
「え?」
「敵が来るみたいだ。
 お前は感じないか?」
「感じないかって……っ――な、なに、この魔力反応!?」

 遅れて恋も気付いたようだ。
 向かってくる強烈な気配に身体を震わせている。

「こ、こんな相手……だ、誰も勝てるわけ……」
「恋は見てるだけでいいからな」
「え?」

 俺は恋の手を掴み学園の敷地に転移した。
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