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STAGE1

第6話 再会

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「誰だキミは? 見掛けない顔のようだが……いや、それよりも決闘の邪魔をするというのはどういうことだい?」
「お前、第三者に重力魔法を使わせ恋の動きを封じてたよな」
「っ!?」

 男は肩を震わせた。
 その顔には明らかな動揺が浮かんでいる。
 試合を見守っていた生徒たちの間にざわめきが生まれていた。

「え? 第三者に魔法を使わせてたって……」
「それが事実なら反則負けだよね?」

 ここは騎士学校であることを考えるなら、正式な決闘は一対一で行われるのが当然のルールのはずだ。

「か、彼女の動きを止めたのは僕の魔法だ!」
「なら使ってみせろよ。
 魔法でもスキルでもいい。
 重力を制御する何らかの力をお前は持ってるってことだろ?」
「そ、それは……」

 卑怯者が口ごもった。
 重力魔法は魔法の才があるものでなければ習得が難しい。
 さっきの決闘の様子を見る限りではこいつにそこまでの才覚はない。

「使えないんだろ?
 それと決闘に介入した第三者が誰かももうわかってる――」

 指をさすのと合わせて拘束魔法を展開する。

「ぐあっ……」

 光の縄が犯人の男を拘束した。

「なぁ、どうしてお前は決闘に介入したんだ?」
「お、おれはな――」

 誤魔化そうとした男に、俺は精神操作の魔法を使い暗示を掛けた。
 俺に絶対に嘘を吐くなと。

「……負けそうになったらサポートしろと脅されていたんだ。
 言うことを聞かなければ、殺すと言われて……」

 流石は変態下種野郎だ。
 他の生徒たちも軽蔑の眼差しを向けている。
 勇者に対して払うべき敬意も尊敬も、この男には必要ないと訴えるように。

「なんだその目は! 文句があるのか! 僕は勇者だぞ! 選ばれた異世界転移者なんだ! 僕はすごいんだよっ!」

 異世界管理局の女神たちは何を思ってこいつを転移者に選んだのか。
 英雄として世界に名を残す素晴らしき人物は間違いなくいる。
 が……異世界に転移して力を手に入れたことをいいことに、他者の迷惑をいとわず好き勝手にふるまう人間もいる。
 多くの世界を見てきた俺だからこそ、そういった実情を把握できていた。

「そうだ! お前だ! お前が悪い! お前が僕の前に現れなければ、余計なことを言わなければ――麗花を奴隷にできたのに!」

 まるで子供の八つ当たりだ。
 恋がうんざりしていた気持ちもわかる。
 これの相手をしなければならないなんて不快なだけだ。

「さっき運命だとか奴隷だとかほざきやがった時に言ってやりたかったんだがな――」
「うるさい! 僕と彼女は――」 
「お前みたいな下種と、恋みたいないい女が釣り合うわけねえだろ」
「だまれえええええええええっ!」

 怒りが頂点に達したのか、顔を真っ赤にしながら男が足を前に出そうとした。
 が、それは叶わなかった。

「お前が黙れ」
「っ――!?」

 少し苛立ちを孕んだ俺の『声』を聞いた瞬間。

 ――プシュウウウウウ!!

 まるでシャワーノズルから出る水のように、運命に選ばれた男(笑)の全身から血が噴き出した。
 血を流し過ぎたことで、バタン!! と男は前のめりに倒れ込んだ。
 まだ息はあるようだが暫くは動くこともできないだろう。

(……少し強く命令しすぎてしまったか)

 力が離れている相手に少しでも怒りの感情をぶつけると、精神操作に近い効果を発揮してしまう。

(……友人に下種な言葉を向けられるのは、自分が馬鹿にされるよりもよっぽど苛立たしい)

 普段は気を付けて何重にも自身の力の制御を掛けているが、この男はあまりにも不快過ぎて思わず感情が漏れてしまった。

「……あたしには何も見えなかったけど、もしかして巡がやったの?」

 恋は今の現象について理解できなかったようだが、あの名も知らぬ転移者を倒したのが俺ということは理解したようだ。 

「誰かが攻撃したのか?」
「でも、何かされたようには見えなかったよ?」

 周囲の生徒たちからすると、話していたら勝手に気絶した。
 そんな状況だろう。

『……とんでもない小物であったな』
『異世界転移者にはこういう奴もいるんだ』

 特別な力を持っていようと、勇者の資質を持っているかは別だ。
 この名前も知らない異世界転移者は正にそのいい例だろう。

「め、巡……も、もう大丈夫だから下ろしてよ」
「ああ、すまない」

 抱きかかえていた恋を下ろす。
 いくら幼馴染といえど気安く身体に触れるのは女性に対して失礼だったろう。

「あ、謝ることじゃないから。
 全然、イヤとかじゃなくて……ただ、みんながいるところだと……」

 恋の頬に紅が差す。
 人差し指をツンツンしながら、俺をちらちらと見ている。
 どうやら照れているようだ。

「でも……巡にやっと会えた。
 ずっとあんたのこと、探してたから……」

 恋は俺が同じ世界に転移している可能性を考えていたようだ。

「ありがとうな、恋。
 お前が俺の心配をしてくれてたのが伝わってきた。
 すごく嬉しいよ」
「な、撫でんなし! ハズいから!」

 感謝を伝えようと想い、恋の頭を撫でた。
 言葉では文句を言っていても、拒絶する素振りは見せない。

「一人で心細かったろ? もう大丈夫だから」
「っ……巡、なんか変わった? より大人っぽくなったというか……」
「そりゃあ、会ってなければ多少は変わりもするだろう」
「まぁ、そうかもしれないけど……」

 異世界で有り得ないと年月を過ごしてきたのだから。

「だけど、それでも変わらない者はある」
「え? それって何よ?」
「お前が俺の大切な幼馴染ってこととかな」
「~~~~~っ!? あ、あんた、やっぱ変わってない。
 昔から、そういうこと平気で言うんだから……!」

 照れ隠しなのか恋がぽこぽこと俺の胸を叩く。
 家が隣の幼馴染。
 幼稚園の頃からの腐れ縁。
 俺にとって恋は家族みたいなものだった。 

『巡、この者は貴様の恋人か?』
『いや幼馴染だ』
『ふふっ……そうか、貴様は少し愚鈍なところがあるようだな。
 この少女も苦労するであろうな』
『……?』

 アルが何を言いたいのか、俺によくわからなかった。

「なぁ、恋さまとお話しているあの男は誰なんだ?」
「随分と親しそうな様子だが?」

 っと、気付けば騒ぎが大きくなってしまった。
 まあいいか。
 どうせ直ぐにこの異世界よはさよならだ。

「恋、日本に帰るぞ」
「え……? 帰るって――帰れるの!?」

 胸を叩いていた手で今度は俺の方を掴んで、恋は目を見開き俺を見つめてくる。

「ああ、直ぐにでも――」
『巡、それはやめておけ』
「は?」

 アルの念話に対して思わず声を出してしまった。

「はって、何よ! はっきりして!」

 恋が肩を掴み俺を揺らす。
 揺らされたまま俺はアルと念話に集中した。

『どういうことだ?』
『異世界転移者、もしくは転生者には使命が与えられているのは貴様も知っているな?』
『ああ』
『使命を終えずに元の世界へ強制送還した場合、何らかの障害が発生する。
 どの世界にも魂――エネルギーの存在限界があるのだが、それを超えることになるる』

 俺を地球に転移させる際にも同じことを言ってたな。

『貴様のような莫大なエネルギーを持った人間でない限りは、星が消滅するような障害が発生することはないと思うが、それでも面倒なことが起こるのは間違いない』
『俺の時のように、お前がエネルギーを相殺することはできないのか?』
『貴様の分を相殺するだけで限界だ』

 そうだった。
 俺の場合、使命うんぬん関係なく別の星に転移するだけで大問題だった。

『なら、さっさと恋に使命を終えてもらうほうが早いな』
『そういうことだ』

 だとしたら恋の現在の状況を知っておきた。

「巡、聞いてるわけ?」
「ああ、今から詳しい話をさせてくれ。
 どこか落ち着いて話せる場所はあるか?」
「なら、あたしの部屋に行きましょう。
 騎士学校の寮の一室を借してもらってるの――こっち」

 恋が俺の手を引いて駆け出す。
 昔から行動力のある少女だったが、異世界に来てもそれは健在のようだった。
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