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STAGE1

第2話 異世界特定

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 異世界管理局の女神たちが、みんなの転移先を探してくれている間に、俺は学校内で情報収集していた。
 その結果、転移してしまったのは俺と同じ2年A組にいた生徒のみだとわかった。
 教室に残っていた20名。
 別のクラスや学年から5名。
 合計25人の生徒が異世界転移に巻き込まれたようだ。
 一つ下の俺の妹――狭間森羅(はざましんら)や、同学年の幼馴染である麗花(うるか) 恋(れん)、親友の風見晴樹(かざみはるき)、他にもずっと会いたいと願っていた家族や友人はほとんど転移に巻き込まれている。
 職員室は突然の生徒たちの失踪に大騒ぎで既に警察も出動している。
 ここまでが俺が学校にいる間にわかったことだ。

『アル、どうだ?』
『――たった今、連絡があったぞ』

 生徒たちの状況を知ることもできたので、俺も自宅に戻ることにしたのだが……。

「……先輩!!」

 廊下を歩いていると懐かしい……だが、聞き覚えのある声に呼ばれた。

「詩音か……」
「先輩! めっちゃ心配しましたよ!」

 髪を明るく染めた少女が廊下をバタバタと走ってきて、飛びついてきた。
 そのままぎゅ――と、俺を力強く抱きしめて、頬を胸に埋めてきた。
 この少女は奏(かなで) 詩音(しおん)。
 俺の妹である森羅の中学時代からの親友だ。
 優等生タイプの森羅と違い、詩音はどちらかと言えば自由奔放というか……まぁ、ちょっとギャル風な女の子だ。

(……こいつが無事なのはもう確認してる)

 俺の友人の中では唯一、異世界転移を免れた生徒だった。

「お前が無事でよかった」

 詩音が顔を上げた。
 その瞳はうっすらと濡れている。

「それはこっちのセリフですよ!
 でも……シンラや恋さんたちは見つからないって……」

 いつも明るく冗談で回りを笑わせてくれる。
 そんなムードメーカー的な気質のある詩音も、今は泣きそうな顔をして落ち込んでいた。 森羅たちのことを本気で心配してくれているようだ。

(……こういう時、人の本質は見えてくるものだよな)

 詩音は嘘を吐けるタイプではない。
 正直で心からいい奴だと思える女の子だ。

「一体、何があったんでしょうか?
 テロとか……集団誘拐? わたしたちも、何か出来ることってないでしょうか?」
「詩音……心配するな。
 俺がなんとかする」
「な、なんとかって……――先輩、何か事情を知ってるんですか?」

 知っている。
 この世界で恐らく唯一、俺だけが真実に辿り着いている。

(……伝えるべきか?)

 言ったところで信じられる話ではないが……詩音は信頼できる。
 何かができるわけではないが、少しでも安心させてやれるなら事情を伝えておくべきかもしれない。

「……信じられない話だと思うが、聞くか?」
「はい!」

 即答された。
 涙を拭うと、先程よりも力強い目を俺に向ける。

「場所を変える。
 今から家まで来られるか?」
「わかりました」

 詩音が頷いたのを見て、俺は付いて来いと促すように足を進めた。

「あ――でもですよ、先輩」
「うん?」
「こ、こんな時なんだから、エッチぃことはなしですから!」
「するか!」

 まぁ、女の子として心配になるのはわかるが。

「ふふっ……冗談です。
 先輩のこと信じてますから。
 照れたましたか? ちょっとドキっとしましたか?」

 あぁ、懐かしいな、このやり取り。
 からかい好きな後輩と絡みは、俺に学生らしさを思い出せたのだった。



         ※



「って、わけだ」
「異世界転移……? つ、つまり、ここじゃないどこか別の世界に行っちゃったと?」
「ああ、これがこの事件の真相だ」

 大まかな説明を伝えると、詩音は難しそうな顔で視線を伏せた。
 信じてもらえなくて当たり前か。
 それは仕方ないだろう。
 逆の立場から俺も信じなかっただろう。

「わかりました。
 先輩が言うなら信じます」
「は? ……マジで言ってんの?」
「え!? なんですかその反応!? なんで先輩が驚いてるんですか!?」

 いや、そりゃ驚くだろ。
 自分で言っておいてなんだが、この夢物語みたいな話を信じてくれる奴がいるなんて……。

「先輩は嘘を吐いたりしません。
 誠実な人だって、わたしは知ってます」

 そう言って、詩音は俺を信じきったような満面の笑みを向けた。
 ここまで信頼を向けられると、流石に照れる。

「先輩がシンラや恋さんを大切に思ってるのも知ってます。
 そんな二人が巻き込まれた事件のことで、誰かを騙すような真似をするはずがないです」

 俺には嘘を吐く理由がなに一つない。
 それは、失踪した生徒たちを本気で心配している人を傷付けることになるだけだから。

「それで先輩……みんなを助け出す当てはあるんですか?」
「ああ、その為の調べものをしてる最中だ」
「調べもの……?」

 詩音が首を傾げた。
 女神たちからの連絡はどの程度で来るだろうか?
 転生者、転移者の膨大な情報を管理している以上…直ぐには難しいかもしれないが……。

『――巡、運命の女神たちが調査を終えたと連絡がきたぞ』
「お、そうか」

 思っていたよりも早かったな。

「……? 先輩?」

 しまった。
 アルとの念話は詩音には聞こえてないんだ。

「なんでもない」
「……そうですか」

 アルとは俺も念話で話すとしよう。

『それでなんて?』
『まず一人――麗花(うるか) 恋(れん)の転移先が判明したぞ』
『恋の!?』

 恋は幼稚園の頃からの付き合いの腐れ縁で、俺のたった二人の親友の一人だ。
 あいつの居場所が早い段階でわかったのは僥倖だ。
 出来れば森羅や優真の転移先も一緒にわかるとありがたかったが……流石にそれは望み過ぎだろう。

『転移先の座標と時代は?』
『それも問題ない。
 貴様の意識に異世界の座標を送る』
『助かる』

 礼を言った直後、俺は座標位置を理解していた。
 目的地の正確な座標位置さえわかれば――転移自体は余裕だ。
 俺が日本に自力で帰れなかった原因の一つも地球の座標位置がわからなかったことが関係している。
 神々が作った異世界は無数に存在しており、その中の特定の一つを見つけ出すというのは、砂漠の中で小さな石粒を見つけ出すよりも遥かに難しいことだった。
 それこそ管理している側でも、なければ見つけるのは不可能だと断言できるほどに。

「恋の居場所がわかった」
「本当ですか!?」
「ああ。
 だから、今から行ってくる」
「今からって……もしかして、異世界に行くんですか!?」
「そうだ」
「なら――わたしも連れて行ってください!」

 自分も力になりたい。
 詩音の目がそう訴えている。
 その気持ちはありがたいが……。

「お前を異世界には連れていけない」
「えええっ!? わたしだって、何か力になりたいです!」
「その気持ちはありがたいが……それでもお前を連れていけない」

 異世界に詩音を連れて行くのも、その世界で彼女を守るのも容易なことだ。
 が、異世界転移にはリスクがある。
 実際に俺は、転生や転移を繰り返す体質になってしまったわけだしな。
 異世界管理局の女神曰く、俺の存在は完全なイレギュラーになってしまっているらしい。

「俺が異世界の話をしたのは、失踪した生徒は必ず助けられると教える為だ。
 そうすれば少しは安心できるだろ?」
「そ、それはすごく嬉しかったですけど……わたし一人、何もできないなんて……」
「何もできないなんてことないさ。
 お前がこっちで待ってくれてるなら、戻って来なくちゃって思うだろ?」

 大切な家族や友達が全員、元の世界で一緒に生きていく。
 それが今の俺の一番の願いだ。
 その中には当然、詩音も含まれているんだから。

「っ……先輩はずるいです。
 そんなこと言われたら、何も言えなくなっちゃうじゃないですか」

 以前の俺なら詩音の根負けしてたかもしれない。
 言葉巧みに思考を誘導するというのは、大人のやり口だろう。
 だが仮にそうだとしても、この気持ちに嘘はない。

「わたし、先輩と恋さんのこと待ってますから!
 絶対、ぜ~ったい! 無事に帰ってきてくださいね!」
「それは約束する!」

 どの異世界に行こうと俺に怪我を負わせられるような奴はいない。
 俺はそれを確信している。

「それじゃ――行ってくるな」
「はい!」

 笑顔で詩音に送り出されながら、俺は恋が送還された異世界――ユグドに転移するのだった。
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