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3巻
3-1
しおりを挟む1 巨大ウナギと面倒事
海の見える街オーゴにて、引き続き海鮮市場散策中の、四十路のおっさんこと俺、ノート。
まあ、四十路といっても、こっちの世界に来てからちょっと若返らせてもらってるんだけどな。
ちなみに旅のお供には、フェンリルのヴォルフと大精霊のマナに加えて、エレキバードのライ、スライムのアクアといった従魔がいる。
あと、俺がこの世界で最初に仲良くなったマークだな。マークは異常に面倒見のいい奴で、行く先々でトラブルを起こしがちな俺に付いてきてくれている。
じゃあ、そろそろ買い物を再開するか。
タラっぽい魚とかマグロっぽい魚とかいろいろ美味しそうな海鮮を買いあさったが、次は何を買おうかな。
ウキウキしながら次の店を覗くと、そこの生け簀にいたのはアナゴっぽい魚だった。
間違いなく美味いだろうから買うのは決定。
ここまで来たらウナギも欲しいな!
海の街だから、ウナギがあるかはわからないけど探そう。いや、ウナギってそもそも淡水魚なのか海水魚なのか?
その後は、オコゼ、ノドグロ、赤魚、クエ、カワハギ、アラ、ハタ、マツカワ、ホシガレイ、ヒラメ、鮭児、アコヤ貝、ヒオウギ貝、伊勢エビ、ロブスター、シャコ、トリ貝、ウチワエビ、桜エビ、上海ガニ、ワタリガニなどなど、それぞれ「っぽい」魚介を買った。イカも、アオリイカとヤリイカを追加購入した。
あとは、イクラとスケトウダラっぽいのもあったから、タラコもあるか?
いやあ、買ったなー!
とりあえず今回はこれくらいにしておこう。
そんなこんなで昼時となり、屋台で昼食を購入して食べた。
◇
その後、適当な依頼を受けるために冒険者ギルドにやって来た。魔法の練習もしなきゃいけないしな。
依頼板を見ていくと……Bランク依頼に、巨大ウナギの魔物「ジガンテスコアングィッラ」の討伐依頼があった。
ウナギいるんだな!
テンション高めで依頼表を受付に持っていき、受注手続きをしてもらう。
生息場所を聞いてから、さっそく教えてもらった湖に向かう。
道すがら、どんな料理を作ろうかな~とか考える。また、ヴォルフとマナに、ジガンテスコアングィッラがどれほどの強さなのかとか聞いたりした。
やがて目的地近くまで着く。
じゃあ、狩りの仕方を考えるか。
とりあえず罠を製作してみようと思ったけど、遠目に見えるジガンテスコアングィッラの影を見て唖然とする。
……デカくないか。
太さは直径二メートルはあるぞ。長さは二十五メートルプール並みだし、巨大ウナギっていうだけあってホントにデカいんだな!
んー、こんなにデカいなら大味なのかな?
とか、いろいろ考えたりしたんだが、捕獲したら鑑定すればいっかと頭を切り替えて、罠を仕掛けていった。
罠を仕掛け終わって一時間ほど経った頃だろうか。仕掛けのほうから、バシャバシャというか、ドッパーンッ! って感じの轟音がしてきた。
……仕掛けが壊れる!
そう思って急いで向かう。
見ると、仕掛けを壊さんとするようにジガンテスコアングィッラが動いていた。
エレキバードのライに雷魔法をお願いしたところ、ジガンテスコアングィッラはさらに派手に暴れ出してしまった。
仕方ない、俺がやるか。
スタンガンのテーザー銃をイメージすると、そのまま魔法を放つ。
暴れるジガンテスコアングィッラは一度大きくビクンッとしたあと、気絶したように急に大人しくなった。
俺は自分自身に身体強化の魔法をかけ、ヴォルフには大きくなってもらって、ジガンテスコアングィッラを引っ張り上げた。
その後、他にもいないかな~と思って、弱めのスタンガンをイメージして湖に向かって魔法を放ってみた。
日本で見られるウナギよりは大きい、およそ全長百五十センチメートルほどのやつがたくさん浮いてきた。
いや、大漁大漁!
これで鰻丼も鰻重も肝吸いも串焼きも食えるかもしれん。
……おっと、妄想に浸る前に鑑定しないと。そもそも食えない個体だったら、悲しい思いをしなくちゃならんからな。
・ジガンテスコアングィッラ(巨大ウナギ)
高タンパクで、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンD、ビタミンE、DHA、EPA、ミネラル(鉄、亜鉛、カルシウム、銅)が豊富。
新鮮な物であっても、きれいな水に一、二日入れて泥抜き、臭み抜きをする必要がある。
夏バテを防ぐためにウナギを食べる習慣はセレスティーダにもある。ただし煮こごり寄せのような料理が主流で、味はお察しのため人気がない。
もしきちんと調理できれば、地球のウナギよりも味に深みがあるため、美味しくなるだろう。
一口食べれば、あまりの美味しさに無言で食べ続けるに違いない。
ちなみに、大量に獲れた小さいウナギは「アングィッラ」という名前で、こちらも食用可能だった。
ダメだったら暴れるところだったな。
まあ、食えるってことで安心したことだし、どうやって料理しようか考えつつ、湖に浮いたアングィッラの回収作業を行う。
すべて集めて、容量拡張のみだけで時間停止機能の付いていない魔道具「アイテムカバン」に入れる。
さて、オーゴに戻ろう。
◇
夕方頃に、オーゴの冒険者ギルドにたどり着き、ヒレ部分を討伐証明部位として提出。報酬をもらった。
その後、コテージに帰ってくる。
コテージの外に出て、腹が減ったので何を作ろうかなと悩んでいると、ヴォルフから何者かが近づいてきていると念話で言われた。
飯時に来るなんて、許されざる凶行だ。
キッチリとO・HA・NA・SHIしなくちゃな! まあOHANASHIと言いつつ、拳でわからせるのも辞さない覚悟だが。
そうだ。OHANASHI相手が来るまでにステータス確認しとこう。
名 前: ノート・ミストランド
種 族: 人族
年 齢: 42
職 業: 冒険者兼旅人、職人、殲滅者
レベル: 41
H P: 1350
M P: 5250
体 力: 810
力 : 760
魔 力: 5250
敏 捷: 800
器 用: 745
知 力: 780
スキル: 【異世界言語(全)】【アイテムボックス(容量無制限&時間停止)】
【鑑定(極)】【生産(極)】【錬金(極)】【全属性魔法(極・詠唱破棄)】
【調理(極)】【成長率五倍】【タブレット】【交渉】【算術】【読み書き】
【小太刀術7】【身体強化7】【体術4】【歩法5】【御者4】
【魔力回復量増加4】【並列思考3】【合成魔法2】【気配感知1】
魔 法: 火、水、風、土、氷、雷、光、聖、闇、無、治癒、精霊、従魔術、時空間、付与
スキルは【並列思考】【合成魔法】【気配感知】が新しいやつだな。
職業の欄の「職人」はちょっと前からあったけど、「殲滅者」というのは新規の職業か。ゴブリンの群れを殲滅したから付いたのか。
一応それぞれ確認しておこう。
・職人
複数の生産を行った者が得る。
生産成功率上昇。生産速度上昇。素材効率化(使用素材の能力を限界値まで引き出す)。錬金との融和性上昇。魔法付与率上昇。
・殲滅者
範囲魔法使用魔力20%軽減。
範囲魔法使用時に、任意で強弱を付けられる。それに伴い消費魔力も変化する。
なるほどな。
続いて、成長目覚ましいライ、アクアの二体のステータスもチェックしておこう。
名 前: ライ
種 族: エレキバード(レア)
年 齢: 12
職 業: ノート・ミストランドの従魔
レベル: 28
H P: 285
M P: 500
体 力: 275
力 : 240
魔 力: 500
敏 捷: 460
器 用: 235
知 力: 245
スキル: 【風魔法8】【雷魔法8】【遠見】【隠蔽】【看破】
【疾風(スキル進化可・経験値不足)】
付 記: 種族進化可(経験値不足)
名 前: アクア
種 族: スライム(レア)
年 齢: 半月
職 業: ノート・ミストランドの従魔
レベル: 11
H P: 190
M P: 250
体 力: 190
力 : 185
魔 力: 250
敏 捷: 200
器 用: 215
知 力: 210
スキル: 【水魔法7】【治癒魔法5】【強酸弾】【体当たり3】【吸収1】【触手1】
付 記: 種族進化可(経験値不足)
おー、レベル上がってるなー。
まあ、そこそこの魔物を討伐してきたしな。
よし、ステータスの確認も済んだところだし、ヴォルフにOHANASHI相手がどんな感じか聞くことにするか。
さっそく聞いてみると、敵意や殺意はないが邪な狙いがあるとのこと。
面倒だなと思いつつ全員で警戒しながら待つ。件の男はキョロキョロしながらこちらに近寄ってきた。
男がニヤニヤしながら話しかけてくる。
「……あんたがノートって人で間違いないか?」
「誰だ、お前は」
質問に答えることなく俺が尋ねると、男は笑みを浮かべて告げる。
「俺は、お前の雇い主になる者だ」
「帰れ! バカタレが!」
ムッとして俺が罵倒したところ、男は顔を真っ赤にして言い返してくる。
「貴様、口の利き方を知らないようだな!」
「お前こそ、寝言は寝て言え!」
さらなる俺の罵声に、男は狼狽えつつ言う。
「お、お前のように金儲けの仕方や金の使い方を知らない奴を、しっかり稼がせてやろうというのにな」
「余計なお世話だ。俺は俺のやりたいようにやるだけだ。だいたいお前はそう言って、物知らずの人間を騙して金を掠め取るつもりなんだろ」
すると、男は我慢の限界が来たらしくナイフを取り出したので、俺は新しく覚えたスキル【並列思考】を使い、自分の周りにいくつもの魔法を展開した。
男は青い顔をして慌てて言う。
「じょ、冗談だって。そんな物騒なものはしまえって! なっ、は、はははは」
「なんで、俺がお前の都合で動かにゃならんのだ?」
そんなふうに揉めていると、それまでどこかに行っていたマークが戻ってきた。
「ノート! 何やってるんだ!?」
マークのほうに顔を向けたその瞬間。
「バカが!」
「ノート! 後ろ!」
男がナイフを構えて襲ってきた。
俺はマークに言われなくても、男の不審な動きは察知していたので、周囲に漂わせていた魔法を男にすべて当てた。
男は派手にぶっ倒れているが、威力は弱めてあったし死んではいないだろう。
俺は男をしっかり縄で縛り、簀巻きにした。
「マーク、何か用か?」
何事もなかったかのような聞き方をしたからだろう、マークが怒ってくる。
「何か用かじゃないだろう! ところで、なんなんだその男は?」
「知らん。金の使い方を教えるため、俺の雇い主になるとか言ってきたんだよ。断ってやったらナイフを取り出してきてな。それで魔法で対処したんだ」
「はあ……それで、どうするんだそいつを」
「しっかりOHANASHIして帰ってもらうが?」
「お話しするって……おい! 何か変なニュアンスを感じたんだが」
「気にすんな。二度と俺に関わらないように教えるだけだ。その後は領主に引き渡す」
そんな会話をしていたところ、男の泣き声が辺りに響いていたみたいで、衛兵がぞろぞろとやって来た。
事情を説明して、男を引き渡しておしまいにしようと思ったのだが……
◇
俺、マーク、従魔達は衛兵の詰め所に連れてこられた。衛兵の隊長が順番に話を聞いていくそうだ。
順番は、OHANASHI相手、俺、マークだという。
そろそろ従魔達が空腹を訴えてきてるんだけどな。
とりあえずおやつを与えて我慢してもらうか。
しばらく待っていると、隊長らしき人がやって来た。事情聴取でもされるのかと思っていたが、突然凄まれる。
「貴様達の罪を償わせる!」
ムカッとした俺が言葉を発する前に、マークが目で合図を送ってきた。俺の代わりに説明してくれるらしい。
マークが告げる。
「私達は被害者なのですが……」
「ふん、言い逃れをするつもりか?」
「言い逃れも何も、その男はいきなり私達が借りているコテージにやって来て、ナイフを取り出し襲ってきたのです」
「そんな話は捏造だろう」
面倒になってきたので、俺が割って入る。
「俺達に罪があるのかどうか、話し合う意味もない。おい、冒険者パーティ『海の男』のディラン、冒険者ギルドのギルドマスター、オーゴ領主をここに連れてこい!」
「なぜ呼ぶ必要がある? というか貴様、最後に誰を呼べと言ったんだ!?」
「オーゴ領主だ! オーゴ領主を連れてこい!」
「貴様、領主様を呼びつけるなど……ただで済むと思っているのか!」
隊長はそう言って殴りかかってきた。
俺はその拳を片手で受け止めると、グッと力を入れる。
「ぐわっ! 手を放せ!」
「おい! そこのお前! さっさと俺が言った人物達を呼びに行ってこい! 俺が我慢できているうちにな」
俺が衛兵を怒鳴りつけると、その衛兵は真っ青な顔をして走っていった。
マークが頭を抱えて話しかけてくる。
「ノート……何をするつもりだ?」
「必要な人物達が来たら、こいつともOHANASHIするだけだ。こんなバカタレがいるなら、もうこの街にも、いやこの国にもいる必要はないかもな。このバカ隊長をお前の上司であるファスティの領主に引き渡してやる。そして、俺がこの国を見限った原因であるコイツをどう処分するのか見させてもらう」
「おいおい。そんなことをしたら、コイツには極刑しかないだろう」
隊長が困惑気味に声を上げる。
「き、貴様らなんの話をしているのだ?」
「教えてやるよ。ここにいるマークはファスティ領の衛兵隊長の一人で、ファスティ領主の命で俺に付いてきているんだよ」
「な、なんだと!」
そうこうしているうちに、オーゴ領主、ギルマス、ディランがやって来た。
真っ先に発言したのは、オーゴで仲良くなった、冒険者ギルドの顔役でもあるディランだ。
「おい! ノート、何やってんだ」
「ふざけた衛兵の隊長を拘束しているんだが?」
それから、オーゴ領主が理由を聞いてきたので、コテージに戻ってからの一連の出来事を説明した。話を聞きながら、領主の表情が怒りに満ちていく。
領主はいったんその場を離れ、そもそもの原因になった男、現場にいた衛兵達に話を聞きに行き、すぐに戻ってきて隊長に告げる。
「……隊長、貴様は私の顔に泥を塗る行為をして、ただで済むと思っているのか?」
隊長は滝のように汗を流しながら答える。
「な、なんのことです? 私は、自分の務めを果たしただけで……」
「向こうの小悪党から話を聞いてきた。言い分を聞いてくれたら金を受け取れるそうだな? そして、この方から金を巻き上げる算段だったと」
「そ、そのようなことはありません。その男の作り話でしょう! 私がそのような……」
「ここにいる衛兵達もそのやりとりを聞いていたそうだが? そして、もうお前には付いていけないとも言っているが?」
「お前ら!」
「連れていけ! 後日、私自らが処罰を下す」
まだ何やら喚いている隊長だったが、そのまま引き摺られていく。
その後、領主は俺に詫びてきたので、今回はあの隊長を罪に問うなら問題にしないが、またこういうことがあるなら街を出ると伝えた。
その後解散となり、ディランも伴って飯にしようと、食事亭の「海王」に向かう。
よくよく聞くと、海王には海鮮だけでなくオーゴ付近で狩れる魔物の肉料理なども扱っているらしい。
店に着き、テーブルに案内され、メニューを渡される。
料理の名前だけではどんな物かわからないので、人気のある順に、肉料理、魚料理を十種類程度注文してみた。
本当は、豪勢に「端から全部持ってこい!」ってやりたかったんだが、メニューの半分くらいの量にしておいた。
出てきた料理の一部は、焼き締めたパンを皿代わりにしていた。
ホーンラビットの肉を煮込んだ料理、羊系の魔物のロースト、鶏の魔物であるコケットの丸焼き、牛系の魔物のシチューっぽい物、あとは鮭の魔物なのかな? ピンク色の魚の燻製、白身魚にオリーブオイルをかけた料理、巻き貝のオイル煮、肉の入ったオートミール、大きい魚の頭を焼いた物にカジキっぽい物のステーキが出てきた。
味付けはいろいろあって、塩のみの物もあれば、胡椒も使っている物、ハーブ類を使っている物、ソースをつけて食べる物、刺激的な香辛料を使用した料理もあった。
マークとディランは大喜びで食べていたし、従魔達も文句なく食べていた。
俺としても、不味くはないし、むしろ美味いほうだと感じていたんだが、少し味付けや調理法に物足りなさもあったな。
何かを足せばさらに美味くなるだろうなとか思いながら食事を進めつつ、この世界ではあまり見られない調理法の「揚げ物」と「蒸し物」料理を広めたいと思うのだった。
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