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2巻

2-3

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 従魔達を連れてテントに戻り、夕食を作る。
 明後日にならないとブルーブル肉はないからなー、何を作ろうかな。
 うーん、そうだ! 今日はキノコが手に入ったし、キノコとオーク肉のガーリックバター炒めにしよう!
 男の料理だから細かく計量しないが、そこそこの美味さになればいい。というか、スキル補正で美味くできる気がするし!
 さっそく材料を出そう。


[メイン材料]
 ・オーク肉のバラ部分(薄切り)
 ・キノコ類
 ・ニンニク
 ・ネブカ


[調味料]
 ・料理酒
 ・醤油しょうゆ
 ・砂糖
 ・鶏ガラスープ
 ・塩
 ・バター


 よし、作るか!
 まずはキノコの石づきを取って、ほぐせるところはほぐして、大きいのは三センチくらいに切り分けて、ネブカというネギみたいな食材を小口切りに、ニンニクはみじん切りにして置いておく。
 オーク肉を三センチメートル幅くらいで切って、その後フライパンを中火くらいまで熱したら、バターでニンニクとオーク肉を炒める。時間としては、肉の色が変わるくらいまでかな。
 そうなったらキノコを入れて、キノコがしんなりしてきたら調味料を入れる。中火くらいで炒め、味が馴染んできたら、ネブカを散らして完成!
 あとは、付け合せのスープだ。野菜たっぷりにして、コンソメで味を調ととのえて作ろう。ヴォルフはあまり飲まないが。
 これで俺達のはできたな。従魔達には山盛りに盛って渡して食べてもらって、その間にクレアのを作るか。
 クレアには、野菜多めのホーンラビット肉の雑炊ぞうすいにしよう。足りなければ、鶏の魔物のコケットの蒸し肉を付けておこう。
 よし、クレアの分もできたし、俺も食うかな。
 キノコとオーク肉のガーリックバター炒めを口に入れる。
 美味うまい! スキル様々だな!
 ヴォルフ達も美味そうに食ってるし、アクアに関しては大丈夫なのか? と思うほどプルプルしてる。全員満足したようだ。
 じゃあ、クレアの所に向かおうか。あまり遅くなるのもなんだしな。
 宿屋に向かう間に、アクアは撃沈して寝てしまったようだ。形が崩れてぺしゃんこになってる! 
 俺の肩に乗せて落ちないように気をつけながら歩いていくと、ちょうどザックとマークも帰ってきていた。
 俺はマークに、食事でもして少し待ってもらうように頼んでおいた。


 ◇


 宿屋の主人に声をかけて、クレイモアの誰かを呼んでくれるように頼む。
 すぐに重戦士のオリゴスが下りてきて、クレアが療養している部屋に案内してくれた。
 部屋に入り、ベッドの側に立っているクレアに声をかける。

「クレア、調子はどうだ?」
「あ、ノートさん。少しは立っていられるようになりました」

 ポーションや回復魔法を施したとはいえ、回復が早いな。

「それは良かったな。飯は食えているか?」
「はい。恥ずかしながら、いただいた物はすべて食べてます。少し太りそうで怖いです」

 別に恥ずかしがることじゃないだろ。
 俺はそう思いつつ言う。

「女性だから、そこを気にするのはわからんでもないが、今だけは諦めてくれ。血を作るために体が栄養を求めているからな」
「ええ。完全に治ったら、体形も含めて以前通りになるように体を動かそうと思います」
「そうしてくれ。じゃあ、今晩の飯だ。少し肉の量を増やしているので、無理して食わないようにな。普段ならすすめないが、一度に食べず、小分けにしても良いからな。逆に足りなかったら、蒸し鶏もあるから、ポン酢を適量かけて食うといい」

 俺が蒸しコケットとポン酢を渡すと、クレアは首を傾げる。

「ポン酢?」
「気になるか? 先に少しだけ食ってみるか?」
「お願いします!」

 蒸したコケット肉を小さく切り分け、ポン酢を垂らしてやる。クレアは一口分だけ取ると、恐る恐る口に入れた。

「!!!!! 何ですか! これは!?」

 それからクレアは、小分けにした分を一気に食べた。

「なかなかさっぱりしてて食いやすいだろう?」
「初めて食べました!」
「気に入ったなら良かったよ。あとは、渡した雑炊を食べてからにしろよ。そっちのほうが体が欲してる栄養が多く摂れるからな。蒸し鶏は足りなかったとき用のおまけだ」
「……はい………あ、こっちも美味しい!」

 食べてる様子を見た感じだと、もう少しボリュームのある物でも大丈夫そうだな。
 なら、明日は何にしようかと考えていると……後ろから視線を感じる。
 クレイモアのメンバーであるオリゴス、リーダーで剣士のフロント、魔法使いで女性のミルキーがうらやましそうに見ていた。

「何だ? お前ら?」

 俺が問うと、代表してミルキーが返事をする。

「昨日からクレアちゃんだけ美味しそうな物を食べてるのが……羨ましいです」

 フロントとオリゴスもうなずいている。
 はあ、コイツら……怪我人の飯を欲しがるなよ。
 まあいいか。食事はすべて量産してあるし、【アイテムボックス】に保管してあるから分けてやろう。

「たくさんはないが、器一杯分ずつなら分けてやるから、そこに並べ!」

 俺がそう声をかけると、素晴らしい素早さで並ぶ。
 コイツら、この速さで動けて、ここまで連携が取れるなら、冒険者パーティとしても優秀なはずだろ。おかしくないか!?
 まあいい、さっさとよそっていくか。
 全員に配膳すると、さっそく食べ始める。

「「美味い!」」
「美味しい!」

 そりゃ良かったな。
 三人とももっと欲しそうな目で見てくるが、そんな目で見たってそれ以上やらんぞ。
 食わせた料理は、病人食に近いんだよな。消化が良く、体に負担が少なくて、栄養を吸収しやすい。だから、健康な人間なら物足りなくて量を食ってしまうんだよな。
 もらえないとわかったのか、今後は三人揃ってクレアのを見つめている。

「お前らな、病人の飯を狙うんじゃない!!」
「だって、美味しいんだもの」

 子供か!
 ミルキーに続いて他の奴もぶつぶつ言ってる。
 言っておくが、あくまでも俺がセドル村にいる間だけ、クレアの健康を考えて用意してる食事だぞ?
 これ以上欲しがられる前に下に戻るかな。
 そういえば、マークを待たせたままだし。

「クレアはしっかりと、だが無理しないように食うこと。健康なお前らは、クレアの食い物を狙わない。下で飯食え。クレアが食いづらそうだろうが! フロント」
「は、はい!」
「クレアばっかりと言うなら、お前らは食堂で腹いっぱい食え。金なら俺が出してやるから」
「い、いやでも」
「そんな目で近くにいられたら、クレアが気にするだろ。俺がいる間は、お前ら全員面倒を見ると言ったんだ。今日の飯代くらい出してやる!」

 若干ヤケクソ気味に言う俺。

「す、すみません」

 そう言いながらも、嬉しそうだな!
 クレアに再度ゆっくり食べるように言ってから、全員を連れて一階に下りる。
 他の奴らは先に席に行かせて、主人に話しかける。

「ご主人、クレイモアの連中を今日は腹いっぱい食わせてやってくれ。支払いは俺がするから」

 3万ダル渡すと、主人は驚いたような顔をする。

「おいおい。お前さん、どこのお貴族様だ? こんな宿屋の食堂で、そこまで金額がかかるわけないだろ」
「今後奴らの飯のときに、パン一個とスープ一杯多めに付けてやってくれ」
「それでも多いぞ?」
「彼らはおそらくだが、二ヶ月くらいこの宿にいることになる。メンバーの一人が療養中でな。完全に回復するまで、それくらいはかかると見てるんだ」
「ああ、わかった。なるほどな、どうりで下りてこない子がいるわけだ。お前さんに聞くことじゃないかもしれないが、その子の飯はどうしてるんだ?」
「それは、俺が食べさせていたんだ。だが、俺も明日明後日にはこの村を出るので、あとを頼みたい。その分の食費も別途渡す」
「金をくれるんなら、こっちも商売だしやっても良いが、お前さん、お人好ひとよしだろ? 普通はそこまで面倒見ないぞ?」
「せっかく助けた命を無駄にされたくないだけだ」
「そういうことにしとくさ。ちなみに、今までの食事はどういった物を出していたんだ?」
「基本的に消化が良く、食べやすい物だな。野菜と肉を煮込んだポトフや、鶏で出汁だしを取った豆スープとかだな。あとは、こういう穀物を使った食べ物だが、この辺で見かけない物なんで用意できないだろうしな」

 俺はそう説明しながら、椀に持った雑炊を手渡した。
 米は、この世界でまだ目にしたことがないんだよな。
 主人はさっそく口にする。

「ふむ、美味い。確かに見かけない穀物だな」
「なら、こういう物を作れないか?」

 そうして俺が主人に伝えた料理は、すいとんだ。
 小麦粉はあるから、作れると思ったのだ。
 その後すぐに主人はその場を離れると、ささっと作って試食しだした。ツルッとした食感が気に入ったのか、店の食事にも出して良いか聞いてきた。
 俺としては構わないが、一応作り方は秘匿するように伝える。こういったレシピ一つで一生食いっぱぐれないこともあるらしいからな。
 その後、クレアの飯代を別途払ってからマークを探すと、手を上げて呼んでいるのが見える。
 俺は慌てて、マークに駆け寄った。




 3 マークと話を合わせる



「すまない、随分待たせたか?」
「気にするな。彼らだろ? ここにいる間、面倒を見てるってのは」
「ああ、そうだ。まったく奴らは……普通、怪我人の飯を狙うか?」
「さっきからやりとりを見てたが、お前、面倒見の良い兄貴分みたいなことをしてるんだな」

 そう言って、マークがからかってくる。

「何でだろうな。奴らを見てるとほっとけないというか……あやういから見とかないとって思ってしまうんだよな。っと、ちょっと待ってくれ」

 俺は空間魔法を施し、周りに声が漏れないようにする。
 それに構わずマークは話を続ける。

「いいんじゃないか? そういう人間らしい部分を見ると少し安心するよ。今まで見てきたお前のイメージは、誰が相手でも突っかかっていくようなところがあったからな……というか、また随分と大げさな魔法を使ったな」
「気にするな。そろそろ慣れただろう? ……まあ正直、余裕がなかったからな。知っての通り、俺はこの世界の人間ではない。だから、右も左もわからないわ、金の心配はあるわ、食い物の問題もあるわで、周りを気遣ってられなかったんだ」
「そうだな。まだお前がここに来て、一ヶ月くらいの話だもんな」
「なかなか濃い日々を過ごしてるから、まだ一ヶ月なのか、もう一ヶ月なのかの判断はしづらいが」
「私としては、まだ一ヶ月だけどな」
「マークにはまだしばらく迷惑をかけることになると思う。っと、それよりも、本題に入っていいか? このあと、冒険者ギルドにもう一回行かないとダメなんだ」
「そうなのか? せわしないな」
「ああ、それでな。話を合わせてほしいことがあって」
「なあ、嫌な予感しかないんだが?」
「たぶん、その予感は当たってる」
「聞きたくないが、そういうわけにもいかないんだろう?」
「その通り。これを見てくれ」

 俺はそう言い、先ほど製作したウエストバッグを見せる。

「これは?」
「さっき大慌てで作ったバッグだ。今までの物より少ない数のポーションしか入らない。十本ほどだな」
「それで?」
「これを俺がマークに貸してるってことにしてほしい。ザックに貸してるのと同様に」
「構わないが、何でまた?」
「話の流れで、この大きさのウエストバッグくらいになら、空間魔法を付与できると言ってしまってな。それをマークが持ってることにしてしまったんだ」

 マークが盛大にため息をつく。

「お前な……いや、いい。普段は私が持っていたら良いのだな?」
「ああ、そうしておいてくれ」
「わかった。それで今からお前は、その話をギルドにしに行くというわけか?」
「まあ、そうだな」
「詳しい話はまた聞かせてほしいが、早めに戻ってこいよ」
「そうだな。じゃあ行ってくる」
「気をつけろよ」

 そんな挨拶をして、ギルドに向かう。


 気が進まないまま、ギルドにやって来た。
 中に入ると、ギルマスが待ち構えていた。
 暇なのか?

「やっと来たね! さっそく見せてくれるかな」

 そう言って、ギルド長室に連れてこられる。

「じゃあ、さっき言ってたやつ、見せてくれ」

 興奮してるのか、この人やたらかしてくる。まあ、早くこの用事を済ませて、帰ってゆっくりしようかな。

「これだ」
「ウエストバッグか。それで? これには何を入れるんだい?」
「中身を全部出してみればいい」
「中身を? えーと、これはポーションだね? 一、二、三、この大きさで十二本も入るのか。しかも薬草まで入れられるとは! これは売ってく……」
「売る気はない」

 俺が即答すると、ギルマスが苦笑しながら文句を言う。

「せめて最後まで言わせてよ」
「最初から売らないと言ってあったはずだが?」
「そうだけど、ひょっとしたらっていう確率の低い可能性をだね」
「生活の基盤ができるまでは、売らないつもりなんだ」
「じゃあ、ここで依頼を受けて基盤を作ればいいじゃないか?」
「ここでは、薬草採取か肉類確保の狩りくらいしか行わない。ギルマスも知っての通り、俺は護衛依頼の任務中だ」
「そうだったね。自由に動いているから忘れてたよ」
「この村に滞在中は、俺自身のレベルを上げるため、自由にさせてもらっているんだ。だから、もう一人の同行者が依頼人の側に付いている。何かあったとき用に、このウエストバッグを持ってな」
「そういうわけだったね。で、中身のポーションなんだけどさ……」
「高品質HPポーション、高品質MPポーション、高品質毒消しポーションだな」

 ギルマス、何かため息してるな。

「だよね。何で、そうポンポンと高品質を出せるかな?」
「自作だからな」
「いや、おかしいからね? 高品質を作れる人間でも一定の割合で失敗するから、高品質ポーションは高いんだよ?」
「そうなのか?」
「私がおかしいみたいな言い方をしてるけど、おかしいのはそっちだからね?」
「気にするな。それよりも言われた通りに見せたし、もう帰って良いか? さすがに従魔も寝始めたから、ゆっくりさせてやりたい」

 アクアが俺の肩でぐったりしている。

「……わかったよ、ここにはまた来るんでしょ? そのときにポーションを卸してくれると助かるんだけど」
「わかった。作って持ってくる」

 そう言ってギルドから出た。


 テントまで戻ってきて、従魔達を寝かせる。
 さて、ヴォルフにはいつも通り周囲の警戒をしてもらい、俺はポーションを作っておこうかな。
 さっそく取りかかると、何回もやってるから慣れてきたかな? 各種百本ほどあっという間に作れた。
 それらを【アイテムボックス】に入れて、さてと、明日の飯の下拵えもしておこう。
 従魔達は、蛇の魔物であるサーペントの蒲焼かばやきにしておくか。俺のは、残ってるスープと卵サンドとコケットの照り焼きサンドにしよう。量産しておけば、旅の途中の飯にちょうど良いし。
 あとはクレアの飯だが、今日の感じからするともう少しボリュームがあってもいけそうだったな。
 朝飯は、パンを薄切りにしてフレンチトースト……と思ったが、材料が足りないからハニートーストでいいか。あとはコケットの蒸し鶏入りサラダ、味付けはマヨネーズにしておくか。最後にスープ。これで十分だろう。
 昼飯は、トウモロコシみたいな食材のココーンのスープと、パンとポテトサラダとオムレツにしようか。
 よし、下拵えも終わった。すべて【アイテムボックス】に入れ、俺も寝よう。
 おやすみ。


 ◇


 んー、朝か。
 周りを見ると、アクアが崩れて平べったくなっている。俺が潰したわけじゃないよな? 生きてるよな?
 ライは起きて羽を整えていた。
 ヴォルフは起きているのだろうが、伏せて目を閉じたままだな。
 マナはいないけど……散歩かな? 朝食を用意してる間に帰ってくるだろう、昨日もそうだったし。
 朝食は昨日下拵えしたから、アッサリ完成。
 ヴォルフとライは良いんだが、アクアがなかなか目を覚まさないからな。よし、起こしに行くか!

「アクアー、朝ご飯できたぞ! 起きろー」

 声をかけると、ご飯だとわかったのか、触手を伸ばしてアチコチ探しているっぽい。何だかなごむが、起こさないとな。

「アクアー、起きろー!」
『ねむいのー』
「朝ご飯食べるぞ!」
『ごはんー』

 まだ寝ぼけてるな、そのまま連れていくか。
 アクアを連れて戻ってくるとマナが帰ってきており、従魔達が全員で待っていた。

「すまん、待たせたか? ほら! アクアもちゃんと起きろ!」
『おきたのー』

 ……まだ若干怪しいが、さっきよりは目覚めてるかな?

「よし、じゃあ食おうか?」

 食事の挨拶をして、みんなで朝食を食べる。
 従魔達の食いっぷりは見てて気持ちがいいな!
 食後に少しだけ食休みをしてから宿屋に向かう。


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