39 / 56
第39話 飯塚の結論
しおりを挟む
生まれついての勝者とは、俺のような人間のことだと思っていた。
父親は元トップアスリートで、母親はアナウンサーだった。父親はアスリートを卒業した後、テレビタレントとして確固たる地位を築き、母親もまた情報番組やバラエティや音楽番組で活躍し続けた。金は腐るほどあったし、5歳の時にはカニの味もキャビアの味も知っていた。
運動神経抜群、成績優秀! 容姿は……まぁまぁ。向かうところ敵なし。
芸能界、スポーツ界にコネが大量にあって、どんな道でも選び放題だった。
中学生に上がった後は性欲に歯止めが効かなくて、同級生・教師・JK・JD・両親にあやかりたい芸能人崩れやアスリート崩れ、色んな女に手を出しまくった。多少問題になったこともあったが、親の力で全部もみ消すことができた。
強者は何しても許される。中学生の時点で、俺は弱肉強食を理解した。
ただ中坊で酒に手を出したのは失敗だった。記者にパシャリと撮られ拡散され、中学は中退。過去の素行もバレて色んな学校をたらい回しにされた挙句、迷宮都市に送られる羽目になった。
迷宮都市なら過去の経歴など関係なく、力さえあれば成り上がれる。元シーカーという箔が付けば、また外で良い思いができる。そう両親に説得されて仕方なく、俺はこの街へ来た。
この街でもやはり俺は強者だった。
強力なオーパーツに恵まれ、魔力に恵まれ、あっという間にB級シーカーになった。
強さこそ正義。強ければ何をしても許される。この街では特にそうだ。
俺の強さにあやかりたいサポーター達、雑魚シーカー共。男も女も弄び尽くした。強けりゃ何をしてもいいんだ。そう、強さこそ絶対正義なんだ!!
結論、俺は間違ってなかった。
「あ、が――うっ……!?」
その男は、人形のような無機質な表情で何度も何度も殴ってくる。
何もさせてもらえない。反撃も謝罪も、何もだ。
一方的に、ただ嬲られる。
喉は潰され、降参もできない。
怖い……苦しい……痛い……助けて。
そんな声が頭に響く。
俺の声じゃない。これまで嬲ってきた幾多の弱者達の声、アイツらの声が、今になって聞こえる。
「は、あ……がっ! あぁ!!?」
強ければなんでも許される。それは間違いない。
間違っていたのは俺の自己評価。
俺は――強者ではなかった。
俺は、コイツには勝てない。絶対に勝てない。
嫌だ! やめてくれ! 死んじゃう! それだけは!!
弱者達の声に、俺の声が混じり出す。
「ゃ、あぁっ……かぁ!!」
逃げても引き戻され、殴られる。
頭を下げても蹴り上げられ、殴られる。
相手が楽しんでいるならまだいい。飽きれば終わる。
相手が悲しんでいるならまだいい。媚びれば終わる。
でもコイツはどっちでもない。ただ義務感で殴っている。感情の乗っていない拳。
終わりの見えない暴力――ただひたすら殴り続ける葉村の姿が、やがて俺の姿に見えてきた。
―――――――
面白かったらお気に入り登録&ハートの付与お願いします!
父親は元トップアスリートで、母親はアナウンサーだった。父親はアスリートを卒業した後、テレビタレントとして確固たる地位を築き、母親もまた情報番組やバラエティや音楽番組で活躍し続けた。金は腐るほどあったし、5歳の時にはカニの味もキャビアの味も知っていた。
運動神経抜群、成績優秀! 容姿は……まぁまぁ。向かうところ敵なし。
芸能界、スポーツ界にコネが大量にあって、どんな道でも選び放題だった。
中学生に上がった後は性欲に歯止めが効かなくて、同級生・教師・JK・JD・両親にあやかりたい芸能人崩れやアスリート崩れ、色んな女に手を出しまくった。多少問題になったこともあったが、親の力で全部もみ消すことができた。
強者は何しても許される。中学生の時点で、俺は弱肉強食を理解した。
ただ中坊で酒に手を出したのは失敗だった。記者にパシャリと撮られ拡散され、中学は中退。過去の素行もバレて色んな学校をたらい回しにされた挙句、迷宮都市に送られる羽目になった。
迷宮都市なら過去の経歴など関係なく、力さえあれば成り上がれる。元シーカーという箔が付けば、また外で良い思いができる。そう両親に説得されて仕方なく、俺はこの街へ来た。
この街でもやはり俺は強者だった。
強力なオーパーツに恵まれ、魔力に恵まれ、あっという間にB級シーカーになった。
強さこそ正義。強ければ何をしても許される。この街では特にそうだ。
俺の強さにあやかりたいサポーター達、雑魚シーカー共。男も女も弄び尽くした。強けりゃ何をしてもいいんだ。そう、強さこそ絶対正義なんだ!!
結論、俺は間違ってなかった。
「あ、が――うっ……!?」
その男は、人形のような無機質な表情で何度も何度も殴ってくる。
何もさせてもらえない。反撃も謝罪も、何もだ。
一方的に、ただ嬲られる。
喉は潰され、降参もできない。
怖い……苦しい……痛い……助けて。
そんな声が頭に響く。
俺の声じゃない。これまで嬲ってきた幾多の弱者達の声、アイツらの声が、今になって聞こえる。
「は、あ……がっ! あぁ!!?」
強ければなんでも許される。それは間違いない。
間違っていたのは俺の自己評価。
俺は――強者ではなかった。
俺は、コイツには勝てない。絶対に勝てない。
嫌だ! やめてくれ! 死んじゃう! それだけは!!
弱者達の声に、俺の声が混じり出す。
「ゃ、あぁっ……かぁ!!」
逃げても引き戻され、殴られる。
頭を下げても蹴り上げられ、殴られる。
相手が楽しんでいるならまだいい。飽きれば終わる。
相手が悲しんでいるならまだいい。媚びれば終わる。
でもコイツはどっちでもない。ただ義務感で殴っている。感情の乗っていない拳。
終わりの見えない暴力――ただひたすら殴り続ける葉村の姿が、やがて俺の姿に見えてきた。
―――――――
面白かったらお気に入り登録&ハートの付与お願いします!
39
お気に入りに追加
127
あなたにおすすめの小説

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。
幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』
電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。
龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。
そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。
盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。
当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。
今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。
ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。
ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ
「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」
全員の目と口が弧を描いたのが見えた。
一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。
作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌()
15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!
仁徳
ファンタジー
あらすじ
リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。
彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。
ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。
途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。
ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。
彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。
リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!
勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!
石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。
応援本当に有難うございました。
イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。
書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」
から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。
書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。
WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。
この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。
本当にありがとうございました。
【以下あらすじ】
パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった...
ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから...
第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。
何と!『現在3巻まで書籍化されています』
そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。
応援、本当にありがとうございました!

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。


クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される
こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる
初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。
なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています
こちらの作品も宜しければお願いします
[イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる