大人気ダンジョン配信者のサポーターをやっていたけど、あまりにパワハラが酷いから辞めることにする。ん? なんか再生数激オチしているけど大丈夫?

空松蓮司

文字の大きさ
上 下
19 / 56

第19話 喧嘩売ってもいいかな?

しおりを挟む
 赤眼のミノタウロスとの戦いから1週間が過ぎた。
 この1週間、俺はオッドキャットの地下2階――病院エリアに入院していた。
 草原の中央にポツンと病院がある。ギルド本部のエレベーターが病院のエレベーターに繋がっていて、外を見たら草原が広がっていた。この感覚は未だに慣れない。どこ〇もドアでも使ってるような気分だ。

 普通の病院ではなくここへ入院したのはアビスの命令によるものだ。俺の義手は一般の病院で解析されるとまずいらしい。やっぱりこの腕、何かあるんだな。

 外傷は治癒魔法や治癒系統のオーパーツで治して貰ったが、体に蓄積した疲労と魔力欠乏症(魔力の使い過ぎでなる病気。魔力が蓄えられず風邪のような症状が出る)はそれらじゃ治せず、こうして入院して治療しているわけだ。このエリアは魔素(魔力の源)が空気中に満ちており、魔力欠乏症に効く。おかげで普通なら全治一か月なところなのにもう治りかけだ。

 如月は一般の病院に運んだ。アビスはアレから音信不通。

 ここ1週間はずっと寝る・食う・検査ばかりで、特筆すべきことは何もしていない。そろそろ暇で死にそうだ。

 午前10時。ベッドの上でバナナを食べていると、待ちかねた客がようやく来た。

「おっはよーっ! 葉村君! 体は大丈夫かい?」

 何やらご機嫌なアビスが俺の個室に訪れた。

「もうどこも問題ないよ。つーかもっと早く来いよ! 1週間も待たせやがって! お前には聞きたいことが山ほどあるんだ!」

 1、この謎の義手について。
 2、赤眼のミノタウロスについて。
 3、如月の容態について。

 とりあえずまずは……、

「まずはこの義手! なんだコレ! ただの義手じゃないだろ!」
「うん。それはね、実はオーパーツの残骸で造った義手なんだよ」
「オーパーツの残骸……?」
「名前はオリジン」

 待て、待て待て。色々とおかしいぞ。

「オーパーツは所有者から一定の距離以上離れられず、壊れていようが所有者が死んだら神墓に転移・返還される。残骸なんて手に入らないはずだ」
「だからさぁ、その神墓から盗んだんだよね~。幾つかの壊れたオーパーツをさ」
「……は?」

 さてさて、ここで神墓からオーパーツを盗むというのがどれだけとんでもないことか説明しよう。
 まず我々サポーター及びシーカーはギルドという団体に加入している。ギルドの上にはギルド協会があり、そしてさらにその上に“神理会しんりかい”という組織がある。この街、そして全シーカー&サポーターはこの神理会を頂点に成り立っている。俺達は迷宮に関わる限り、神理会には逆らえない。神理会はこの迷宮都市において神様のような存在だと言っていい。

 神理会は何個かの禁忌を設定しており、その内の1つが神墓への侵入だ。あのオーパーツの沈んだ海に立ち入ることは重罪、バレたら最低でも死刑である。神墓に侵入し、さらにオーパーツを盗むなんて3回は殺される。

「おま……なんて物を俺に渡したんだ……!?」

 神墓から盗んだオーパーツで構築された義手。それを取り付けている俺。いくら何も知らなかったとはいえ、神理会にバレたら問答無用で殺される……!

「……もう僕らは共犯者だ。その義手の詳細について知られれば君も僕も死刑間違いなし。気を取り直していこう」
「取り直せるかぁ! 何やべぇことにさらっと巻き込んでくれてるんだお前!」
「まぁまぁ物は考えようさ! 禁忌は犯したけど、おかげで君はA級シーカーが尻尾撒いて逃げた相手に勝てたんだ。良かったじゃない」
「いやいや……でも」
「じゃあ、その義手返却するかい? 今ならまだ引き返すことは可能だよ」

 うぐっ! コイツ、いやらしい性格してやがる。
 義手を受け取る前なら間違いなく義手を拒んでいた。でも、あの赤眼のミノタウロスを倒したことで、俺の中で義手は手放せない物になってしまった。あの成功体験が、脳裏に焼き付いて離れない。

「……返却は、しない。やっと手に入れた魔物と戦える力だ」
「そっか。じゃあ晴れて共犯者だ」
「くそ。わざと甘い蜜吸わせてから言いやがったな……」

 さすがはS級シーカー、人の心理が良くわかってやがる。

「そうだ。あのミノタウロス……アイツなんだったんだ? オーパーツは所有者が死んだら神墓に返却される。なのになんで魔物がオーパーツを持っていたんだ? シーカーを殺して奪うことは不可能なはず……」

 近くにオーパーツの所有者はいなかったし、あり得ない。しかもあの魔物はオーパーツを操っていた。理解不能だ。
 アイツも神墓から盗んだとか? いやいや、さすがに魔物の侵入に気づかないほど神理会はポンコツじゃないだろう。

「……それは簡単な話さ」

 アビスの目つきが鋭いモノに変わる。

「あのミノタウロスがオーパーツの所有者だったのさ」
「……どういうことだ?」

 意味がわからん。
 オーパーツは人間だけが使える退魔の武器だ。魔物が所有者なんてことありえない。

「ミノタウロスの肉片から採取したDNA情報が、半年前に失踪したシーカー、荒木あらき習蓮しゅうれんというC級シーカーと一致した」
「なにっ!?」
「つまり……あのミノタウロスは荒木習蓮シーカーが変貌した姿ってわけさ」

 あのミノタウロス、元々人間だったってのか!?

「そういえば人間らしい動き、思考をしていたな……シーカーを魔物に変える魔物が居るってことか?」
「魔物の仕業かどうかはまだわからない。もしかしたら人為的なモノかもしれない」
「人間が、人間を魔物にしたのか!?」
「僕はその可能性が高いと思っている。アレには高次元の技術が使われていた形跡があったからね。色々と興味深いよ。この件はギルド協会で共有し、ギルド全体で協力して調査にあたる」

 シーカーの魔物化なんて大事件だ。これはまた荒れそうだな。

「最後に……如月はどうなった? 無事か?」

 後遺症とか残っていないといいが……。

「無事だよ。酷く衰弱していたけどもう峠は越えた。後1週間ほどで完治する」
「ほ、ホントか! よかった……」

 一安心だな。

「如月ちゃんねぇ~。彼女ちょっと欲しいんだよね~」
「欲しいって、引き抜く気か?」

 如月はフェンリルのトップである飯塚に重宝されるぐらいには優秀だからな。引き抜きたくなる気持ちはわかる。

「うん~、そうだねぇ~、でもそう簡単に彼女を手放さないよね~、あの男は」

 あの男、とは飯塚のことだろう。

「だろうな」
「ならば仕方ない。力ずくだ」

 アビスはニタ~っと笑う。
 おいおい、コイツまたヤバいこと考えてないか?

「ねぇ葉村君。君の居たギルド――フェンリルに喧嘩売ってもいいかな?」





―――――――

面白かったらお気に入り登録&ハートの付与お願いします!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。 応援本当に有難うございました。 イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。 書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」 から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。 書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。 WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。 この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。 本当にありがとうございました。 【以下あらすじ】 パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった... ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから... 第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。 何と!『現在3巻まで書籍化されています』 そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。 応援、本当にありがとうございました!

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

処理中です...