神竜に丸呑みされたオッサン、生きるために竜肉食べてたらリザードマンになってた

空松蓮司

文字の大きさ
上 下
54 / 74
第三章 カムラ聖堂院

第五十四話 その頃、大講堂にて

しおりを挟む
 妖精越しに、戦いを見ていたロゼは驚きを隠せなかった。

「ありえない……こんなの……!」

 ダンザと影ダンザの戦い。
 一瞬で100m以上動き、拳と刀を合わせれば大気を揺らし、地面を蹴れば地を揺らす。強烈な衝突を繰り返し、両者は場所を転々とする。

 ロゼは妖精を操り、なんとか両者の戦闘を追っているものの、気を抜けばすぐに置いて行かれる。
 ハヅキの傍に置いている妖精を除き、19体の時速200kmの妖精、それを総動員してもギリギリだ。あまりに速すぎる戦闘速度。

「おいどうした。ダンザの奴になにかあったのか?」

 隣に立っているドクトが問う。

「……ジェイクがダンザの分身を生み出した。ダンザの能力をそのままコピーした分身よ」
「――マジかよ……」

 ダンザの強さを知るドクトはつい冷や汗をかいた。アレが……あのリザードマンが敵になった場合を想像すると、自信家のドクトと言えど足が竦んでしまった。
 ロゼは昔の、弱く小さいダンザを思い出す。

(あのダンザが……ね)

 嬉しいような、寂しい感情が脳を巡る。

『どうかな? 今は良い勝負できると思うぞ』

 寮のキッチンでダンザが言っていたことを思い出す。
 ロゼはダンザの戦闘を追いながら、小さく息をつく。

「良い勝負なんか、できるわけないでしょ……」

 ロゼは長い耳をピクッと動かす。

「まさか!!」

 ロゼはダンザの現在地を確認し、「まずい」と窓から外を見る。

「二人が戦いながらどんどん大講堂に近づいている。このままじゃまずいわね」
「そういや、なんか落雷みたいな音が聞こえてきたな……まさかこれ、ダンザの戦闘音か?」
「ええ」
「加勢に行くか」
「いや……」

 ロゼは事の顛末を見て、頭を抱えた。

「もう遅いわ」

 --- 


 大講堂。
 ダンザ達が去った後も入学式は滞りなく進み、終盤に差し込んでいた。

「いやぁ、ユウキちゃんに早速会えるだなんて、俺は運が良い」
「……私もユーリ様に会えてうれしい限りです」

 ユウキは隣に座る金髪の少年に困っていた。
 少年の名はユーリ=セレフィス。ユウキの住むこの国、セレ王国の王子である。王子であるものの高貴さは微塵もなく、軟派で、座り方も足を広げていてだらしない。
 ユーリは教師の視線などガン無視で私語を続ける。真面目な性格のユウキは軽い口調のユーリに対してすでに苦手意識を抱いていた。

「話は父上から聞いていたんだ。かわゆい子がラスベルシアにいるってね。あんな肥溜めのような場所でもお前のような花が咲くんだな。おっと、さすがに肥溜め呼ばわりは怒られちまうか」

 基本的に周囲に流されず、自分の意見をハッキリ言うタイプなのだろう。周りの目が見えていないわけじゃない。教師に睨まれていることも、他の生徒に睨まれていることもわかった上で無視して私語を続けている。お前らの威圧なんぞ俺は意に介さねぇぞ、と態度で示している。

「貴方、いい加減、そのお喋りな口を閉じたら?」

 ユウキの右隣、赤毛の少女が苦言を呈す。この少女はラヴァルティア帝国第2皇女ノイシェ=ラヴァルティア……そう、ユウキは現在、王子と皇女に挟まれてしまっているのだ。
 ユウキは自身の不運にため息をつきたくなったが、王子と皇女の前でため息をつくわけにもいかず飲み込む。

「おっと。こりゃすまないね皇女様。俺は喋り続けないと死んじまう病なんだ」
「今は式典の最中よ。死んでもいいから静かにしていなさい」
「こんな退屈なイベント、静かにしてたら寝ちまうぜ」
「退屈じゃないわ。とても有意義でためになる話ばかりよ。ノートに書き留めたいぐらい」
「嘘つけ。皇女様だって、さっき欠伸をかみ殺していただろう?」
「なっ!? してないわそんなこと!!」

 ノイシェの声のボリュームが上がる。
 周囲の視線がユウキ達に集まる。

「うっそだぁ。俺絶対見たもん。なぁユウキ、お前も見ただろう? 皇女様の欠伸をかみ殺した時のアホ面」
「……あ、えっと……」
「見てないわよね?」
「見てない――」
「おいおい、セレ王国の第1王子の前で嘘をつく気か?」
「いや、その……」

 八方塞がり。どう答えてもマイナスだ。

「つか、さっきからなんか変な音聞こえないか?」

 突然、話を切り替えるユーリ。誤魔化している雰囲気ではない。

「そういえば、なにか聞こえるわね」
「はい。轟音が聞こえますね。雷が落ちたような……」
「遠くなったり近くなったり、花火でも打ち上げてるのか?」

 ユーリは大きく欠伸をする。

「あーあ、なんでもいいから面白いこと起きねぇかな~。皇女様のスカートがいきなり消えたり、皇女様の下着がいきなり天から降ってきたり」
「貴方の首が飛んだり、全身が八つ裂きになったりしたら笑えるかもしれないわね」
「……物騒すぎるだろオイ」

 言い合うなら自分を挟まずにやってほしい、とユウキは心の内で呟く。

「面白いことなら起きますよ」

 ユウキの後ろの席から、シルフィード聖国の第33王女ポーラ=シルフィードが言う。ポーラは先に起きることをいち早く察知し、楽し気に笑った。

「とっても、ね」

 ユーリは「ほう」とポーラと同様に笑い、ユウキは首を傾げ、ノイシェはポーラを睨みつけた。
 この時のユウキはまだ知らなかった。
 一分と経たず、自分が誰よりも驚愕し、言葉を失い、世界の裏側まで逃走したくなるような事が起きるとは……。





―――――――

面白かったらお気に入り登録&ハートの付与お願いします!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...