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第三章 カムラ聖堂院
第五十四話 その頃、大講堂にて
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妖精越しに、その戦いを見ていたロゼは驚きを隠せなかった。
「ありえない……こんなの……!」
ダンザと影ダンザの戦い。
一瞬で100m以上動き、拳と刀を合わせれば大気を揺らし、地面を蹴れば地を揺らす。強烈な衝突を繰り返し、両者は場所を転々とする。
ロゼは妖精を操り、なんとか両者の戦闘を追っているものの、気を抜けばすぐに置いて行かれる。
ハヅキの傍に置いている妖精を除き、19体の時速200kmの妖精、それを総動員してもギリギリだ。あまりに速すぎる戦闘速度。
「おいどうした。ダンザの奴になにかあったのか?」
隣に立っているドクトが問う。
「……ジェイクがダンザの分身を生み出した。ダンザの能力をそのままコピーした分身よ」
「――マジかよ……」
ダンザの強さを知るドクトはつい冷や汗をかいた。アレが……あのリザードマンが敵になった場合を想像すると、自信家のドクトと言えど足が竦んでしまった。
ロゼは昔の、弱く小さいダンザを思い出す。
(あのダンザが……ね)
嬉しいような、寂しい感情が脳を巡る。
『どうかな? 今は良い勝負できると思うぞ』
寮のキッチンでダンザが言っていたことを思い出す。
ロゼはダンザの戦闘を追いながら、小さく息をつく。
「良い勝負なんか、できるわけないでしょ……」
ロゼは長い耳をピクッと動かす。
「まさか!!」
ロゼはダンザの現在地を確認し、「まずい」と窓から外を見る。
「二人が戦いながらどんどん大講堂に近づいている。このままじゃまずいわね」
「そういや、なんか落雷みたいな音が聞こえてきたな……まさかこれ、ダンザの戦闘音か?」
「ええ」
「加勢に行くか」
「いや……」
ロゼは事の顛末を見て、頭を抱えた。
「もう遅いわ」
---
大講堂。
ダンザ達が去った後も入学式は滞りなく進み、終盤に差し込んでいた。
「いやぁ、ユウキちゃんに早速会えるだなんて、俺は運が良い」
「……私もユーリ様に会えてうれしい限りです」
ユウキは隣に座る金髪の少年に困っていた。
少年の名はユーリ=セレフィス。ユウキの住むこの国、セレ王国の王子である。王子であるものの高貴さは微塵もなく、軟派で、座り方も足を広げていてだらしない。
ユーリは教師の視線などガン無視で私語を続ける。真面目な性格のユウキは軽い口調のユーリに対してすでに苦手意識を抱いていた。
「話は父上から聞いていたんだ。かわゆい子がラスベルシアにいるってね。あんな肥溜めのような場所でもお前のような花が咲くんだな。おっと、さすがに肥溜め呼ばわりは怒られちまうか」
基本的に周囲に流されず、自分の意見をハッキリ言うタイプなのだろう。周りの目が見えていないわけじゃない。教師に睨まれていることも、他の生徒に睨まれていることもわかった上で無視して私語を続けている。お前らの威圧なんぞ俺は意に介さねぇぞ、と態度で示している。
「貴方、いい加減、そのお喋りな口を閉じたら?」
ユウキの右隣、赤毛の少女が苦言を呈す。この少女はラヴァルティア帝国第2皇女ノイシェ=ラヴァルティア……そう、ユウキは現在、王子と皇女に挟まれてしまっているのだ。
ユウキは自身の不運にため息をつきたくなったが、王子と皇女の前でため息をつくわけにもいかず飲み込む。
「おっと。こりゃすまないね皇女様。俺は喋り続けないと死んじまう病なんだ」
「今は式典の最中よ。死んでもいいから静かにしていなさい」
「こんな退屈なイベント、静かにしてたら寝ちまうぜ」
「退屈じゃないわ。とても有意義でためになる話ばかりよ。ノートに書き留めたいぐらい」
「嘘つけ。皇女様だって、さっき欠伸をかみ殺していただろう?」
「なっ!? してないわそんなこと!!」
ノイシェの声のボリュームが上がる。
周囲の視線がユウキ達に集まる。
「うっそだぁ。俺絶対見たもん。なぁユウキ、お前も見ただろう? 皇女様の欠伸をかみ殺した時のアホ面」
「……あ、えっと……」
「見てないわよね?」
「見てない――」
「おいおい、セレ王国の第1王子の前で嘘をつく気か?」
「いや、その……」
八方塞がり。どう答えてもマイナスだ。
「つか、さっきからなんか変な音聞こえないか?」
突然、話を切り替えるユーリ。誤魔化している雰囲気ではない。
「そういえば、なにか聞こえるわね」
「はい。轟音が聞こえますね。雷が落ちたような……」
「遠くなったり近くなったり、花火でも打ち上げてるのか?」
ユーリは大きく欠伸をする。
「あーあ、なんでもいいから面白いこと起きねぇかな~。皇女様のスカートがいきなり消えたり、皇女様の下着がいきなり天から降ってきたり」
「貴方の首が飛んだり、全身が八つ裂きになったりしたら笑えるかもしれないわね」
「……物騒すぎるだろオイ」
言い合うなら自分を挟まずにやってほしい、とユウキは心の内で呟く。
「面白いことなら起きますよ」
ユウキの後ろの席から、シルフィード聖国の第33王女ポーラ=シルフィードが言う。ポーラは先に起きることをいち早く察知し、楽し気に笑った。
「とっても、ね」
ユーリは「ほう」とポーラと同様に笑い、ユウキは首を傾げ、ノイシェはポーラを睨みつけた。
この時のユウキはまだ知らなかった。
一分と経たず、自分が誰よりも驚愕し、言葉を失い、世界の裏側まで逃走したくなるような事が起きるとは……。
―――――――
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ダンザと影ダンザの戦い。
一瞬で100m以上動き、拳と刀を合わせれば大気を揺らし、地面を蹴れば地を揺らす。強烈な衝突を繰り返し、両者は場所を転々とする。
ロゼは妖精を操り、なんとか両者の戦闘を追っているものの、気を抜けばすぐに置いて行かれる。
ハヅキの傍に置いている妖精を除き、19体の時速200kmの妖精、それを総動員してもギリギリだ。あまりに速すぎる戦闘速度。
「おいどうした。ダンザの奴になにかあったのか?」
隣に立っているドクトが問う。
「……ジェイクがダンザの分身を生み出した。ダンザの能力をそのままコピーした分身よ」
「――マジかよ……」
ダンザの強さを知るドクトはつい冷や汗をかいた。アレが……あのリザードマンが敵になった場合を想像すると、自信家のドクトと言えど足が竦んでしまった。
ロゼは昔の、弱く小さいダンザを思い出す。
(あのダンザが……ね)
嬉しいような、寂しい感情が脳を巡る。
『どうかな? 今は良い勝負できると思うぞ』
寮のキッチンでダンザが言っていたことを思い出す。
ロゼはダンザの戦闘を追いながら、小さく息をつく。
「良い勝負なんか、できるわけないでしょ……」
ロゼは長い耳をピクッと動かす。
「まさか!!」
ロゼはダンザの現在地を確認し、「まずい」と窓から外を見る。
「二人が戦いながらどんどん大講堂に近づいている。このままじゃまずいわね」
「そういや、なんか落雷みたいな音が聞こえてきたな……まさかこれ、ダンザの戦闘音か?」
「ええ」
「加勢に行くか」
「いや……」
ロゼは事の顛末を見て、頭を抱えた。
「もう遅いわ」
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大講堂。
ダンザ達が去った後も入学式は滞りなく進み、終盤に差し込んでいた。
「いやぁ、ユウキちゃんに早速会えるだなんて、俺は運が良い」
「……私もユーリ様に会えてうれしい限りです」
ユウキは隣に座る金髪の少年に困っていた。
少年の名はユーリ=セレフィス。ユウキの住むこの国、セレ王国の王子である。王子であるものの高貴さは微塵もなく、軟派で、座り方も足を広げていてだらしない。
ユーリは教師の視線などガン無視で私語を続ける。真面目な性格のユウキは軽い口調のユーリに対してすでに苦手意識を抱いていた。
「話は父上から聞いていたんだ。かわゆい子がラスベルシアにいるってね。あんな肥溜めのような場所でもお前のような花が咲くんだな。おっと、さすがに肥溜め呼ばわりは怒られちまうか」
基本的に周囲に流されず、自分の意見をハッキリ言うタイプなのだろう。周りの目が見えていないわけじゃない。教師に睨まれていることも、他の生徒に睨まれていることもわかった上で無視して私語を続けている。お前らの威圧なんぞ俺は意に介さねぇぞ、と態度で示している。
「貴方、いい加減、そのお喋りな口を閉じたら?」
ユウキの右隣、赤毛の少女が苦言を呈す。この少女はラヴァルティア帝国第2皇女ノイシェ=ラヴァルティア……そう、ユウキは現在、王子と皇女に挟まれてしまっているのだ。
ユウキは自身の不運にため息をつきたくなったが、王子と皇女の前でため息をつくわけにもいかず飲み込む。
「おっと。こりゃすまないね皇女様。俺は喋り続けないと死んじまう病なんだ」
「今は式典の最中よ。死んでもいいから静かにしていなさい」
「こんな退屈なイベント、静かにしてたら寝ちまうぜ」
「退屈じゃないわ。とても有意義でためになる話ばかりよ。ノートに書き留めたいぐらい」
「嘘つけ。皇女様だって、さっき欠伸をかみ殺していただろう?」
「なっ!? してないわそんなこと!!」
ノイシェの声のボリュームが上がる。
周囲の視線がユウキ達に集まる。
「うっそだぁ。俺絶対見たもん。なぁユウキ、お前も見ただろう? 皇女様の欠伸をかみ殺した時のアホ面」
「……あ、えっと……」
「見てないわよね?」
「見てない――」
「おいおい、セレ王国の第1王子の前で嘘をつく気か?」
「いや、その……」
八方塞がり。どう答えてもマイナスだ。
「つか、さっきからなんか変な音聞こえないか?」
突然、話を切り替えるユーリ。誤魔化している雰囲気ではない。
「そういえば、なにか聞こえるわね」
「はい。轟音が聞こえますね。雷が落ちたような……」
「遠くなったり近くなったり、花火でも打ち上げてるのか?」
ユーリは大きく欠伸をする。
「あーあ、なんでもいいから面白いこと起きねぇかな~。皇女様のスカートがいきなり消えたり、皇女様の下着がいきなり天から降ってきたり」
「貴方の首が飛んだり、全身が八つ裂きになったりしたら笑えるかもしれないわね」
「……物騒すぎるだろオイ」
言い合うなら自分を挟まずにやってほしい、とユウキは心の内で呟く。
「面白いことなら起きますよ」
ユウキの後ろの席から、シルフィード聖国の第33王女ポーラ=シルフィードが言う。ポーラは先に起きることをいち早く察知し、楽し気に笑った。
「とっても、ね」
ユーリは「ほう」とポーラと同様に笑い、ユウキは首を傾げ、ノイシェはポーラを睨みつけた。
この時のユウキはまだ知らなかった。
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