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第二章 ラスベルシア家
第三十六話 遡ること5時間前
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ダンザとドクトが森に入る5時間前、深夜。
「殺そう♪ 殺そう♪ み~んな殺そう♪ いっぱい殺そう♪ それ殺そう~♪」
黒装束の男は酔っ払いのように適当な歌を口ずさむ。
男は右手に鎖を持っている。鎖の先には少女――ユウキがいる。ユウキは首に鎖が繋がった鋼鉄の首輪を掛けられていた。
森を歩きながら、ユウキは男の命令で木にペンキを塗る。おとなしく言うことを聞いているのはこの行為がユウキのためにもなるからだ。この印はダンザが自分を追うための手がかりになる。
「あの……」
ユウキは意を決して男に語り掛ける。
「あなたの目的はなんですか? どうして私を攫ったのですか?」
ユウキが聞くと、男はその荒んだ瞳をユウキに向ける。
「お前は餌だ。ダンザを釣る最高の餌だよ。俺のこの左腕を奪ってくれたあのクソジジィ……アイツを殺すためならなんだってやるぜ」
ユウキは必死に記憶を手繰っていた。
この男……黒装束の男の声、背格好には覚えがある。
どこかで会ったことがある。だが男の正体があと一歩の所で出てこない。
「つーか、やっぱわからねぇか? 俺のこと。何度かお目にかかったんだけどなぁ」
「誰、ですか?」
その質問が相手の機嫌を損ねると理解しつつも、ユウキは尋ねる。
「聖剣使い、って言えばわかるか?」
「!? まさか……!?」
ザイロス=マックマン。
以前、守護騎士選抜試験を行った際、一番の有力候補だった男だ。
もちろん、ユウキも有力候補である彼については詳しく調べており、しっかりと記憶している。
「つっても、もう聖剣はないから聖剣使いは名乗れねぇなぁ!? ひゃっははは!!」
狂ったように笑うザイロス。
以前見た時と雰囲気が違い過ぎる。軟派な男だったが、これほどまでにどす黒いオーラは纏っていなかった。ユウキはザイロスの眼に強い狂気を感じた。
「ダンザさんがあなたの左腕を奪った、というのは事実ですか?」
「ああ事実だよ。ひっどい男だよなぁ」
ユウキはダンザを信用している。ゆえに、ザイロスの言葉を信じてはいない。
もし本当にダンザが腕を奪ったなら、それ相応のことをこの男がしたのだ。そう結論付ける。
「聞いてくれよお嬢様。俺はさぁ~、パーティ組んでた女2人を奴隷商に売ってさ~、折れた聖剣も売ってさぁ~、金作ってさぁ~、アイツを殺すための道具を揃えてきたんだぜ。努力家だろ? 健気だろ? 今からでもさぁ、俺のこと守護騎士にしないかぁ? なぁ~?」
掠れた声で言葉を並べるザイロス。
ユウキは芯のある瞳で、ザイロスを見る。
「私の守護騎士はダンザさんです。これはもう覆りません」
「へぇ~、信じてるんだアイツのこと……最高だね」
ザイロスはユウキに近づく。
ユウキは怯えることなく、直立不動で待ち構える。
「強気な女は好きだ。ひーひー泣かせる瞬間の味が堪らねぇ」
「……下衆が」
「あぁん?」
ザイロスはユウキの足を払い、ユウキを転ばせる。
「いつっ!?」
そのままユウキに覆いかぶさり、ユウキの首に手を掛ける。
ユウキはザイロスの力を前に何もできなかった。
「知ってんだろ~? これでも俺は、A級の冒険者だったんだぜぇ~? てめぇ如きじゃ手も足もでねぇの。お前の召喚獣も速攻で屠ってやったろう?」
「確かに、私はまだ未熟です。ですが、ダンザさんは別です。あなたに負けるような人じゃありませんっ……!」
「くくっ! ほんっと生意気でいいぜ、お前」
ザイロスはユウキの服を引っ張り、ボタンを引きちぎって下着を露わにさせる。
「でもよ、その鉄仮面の裏が意外に脆いことはわかってんだぜ? 伊達に多くの女をヤッてきたわけじゃねぇ。見りゃわかるのさ。お前は感情を表に出さないだけで、感情自体は人並みに揺れ動いている」
ユウキは無表情を崩さないものの、額に汗を浮かばせる。
「一度仮面が壊れたら、普通の女より良い悲鳴を上げる。そんで最後には舌出してヨガるのさ」
「……舐めないでください。私は、あなたのようなクズに決して屈しはしない」
「どうだか。試してみるかね」
白い下着に、ザイロスは手を掛ける。ユウキは覚悟を決める。例えここで自身の純潔が散らされても、絶対に喚いたりはしないと。
「――あ」
そんなユウキの覚悟は、ザイロスの指がへそを撫でた瞬間に崩壊した。身の毛もよだつ嫌悪感が全身を襲ったのだ。
「や……」
ザイロスの、男の、欲に歪んだ顔が目に映る。
ラスベルシア家で受けてきたモノとは別ベクトルの……恐怖。異性に、自身の肉体を、女の肉体を玩具にされる恐怖が頭を支配する。
「やめ、て……」
勝手に口が動く。
言いたくない言葉を口にする。
「やめて? それだけか?」
「くだ……さい」
そこまで聞くとザイロスは満足したのか、下卑な笑みを浮かべ、ユウキから離れる。
「ひひっ! 安心しな。ダンザを殺すまではなにもしないでやるよ。大事な武器に傷をつけるわけにもいかない」
「武器……?」
「ちょうどこの辺りでいいか。見晴らしもいいし」
ザイロスはポケットをまさぐり、白い固形の錠剤を出す。
ザイロスはまず、倒れているユウキの腹に膝を落とした。
「かは!?」
ユウキが大きく口を開き空気を吐く。その隙にユウキの喉に錠剤を入れ口を塞ぐ。
ユウキは反射的に薬を飲み込む。
「けほっ! けほっ! な、なにを入れたのですか……!?」
「発熱剤さ」
ユウキの体温が上がっていく。
「なんで、こんなこと……!」
「お前の免疫力を下げるためだよ。さっき、お前は言ったな? 俺じゃダンザに勝てないと。その通りさ。俺じゃアイツには勝てない。アイツを殺すのはなぁ、俺じゃないんだよ」
その言葉の意味を、ユウキは理解できなかった。
理解するだけの思考ができなかった。
頭に熱が上り、視界はぼやけ、眠たくなってくる。
「アイツを殺すのは――お前さ」
最後にザイロスの高笑いを聞き、ユウキは意識を無くした。
―――――――
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「殺そう♪ 殺そう♪ み~んな殺そう♪ いっぱい殺そう♪ それ殺そう~♪」
黒装束の男は酔っ払いのように適当な歌を口ずさむ。
男は右手に鎖を持っている。鎖の先には少女――ユウキがいる。ユウキは首に鎖が繋がった鋼鉄の首輪を掛けられていた。
森を歩きながら、ユウキは男の命令で木にペンキを塗る。おとなしく言うことを聞いているのはこの行為がユウキのためにもなるからだ。この印はダンザが自分を追うための手がかりになる。
「あの……」
ユウキは意を決して男に語り掛ける。
「あなたの目的はなんですか? どうして私を攫ったのですか?」
ユウキが聞くと、男はその荒んだ瞳をユウキに向ける。
「お前は餌だ。ダンザを釣る最高の餌だよ。俺のこの左腕を奪ってくれたあのクソジジィ……アイツを殺すためならなんだってやるぜ」
ユウキは必死に記憶を手繰っていた。
この男……黒装束の男の声、背格好には覚えがある。
どこかで会ったことがある。だが男の正体があと一歩の所で出てこない。
「つーか、やっぱわからねぇか? 俺のこと。何度かお目にかかったんだけどなぁ」
「誰、ですか?」
その質問が相手の機嫌を損ねると理解しつつも、ユウキは尋ねる。
「聖剣使い、って言えばわかるか?」
「!? まさか……!?」
ザイロス=マックマン。
以前、守護騎士選抜試験を行った際、一番の有力候補だった男だ。
もちろん、ユウキも有力候補である彼については詳しく調べており、しっかりと記憶している。
「つっても、もう聖剣はないから聖剣使いは名乗れねぇなぁ!? ひゃっははは!!」
狂ったように笑うザイロス。
以前見た時と雰囲気が違い過ぎる。軟派な男だったが、これほどまでにどす黒いオーラは纏っていなかった。ユウキはザイロスの眼に強い狂気を感じた。
「ダンザさんがあなたの左腕を奪った、というのは事実ですか?」
「ああ事実だよ。ひっどい男だよなぁ」
ユウキはダンザを信用している。ゆえに、ザイロスの言葉を信じてはいない。
もし本当にダンザが腕を奪ったなら、それ相応のことをこの男がしたのだ。そう結論付ける。
「聞いてくれよお嬢様。俺はさぁ~、パーティ組んでた女2人を奴隷商に売ってさ~、折れた聖剣も売ってさぁ~、金作ってさぁ~、アイツを殺すための道具を揃えてきたんだぜ。努力家だろ? 健気だろ? 今からでもさぁ、俺のこと守護騎士にしないかぁ? なぁ~?」
掠れた声で言葉を並べるザイロス。
ユウキは芯のある瞳で、ザイロスを見る。
「私の守護騎士はダンザさんです。これはもう覆りません」
「へぇ~、信じてるんだアイツのこと……最高だね」
ザイロスはユウキに近づく。
ユウキは怯えることなく、直立不動で待ち構える。
「強気な女は好きだ。ひーひー泣かせる瞬間の味が堪らねぇ」
「……下衆が」
「あぁん?」
ザイロスはユウキの足を払い、ユウキを転ばせる。
「いつっ!?」
そのままユウキに覆いかぶさり、ユウキの首に手を掛ける。
ユウキはザイロスの力を前に何もできなかった。
「知ってんだろ~? これでも俺は、A級の冒険者だったんだぜぇ~? てめぇ如きじゃ手も足もでねぇの。お前の召喚獣も速攻で屠ってやったろう?」
「確かに、私はまだ未熟です。ですが、ダンザさんは別です。あなたに負けるような人じゃありませんっ……!」
「くくっ! ほんっと生意気でいいぜ、お前」
ザイロスはユウキの服を引っ張り、ボタンを引きちぎって下着を露わにさせる。
「でもよ、その鉄仮面の裏が意外に脆いことはわかってんだぜ? 伊達に多くの女をヤッてきたわけじゃねぇ。見りゃわかるのさ。お前は感情を表に出さないだけで、感情自体は人並みに揺れ動いている」
ユウキは無表情を崩さないものの、額に汗を浮かばせる。
「一度仮面が壊れたら、普通の女より良い悲鳴を上げる。そんで最後には舌出してヨガるのさ」
「……舐めないでください。私は、あなたのようなクズに決して屈しはしない」
「どうだか。試してみるかね」
白い下着に、ザイロスは手を掛ける。ユウキは覚悟を決める。例えここで自身の純潔が散らされても、絶対に喚いたりはしないと。
「――あ」
そんなユウキの覚悟は、ザイロスの指がへそを撫でた瞬間に崩壊した。身の毛もよだつ嫌悪感が全身を襲ったのだ。
「や……」
ザイロスの、男の、欲に歪んだ顔が目に映る。
ラスベルシア家で受けてきたモノとは別ベクトルの……恐怖。異性に、自身の肉体を、女の肉体を玩具にされる恐怖が頭を支配する。
「やめ、て……」
勝手に口が動く。
言いたくない言葉を口にする。
「やめて? それだけか?」
「くだ……さい」
そこまで聞くとザイロスは満足したのか、下卑な笑みを浮かべ、ユウキから離れる。
「ひひっ! 安心しな。ダンザを殺すまではなにもしないでやるよ。大事な武器に傷をつけるわけにもいかない」
「武器……?」
「ちょうどこの辺りでいいか。見晴らしもいいし」
ザイロスはポケットをまさぐり、白い固形の錠剤を出す。
ザイロスはまず、倒れているユウキの腹に膝を落とした。
「かは!?」
ユウキが大きく口を開き空気を吐く。その隙にユウキの喉に錠剤を入れ口を塞ぐ。
ユウキは反射的に薬を飲み込む。
「けほっ! けほっ! な、なにを入れたのですか……!?」
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「なんで、こんなこと……!」
「お前の免疫力を下げるためだよ。さっき、お前は言ったな? 俺じゃダンザに勝てないと。その通りさ。俺じゃアイツには勝てない。アイツを殺すのはなぁ、俺じゃないんだよ」
その言葉の意味を、ユウキは理解できなかった。
理解するだけの思考ができなかった。
頭に熱が上り、視界はぼやけ、眠たくなってくる。
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