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第二章 ラスベルシア家

第三十三話 珍客

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 夜。
 俺はユウキの部屋に来ていた。今日、ハヅキから聞いた片腕の無い男の話をするためだ。
 俺の話を聞くと、ユウキはコーヒーを飲む手を止めた。

「そんな怪しい男を部屋に入れるなんて、お父様らしくありませんね」
「……」

 俺が黙っていると、ユウキが顔を覗き込んでくる。

「? 誰か思い当たる人物でもいるのですか?」
「いや……」

 知り合いに一人いるが、まさかな。そんなわけない。アイツがここにいるはずがない。

「外部から雇った殺し屋とかじゃないのか?」

 俺の問いにユウキは頷く。

「現状、それに類した存在である可能性が高いですね」

 どんな相手だろうが倒す。そのためにあの神竜の中でジックリ修行したんだ。自信もある。負ける気はしない。
 でもなんだ……この胸騒ぎは。なんだか嫌な予感がする。

「ユウキ」
「なんでしょう」
「今日から出発の日まで一緒の部屋で寝ないか?」
「ごほ!」

 ユウキは咳き込み、口に含んだコーヒーを吐いた。

「おいおい、はしたないぞ」
「あなたが変なことを言うからでしょう!」

 ユウキは頬を赤く染めている。
 さすがに年頃の娘か。相手がリザードマンだろうと、異性と同じ部屋に眠ることに抵抗はあるよな。

「一緒の部屋の方が護衛しやすいから、同じ部屋で寝た方がいいと思うんだがな……」
「今回、狙われているのはあなたでしょう? 私を守る意味がありますか?」
「それは……そうだな」
「むしろ、私が近くにいると足を引っ張ることもあるでしょう」
「さすがにそれはない。お前は優秀だ。俺の枷になることはない」

 と正直に言うと、ユウキは頬をさらに赤くする。

「……それは嬉しい評価ですけど、同じ部屋で眠るのは……」

 もじもじとするユウキ。
 無理強いはせず、俺は引き下がる。

「わかった。やめておこう。悪いな、変なこと言って」
「いえ」

 過保護が過ぎたな。主人と従者の関係を越えた発言だった。反省だな。

「でも日中はなるべく一緒に行動してほしい。買い物に行くにしても、ガーデニングするにしてもだ」
「わかりました」

 話を終え、俺はユウキの部屋を出る。
 自分の部屋に戻り、刀を抱いたまま俺は横になる。

「……ザイロス……」

 左腕のない男、その特徴に該当する人物を俺はアイツ以外に知らない。
 ザイロスは執念深い男だ。ここまで俺を追ってきた可能性も僅かだがある。
 だが……もし来たとして、アイツになにができる? ただでさえ実力に差があるのに、さらに片腕を欠かした状態で、聖剣もない状態で俺に勝てるはずがない。さすがに勝ち目のない勝負を挑むほど馬鹿じゃないはずだ。
 気にするだけ無駄か。来たら叩き斬るまでだ。


 ---ユウキの部屋にて---


 ユウキは部屋で一人、読書をしていた。

「なぜ……私は……」

 文字を瞳に映しているだけで、ユウキの手はまったく進んでいない。

(一緒の部屋で過ごすこと。それが最善だとわかっているのに……なぜ私は拒否したのでしょうか)

 ユウキは、先ほどのダンザの提案を突っぱねた自分に疑問を抱いていた。
 ダンザに対し、怖いという感情はない。むしろ逆、安心感がある。なのにどうして、同じ部屋で眠ることを拒否してしまったのか……考えど考えど、答えは出ない。

「みっけ」

 その答えの出ない悩みを抱いていたせいで、彼女は扉から部屋に侵入してきた男に気づかなかった。

「!?」

 気づいた時には口を塞がれていた。素早い動き。ユウキとは違うレベルの人間。
 口を塞がれてすぐに急激な眠気が襲ってくる。

(この香り……! 睡眠を誘う薬……!?)

 ユウキは眠る直前、振り向き、侵入者の姿を見た。
 その男は包帯を全身に巻いていて、その上から黒く、長い服を纏っており、左腕がなかった。
 男は口角を吊り上げ、笑う。

「……はじめようかダンザ。俺とお前の、パーティをさぁ……!」




―――――――

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