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序章 竜人転生
第五話 おっさんリザードマン、大地に立つ
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また肉の壁にぶつかった。
一つ目の壁を越えて2キロぐらいのところだ。
また“八爪撃”で越えようと思ったのだが、今度の肉壁はえらく硬く、光属性の斬撃じゃビクともしなかった。
だから俺は破壊力の高い雷属性の斬撃を使うことにした。さっきは連続攻撃だったが、今度は一転、一撃にすべてを懸ける。
「“雷填”――抜刀!」
いま出せる全力の一撃をぶつける。
表面、表面だけ斬れた。
やれる。まだこの斬撃は粗削りだ。伸びしろはある。
250日目。
俺は最高の一撃をもって、二つ目の肉の壁を斬り裂くことに成功した。
雷鳴と共に対象を一刀両断する奥義、俺はこの技を“牙絞”と名付けた。
さらにまた暫く走っていくと、またまた肉の壁にぶつかった。
今度は表面に油のようなモノが塗ってあって、通常の斬撃では表面を滑ってしまい、斬ることができなかった。しかし油さえなんとかすれば後は脆い肉壁のようだ。
だから今度は炎の斬撃を極めた。一撃で壁全体の油を焼き尽くす斬撃を。
285日目。
灼熱の焔を出す斬撃を完成させ、油を一撃で焼き尽くし、二撃目の無属性の斬撃で肉の壁を破壊。こうして三つ目の肉の壁を突破した。
俺はこの技を“灼息”と名付けた。
さらに走っていくと、今度は炎の壁にぶつかった。
業炎が天井・床・壁から立ち上っていて、道を阻んでいた。
炎を消すため、次は風属性の斬撃を使った。
最初は炎を消すだけの風を出せなかった。でも、極めていくこと20日。強力な風圧を纏い、飛ぶ斬撃を身に着けることができた。
俺はこの技を“飛息”と名付けた。
そしてまた走っていくと、肉の壁にぶつかった。だが、その肉の壁はいつもと違った。
触れずともわかる。ただの柔い肉だ。
俺の眼、『神竜眼』が反応している。肉壁が光って見える。これは多分、ここが竜の弱点ということだ。壁の先から僅かに風音が聞こえる。
わかる。ここを斬れば、もう先はない。そこは外だ。神竜の外だ。
俺は迷った。もう出てしまっていいのかと。
この神竜の中は最高の修行場所だ。栄養満点の飯と飲み物が無料で手に入り、なにか仕事があるわけでもなく、外界に惑わされずただ己を鍛えることができる。
十分強くなった。今なら誰にも負けない自信がある。しかしそれは、あくまで、俺が今まで出会った人間や魔物になら誰にも負けないという自信だ。俺の狭い世界の中での話だ。
今の俺の体なら世界の果てまで行ける。そうなれば当然、俺の理解の及ばない怪物にも会うだろう。となると、今の強さでも不十分だ。
もっと強くなろう。そうだな……せめて、あと60日居よう。あと60日でちょうどこの神竜に来てから365日、1年になる。区切りがいい。
あと60日修行しよう。
“八爪撃”。
“牙絞”。
“灼息”。
“飛息”。
四属性の抜刀術を体に馴染ませる。
技の練習、鍛錬、瞑想、食事、睡眠。繰り返し繰り返し繰り返し続ける。
心身ともに充実させ、365日目。
俺は出口、もとい肉の壁の前に行く。
「……最初は憎たらしくて恨みまくったけどよ、今は感謝してるぜ神竜様。こんな体になっちまったが……ずっと、ずっと欲しかったものをお前はくれた」
強さって言う、最高のプレゼントを――
「あばよ!!」
俺は無属性の居合斬りで肉の壁を破壊する。
瞬間、床が傾き、俺は穴から外に飛び出た。
「うおあっ!!」
雲を突き破りながら空を見上げる。神竜の尾が見える。尾の先には穴が空いている。
どうやら俺は尻尾の先を斬り裂き外に出たようだ。尾の先(多分鱗のない部分)を斬ると同時に尾が傾き、外に出されたのだろう。
今度は下を見る。
「あれは……!?」
雪山が見える。
間違いない。1年前、俺が神竜に喰われた場所、シナズ雪山だ。そういや神竜は1年で世界を一周するとか聞いたことあるな……図らずもベストなタイミングで脱出したようだ。
さてさて、問題はこの高度から山に落ちて無事で済むかどうかって話だ。
今の俺の体は特別だ。大丈夫だと信じているが……どうだろう。大丈夫かな? 大丈夫だよね?
「うおおおおおおおおっっ!!?」
雪山の麓にある森、その木々に頭から突っ込んだ。
木の枝を突き破り、地面の雪を突き破り、地面にうつ伏せでめり込む。
「ぶはぁ!?」
雪の中から起き上がる。
「ひゃー、良かったぁ。無事だ。無傷だ……いやそれはそれで自分の身が怖いんだけど」
背筋をググっと伸ばし、1年ぶりの外の世界の空気を肺いっぱいに吸い込む。
うん、やっぱ外はいいな。太陽の日差しが心地よい。
さてさて、第二の人生の始まりだ。
まずは……そうだな。ギルドにでも顔を出すか。
■ダンザ=クローニン
■力858 耐久2722 敏捷742 運770 生命力900 魔力634
■ユニークスキル『鋼鉄胃袋(アイアンストマック)(ランクF)』
■スキル『神竜人(ランクEX)』
■耐性:炎・雷・風・光・毒・暗闇・眩光・猛暑・極寒
■弱点:水・闇
■魔導書『神竜刀ヒグラシ(ランクEX)』
■技:八爪撃、牙絞、灼息、飛息
―――――――
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一つ目の壁を越えて2キロぐらいのところだ。
また“八爪撃”で越えようと思ったのだが、今度の肉壁はえらく硬く、光属性の斬撃じゃビクともしなかった。
だから俺は破壊力の高い雷属性の斬撃を使うことにした。さっきは連続攻撃だったが、今度は一転、一撃にすべてを懸ける。
「“雷填”――抜刀!」
いま出せる全力の一撃をぶつける。
表面、表面だけ斬れた。
やれる。まだこの斬撃は粗削りだ。伸びしろはある。
250日目。
俺は最高の一撃をもって、二つ目の肉の壁を斬り裂くことに成功した。
雷鳴と共に対象を一刀両断する奥義、俺はこの技を“牙絞”と名付けた。
さらにまた暫く走っていくと、またまた肉の壁にぶつかった。
今度は表面に油のようなモノが塗ってあって、通常の斬撃では表面を滑ってしまい、斬ることができなかった。しかし油さえなんとかすれば後は脆い肉壁のようだ。
だから今度は炎の斬撃を極めた。一撃で壁全体の油を焼き尽くす斬撃を。
285日目。
灼熱の焔を出す斬撃を完成させ、油を一撃で焼き尽くし、二撃目の無属性の斬撃で肉の壁を破壊。こうして三つ目の肉の壁を突破した。
俺はこの技を“灼息”と名付けた。
さらに走っていくと、今度は炎の壁にぶつかった。
業炎が天井・床・壁から立ち上っていて、道を阻んでいた。
炎を消すため、次は風属性の斬撃を使った。
最初は炎を消すだけの風を出せなかった。でも、極めていくこと20日。強力な風圧を纏い、飛ぶ斬撃を身に着けることができた。
俺はこの技を“飛息”と名付けた。
そしてまた走っていくと、肉の壁にぶつかった。だが、その肉の壁はいつもと違った。
触れずともわかる。ただの柔い肉だ。
俺の眼、『神竜眼』が反応している。肉壁が光って見える。これは多分、ここが竜の弱点ということだ。壁の先から僅かに風音が聞こえる。
わかる。ここを斬れば、もう先はない。そこは外だ。神竜の外だ。
俺は迷った。もう出てしまっていいのかと。
この神竜の中は最高の修行場所だ。栄養満点の飯と飲み物が無料で手に入り、なにか仕事があるわけでもなく、外界に惑わされずただ己を鍛えることができる。
十分強くなった。今なら誰にも負けない自信がある。しかしそれは、あくまで、俺が今まで出会った人間や魔物になら誰にも負けないという自信だ。俺の狭い世界の中での話だ。
今の俺の体なら世界の果てまで行ける。そうなれば当然、俺の理解の及ばない怪物にも会うだろう。となると、今の強さでも不十分だ。
もっと強くなろう。そうだな……せめて、あと60日居よう。あと60日でちょうどこの神竜に来てから365日、1年になる。区切りがいい。
あと60日修行しよう。
“八爪撃”。
“牙絞”。
“灼息”。
“飛息”。
四属性の抜刀術を体に馴染ませる。
技の練習、鍛錬、瞑想、食事、睡眠。繰り返し繰り返し繰り返し続ける。
心身ともに充実させ、365日目。
俺は出口、もとい肉の壁の前に行く。
「……最初は憎たらしくて恨みまくったけどよ、今は感謝してるぜ神竜様。こんな体になっちまったが……ずっと、ずっと欲しかったものをお前はくれた」
強さって言う、最高のプレゼントを――
「あばよ!!」
俺は無属性の居合斬りで肉の壁を破壊する。
瞬間、床が傾き、俺は穴から外に飛び出た。
「うおあっ!!」
雲を突き破りながら空を見上げる。神竜の尾が見える。尾の先には穴が空いている。
どうやら俺は尻尾の先を斬り裂き外に出たようだ。尾の先(多分鱗のない部分)を斬ると同時に尾が傾き、外に出されたのだろう。
今度は下を見る。
「あれは……!?」
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間違いない。1年前、俺が神竜に喰われた場所、シナズ雪山だ。そういや神竜は1年で世界を一周するとか聞いたことあるな……図らずもベストなタイミングで脱出したようだ。
さてさて、問題はこの高度から山に落ちて無事で済むかどうかって話だ。
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「ぶはぁ!?」
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「ひゃー、良かったぁ。無事だ。無傷だ……いやそれはそれで自分の身が怖いんだけど」
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■耐性:炎・雷・風・光・毒・暗闇・眩光・猛暑・極寒
■弱点:水・闇
■魔導書『神竜刀ヒグラシ(ランクEX)』
■技:八爪撃、牙絞、灼息、飛息
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