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第二章 兎と空
第19話 推しとゲーム
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聞きやすく、おしとやかで、透き通るような声。
かるなちゃまの声が明るい黄色なら、ハクアたんの声は淡い水色だ。
間違いなくハクアたんの声だ。これまで配信で聞いてきた声とまったく同じだ。
しかしほんの僅か数ミリ程度だが声が震えていた気がした。
そっか、そうだよな……顔も合わせたことのない男と喋るのだ、緊張もするか。
「い、いつも配信見てます! ファンです!」
『ありがと~。それなら私がどれだけゲームが下手なのかわかってるよね』
ここで変に“下手じゃないですよ!”と否定しても仕方ない。
「え、ええ。まぁ」
『お願い昴くん! 私を強くして! かるなちゃまにどうしても勝ちたいの! かるなちゃま、6期生の中で私にしか勝てないから、私に勝つとすごく煽ってくるんだよ……』
それは知ってる。
以前もかるなちゃまとハクアたんがゲーム対決したことがあったが、あの時のかるなちゃまの煽りようは凄かった。イキリ雑魚かつ煽りカス、それがかるなちゃまだ。
てか今もさっきも“昴くん”って言わなかったか!?
下の名前呼び……これはまずい、興奮する。
『それに最近露骨にゲーム配信企画から弾かれてるから、何とかしたいんだよね……少しずつでいいから、できるゲームを増やしたいんだ』
どっちかっていうとこっちが本命だろうな。
「任せてください。プランは完璧です。一緒にかるなちゃまを倒しましょう」
『うん、お願いします。
――師匠♪』
ハクアたんから“師匠”頂きました!
やる気ゲージが100を超えて2000まで飛んだ。
「すみません、イヤホンに切り替えるので一瞬通話が途切れます」
『了解。じゃあ私、部屋作っておくね。フレンドコードはメッセージで送っておくから』
ブルートゥースイヤホンをスマホに繋ぎ、スマホをテーブルに置く。イヤホンを耳に装着し、指定されたフレンドコードに申請を送る。
「申請送りました」
『うん、来たよ。それじゃ早速はじめようか』
「はい。まず最初に、ハクアさんはお気に入りのキャラクターとかいますか?」
『いるにはいるけど、絶対にこのキャラじゃないと駄目、っていうのはいないから昴くんが指定していいよ』
あらら、こっちの思考は見透かされてるな。
「ではこのルギアというキャラを使ってください。青い髪の剣士です」
『あ、この子かぁ。可愛いね……』
ルギアというキャラはとにかくバランスが良い。技の威力、間合いの長さ、素早さ、どれも高水準だ。シンプルな強さを持ち合わせているため、初心者でも使えるし上級者が使っても強い。
見た目は青いショートカットの女の子で、ちょっぴりアオに似てるかな?
『……この子は昴くんのお気に入りだったりするのかな?』
「いえ別に。ただ単に使いやすいだけです」
『好みの子っていうわけじゃないの?』
「はい」
『ふーん、そう』
あれ? なんか機嫌が悪くなってるような……気のせいか。
「まずハクアさんには絶対に必要な二つの技術が足りてません」
『二つの技術?』
「はい。それは回避とブレイク技です。やり方は……」
まず必須の技術を教える。
相手の攻撃を躱す回避と、相手を場外へ吹っ飛ばすブレイク技。これが使えないと話にならない。
俺と対戦しつつ、それらの技術を実践。
対戦が終わったら反省会し、技術が手に馴染むまで繰り返す。
――1時間後。
俺は手に持ったコントローラーを思わず落としてしまった。
(ま、まるで成長していない……)
新しい技術に気を取られて、基本的な技術がなおざりになる。
それに気づき、基本的な技術を駆使すると新しい技術が抜ける。
それの繰り返しだ。
『うぅ、やっぱり私、ゲーム下手だなぁ……』
成長していない自覚はあるようだ。
今の弱気なハクアたんの声、色気があって素晴らしかった。脳にしっかり録音しておこう。
しかし困ったな、根本的なゲームIQが低すぎる。
「……決まり事をしましょう。まずステージの外に出たらすぐさま上Bを押してください」
ある種の縛りプレイを強制することにした。
一か八かだが、ここまで手合わせしてハクアたんにはこっちのやり方があってると感じた。
『ステージの外に出たら上B……』
ペンの走る音が聞こえる。
この音はゲーム中以外で、俺がなにかを言う度に聞こえた。おそらく、俺が指示したこと全部メモしているのだろう。
……この勤勉さにはなんとか報いたいな。
「次に相手の撃墜ゲージが半分を超えたら、ブレイク技だけ使う。それまではブレイク技は使わない」
『ふむふむ』
「とりあえずいま言ったことを守って戦ってみましょう」
明確にルールを作ったところ、上手く機能し始めた。
「いいっすね。さっきよりよっぽど手強いです」
『うん、このやり方は肌に合ってるみたい。でも大丈夫かな? こんなルールを決めて機械的にやるやり方じゃ、どこかで頭打ちになるんじゃないかな?』
「その心配はいりません。ルール決めはプロの方でもやってることです。相手を掴んだらこうする、相手がこのキャラを使ってきたら立ち回りはこのパターンでいく。飛び道具にはこう対応する、相手の撃墜ゲージがこのラインになったらこの技を振る回数を増やす。その積み重ねです。まぁプロの場合はルールの数が1000とか2000とかあるわけですけど」
『なるほど……』
「それでも強敵相手だとアドリブ力は必要になりますが、かるなちゃまならルールを決めてガチガチに対策すれば勝てます。それじゃ一戦ごとにルールをドンドン増やしていきますよ。次は俺がダッシュで近づいたら俺の居る方向に回避移動してください」
そうやって次々とルールを決めていく。
ハクアたんはさっきまでと違い、ちゃんと一戦ごとに成長を見せてくれた。
『凄い! 凄いよ! 自分でも上手くなってるのがわかる!』
はしゃいでるハクアたん、激かわ。
『なんかね、ようやくコツが見えてきた気がする。さっきまで海で泳いでたのが、今はプールで泳いでる感じ! ってなに言ってるんだろう私! 意味わかんないよね』
「いやいや、言いたいことはわかりますよ」
『うわぁ、やっとコツを掴んできたのにもう24時かぁ。ここまでだね』
うお!? 気づない内にこんな時間経ってたのか。
「……楽しい時間はあっという間だな」
そう発言してから2秒ほどで、心の声が漏れていたことに気付く。
「あ! すみません。つい心の声が」
『……うん、私も楽しかったよ』
どこか、艶めかしい声でハクアたんは言った。
『男の子とゲームするなんて6年ぶりかな? 昔を思い出して楽しかった』
俺も女子とゲームするの何時ぶりだろう……いや妹と二日前やったばっかりか。
『今日はありがとね、昴くん』
すぅ、と小さく息を吸う音を挟んで、
『――おやすみなさい』
囁きと共に通話は切れた。
頭の中でハクアたんの“おやすみなさい”が木霊する。
「うほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!」
つい興奮からゴリラのように叫んでしまった。
ハクアたんの“おやすみなさい”! なんってご褒美だ! もう先に言っとく! 今日は興奮で眠れません!
隣の部屋から「おにぃ、うるせえええええええええええっっ!!!」という声が壁ドンと一緒に響いてきた。
―――――――
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間違いなくハクアたんの声だ。これまで配信で聞いてきた声とまったく同じだ。
しかしほんの僅か数ミリ程度だが声が震えていた気がした。
そっか、そうだよな……顔も合わせたことのない男と喋るのだ、緊張もするか。
「い、いつも配信見てます! ファンです!」
『ありがと~。それなら私がどれだけゲームが下手なのかわかってるよね』
ここで変に“下手じゃないですよ!”と否定しても仕方ない。
「え、ええ。まぁ」
『お願い昴くん! 私を強くして! かるなちゃまにどうしても勝ちたいの! かるなちゃま、6期生の中で私にしか勝てないから、私に勝つとすごく煽ってくるんだよ……』
それは知ってる。
以前もかるなちゃまとハクアたんがゲーム対決したことがあったが、あの時のかるなちゃまの煽りようは凄かった。イキリ雑魚かつ煽りカス、それがかるなちゃまだ。
てか今もさっきも“昴くん”って言わなかったか!?
下の名前呼び……これはまずい、興奮する。
『それに最近露骨にゲーム配信企画から弾かれてるから、何とかしたいんだよね……少しずつでいいから、できるゲームを増やしたいんだ』
どっちかっていうとこっちが本命だろうな。
「任せてください。プランは完璧です。一緒にかるなちゃまを倒しましょう」
『うん、お願いします。
――師匠♪』
ハクアたんから“師匠”頂きました!
やる気ゲージが100を超えて2000まで飛んだ。
「すみません、イヤホンに切り替えるので一瞬通話が途切れます」
『了解。じゃあ私、部屋作っておくね。フレンドコードはメッセージで送っておくから』
ブルートゥースイヤホンをスマホに繋ぎ、スマホをテーブルに置く。イヤホンを耳に装着し、指定されたフレンドコードに申請を送る。
「申請送りました」
『うん、来たよ。それじゃ早速はじめようか』
「はい。まず最初に、ハクアさんはお気に入りのキャラクターとかいますか?」
『いるにはいるけど、絶対にこのキャラじゃないと駄目、っていうのはいないから昴くんが指定していいよ』
あらら、こっちの思考は見透かされてるな。
「ではこのルギアというキャラを使ってください。青い髪の剣士です」
『あ、この子かぁ。可愛いね……』
ルギアというキャラはとにかくバランスが良い。技の威力、間合いの長さ、素早さ、どれも高水準だ。シンプルな強さを持ち合わせているため、初心者でも使えるし上級者が使っても強い。
見た目は青いショートカットの女の子で、ちょっぴりアオに似てるかな?
『……この子は昴くんのお気に入りだったりするのかな?』
「いえ別に。ただ単に使いやすいだけです」
『好みの子っていうわけじゃないの?』
「はい」
『ふーん、そう』
あれ? なんか機嫌が悪くなってるような……気のせいか。
「まずハクアさんには絶対に必要な二つの技術が足りてません」
『二つの技術?』
「はい。それは回避とブレイク技です。やり方は……」
まず必須の技術を教える。
相手の攻撃を躱す回避と、相手を場外へ吹っ飛ばすブレイク技。これが使えないと話にならない。
俺と対戦しつつ、それらの技術を実践。
対戦が終わったら反省会し、技術が手に馴染むまで繰り返す。
――1時間後。
俺は手に持ったコントローラーを思わず落としてしまった。
(ま、まるで成長していない……)
新しい技術に気を取られて、基本的な技術がなおざりになる。
それに気づき、基本的な技術を駆使すると新しい技術が抜ける。
それの繰り返しだ。
『うぅ、やっぱり私、ゲーム下手だなぁ……』
成長していない自覚はあるようだ。
今の弱気なハクアたんの声、色気があって素晴らしかった。脳にしっかり録音しておこう。
しかし困ったな、根本的なゲームIQが低すぎる。
「……決まり事をしましょう。まずステージの外に出たらすぐさま上Bを押してください」
ある種の縛りプレイを強制することにした。
一か八かだが、ここまで手合わせしてハクアたんにはこっちのやり方があってると感じた。
『ステージの外に出たら上B……』
ペンの走る音が聞こえる。
この音はゲーム中以外で、俺がなにかを言う度に聞こえた。おそらく、俺が指示したこと全部メモしているのだろう。
……この勤勉さにはなんとか報いたいな。
「次に相手の撃墜ゲージが半分を超えたら、ブレイク技だけ使う。それまではブレイク技は使わない」
『ふむふむ』
「とりあえずいま言ったことを守って戦ってみましょう」
明確にルールを作ったところ、上手く機能し始めた。
「いいっすね。さっきよりよっぽど手強いです」
『うん、このやり方は肌に合ってるみたい。でも大丈夫かな? こんなルールを決めて機械的にやるやり方じゃ、どこかで頭打ちになるんじゃないかな?』
「その心配はいりません。ルール決めはプロの方でもやってることです。相手を掴んだらこうする、相手がこのキャラを使ってきたら立ち回りはこのパターンでいく。飛び道具にはこう対応する、相手の撃墜ゲージがこのラインになったらこの技を振る回数を増やす。その積み重ねです。まぁプロの場合はルールの数が1000とか2000とかあるわけですけど」
『なるほど……』
「それでも強敵相手だとアドリブ力は必要になりますが、かるなちゃまならルールを決めてガチガチに対策すれば勝てます。それじゃ一戦ごとにルールをドンドン増やしていきますよ。次は俺がダッシュで近づいたら俺の居る方向に回避移動してください」
そうやって次々とルールを決めていく。
ハクアたんはさっきまでと違い、ちゃんと一戦ごとに成長を見せてくれた。
『凄い! 凄いよ! 自分でも上手くなってるのがわかる!』
はしゃいでるハクアたん、激かわ。
『なんかね、ようやくコツが見えてきた気がする。さっきまで海で泳いでたのが、今はプールで泳いでる感じ! ってなに言ってるんだろう私! 意味わかんないよね』
「いやいや、言いたいことはわかりますよ」
『うわぁ、やっとコツを掴んできたのにもう24時かぁ。ここまでだね』
うお!? 気づない内にこんな時間経ってたのか。
「……楽しい時間はあっという間だな」
そう発言してから2秒ほどで、心の声が漏れていたことに気付く。
「あ! すみません。つい心の声が」
『……うん、私も楽しかったよ』
どこか、艶めかしい声でハクアたんは言った。
『男の子とゲームするなんて6年ぶりかな? 昔を思い出して楽しかった』
俺も女子とゲームするの何時ぶりだろう……いや妹と二日前やったばっかりか。
『今日はありがとね、昴くん』
すぅ、と小さく息を吸う音を挟んで、
『――おやすみなさい』
囁きと共に通話は切れた。
頭の中でハクアたんの“おやすみなさい”が木霊する。
「うほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!」
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