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A08運行:はつかり、がっかり、じこばっかり
0086A:権利欲か、経済欲か
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意気揚々と東京へ帰ろうとする近衛だったが、事故現場の近くが松島だと言うことで寄っていくことにしたらしい。
井関達は当然のように、近衛のカバン持ちである。
(作戦会議をしたいが、どうにも近衛がジャマだ!)
どうしようか、こうしようか……。水野は思い詰めながら歩いていると、ふと女性とぶつかってしまった。
女性はハシタナイことにずんだ餅を買い食いしながら歩いていたらしく、水野の服にべったりとずんだが付着する。
「キャッ。ごめんなさい、どうしたら……」
新米とはいえ、水野は中央省庁の官僚である。来ているスーツはそれなりに高いことが一目でわかるものである。
ただ水野は性格的にそれほどそのような粗相を気にする類ではなく、その女性のそれも笑って受け流そうとした。だがその時、視界に松島遊覧観光船が見えた。
一回のツアーがおおよそ30分。それだけあれば検討と調整には十分であろうか。水野は藁にも縋る想いで女性たちに拝み倒した。
「なあお嬢さん方、もしお時間があればなんだけれども、ちょっと頼まれてくれないかな……」
「水野、お前はいったいどんな手管を使ったんだ」
笹井はすっかり呆れている。
「ともかく、彼女たちは近衛と松島観光をすることを了承してくれました」
「あの観光船に載せて、その間に打ち合わせようという算段か。しかし、どうしたものか……」
小林が近衛の気を引いている間に、三人はコソコソと話を進める。その時、小林がこちらを振り返り、目で合図した。
(俺が人柱になろう)
そういうと、小林は決して得意ではないオベッカを言いながら近衛を誘導する。
「松島というのは、海から見るのもまたオツなもんです。ささ、観光船などどうでしょうか」
「うーんしかし、あそんでばかりいるのもなあ」
「どうやら、こちらのお嬢さん方が近衛技師とご一緒したいとか。ここはお嬢さんの顔に免じて……」
「なに? それは俺の沽券に関わる。是非とも一緒に観光しようではないか!」
幸いにして、近衛は単純な男だった。二つ返事でそれを受け入れると、意気揚々と大海に旅だって言ってしまった……。
「さて、本題だが……」
付近にあった適当なベンチに腰かけて、三人は顔を突き合わせる。
「近衛のDMH17に対する執着は異常だ」
「ええ。あれほどまでにあのエンジンの欠点を理解しようとしないとは……」
「技術者ならエンジンの図面を見て、それから実際の運用上の難点を指摘されれば、DMH17に良い評価は下さないはずだ……。ここに、何かがあるぞ」
何か。井関のそのふわっとした表現を、笹井が具体化した。
「つまり、近衛はDMH17の供給会社から何らかの見返りをもらっている、井関はそう言いたいわけだ」
「ああ。あれはそうとしか説明がつけられない」
「単純に近衛が技術に関し無知で、予断と慢心だけで精神が構成されている人物である可能性は?」
水野は罵倒なのかなんなのかわからないことを言い出す。井関は苦笑しながら首を振った。
「曲がりなりにも、今現在は国鉄、すなわち日本最高の鉄道のナンバーツー技師だ。そんな人間が、予断たっぷりの無能ということはなかろう」
「では、確実に彼は不正を冒している、と……」
「いや、単純に派閥争いの可能性もあるだろう」
と笹井は指摘する。
「確か、井関の話では元々は強力なエンジンを搭載する予定だったんだろう?」
「ああ、DMF31というエンジンだ」
「その開発チームに主導権を握られたくなくて躍起になっているという可能性もあるだろう。どちらにしろ、目的が私利私欲という点では間違いなさそうだが」
笹井はそこまで言い切ると、席を立った。
「ともかく、これ以上は話していてもらちが明かない。東京へ電話して確かめてみよう」
「どう確かめるんだ?」
「総裁連絡室に信頼できる後輩が居る。彼に連絡して、そのあたりの内情を調べてもらおう」
井関達は当然のように、近衛のカバン持ちである。
(作戦会議をしたいが、どうにも近衛がジャマだ!)
どうしようか、こうしようか……。水野は思い詰めながら歩いていると、ふと女性とぶつかってしまった。
女性はハシタナイことにずんだ餅を買い食いしながら歩いていたらしく、水野の服にべったりとずんだが付着する。
「キャッ。ごめんなさい、どうしたら……」
新米とはいえ、水野は中央省庁の官僚である。来ているスーツはそれなりに高いことが一目でわかるものである。
ただ水野は性格的にそれほどそのような粗相を気にする類ではなく、その女性のそれも笑って受け流そうとした。だがその時、視界に松島遊覧観光船が見えた。
一回のツアーがおおよそ30分。それだけあれば検討と調整には十分であろうか。水野は藁にも縋る想いで女性たちに拝み倒した。
「なあお嬢さん方、もしお時間があればなんだけれども、ちょっと頼まれてくれないかな……」
「水野、お前はいったいどんな手管を使ったんだ」
笹井はすっかり呆れている。
「ともかく、彼女たちは近衛と松島観光をすることを了承してくれました」
「あの観光船に載せて、その間に打ち合わせようという算段か。しかし、どうしたものか……」
小林が近衛の気を引いている間に、三人はコソコソと話を進める。その時、小林がこちらを振り返り、目で合図した。
(俺が人柱になろう)
そういうと、小林は決して得意ではないオベッカを言いながら近衛を誘導する。
「松島というのは、海から見るのもまたオツなもんです。ささ、観光船などどうでしょうか」
「うーんしかし、あそんでばかりいるのもなあ」
「どうやら、こちらのお嬢さん方が近衛技師とご一緒したいとか。ここはお嬢さんの顔に免じて……」
「なに? それは俺の沽券に関わる。是非とも一緒に観光しようではないか!」
幸いにして、近衛は単純な男だった。二つ返事でそれを受け入れると、意気揚々と大海に旅だって言ってしまった……。
「さて、本題だが……」
付近にあった適当なベンチに腰かけて、三人は顔を突き合わせる。
「近衛のDMH17に対する執着は異常だ」
「ええ。あれほどまでにあのエンジンの欠点を理解しようとしないとは……」
「技術者ならエンジンの図面を見て、それから実際の運用上の難点を指摘されれば、DMH17に良い評価は下さないはずだ……。ここに、何かがあるぞ」
何か。井関のそのふわっとした表現を、笹井が具体化した。
「つまり、近衛はDMH17の供給会社から何らかの見返りをもらっている、井関はそう言いたいわけだ」
「ああ。あれはそうとしか説明がつけられない」
「単純に近衛が技術に関し無知で、予断と慢心だけで精神が構成されている人物である可能性は?」
水野は罵倒なのかなんなのかわからないことを言い出す。井関は苦笑しながら首を振った。
「曲がりなりにも、今現在は国鉄、すなわち日本最高の鉄道のナンバーツー技師だ。そんな人間が、予断たっぷりの無能ということはなかろう」
「では、確実に彼は不正を冒している、と……」
「いや、単純に派閥争いの可能性もあるだろう」
と笹井は指摘する。
「確か、井関の話では元々は強力なエンジンを搭載する予定だったんだろう?」
「ああ、DMF31というエンジンだ」
「その開発チームに主導権を握られたくなくて躍起になっているという可能性もあるだろう。どちらにしろ、目的が私利私欲という点では間違いなさそうだが」
笹井はそこまで言い切ると、席を立った。
「ともかく、これ以上は話していてもらちが明かない。東京へ電話して確かめてみよう」
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