奇妙な話集めました

響ぴあの

文字の大きさ
上 下
2 / 14

過去に戻ることができる喫茶店

しおりを挟む
 会いたい人に手紙を書くと会える喫茶店があるらしい。正確に言えば、戻りたい時間に戻ることができる喫茶店なので、自分が体験した過去にしか戻れないらしい。過去に会ったことがある人ならば、この世にいない人にでも会えることは可能だ。ある女性が手紙を書いた。普段手紙など書かないのだが、どうしても会いたい人がいて、戻りたい時代があるらしい。

 白い便箋に丁寧な手書きの文字で書いた文章は思いが詰まっている。
 この喫茶店に手紙を送ってくる人にはたくさんの思いがあり、戻りたい過去がある。

 店主が手紙の文章にゆっくり目を通す。店主は美しい少年で長い銀色の髪を一つに束ねていた。少年は見たことのない髪色だった。きれいな顔をした少年は色白で陽に当たることが無縁のような顔をしていた。整いすぎていて、この世界にいる人間ではないかのような独特なオーラがある。吸い込まれるような美しさとスキのない笑顔に人間味を感じないような気もする。そうだ、アニメのキャラクターのように創られた美しさだとでも言おうか。見ていると、きっと特別な場所なのだということが実感できる。

『あなたは18歳になる3日前に亡くなりましたね。それは、寒い寒い冬の日でした。お墓に納骨するときに、雪がその時間だけふぶきましたね。2月の寒い冬でしたね。入るのが嫌だったのでしょうか? それは遺族の思いだったのでしょうか? もし、過去に戻ることができたら、ただ、普通に話して普通に会ってみたいですね。会えるだけでいいのです。きっとおばあちゃんと仲良くあの世で生活していることと思います。
 たった一人の姉より』    
       
******

「素敵なお手紙ですね。お姉様からの気持ちがよく伝わりました」
「この手紙をこの喫茶店に送ってきたのはあなたですか?」
「ここには青い紅茶があって、それを飲むと会いたい人に会えるそうですね」
「正確に言えば、会いたい人がいた時に一時的に戻ることができるとでもいいましょうか」

 美しい青い紅茶が出された。これを一口飲むと、色が変わるらしい。どんな色になるのだろう? それは飲む人によって色合いが変化するらしい。

「じゃあ、行ってきます」
「もちろんですよ。ここは心の拠り所ですから」
  その後、店主は独り言を言う。

「この喫茶店はので、何度も来ることはできないのですが、彼女は自分が死んだことに気づいていないみたいですね。そんなお客様はたくさんいるので、珍しいことではありませんが……。誰しも生前、戻りたい場所、会いたい人がいるものですから。そして、ここを利用した人の魂はここの喫茶店のエネルギーに変わるのです。そう、ここにある青い紅茶は魂のエネルギーからできるもの。利益は全部私のものになるのです」

  人生最期に騙される、幸せならばありじゃないでしょうか? あなたはここを利用してみたいですか? 私はあえて、騙されてみようかと思います。だって、会いたい人がいて、戻りたい時間と場所があるのだから。

 銀髪の少年はため息をひとつついて独り言を言う。
「私も騙されてここで働くこととなった元人間ですから。仕事はきっちりさせていただきますよ。死後の世界に行く前にほんのちょっとだけ幸せになれるお手伝いですがね」

 看板を見るとねがいやという文字が書いてあった。ねがいやの店主が優しい嘘をつく場所。青い紅茶を見つけたら思い出してみてください。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

こちら御神楽学園心霊部!

緒方あきら
児童書・童話
取りつかれ体質の主人公、月城灯里が霊に憑かれた事を切っ掛けに心霊部に入部する。そこに数々の心霊体験が舞い込んでくる。事件を解決するごとに部員との絆は深まっていく。けれど、彼らにやってくる心霊事件は身の毛がよだつ恐ろしいものばかりで――。 灯里は取りつかれ体質で、事あるごとに幽霊に取りつかれる。 それがきっかけで学校の心霊部に入部する事になったが、いくつもの事件がやってきて――。 。 部屋に異音がなり、主人公を怯えさせる【トッテさん】。 前世から続く呪いにより死に導かれる生徒を救うが、彼にあげたお札は一週間でボロボロになってしまう【前世の名前】。 通ってはいけない道を通り、自分の影を失い、荒れた祠を修復し祈りを捧げて解決を試みる【竹林の道】。 どこまでもついて来る影が、家まで辿り着いたと安心した主人公の耳元に突然囁きかけてさっていく【楽しかった?】。 封印されていたものを解き放つと、それは江戸時代に封じられた幽霊。彼は門吉と名乗り主人公たちは土地神にするべく扱う【首無し地蔵】。 決して話してはいけない怪談を話してしまい、クラスメイトの背中に危険な影が現れ、咄嗟にこの話は嘘だったと弁明し霊を払う【嘘つき先生】。 事故死してさ迷う亡霊と出くわしてしまう。気付かぬふりをしてやり過ごすがすれ違い様に「見えてるくせに」と囁かれ襲われる【交差点】。 ひたすら振返らせようとする霊、駅まで着いたがトンネルを走る窓が鏡のようになり憑りついた霊の禍々しい姿を見る事になる【うしろ】。 都市伝説の噂を元に、エレベーターで消えてしまった生徒。記憶からさえもその存在を消す神隠し。心霊部は総出で生徒の救出を行った【異世界エレベーター】。 延々と名前を問う不気味な声【名前】。 10の怪異譚からなる心霊ホラー。心霊部の活躍は続いていく。 

【完】ことうの怪物いっか ~夏休みに親子で漂流したのは怪物島!? 吸血鬼と人造人間に育てられた女の子を救出せよ! ~

丹斗大巴
児童書・童話
 どきどきヒヤヒヤの夏休み!小学生とその両親が流れ着いたのは、モンスターの住む孤島!? *☆* *☆* *☆* *☆* *☆* *☆* *☆*   夏休み、家族で出掛けた先でクルーザーが転覆し、漂流した青山親子の3人。とある島に流れ着くと、古風で顔色の悪い外国人と、大怪我を負ったという気味の悪い執事、そしてあどけない少女が住んでいた。なんと、彼らの正体は吸血鬼と、その吸血鬼に作られた人造人間! 人間の少女を救い出し、無事に島から脱出できるのか……!?  *☆* *☆* *☆* *☆* *☆* *☆* *☆* 家族のきずなと種を超えた友情の物語。

児童絵本館のオオカミ

火隆丸
児童書・童話
閉鎖した児童絵本館に放置されたオオカミの着ぐるみが語る、数々の思い出。ボロボロの着ぐるみの中には、たくさんの人の想いが詰まっています。着ぐるみと人との間に生まれた、切なくも美しい物語です。

【総集編】日本昔話 パロディ短編集

Grisly
児童書・童話
❤️⭐️お願いします。  今まで発表した 日本昔ばなしの短編集を、再放送致します。 朝ドラの総集編のような物です笑 読みやすくなっているので、 ⭐️して、何度もお読み下さい。 読んだ方も、読んでない方も、 新しい発見があるはず! 是非お楽しみ下さい😄 ⭐︎登録、コメント待ってます。

老犬ジョンと子猫のルナ

菊池まりな
児童書・童話
小さな町の片隅で、野良猫が子猫を生み、暖かく、安全な場所へと移動を繰り返しているうちに、一匹の子猫がはぐれてしまう。疲れきって倒れていたところを少年が助けてくれた。その家には老犬のジョンがいた。

ミズルチと〈竜骨の化石〉

珠邑ミト
児童書・童話
カイトは家族とバラバラに暮らしている〈音読みの一族〉という〈族《うから》〉の少年。彼の一族は、数多ある〈族〉から魂の〈音〉を「読み」、なんの〈族〉か「読みわける」。彼は飛びぬけて「読め」る少年だ。十歳のある日、その力でイトミミズの姿をしている〈族〉を見つけ保護する。ばあちゃんによると、その子は〈出世ミミズ族〉という〈族《うから》〉で、四年かけてミミズから蛇、竜、人と進化し〈竜の一族〉になるという。カイトはこの子にミズルチと名づけ育てることになり……。  一方、世間では怨墨《えんぼく》と呼ばれる、人の負の感情から生まれる墨の化物が活発化していた。これは人に憑りつき操る。これを浄化する墨狩《すみが》りという存在がある。  ミズルチを保護してから三年半後、ミズルチは竜になり、カイトとミズルチは怨墨に知人が憑りつかれたところに遭遇する。これを墨狩りだったばあちゃんと、担任の湯葉《ゆば》先生が狩るのを見て怨墨を知ることに。 カイトとミズルチのルーツをたどる冒険がはじまる。

湯本の医者と悪戯河童

関シラズ
児童書・童話
 赤岩村の医者・湯本開斎は雨降る晩に、出立橋の上で河童に襲われるが…… ‪     ‪*‬  群馬県の中之条町にあった旧六合村(クニムラ)をモチーフに構想した物語です。

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

処理中です...