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過去に戻ることができる喫茶店
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会いたい人に手紙を書くと会える喫茶店があるらしい。正確に言えば、戻りたい時間に戻ることができる喫茶店なので、自分が体験した過去にしか戻れないらしい。過去に会ったことがある人ならば、この世にいない人にでも会えることは可能だ。ある女性が手紙を書いた。普段手紙など書かないのだが、どうしても会いたい人がいて、戻りたい時代があるらしい。
白い便箋に丁寧な手書きの文字で書いた文章は思いが詰まっている。
この喫茶店に手紙を送ってくる人にはたくさんの思いがあり、戻りたい過去がある。
店主が手紙の文章にゆっくり目を通す。店主は美しい少年で長い銀色の髪を一つに束ねていた。少年は見たことのない髪色だった。きれいな顔をした少年は色白で陽に当たることが無縁のような顔をしていた。整いすぎていて、この世界にいる人間ではないかのような独特なオーラがある。吸い込まれるような美しさとスキのない笑顔に人間味を感じないような気もする。そうだ、アニメのキャラクターのように創られた美しさだとでも言おうか。見ていると、きっと特別な場所なのだということが実感できる。
『あなたは18歳になる3日前に亡くなりましたね。それは、寒い寒い冬の日でした。お墓に納骨するときに、雪がその時間だけふぶきましたね。2月の寒い冬でしたね。入るのが嫌だったのでしょうか? それは遺族の思いだったのでしょうか? もし、過去に戻ることができたら、ただ、普通に話して普通に会ってみたいですね。会えるだけでいいのです。きっとおばあちゃんと仲良くあの世で生活していることと思います。
たった一人の姉より』
******
「素敵なお手紙ですね。お姉様からの気持ちがよく伝わりました」
「この手紙をこの喫茶店に送ってきたのはあなたですか?」
「ここには青い紅茶があって、それを飲むと会いたい人に会えるそうですね」
「正確に言えば、会いたい人がいた時に一時的に戻ることができるとでもいいましょうか」
美しい青い紅茶が出された。これを一口飲むと、色が変わるらしい。どんな色になるのだろう? それは飲む人によって色合いが変化するらしい。
「じゃあ、行ってきます」
「もちろんですよ。ここは心の拠り所ですから」
その後、店主は独り言を言う。
「この喫茶店は死んだばかりの人間しか利用できないので、何度も来ることはできないのですが、彼女は自分が死んだことに気づいていないみたいですね。そんなお客様はたくさんいるので、珍しいことではありませんが……。誰しも生前、戻りたい場所、会いたい人がいるものですから。そして、ここを利用した人の魂はここの喫茶店のエネルギーに変わるのです。そう、ここにある青い紅茶は魂のエネルギーからできるもの。利益は全部私のものになるのです」
人生最期に騙される、幸せならばありじゃないでしょうか? あなたはここを利用してみたいですか? 私はあえて、騙されてみようかと思います。だって、会いたい人がいて、戻りたい時間と場所があるのだから。
銀髪の少年はため息をひとつついて独り言を言う。
「私も騙されてここで働くこととなった元人間ですから。仕事はきっちりさせていただきますよ。死後の世界に行く前にほんのちょっとだけ幸せになれるお手伝いですがね」
看板を見るとねがいやという文字が書いてあった。ねがいやの店主が優しい嘘をつく場所。青い紅茶を見つけたら思い出してみてください。
白い便箋に丁寧な手書きの文字で書いた文章は思いが詰まっている。
この喫茶店に手紙を送ってくる人にはたくさんの思いがあり、戻りたい過去がある。
店主が手紙の文章にゆっくり目を通す。店主は美しい少年で長い銀色の髪を一つに束ねていた。少年は見たことのない髪色だった。きれいな顔をした少年は色白で陽に当たることが無縁のような顔をしていた。整いすぎていて、この世界にいる人間ではないかのような独特なオーラがある。吸い込まれるような美しさとスキのない笑顔に人間味を感じないような気もする。そうだ、アニメのキャラクターのように創られた美しさだとでも言おうか。見ていると、きっと特別な場所なのだということが実感できる。
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美しい青い紅茶が出された。これを一口飲むと、色が変わるらしい。どんな色になるのだろう? それは飲む人によって色合いが変化するらしい。
「じゃあ、行ってきます」
「もちろんですよ。ここは心の拠り所ですから」
その後、店主は独り言を言う。
「この喫茶店は死んだばかりの人間しか利用できないので、何度も来ることはできないのですが、彼女は自分が死んだことに気づいていないみたいですね。そんなお客様はたくさんいるので、珍しいことではありませんが……。誰しも生前、戻りたい場所、会いたい人がいるものですから。そして、ここを利用した人の魂はここの喫茶店のエネルギーに変わるのです。そう、ここにある青い紅茶は魂のエネルギーからできるもの。利益は全部私のものになるのです」
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