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洗脳女神
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美しい風貌の中学生くらいの少年がいるらしい。その名はねがいや。
彼が関わると、恐ろしいことや不思議で奇妙なことが起こる。
摩訶不思議な存在で何者なのか正確に把握している者はいない。
まずは、洗脳女神に支配された小学生の少年の話をしよう。
俺の名前は正義。せいぎと読む。名前の通り正義の塊だ。ある日突然、いつもの通学路に女神が舞い降りたんだ。運命の出会いなんて突然あるものさ。美しいその女性は、俺に語り掛ける。
「ねぇ、あなた、私と一緒に神の仕事をしてみない? 私は女神よ」
「俺は怪しいことには興味ない」
俺は、突然のスカウトに戸惑った。しかし、その美しさを纏った純白の衣装に目を奪われてしまった。息を呑むとはこのようなことをいうのかもしれない。後光が射した美しさはまさに女神だ。それは一目惚れだったのかもしれないし、思考が女神に取り込まれたのかもしれない。美しい女神に興味はあるが、何やら面倒なことに巻き込まれるのはごめんだ。
「なぜ俺なんだ?」
「この世界のために正義感の強い人を求めているの。あなたとならば正しい世界を創造できると思ったの」
「正しい世界を創造する? 馬鹿げたことをいうな。俺一人の力で世界なんて変わるはずはないだろ。それに、世界規模の平和よりも自分自身の平和のほうが大事だと思っている」
「たしかに、たいていの人はそう言うわ。でも、世界が平和になれば自分自身が平和になるのよ。知らなかった?」
「どういう意味だ?」
「もし、戦争やテロが起きれば、自分自身の平和は乱されるでしょ。不幸に巻き込まれるわ。だから、巻き込まれないために平和を創造するってこと」
不思議なことに通学路で出会った美しいその女性はどうやら俺にしか見えないし触れることはできない。女神と話していると、通り過ぎる人は独り言を言う俺に怪訝そうな顔を向けて来る。そして、鏡に女神の姿が映ることはないらしい。まるで幽霊じゃないか。幽霊と違うのは、世界を正しい道に導こうという正しい思想を持っている点だ。そして、言っていることはわりと正しい。
振り返ると、女神は俺に神にならないかとうっとうしいくらいにスカウトをしてくる。正しい世界とか変なことを言っていると思っていたが、彼女の考えは優しさから来ていることに気づく。それは、幼児虐待のニュースや無差別殺人などの事件が報道されている時に、女神は涙を流して悲しんでいた。普通の人間以上に愛と優しさに溢れた女性は一人の人間から見てとても尊敬できる存在となった。
「私たちは悲しい事件をニュースで見て、悲しむ以外に何もできない。未然に防げたらよかったのに。悪の根を事件が起きる前にもぎ取る必要があったと思うの」
半信半疑だったが、偶然ニュースでやっていた立てこもり事件が生放送で中継されていた。
「今から私が子供を助け出すわ」
なんとも不思議な話だが、その後犯人は突然意識を失い倒れたようだ。犯人に女神が鉄槌をくだしたらしく、人質の子供は無事だったようだ。女神は人に見られることなく正しいことをできる人だということを証明したのだ。
「私の力が本物だってわかったでしょ?」
「俺のまわりには正しい人しかいないから、俺にそんな力は必要ない」
「本当にそう言い切れる?」
あざ笑うように、俺を試すように女神は語り掛けた。
「あなたのお父さんは本当に正しいの?」
「厳格な父で真面目で仕事一筋だ。正しいに決まっている」
「それって思い込みでしょ?」
「まさか、父は正義感が強い正しい人だ」
「じゃあ、みてみる?」
女神はモニターで仕事中の父の姿を映し出す。
「こんなこともできんのか!! おまえは虫以下の能力か!!!」
すごい勢いで怒鳴りつける父がいた。パワハラの域に入っているようだ。
それも部下をことごとく怒鳴りつけ、本当に正しいことなのかどうかも、何をそんなに怒っているのかもわからなかった。
「家庭では本当にお父さんは正しいの?」
女神がほくそ笑む。顔立ちがきれいなだけにその笑みさえも美しい。
「俺の家では、母親が家事育児を全て行っており、父はイクメンとはいいがたい。幼少の頃から機嫌が悪くなると母を怒鳴り散らすのは日常茶飯事だった」
「本当にいいお父さんなの?」
女神が念を押すように言い放つ。俺は一瞬考えた。俺が考えていた正義について、ずっと目を逸らしていたことに。
「いや、ずっと心にわだかまりがあったんだ。きっとどの父もそうなのだろう、父親とはいつも無口で不機嫌で家庭では何もしない一番偉い人だと洗脳されていたのかもしれない」
「じゃあ、お父さんに神の力で気づかせてあげないと」
「でも、神になるならば命がなくなるとか代償があるだろ?」
「何もないわよ。あなたは今のまま世の中の悪い人たちに制裁を加える力を与えてあげる。だってあなたの基準は正しいのだから」
「俺の考えは正しいと認定してくれるのか?」
「そうよ、神に値する正義感をもっているわ、私と正しい世界を創ってみない?」
「女神は助けることができたじゃないか。俺には特殊能力なんて持ち合わせていないから、神になるなんて無理だよ」
「あなたは神になる資格があるわ。私は直接暴力で相手を懲らしめることはできない。でも、生身であり、力があるあなたならば力でねじ伏せることができる。二人で一心同体よ。そして、正しい世界を創りましょう」
「俺は間違った人々を気づかせるために、神になるよ」
俺は決心した。何も失うことなく正しい行いができるのだから。女神と一緒ならば、俺が直接相手に力で対抗して女神が特殊能力で制裁を下せばいい。
女神という名前の悪魔なのか天使なのかもわからない者に、そそのかされる。美しい女性は女神らしい外見だった。崇高で孤高な存在感。透明感のある肌に艶やかな長い髪の毛。纏う白い衣装はまさに女神という存在そのもののような気がしていた。
ある日、母親を怒鳴りつける父親を言葉で説き伏せようとしたが、どうやら言葉で通じることは無理だった。仕方がない、これは力でねじ伏せるしかない。今まで親孝行をしてきた俺だが、これは父親のための最後の親孝行だ。父に間違いを気づかせるための最大の親孝行だ。
気づいたら父親が俺の目の前で気絶していた。俺が神の力で父を正しい方向へ導かせようとしていた結果だ。
ぼうぜんと立ち尽くす俺に女神は微笑む。
「大丈夫。君は正しいことをしたの。むしろ親孝行よ。きっとお父さんもわかってくれるわ。これは正しい世界を創るための第一歩」
父には殴られたあとが多数あり、人はそれを家庭内暴力というかもしれない。でも、俺は選ばれた神なのだ。そして、それは間違いを正すための儀式に過ぎないから家庭内暴力ではなく、神の制裁なのだ。女神が俺を選んだのだから。
女神は突然現れては俺に色々なことを吹き込む。このままだと女神の指示により、他人にも制裁をくだすことになるだろう。普通ならば警察に捕まってしまうかもしれない。でも、選ばれた神である俺は捕まることはないだろうがな。俺は、根拠のない自信と自己愛の中で模索する。そして、女神と視線を交わし合う。
誰にも見えない女神の存在は俺にしかわからない。本当に女神が存在しているということは証明不可能なのだ。だから、他人から見れば俺は虚言妄想癖だと思われるかもしれないな。でも、たしかに女神は俺の中にいるのだ。もう、戻れないところまで来てしまった。振り返ると女神がいる。自分自身の意思ではなく女神の指示で行っているのだから、俺は何も悪くない。
都市伝説に洗脳女神という女神がいるらしい。それは、通学路に突然現れる。振り向くと美しい女性がほほ笑んでいたら、それは洗脳女神なのかもしれない。洗脳女神は全国各地で目撃されており、接触者もわりと多い。目撃者の特徴は正義感が強く、正しい世界を創ってみたいと思っている者。むしろ神に憧れを抱いている者が洗脳女神を目撃する傾向にあるようだ。
女神を創造し、派遣しているのが「ねがいや」という正体不明の奇妙な何者かだということは誰も知らない。
彼が関わると、恐ろしいことや不思議で奇妙なことが起こる。
摩訶不思議な存在で何者なのか正確に把握している者はいない。
まずは、洗脳女神に支配された小学生の少年の話をしよう。
俺の名前は正義。せいぎと読む。名前の通り正義の塊だ。ある日突然、いつもの通学路に女神が舞い降りたんだ。運命の出会いなんて突然あるものさ。美しいその女性は、俺に語り掛ける。
「ねぇ、あなた、私と一緒に神の仕事をしてみない? 私は女神よ」
「俺は怪しいことには興味ない」
俺は、突然のスカウトに戸惑った。しかし、その美しさを纏った純白の衣装に目を奪われてしまった。息を呑むとはこのようなことをいうのかもしれない。後光が射した美しさはまさに女神だ。それは一目惚れだったのかもしれないし、思考が女神に取り込まれたのかもしれない。美しい女神に興味はあるが、何やら面倒なことに巻き込まれるのはごめんだ。
「なぜ俺なんだ?」
「この世界のために正義感の強い人を求めているの。あなたとならば正しい世界を創造できると思ったの」
「正しい世界を創造する? 馬鹿げたことをいうな。俺一人の力で世界なんて変わるはずはないだろ。それに、世界規模の平和よりも自分自身の平和のほうが大事だと思っている」
「たしかに、たいていの人はそう言うわ。でも、世界が平和になれば自分自身が平和になるのよ。知らなかった?」
「どういう意味だ?」
「もし、戦争やテロが起きれば、自分自身の平和は乱されるでしょ。不幸に巻き込まれるわ。だから、巻き込まれないために平和を創造するってこと」
不思議なことに通学路で出会った美しいその女性はどうやら俺にしか見えないし触れることはできない。女神と話していると、通り過ぎる人は独り言を言う俺に怪訝そうな顔を向けて来る。そして、鏡に女神の姿が映ることはないらしい。まるで幽霊じゃないか。幽霊と違うのは、世界を正しい道に導こうという正しい思想を持っている点だ。そして、言っていることはわりと正しい。
振り返ると、女神は俺に神にならないかとうっとうしいくらいにスカウトをしてくる。正しい世界とか変なことを言っていると思っていたが、彼女の考えは優しさから来ていることに気づく。それは、幼児虐待のニュースや無差別殺人などの事件が報道されている時に、女神は涙を流して悲しんでいた。普通の人間以上に愛と優しさに溢れた女性は一人の人間から見てとても尊敬できる存在となった。
「私たちは悲しい事件をニュースで見て、悲しむ以外に何もできない。未然に防げたらよかったのに。悪の根を事件が起きる前にもぎ取る必要があったと思うの」
半信半疑だったが、偶然ニュースでやっていた立てこもり事件が生放送で中継されていた。
「今から私が子供を助け出すわ」
なんとも不思議な話だが、その後犯人は突然意識を失い倒れたようだ。犯人に女神が鉄槌をくだしたらしく、人質の子供は無事だったようだ。女神は人に見られることなく正しいことをできる人だということを証明したのだ。
「私の力が本物だってわかったでしょ?」
「俺のまわりには正しい人しかいないから、俺にそんな力は必要ない」
「本当にそう言い切れる?」
あざ笑うように、俺を試すように女神は語り掛けた。
「あなたのお父さんは本当に正しいの?」
「厳格な父で真面目で仕事一筋だ。正しいに決まっている」
「それって思い込みでしょ?」
「まさか、父は正義感が強い正しい人だ」
「じゃあ、みてみる?」
女神はモニターで仕事中の父の姿を映し出す。
「こんなこともできんのか!! おまえは虫以下の能力か!!!」
すごい勢いで怒鳴りつける父がいた。パワハラの域に入っているようだ。
それも部下をことごとく怒鳴りつけ、本当に正しいことなのかどうかも、何をそんなに怒っているのかもわからなかった。
「家庭では本当にお父さんは正しいの?」
女神がほくそ笑む。顔立ちがきれいなだけにその笑みさえも美しい。
「俺の家では、母親が家事育児を全て行っており、父はイクメンとはいいがたい。幼少の頃から機嫌が悪くなると母を怒鳴り散らすのは日常茶飯事だった」
「本当にいいお父さんなの?」
女神が念を押すように言い放つ。俺は一瞬考えた。俺が考えていた正義について、ずっと目を逸らしていたことに。
「いや、ずっと心にわだかまりがあったんだ。きっとどの父もそうなのだろう、父親とはいつも無口で不機嫌で家庭では何もしない一番偉い人だと洗脳されていたのかもしれない」
「じゃあ、お父さんに神の力で気づかせてあげないと」
「でも、神になるならば命がなくなるとか代償があるだろ?」
「何もないわよ。あなたは今のまま世の中の悪い人たちに制裁を加える力を与えてあげる。だってあなたの基準は正しいのだから」
「俺の考えは正しいと認定してくれるのか?」
「そうよ、神に値する正義感をもっているわ、私と正しい世界を創ってみない?」
「女神は助けることができたじゃないか。俺には特殊能力なんて持ち合わせていないから、神になるなんて無理だよ」
「あなたは神になる資格があるわ。私は直接暴力で相手を懲らしめることはできない。でも、生身であり、力があるあなたならば力でねじ伏せることができる。二人で一心同体よ。そして、正しい世界を創りましょう」
「俺は間違った人々を気づかせるために、神になるよ」
俺は決心した。何も失うことなく正しい行いができるのだから。女神と一緒ならば、俺が直接相手に力で対抗して女神が特殊能力で制裁を下せばいい。
女神という名前の悪魔なのか天使なのかもわからない者に、そそのかされる。美しい女性は女神らしい外見だった。崇高で孤高な存在感。透明感のある肌に艶やかな長い髪の毛。纏う白い衣装はまさに女神という存在そのもののような気がしていた。
ある日、母親を怒鳴りつける父親を言葉で説き伏せようとしたが、どうやら言葉で通じることは無理だった。仕方がない、これは力でねじ伏せるしかない。今まで親孝行をしてきた俺だが、これは父親のための最後の親孝行だ。父に間違いを気づかせるための最大の親孝行だ。
気づいたら父親が俺の目の前で気絶していた。俺が神の力で父を正しい方向へ導かせようとしていた結果だ。
ぼうぜんと立ち尽くす俺に女神は微笑む。
「大丈夫。君は正しいことをしたの。むしろ親孝行よ。きっとお父さんもわかってくれるわ。これは正しい世界を創るための第一歩」
父には殴られたあとが多数あり、人はそれを家庭内暴力というかもしれない。でも、俺は選ばれた神なのだ。そして、それは間違いを正すための儀式に過ぎないから家庭内暴力ではなく、神の制裁なのだ。女神が俺を選んだのだから。
女神は突然現れては俺に色々なことを吹き込む。このままだと女神の指示により、他人にも制裁をくだすことになるだろう。普通ならば警察に捕まってしまうかもしれない。でも、選ばれた神である俺は捕まることはないだろうがな。俺は、根拠のない自信と自己愛の中で模索する。そして、女神と視線を交わし合う。
誰にも見えない女神の存在は俺にしかわからない。本当に女神が存在しているということは証明不可能なのだ。だから、他人から見れば俺は虚言妄想癖だと思われるかもしれないな。でも、たしかに女神は俺の中にいるのだ。もう、戻れないところまで来てしまった。振り返ると女神がいる。自分自身の意思ではなく女神の指示で行っているのだから、俺は何も悪くない。
都市伝説に洗脳女神という女神がいるらしい。それは、通学路に突然現れる。振り向くと美しい女性がほほ笑んでいたら、それは洗脳女神なのかもしれない。洗脳女神は全国各地で目撃されており、接触者もわりと多い。目撃者の特徴は正義感が強く、正しい世界を創ってみたいと思っている者。むしろ神に憧れを抱いている者が洗脳女神を目撃する傾向にあるようだ。
女神を創造し、派遣しているのが「ねがいや」という正体不明の奇妙な何者かだということは誰も知らない。
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